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**スレ3>>47-81 ひみつの風紀委員長 前編 「そこの男子!窓のさんに腰掛けない!」 「サーセン!」 素っ頓狂な男子の声でわたしへの返事が返ってきた。なのに、彼らは一向にも窓のさんから降りようとはしない。 クラスメイトの不躾な行動は他のクラスに対して失礼極まりない。それを正してゆくのが、風紀委員長であるわたしの役目だ。 とくにここの男子。まるで子供のように、はしゃぎまわり『高等部』の自覚を持つことはまるで無い。 更に追い討ちをかけるように、サン先生までもがその輪に加わるということはわたしとしては非常に遺憾。 こうして、わたしの長い耳を揺らしメガネを光らせながら、生活指導のホイッスルを鳴らす日々が続く。 放課後の職員室、国語科の泊瀬谷先生と一緒に雑用をしていると、モエさんが提出するプリントの束を携えてやって来た。 しかし、モエさんよ。あなたの身なりを見てふと思う。 そのスカート丈は少し短いと思わないか。 自慢気な太腿が眩し過ぎないか。 ケモノの誇りを捨ててはいないか。 わたしのメガネがまたも光る。モエさんに疑問を問いかける。だが返ってきた答えはわたしの予想を上回るものだった。 「だって、このほうがかわいいもん」 「だって、って…。膝上何センチって決まってるか知ってる?」 「わっかりませーん」 「ちょっと!先生!!これっていけないと思いませんかっ!!」 泊瀬谷先生は少し困った顔をして、生徒に注意をすることをまるで申し訳なさそうにしていた。 ここでビシッて言ってもらわなきゃダメなんです!先生! 「リオ、まった明日ー!」 先生が照れ笑いをしている間にモエさん、プリントを泊瀬谷先生のデスクに置くと、短すぎるスカートを翻して帰ってしまった。 「因幡さん…ごめんね」 いいんです、先生。生徒の乱れを食い止められないのは不肖・因幡リオのせいなんですから。 学校の帰り道、いつものように街の書店に寄り道。校舎の中では風紀委員長でも校門を出れば、一羽のウサギの女の子へ戻りたいものなんです。 インクの香りも初々しく、わたしの知的好奇心を刺激すること心躍るではないか。ひくひくと鼻を揺らす。 平積みされた発売されたばかりの雑誌をしげしげと見渡し、「確か、今日だったよね…」と考えながらゆっくり本棚の周りを歩く。 わたしの住むような地方都市では必ず発売日より二、三日遅れて入荷してくるので、少し損した気持ちだ。 わたしより先に内容を知っているヤツがこの世に居るって分かると、多少なりとも悔しいということは分かってもらえるだろうか。 そんな誰も聞いちゃいない愚痴を口にしながら、店内を物色すると…、 「あった!」 思わず小さく声を出す。よしっ!ちゃんと出ている!きちんと書店にお目当ての雑誌が並んでいる事を確認すると、 わたしは今日その雑誌を買わずに家路へ。だって…制服のままじゃ…、恥ずかしいからね。 翌日の放課後、わたしは呑気にお買い物。 ジージャンにかわいい黒のミニスカート。目深に被ったニットの帽子にかくれんぼするように、ウサギ耳が飛び出している。 使い捨てのコンタクトをはめて、今日だけは相棒のメガネもお休みだ。 髪型もいつもの簡単なボブショートからちょっと外跳ねの元気な感じにしてみた。ワックスつけるのにも気合が入ってるんです。 足元も最近買った編み上げブーツで決めてみたのだが、こんなわたしに似合うかな。街いちばんの書店を目指す。 時は夕暮れ、茜色の空がわたしたちを空と同じ色に染めて、秋風はひたすら街を冷やしてゆく。 けっして都会ではないわたしたちの街は一日の疲れを癒すように、明日に備えて休もうとしている。その隙を突いて、わたしは書店へ。 お目当ての雑誌はいつものように本棚に居座っていた。その雑誌と、 気まぐれで買う予定ではなかったファッション雑誌を重ねて持ってお会計へと小走りする。 「今が…チャンス!」 なんたることだ。今日に限って長蛇の列、しかもレジ係は新人の子らしい。