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**生徒指導帆崎の憂鬱 *&bold(){&color(red){※この作品はキャラ作者様の設定とは異なる設定で作られているので、あくまでもパラレルワールドの物として受け取って下さい}} はああぁぁぁー…… 色素の抜けたような顔に、だらんと垂れた尻尾。 生徒指導の腕章を手首までずり落としながら、帆崎は深い深い溜息をついた。 「…今度はどうしたよ帆崎」 そんな帆崎に接触を試みたのは白。 正直あまり関わりたくはなかったが、これはさすがに同僚として放置というわけにもいくまい。 鬱々とした空気に感染しないよう、あくまでドライに、濃く淹れたコーヒーを片手に話しかける。 「…ルルの風邪が治らねーんです」 やはりそんなところか。 以前に噂を耳にした頃からなら、随分と長引いている。 ん?しかし手作り弁当は復活してなかったか? 「治ったと思ったらぶり返したんすよ…」 「症状は?」 「熱あってだるくて吐き気がして鼻乾いてて」 「いや人間だから鼻湿ってたらかえって駄目だろ」 「はあぁぁぁ……」 …駄目だこりゃ。 典型的な風邪。しがない保健医から、特にアドバイスできるものでもない。 直接診れば何か言えるかもしれないが、それは正規の医者の役目だろう。 「まぁ…なんだ。あんまり長引くようなら医者に診せたほうがいいんじゃないのか」 「…そうします」 「ここで心配したって何も変わらないぞ。あの娘が病気ならせめてオマエは元気でいろって。な」 「…うい」 慣れない言葉を探して帆崎を元気付けてみる。こんなの自分の柄に合わないな、なんて思いつつ。 …というかこれはサンの役目だろ常識的に考えて。どこいったあの犬っころは。 「ほら!しゃきっとしろ生徒指導!」 腕章をグイと引き上げて背中をパンと叩く。ビクンと帆崎の尻尾が跳ねた。 とぼとぼと教室へ歩きだす帆崎の背中を、若干の諦めを感じながら見送った。 …熱とだるさと吐き気…か。 「ただいまー…」 半ば祈るような気持ちでマンションのドアを開ける。 予想に反して、台所に立ったルルが包丁を置いて帆崎を迎えた。 「あ、せんせ、おかえりー」 「ルルお前大丈夫なのか!?」 「あー…うん、もう平気。熱もほとんどなくなったし、普通に動けるから」 「本当か!? 無理してないか?」 ルルの額に肉球で触れてみる。確かに、以前のような高い体温は感じない。 「もう大丈夫だよ、せんせ!」 「そう…か。よかったぁ…」 心の底から安堵の息が漏れた。倒れるように愛用の座布団に腰を落とす。 「心配かけてごめんね。おわびに今日は腕振るっちゃうからさ」 「病み上がりなんだから無理はしなくていいんだぞ?」 「だーいじょぶだってー。もう少しでできるから待っててね」 向き直り再び包丁を手にする。 「う…」 直後、包丁を置くルル。 口に手を当てて台所を離れるルルを、帆崎は慌てて追いかけた。 涙目で荒い息をするルルの背中を帆崎は必死でさすっていた。 ルル以上に、今にも泣きそうな顔をしているのは帆崎だ。 「やっぱり駄目だ。無理しないで寝てろって」 「でも…」 「いいから!」 「う…うん…そうする」 薄明かりの寝室で、ベッドに横になったルルの枕元で帆崎はしゃがみこんだ。 「やっぱり明日、病院行こうな」 「ええぇ、大丈夫だよ。ほとんど治りかけだしさ…」 「長引きすぎだ。ただの風邪じゃないのかもしれないだろ」 帆崎は電話の子機を取って番号を押し始める。 「どこに…」 「学校。明日休む」 「だっダメだって!」 慌ててその手から子機を取り上げた。不服な顔の帆崎をルルが諭す。 「教師がそんな簡単に学校休んじゃダメだって」 「でも病院行かなきゃ」 「病院くらいひとりで行けるから!