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**小さな旅館で~同日談 佳望学園の教師一同は、とある旅館に慰安旅行にやって来ていた。 美味しかった夕食も終盤。気持ちよく酔っていた帆崎は何かに気づいて、隣で同じく酔っている猪田に尋ねる。 「いのりん、サン先生知らない?」 「あー…そういえば姿が見えないですね」 「うーい。じゃちょっと探してきまーす」 その場で見回すが、小さな身体で大きな存在感のサン先生の姿は見えない。 帆崎はトイレに立つついでに会場の外を探してみようと考えた。 襖を開ける前に振り向いて、もう一度座敷を見回す。 すると、先程は見えなかったサン先生の姿が… ピシッ 帆崎は硬直した。それは見事に、石像の如く。 疑問に思った猪田が歩み寄り、同じ方向を見て…同じく固まった。 ふたりの目線の先には眠っているサン先生。そしてその場所が… よりにもよって怒れる女帝。英先生の膝枕。 「えちょ…何…あれやばくないすか」 「…うん…まずいね」 何をどう間違ってあんな状況になったのかはわからないが、 普段の英先生を、特にサン先生とのやりとりを見ているだけに、恐ろしい状況。 下を向いて見えない英先生のあの顔には、一体どんな形相が浮かんでいるのか。 英先生の背後から底知れない怒りのオーラが立ちのぼっているような気がして。 正直関わりたくなかった。が、このままでは平和なはずの慰安旅行が サン先生にとって恐ろしいトラウマと化してしまうかもしれない。 彼を助けなければ。ただの同僚ではない、かけがえのない親友として。 戦場に臨む漢たちの姿がそこにあった。 「あ、あのー…」 恐る恐る話しかけたのは帆崎。猪田もそれに続く。 「サン先生も決して悪気があるわけではなくてですね、ただ疲れて…」 ふっと、顔を上げる英。猪田はつい言葉を失う。 その目には意外にも 「ええ、寝てしまったわ。サン先生も疲れてるのね」 意外にも、穏やかな光が宿っていた。 全く予想外の言葉にふたりは少しの間、ポカンとしていたが、やがて思い出したように帆崎が声を出す。 「えっ…と、すぐ寝室に連れて…」 「いいわよ。気持ちよく寝ているから、もう少しこのままで…」 さらに愕然とする帆崎に、英先生が提案する。 「そうね、何かかけるものを持ってきてくれると助かるわ」 「え、あ、はい」 帆崎は慌てて寝室に走り、指示されるままに眠るサン先生に毛布をかける。 英先生にありがとうと言われて、帆崎はうろたえるばかりだった。 不思議なこともあるものだと、尻尾をくねらせながら戻る帆崎。 付き合いの長い猪田に聞いても、わからないと首をかしげるだけだった。 そんなふたりの近くで白が立ち止まる。サン先生に気付いて、ほぉと感心したような声を出す。 「ほほえましいな。まるで親子みたいじゃないか」 意外な感想を聞いて、猪田はふたりを見直した。なるほど確かに先入観を取り払って見てみれば ああしている英先生と小さなサン先生は、まるで仲の良い親子のように見えるではないか。 「ああ、盲点だった。確かにそう見えますね」 「な。帆崎もそう思うだろ?」 「………」 「帆崎先生?」 「…え、あ、はい。そうですね」 帆崎の答えに満足したようにふたりは頷いた。 本当は帆崎には、白、猪田とは違うものが見えていた。 どこまでも優しく見つめる英先生。安心しきって眠るサン先生。 そんなふたりに、いつもそうしている、自分とあいつの姿が重なって。あれは、親子ではなく… 「って…ないない」 そんなことがあるはずない。まったく、何考えてるんだか。 帆崎は小さく肩をすくめるのだった。 <おわり> ---- ぼくは今、板書された数学の問題と戦っている。数学の苦手なぼくが自分で申し出たことだ。 サン先生とふたりきりの放課後の教室に、ペンを走らせる音だけが響く。 「生徒がみんなヒカルくんみたいに積極的なら、ぼくたちも助かるんだけどねえ」 そう言ってサン先生は快く相談に乗ってくれた。 ようやく問題が解けた。ペンを置いて前を見ると、サン先生は教卓に山積みにされたプリントを次々に捌いている。 「あ、解けた? こっちはあと5分で終わるからもーちょっと待っててね」 手を止めずに続けている、サン先生の本来の仕事だ。先生は忙しい。チクリと、少しの罪悪感。 