だからレジはオロオロとしているばかり。 こうして待っている時間がいちばんむず痒いのに、「もっとテキパキ働きなさい」と余計なお世話を焼いてしまうのは職業病か。 周りの目が全てわたしに注がれているようにも思えてきた。わたしの番になってお会計を済ませる瞬間、 そのレジの子は小銭を落としてしまった。早く帰らせてくれ。 「ただいまあ」 「姉ちゃん!ご飯もう出来てるよ」 中学生になったばかりの弟のマオが、ぴょんと跳ねて玄関のわたしを迎える。マオはわたしに似て女の子みたいな顔をしているが、 それを言うと本気で怒るのでそれはそれで面白い。たまにからかってみるのもご一興。 後で行く、と伝えてわたしの部屋へ一旦引っ込み着替えをする。 わたしの部屋が弟と別になって、もう4年になるだろうか。扉を開くとわたしだけの自由な国。 女王はわたし。不思議の国のウサギは時間に追われているけれど、ここの国のウサギはのんびりしてもいいんです。 パソコンにぬいぐるみ。ポスターに…アニメのDVD。本棚はもちろん、まんがで一杯。 さて、ご飯を食べたら買ってきた雑誌でも読むかな。 いやいや、今週の録画分がDVDレコーダーにたんまりと溜まっている。そろそろ一気に見ないと、ネットで話についてゆけない。 今週はゲストにあのアイドル声優が起用されているから楽しみだな…いや、演出がアイツだから…。 …あれ。…わたし、少しおかしなことを言っていますか?ちょっと、待って欲しい。いやいや、わたしは他の人より ちょっとだけまんがやアニメに詳しく、ちょっとだけかわいい女の子のキャラが好きなだけで…。 ただそれだけの事なのに、あんまり他の人にこの趣味を知られたくないんです。 それもこれも、弟のマオのせいだ。マオが騒ぐからわたしが気を使わなきゃいけないのだ。 頭の回転だけはムダに速く、しょっちゅうわたしを困らせてばっかりいる愚弟のせいだ。 「姉ちゃん!ごはんだよ!」 わたしの耳は長いから、そんなに大声を出さなくても分かってます。帽子を取って、ジージャンを脱いでいると再び弟の声が響く。 「姉ちゃんの、お・た…」 わたしはマオが全て言い切るまでにリビングまで駆けつけ、クソが付く位生意気な弟に跳び蹴りを食らわせた。爽快爽快。 こんなに優しいお姉さん、他にはいませんよ。 夕飯を済ませるとマオはテレビにかぶりつき、そしてわたしは部屋に篭る。扉には「リオのへや・かってにはいるな」の掛札。 こうでもしないと弟が入ってくるし、仮に進入してきても跳び蹴りを食らわせる大義名分もできるってこと。 忙しい風紀委員長としての一日の勤めを終え、家に帰ってこの時間がいちばんホッとする。 バッグから書店の袋を取り出し、インクの香る真新しい雑誌を取り出す。 分厚い雑誌を捲ると、楽しみにしていた『[[若頭は12才(幼女)>>スレ2>>129 若頭は12才]]』の巻頭カラーが飛び込んできた。 この雑誌ナンバーワンの人気を誇るこの作品。メディアミックスのグッズも溢れ、わたしたちファンを魅了してやまない。 ヒロインである『森三ゆみみ』は、ひょんなことから若頭になってしまう。しかし、その肝っ玉の強さから舎弟には慕われ、 対立する組の者もひれ伏すと言う『幼女系痛快任侠娯楽漫画』なのだ。 そのヒットを受け、アニメ放送も始まったのだが、一部の地上波やネット配信で、 第4話があまりにも過激すぎると、その回の放送・配信を自粛したとの武勇伝をもつ逸話もある。 原作でいちばん好きなエピソードだっただけに、抗議のメールを放送局に送ったほどわたしには、とても思い入れのある作品でもある。 おっと、今日もいい所でずっこけた。うーむ、かわいい。 今クールからアニメも始まり、わたしとしてはこれからの期待大の作品。巻頭カラーがこの人気を物語っている。 では、じっくり読ませていただこう。お邪魔はしないでね…。 ―――今月の内容は大満足。 では早速、ネットで今月の『若頭』について検索するかな。人様のブログを覗くのは楽しい。 最近気付いたことなんだが、わたしの巡回するブログの主はウサギが多いのだ。 