せんせは普通に仕事行って。これ以上せんせに迷惑かけたくないの」 「迷惑なんて…」 消え入りそうな声で俯く帆崎を、ルルはギュッと抱き寄せる。 「心配してくれるのはとっても嬉しいよ。その気持ちだけで十分だからさ」 「ルル…」 震えるように触れる毛並みが、どこまでも愛おしかった。 翌日はさらに仕事が手につかなかった。 自分でもまずいとわかってはいるのだが、どうしても弱ったルルの姿が頭から離れない。 白先生が何か言っていたがまるで頭に入らなかった。 あれで英先生に呼び止められなかったのは運が良かったと言うべきか。 最低限必要な仕事だけをこなし、走るように帰宅。 少し立ち止まって息を整え、ドアを開けた。 「ただいま」 「おかえり」 立ちあがって出迎えるルルの無事な姿を見て、帆崎はほっと一息ついた。 「体の具合は!?」 「大丈夫」 「病院は行ってきたのか」 「うん、ちゃんと行ってきたよ」 「それで病気は」 「うん…その…それなんだけどさ…」 指を突き合わせて言い淀むルル。極力平静を装っていた帆崎は途端に真っ青になる。 「まさか変な病気とか新型インフルとかっ!!?」 「ちょっ落ち着いてせんせ!そういうんじゃないからっ!」 掴みかからんばかりの勢いの帆崎をルルは必死でなだめた。 肩を掴んで押し込むように座らせ、自分も向かい合って座る。 「とりあえず座って。落ち着いて聞いて」 「あ…ああ…」 ルルは姿勢を正して、大きく深呼吸をした。つられて帆崎の背筋も自然と伸びる。 「妊娠したの」 「………へ?」 川がせき止められるように、思考が一瞬、停止して。 「妊娠って…え?」 「赤ちゃんができたの」 「誰の…?」 「せんせの」 「エイプリルフール?」 「まだ一月だから。本当だってば」 理解すると同時に一気に解放された様々な思考に帆崎は翻弄される。 思考がぐるぐるとまわって言葉が出ない。何か言わなければと思いつつ。 「せんせ…」 不安げに俯くルルに対する言葉が出せない。 「その…迷惑…かな…」 「そっ!?」 言葉より先に体が動いていた。 小さな体を包み込むように優しく、強く抱きしめる。 「そんなわけあるか!迷惑なんてこと!」 「せん…せ」 「嬉しいよ!俺すげー嬉しいよルル!」 「…うん」 お互いの体温を感じて、ふたりは限りない幸せに包まれていた。 「ごめんなルル。自分が親になるなんて想像したこともなくてさ」 「私だって。ただの風邪かと思ってたからすごくびっくりしたよ」 「こういうとき…なんて言ったらいいかわかんなくてさ…」 ルルはふふっと小さく笑い、帆崎の胸を離れる。 「じゃあヒントあげる」 悪戯っぽく笑うルルと、不思議そうに見る帆崎。 「『あ』で始まる言葉」 一つの言葉が浮かんで、帆崎の顔がカッと熱くなる。 居心地悪く尻尾が揺れる。そんな帆崎に期待の眼差しを送るルル。 「あ…」 熱い視線に耐えられず、帆崎はつい目を逸らしてしまう。 「ありがとう、ルル」 やれやれ、と、ルルは首を振る。両手で頭を掴んでグイと向き直らせた。 「もー。せんせのばか。ヘタレ。鈍チン」 そのままギュッと頭を抱きしめて、呟く。 「ほんとはわかってるくせに」 反応してビクンと跳ねる尻尾が、ルルの言葉を肯定していた。 頭を解放して、もう一度向き合う。 「もう一回。ちゃんと言ってよ、せんせ」 「あ、ああ」 今度は目を逸らさない。ふたりの視線がまっすぐに重なる。 「あ……」 「愛、してるぞ、ルル」 胸に飛び込んできたルルの勢いに押されて倒れる帆崎。 「わたしも。愛してるよ、せんせ」 真冬の夜は長かった。 ふたりの物語は続いていく。 これからもこの幸せは続くのだろう。 きっと一生続いていくだろうと、確信めいた予感をふたりは感じていた。 <おわり>