「学年違うけどテストの丸付けだから、あんまり見ないでくれると助かるかな」 ぼくは慌てて解答用紙に目を落とした。空いた手でペンをとる。 さて、どうしよう。もう一度計算をやり直してみようか。正直あまり気が進まない。 そんなぼくに気付いたのか、丸付けを続けながらサン先生が話す。 「この間さ、教師みんなで旅館に慰安旅行に行ったんだ。  で、ぼくもびっくりしたんだけど偶然ミナに会ったんだよね」 「ミナ…杉本さん」 彼女のからっと澄んだ声が脳裏に浮かぶ。 「温泉で。混浴ね」 ボキ しまった。シャープペンの芯が折れてしまった。 汚してしまった解答用紙を消しゴムできれいにする。 ミナも大胆なことをする。 でも、活動的な姿を思い出して、あのひとらしいな、とも思う。 「あのときはなーんか変だったんだよね。それでさあ…」 ぼくの興味は先生の話に集中する。とても仲が良い、楽しい会話が聞こえてくるようだった。 ん…? 途中で出たひとつの言葉に、ぼくの尻尾がぴくりと反応する。 「月が綺麗…?」 「え? うん…どうしたの?」 つい顔をあげたぼくと、キョトンとしたサン先生の目が合う。 「あ、いえ、なんでもないです」 慌てて机に顔を戻した。 ぼくはある小説家の言葉を思い出していた。 明治の世を生きた有名な小説家。数年前ならば、この国のきっと全ての人がその顔を知っている。 『あなたといると、月が綺麗ですね』 英語教師でもあった彼が、ある短文をそう訳したと言われている。 本が好きなぼくは知っていた。他には例えば、国語の先生も知ってるだろうか。 ――あのとき、言っとけばよかったのね。今考えたらさあ―― 続いて脳裏に浮かんだのは、いつかのミナが呟いた言葉。 あのときはよくわからなかったけれど、その意味が今になってわかった気がした。 「ヒカルくん、終わったよ。ヒカルくん?」 名前を呼ばれて我に返る。そうだ、今は勉強が大切。 考えていたことは、頭の隅に追いやった。 帰り道。冷たい空気を耳に受けながら、ぼくはミナのことを考える。 彼女には失礼にあたると思うけれど。彼女の想いを想像して、それが現実になることを思う。 それはきっと素敵なこと。だけど…なぜだろう。ぼくは少しだけ複雑な気分になった。 <おわり>
**小さな旅館で~同日談 佳望学園の教師一同は、とある旅館に慰安旅行にやって来ていた。 美味しかった夕食も終盤。気持ちよく酔っていた帆崎は何かに気づいて、隣で同じく酔っている猪田に尋ねる。 「いのりん、サン先生知らない?」 「あー…そういえば姿が見えないですね」 「うーい。じゃちょっと探してきまーす」 その場で見回すが、小さな身体で大きな存在感のサン先生の姿は見えない。 帆崎はトイレに立つついでに会場の外を探してみようと考えた。 襖を開ける前に振り向いて、もう一度座敷を見回す。 すると、先程は見えなかったサン先生の姿が… ピシッ 帆崎は硬直した。それは見事に、石像の如く。 疑問に思った猪田が歩み寄り、同じ方向を見て…同じく固まった。 ふたりの目線の先には眠っているサン先生。そしてその場所が… よりにもよって怒れる女帝。英先生の膝枕。 「えちょ…何…あれやばくないすか」 「…うん…まずいね」 何をどう間違ってあんな状況になったのかはわからないが、 普段の英先生を、特にサン先生とのやりとりを見ているだけに、恐ろしい状況。 下を向いて見えない英先生のあの顔には、一体どんな形相が浮かんでいるのか。 英先生の背後から底知れない怒りのオーラが立ちのぼっているような気がして。 正直関わりたくなかった。が、このままでは平和なはずの慰安旅行が サン先生にとって恐ろしいトラウマと化してしまうかもしれない。 彼を助けなければ。ただの同僚ではない、かけがえのない親友として。 戦場に臨む漢たちの姿がそこにあった。 「あ、あのー…」 恐る恐る話しかけたのは帆崎。猪田もそれに続く。 「サン先生も決して悪気があるわけではなくてですね、ただ疲れて…」 ふっと、顔を上げる英。猪田はつい言葉を失う。 その目には意外にも 「ええ、寝てしまったわ。サン先生も疲れてるのね」 意外にも、穏やかな光が宿っていた。 全く予想外の言葉にふたりは少しの間、ポカンとしていたが、やがて思い出したように帆崎が声を出す。 「えっ…と、すぐ寝室に連れて…」 「いいわよ。気持ちよく寝ているから、もう少しこのままで…」 さらに愕然とする帆崎に、英先生が提案する。 