やっぱりウサギは放っておくと寂しくって死んでしまうんだろうか。コメントを残しておこう。 うっ、コイツは酷評しやがる。アンチはいるからね…どこの世界にも。 でも、『若頭』はいいなあ。頼もしい若い衆を引き連れて、いざとなったら矢面に立って降りかかる火の粉を蹴散らす頼もしいヤツ。 わたしなんぞクラスのために矢面に立っても、男子には気の抜けた返事を付き返され、女子には上っ面の笑い声で返される。 さしずめ、わたしの舎弟は弟のマオか。憎たらしいけど、頼りになるわたしだけの分身。 するとマオがお菓子を食べながらわたしの部屋の中に入ってきた。 「ここの部屋はどうも耳はキンキンするし、目もチカチカするなあ」 憎たらしい台詞を吐くマオのお菓子をひったくった。 昼間のわたしはいつもの風紀委員長。そしてクラスメイトのよき友として愛嬌を振りまいているのだ。 休み時間は友達と談笑をして青い春を送ってゆく。なにがなんだか。 話題は昨日のドラマの話。友人たちは「キタムラくんカッコいい」やら「それがしキモイ」と言っているが、原作を読んでいたわたしにとっちゃ 「ふざけんな、脚本家め。原作を愚弄しやがって」と言ってやりたい気分なのだ。しかし、こんな所で水を差しちゃいけない。 わたしだって、一応『風紀委員長』と言う、クラスから注目を浴びるみんなの人気者でなくちゃいけない。 ウソも方便。そんなことを言い訳にして、うんうんと相槌を打つ。 「そうね、わたしもキタムラくん大好きだな」 ウソだ、大っ嫌いだ。キタムラとか言う大根役者は。あーあ、疲れる。 クラスのみんなに気を使いながら、なんでもない一日を過ごし電停で帰りの電車を待つ間、空を見上げると、 晴れ晴れとした秋の空。なのに、わたしの考えていることはゆううつなことばかり。 天地全てをもってわたしをうんざりさせているのね。神様なんか死んでしまえよ、糞野郎。 「ゆみみはいいなあ」 今日はそんなことばかり口ずさんでいた。ゆみみは、みんなから尊敬されて、若い衆の為に一生懸命でおまけに愛嬌もあるし、 それにまわりには頼りになる組長さまや舎弟だっている。 それに比べてわたしはみんなに気に入られようとウソばっかり演じて、かつメンドクサガリ屋さんで、 それにまわりには困ったクラスメイトや弟ぐらいしかいないのだ。 「ゆみみになりたいな…」 何言ってるんだ、わたし。なれるわけないじゃん。でも…。 うちに帰ると、弟のマオがそわそわしていた。ただいまを言っても、無愛想な返事だけ。 ただでさえ生意気なのに、それを上回る生意気さでわたしを出迎える。 そんな弟を逆上させるのは、すこぶる痛快だ。 「もしかして…デート?」 「ち、ちがうよ!」 「うそばっかり!鼻がヒクヒクしてるよ」 弟のうそは分かり易い。これはデート確定だ、因みにマオのガールフレンドの顔は未だ見たことが無い。 ここはひとつ、姉として、女の子代表としてアドバイスをしてあげなければ。 「どれどれ…、ここはお姉さんがお見立てしてあげよう」 ところが、ただでさえ生意気なのに、それを上回る生意気さをもっと上塗りの生意気な返事が、わたしの純粋な気持ちを逆撫でる。 「姉ちゃんなんか、2次元の女の子にしか心開けないんでしょ?まったく、同じ学校じゃなくてよかったよ!ブス!!」 ムカつく!鼻でせせら笑い、お姉さんを完璧にバカにしている弟よ。 きみには、愛溢れるお仕置きだ。耳を引っ張ってやれ、自慢の耳なんかもっと長くなってしまえ。 そして、ガールフレンドに笑われて振られてしまえ。バーカ。 マオの快い悲鳴の中、玄関のチャイムが鳴る。こんな楽しい時にお客さんですか。 「いてて!来たんだよ、放してよ!」 わたしに耳を掴まれながら、マオは玄関に走る。そこでわたしは勝手に「どうぞ」と返事。 開かれた扉から現れたのは…ネコの少女だった。 …似てる。あの子に似ている。 あの子って誰?そう。『若頭は12才(幼女)』のヒロイン『森三ゆみみ』そのもの…。 「はじめまして」 その『はじめまして』が『はじめまして』じゃない気がする。 