**生徒指導帆崎の憂鬱 *&bold(){&color(red){※この作品はキャラ作者様の設定とは異なる設定で作られているので、あくまでもパラレルワールドの物として受け取って下さい}} はああぁぁぁー…… 色素の抜けたような顔に、だらんと垂れた尻尾。 生徒指導の腕章を手首までずり落としながら、帆崎は深い深い溜息をついた。 「…今度はどうしたよ帆崎」 そんな帆崎に接触を試みたのは白。 正直あまり関わりたくはなかったが、これはさすがに同僚として放置というわけにもいくまい。 鬱々とした空気に感染しないよう、あくまでドライに、濃く淹れたコーヒーを片手に話しかける。 「…ルルの風邪が治らねーんです」 やはりそんなところか。 以前に噂を耳にした頃からなら、随分と長引いている。 ん?しかし手作り弁当は復活してなかったか? 「治ったと思ったらぶり返したんすよ…」 「症状は?」 「熱あってだるくて吐き気がして鼻乾いてて」 「いや人間だから鼻湿ってたらかえって駄目だろ」 「はあぁぁぁ……」 …駄目だこりゃ。 典型的な風邪。しがない保健医から、特にアドバイスできるものでもない。 直接診れば何か言えるかもしれないが、それは正規の医者の役目だろう。 「まぁ…なんだ。あんまり長引くようなら医者に診せたほうがいいんじゃないのか」 「…そうします」 「ここで心配したって何も変わらないぞ。あの娘が病気ならせめてオマエは元気でいろって。な」 「…うい」 慣れない言葉を探して帆崎を元気付けてみる。こんなの自分の柄に合わないな、なんて思いつつ。 …というかこれはサンの役目だろ常識的に考えて。どこいったあの犬っころは。 「ほら!しゃきっとしろ生徒指導!」 腕章をグイと引き上げて背中をパンと叩く。ビクンと帆崎の尻尾が跳ねた。 とぼとぼと教室へ歩きだす帆崎の背中を、若干の諦めを感じながら見送った。 …熱とだるさと吐き気…か。 「ただいまー…」 半ば祈るような気持ちでマンションのドアを開ける。 予想に反して、台所に立ったルルが包丁を置いて帆崎を迎えた。 「あ、せんせ、おかえりー」 「ルルお前大丈夫なのか!?」 「あー…うん、もう平気。熱もほとんどなくなったし、普通に動けるから」 「本当か!? 無理してないか?」 ルルの額に肉球で触れてみる。確かに、以前のような高い体温は感じない。 「もう大丈夫だよ、せんせ!」 「そう…か。よかったぁ…」 心の底から安堵の息が漏れた。倒れるように愛用の座布団に腰を落とす。 「心配かけてごめんね。おわびに今日は腕振るっちゃうからさ」 「病み上がりなんだから無理はしなくていいんだぞ?」 「だーいじょぶだってー。もう少しでできるから待っててね」 向き直り再び包丁を手にする。 「う…」 直後、包丁を置くルル。 口に手を当てて台所を離れるルルを、帆崎は慌てて追いかけた。 涙目で荒い息をするルルの背中を帆崎は必死でさすっていた。 ルル以上に、今にも泣きそうな顔をしているのは帆崎だ。 「やっぱり駄目だ。無理しないで寝てろって」 「でも…」 「いいから!」 「う…うん…そうする」 薄明かりの寝室で、ベッドに横になったルルの枕元で帆崎はしゃがみこんだ。 「やっぱり明日、病院行こうな」 「ええぇ、大丈夫だよ。ほとんど治りかけだしさ…」 「長引きすぎだ。ただの風邪じゃないのかもしれないだろ」 帆崎は電話の子機を取って番号を押し始める。 「どこに…」 「学校。明日休む」 「だっダメだって!」 慌ててその手から子機を取り上げた。不服な顔の帆崎をルルが諭す。 「教師がそんな簡単に学校休んじゃダメだって」 「でも病院行かなきゃ」 「病院くらいひとりで行けるから!せんせは普通に仕事行って。これ以上せんせに迷惑かけたくないの」 「迷惑なんて…」 消え入りそうな声で俯く帆崎を、ルルはギュッと抱き寄せる。 