「そうね、何かかけるものを持ってきてくれると助かるわ」 「え、あ、はい」 帆崎は慌てて寝室に走り、指示されるままに眠るサン先生に毛布をかける。 英先生にありがとうと言われて、帆崎はうろたえるばかりだった。 不思議なこともあるものだと、尻尾をくねらせながら戻る帆崎。 付き合いの長い猪田に聞いても、わからないと首をかしげるだけだった。 そんなふたりの近くで白が立ち止まる。サン先生に気付いて、ほぉと感心したような声を出す。 「ほほえましいな。まるで親子みたいじゃないか」 意外な感想を聞いて、猪田はふたりを見直した。なるほど確かに先入観を取り払って見てみれば ああしている英先生と小さなサン先生は、まるで仲の良い親子のように見えるではないか。 「ああ、盲点だった。確かにそう見えますね」 「な。帆崎もそう思うだろ?」 「………」 「帆崎先生?」 「…え、あ、はい。そうですね」 帆崎の答えに満足したようにふたりは頷いた。 本当は帆崎には、白、猪田とは違うものが見えていた。 どこまでも優しく見つめる英先生。安心しきって眠るサン先生。 そんなふたりに、いつもそうしている、自分とあいつの姿が重なって。あれは、親子ではなく… 「って…ないない」 そんなことがあるはずない。まったく、何考えてるんだか。 帆崎は小さく肩をすくめるのだった。 <おわり> ---- ぼくは今、板書された数学の問題と戦っている。数学の苦手なぼくが自分で申し出たことだ。 サン先生とふたりきりの放課後の教室に、ペンを走らせる音だけが響く。 「生徒がみんなヒカルくんみたいに積極的なら、ぼくたちも助かるんだけどねえ」 そう言ってサン先生は快く相談に乗ってくれた。 ようやく問題が解けた。ペンを置いて前を見ると、サン先生は教卓に山積みにされたプリントを次々に捌いている。 「あ、解けた? こっちはあと5分で終わるからもーちょっと待っててね」 手を止めずに続けている、サン先生の本来の仕事だ。先生は忙しい。チクリと、少しの罪悪感。 「学年違うけどテストの丸付けだから、あんまり見ないでくれると助かるかな」 ぼくは慌てて解答用紙に目を落とした。空いた手でペンをとる。 さて、どうしよう。もう一度計算をやり直してみようか。正直あまり気が進まない。 そんなぼくに気付いたのか、丸付けを続けながらサン先生が話す。 「この間さ、教師みんなで旅館に慰安旅行に行ったんだ。  で、ぼくもびっくりしたんだけど偶然ミナに会ったんだよね」 「ミナ…杉本さん」 彼女のからっと澄んだ声が脳裏に浮かぶ。 「温泉で。混浴ね」 ボキ しまった。シャープペンの芯が折れてしまった。 汚してしまった解答用紙を消しゴムできれいにする。 ミナも大胆なことをする。 でも、活動的な姿を思い出して、あのひとらしいな、とも思う。 「あのときはなーんか変だったんだよね。それでさあ…」 ぼくの興味は先生の話に集中する。とても仲が良い、楽しい会話が聞こえてくるようだった。 ん…? 途中で出たひとつの言葉に、ぼくの尻尾がぴくりと反応する。 「月が綺麗…?」 「え? うん…どうしたの?」 つい顔をあげたぼくと、キョトンとしたサン先生の目が合う。 「あ、いえ、なんでもないです」 慌てて机に顔を戻した。 ぼくはある小説家の言葉を思い出していた。 明治の世を生きた有名な小説家。数年前ならば、この国のきっと全ての人がその顔を知っている。 『あなたといると、月が綺麗ですね』 英語教師でもあった彼が、ある短文をそう訳したと言われている。 本が好きなぼくは知っていた。他には例えば、国語の先生も知ってるだろうか。 ――あのとき、言っとけばよかったのね。今考えたらさあ―― 続いて脳裏に浮かんだのは、いつかのミナが呟いた言葉。 あのときはよくわからなかったけれど、その意味が今になってわかった気がした。 「ヒカルくん、終わったよ。ヒカルくん?」 名前を呼ばれて我に返る。そうだ、今は勉強が大切。 考えていたことは、頭の隅に追いやった。 帰り道。冷たい空気を耳に受けながら、ぼくはミナのことを考える。 彼女には失礼にあたると思うけれど。彼女の想いを想像して、それが現実になることを思う。 それはきっと素敵なこと。だけど…なぜだろう。ぼくは少しだけ複雑な気分になった。 <おわり>

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