もちろん嘘っぱちなんだが、わたしにとっちゃ毎月会っている気がするのだ。 「マオくんのお姉さんですね…。同じクラスの美作更紗です」 ふと、邪な考えがわたしによぎる。 この子を『森三ゆみみ』にしてしまえ。 わたしはウサギ、ネコである森三ゆみみになんかになれっこない。でも、彼女にはそんな素質が仄かににおう。 腰まで伸びた長い金色の髪、冷たいようでコケティッシュなルックス、アニメから飛び出したような声。 そして決定的なのは、廊下を歩いていた時に何も無い所でずっこけていたこと。 活きのいい、天然もののドジっ子だ。羨ましい、羨ましすぎる。こんな子を連れてきたマオに感謝、でかした!わが弟よ。 しかし、乗り越えることさえ困難な問題点がひとつ。 その問題とは、わたしの趣味がこの子にばれてしまうこと。わたしの趣味がばれたら間違いなく、バカにされてしまうだろう。 こんなにかわいい子だ、クラスでも人気者に違いない。まったくヤツとは何処で知り合ったんだか。 「え、えっと。更紗ちゃんはマオと何処で知り合ったのかな…?」 「マオくんとは、塾で一緒のクラスなんです。おねえさんのことはよく聞いてます」 なんだと。マオのやつ、余計なことを言ってなければいいが。 自室に引っ込んだマオと更紗は、隣のマオの部屋では楽しそうに会話をしている。 一方、わたしはネット動画でわたしの地域で放送されていない今クールのアニメを鑑賞中。 もちろんヘッドフォンは必須、こんな音声マオどころか更紗に聞かれちゃ一生の不覚。 時々、隣が気になり音声を緩めて長い耳で潜めてみる。わたしがウサギでよかったよ、こういうのは得意中の得意。 よくよく聞いてみると、内容がまったく無いどうでもいいお話ばかりなのだが、マオにとっちゃ仕合せな時間なのだろう。 扉の音がする。お客さん、もとい更紗が廊下に出たのか、ご不浄にでも行ったのだろう。 しばらくすると、いきなりわたしの部屋の扉が開く。マオか?いや、ノックをすることを義務付けているので違うか? 予想だにしていない出来事だったので、ブンと振り向いてしまう。 「誰!?」 「ご、ごめんなさい!!」 入って来たのは更紗だった。急いで追い返そうと立ち上がると、その弾みでヘッドフォンのプラグがはずれ、 アニメのエンディングの電波ソングが、部屋中に溢れかえってしまった。 更紗もわたしも固まる。もうだめ…人生終了。こんなわたしは、生きていてもいいのですか…。 &bold(){&sizex(4){&italic(){[[後編>スレ3>>47-81 ひみつの風紀委員長 後編]]へ}}} 関連:因幡リオ 因幡マオ 美作更紗 [[サン先生>スレ>>842 台車の上のサン]] [[泊瀬谷先生>スレ>>895 新米教師、泊瀬谷先生]] [[モエ>スレ2>>69 恐喝]] ---- &bold(){&italic(){&sizex(4){[[ケモノ学校シリーズ SSへ戻る>ケモノ学校シリーズ:SS]]}}} &bold(){&italic(){&sizex(4){[[ケモノ学校シリーズ TOPへ戻る>ケモノ学校シリーズ]]}}}
**スレ3>>47-81 ひみつの風紀委員長 前編 「そこの男子!窓のさんに腰掛けない!」 「サーセン!」 素っ頓狂な男子の声でわたしへの返事が返ってきた。なのに、彼らは一向にも窓のさんから降りようとはしない。 クラスメイトの不躾な行動は他のクラスに対して失礼極まりない。それを正してゆくのが、風紀委員長であるわたしの役目だ。 とくにここの男子。まるで子供のように、はしゃぎまわり『高等部』の自覚を持つことはまるで無い。 更に追い討ちをかけるように、サン先生までもがその輪に加わるということはわたしとしては非常に遺憾。 こうして、わたしの長い耳を揺らしメガネを光らせながら、生活指導のホイッスルを鳴らす日々が続く。 放課後の職員室、国語科の泊瀬谷先生と一緒に雑用をしていると、モエさんが提出するプリントの束を携えてやって来た。 しかし、モエさんよ。あなたの身なりを見てふと思う。 そのスカート丈は少し短いと思わないか。 