「心配してくれるのはとっても嬉しいよ。その気持ちだけで十分だからさ」 「ルル…」 震えるように触れる毛並みが、どこまでも愛おしかった。 翌日はさらに仕事が手につかなかった。 自分でもまずいとわかってはいるのだが、どうしても弱ったルルの姿が頭から離れない。 白先生が何か言っていたがまるで頭に入らなかった。 あれで英先生に呼び止められなかったのは運が良かったと言うべきか。 最低限必要な仕事だけをこなし、走るように帰宅。 少し立ち止まって息を整え、ドアを開けた。 「ただいま」 「おかえり」 立ちあがって出迎えるルルの無事な姿を見て、帆崎はほっと一息ついた。 「体の具合は!?」 「大丈夫」 「病院は行ってきたのか」 「うん、ちゃんと行ってきたよ」 「それで病気は」 「うん…その…それなんだけどさ…」 指を突き合わせて言い淀むルル。極力平静を装っていた帆崎は途端に真っ青になる。 「まさか変な病気とか新型インフルとかっ!!?」 「ちょっ落ち着いてせんせ!そういうんじゃないからっ!」 掴みかからんばかりの勢いの帆崎をルルは必死でなだめた。 肩を掴んで押し込むように座らせ、自分も向かい合って座る。 「とりあえず座って。落ち着いて聞いて」 「あ…ああ…」 ルルは姿勢を正して、大きく深呼吸をした。つられて帆崎の背筋も自然と伸びる。 「妊娠したの」 「………へ?」 川がせき止められるように、思考が一瞬、停止して。 「妊娠って…え?」 「赤ちゃんができたの」 「誰の…?」 「せんせの」 「エイプリルフール?」 「まだ一月だから。本当だってば」 理解すると同時に一気に解放された様々な思考に帆崎は翻弄される。 思考がぐるぐるとまわって言葉が出ない。何か言わなければと思いつつ。 「せんせ…」 不安げに俯くルルに対する言葉が出せない。 「その…迷惑…かな…」 「そっ!?」 言葉より先に体が動いていた。 小さな体を包み込むように優しく、強く抱きしめる。 「そんなわけあるか!迷惑なんてこと!」 「せん…せ」 「嬉しいよ!俺すげー嬉しいよルル!」 「…うん」 お互いの体温を感じて、ふたりは限りない幸せに包まれていた。 「ごめんなルル。自分が親になるなんて想像したこともなくてさ」 「私だって。ただの風邪かと思ってたからすごくびっくりしたよ」 「こういうとき…なんて言ったらいいかわかんなくてさ…」 ルルはふふっと小さく笑い、帆崎の胸を離れる。 「じゃあヒントあげる」 悪戯っぽく笑うルルと、不思議そうに見る帆崎。 「『あ』で始まる言葉」 一つの言葉が浮かんで、帆崎の顔がカッと熱くなる。 居心地悪く尻尾が揺れる。そんな帆崎に期待の眼差しを送るルル。 「あ…」 熱い視線に耐えられず、帆崎はつい目を逸らしてしまう。 「ありがとう、ルル」 やれやれ、と、ルルは首を振る。両手で頭を掴んでグイと向き直らせた。 「もー。せんせのばか。ヘタレ。鈍チン」 そのままギュッと頭を抱きしめて、呟く。 「ほんとはわかってるくせに」 反応してビクンと跳ねる尻尾が、ルルの言葉を肯定していた。 頭を解放して、もう一度向き合う。 「もう一回。ちゃんと言ってよ、せんせ」 「あ、ああ」 今度は目を逸らさない。ふたりの視線がまっすぐに重なる。 「あ……」 「愛、してるぞ、ルル」 胸に飛び込んできたルルの勢いに押されて倒れる帆崎。 「わたしも。愛してるよ、せんせ」 真冬の夜は長かった。 ふたりの物語は続いていく。 これからもこの幸せは続くのだろう。 きっと一生続いていくだろうと、確信めいた予感をふたりは感じていた。 <おわり>

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