自慢気な太腿が眩し過ぎないか。 ケモノの誇りを捨ててはいないか。 わたしのメガネがまたも光る。モエさんに疑問を問いかける。だが返ってきた答えはわたしの予想を上回るものだった。 「だって、このほうがかわいいもん」 「だって、って…。膝上何センチって決まってるか知ってる?」 「わっかりませーん」 「ちょっと!先生!!これっていけないと思いませんかっ!!」 泊瀬谷先生は少し困った顔をして、生徒に注意をすることをまるで申し訳なさそうにしていた。 ここでビシッて言ってもらわなきゃダメなんです!先生! 「リオ、まった明日ー!」 先生が照れ笑いをしている間にモエさん、プリントを泊瀬谷先生のデスクに置くと、短すぎるスカートを翻して帰ってしまった。 「因幡さん…ごめんね」 いいんです、先生。生徒の乱れを食い止められないのは不肖・因幡リオのせいなんですから。 学校の帰り道、いつものように街の書店に寄り道。校舎の中では風紀委員長でも校門を出れば、一羽のウサギの女の子へ戻りたいものなんです。 インクの香りも初々しく、わたしの知的好奇心を刺激すること心躍るではないか。ひくひくと鼻を揺らす。 平積みされた発売されたばかりの雑誌をしげしげと見渡し、「確か、今日だったよね…」と考えながらゆっくり本棚の周りを歩く。 わたしの住むような地方都市では必ず発売日より二、三日遅れて入荷してくるので、少し損した気持ちだ。 わたしより先に内容を知っているヤツがこの世に居るって分かると、多少なりとも悔しいということは分かってもらえるだろうか。 そんな誰も聞いちゃいない愚痴を口にしながら、店内を物色すると…、 「あった!」 思わず小さく声を出す。よしっ!ちゃんと出ている!きちんと書店にお目当ての雑誌が並んでいる事を確認すると、 わたしは今日その雑誌を買わずに家路へ。だって…制服のままじゃ…、恥ずかしいからね。 翌日の放課後、わたしは呑気にお買い物。 ジージャンにかわいい黒のミニスカート。目深に被ったニットの帽子にかくれんぼするように、ウサギ耳が飛び出している。 使い捨てのコンタクトをはめて、今日だけは相棒のメガネもお休みだ。 髪型もいつもの簡単なボブショートからちょっと外跳ねの元気な感じにしてみた。ワックスつけるのにも気合が入ってるんです。 足元も最近買った編み上げブーツで決めてみたのだが、こんなわたしに似合うかな。街いちばんの書店を目指す。 時は夕暮れ、茜色の空がわたしたちを空と同じ色に染めて、秋風はひたすら街を冷やしてゆく。 けっして都会ではないわたしたちの街は一日の疲れを癒すように、明日に備えて休もうとしている。その隙を突いて、わたしは書店へ。 お目当ての雑誌はいつものように本棚に居座っていた。その雑誌と、 気まぐれで買う予定ではなかったファッション雑誌を重ねて持ってお会計へと小走りする。 「今が…チャンス!」 なんたることだ。今日に限って長蛇の列、しかもレジ係は新人の子らしい。だからレジはオロオロとしているばかり。 こうして待っている時間がいちばんむず痒いのに、「もっとテキパキ働きなさい」と余計なお世話を焼いてしまうのは職業病か。 周りの目が全てわたしに注がれているようにも思えてきた。わたしの番になってお会計を済ませる瞬間、 そのレジの子は小銭を落としてしまった。早く帰らせてくれ。 「ただいまあ」 「姉ちゃん!ご飯もう出来てるよ」 中学生になったばかりの弟のマオが、ぴょんと跳ねて玄関のわたしを迎える。マオはわたしに似て女の子みたいな顔をしているが、 それを言うと本気で怒るのでそれはそれで面白い。たまにからかってみるのもご一興。 後で行く、と伝えてわたしの部屋へ一旦引っ込み着替えをする。 わたしの部屋が弟と別になって、もう4年になるだろうか。扉を開くとわたしだけの自由な国。 女王はわたし。不思議の国のウサギは時間に追われているけれど、ここの国のウサギはのんびりしてもいいんです。 パソコンにぬいぐるみ。ポスターに…アニメのDVD。本棚はもちろん、まんがで一杯。 さて、ご飯を食べたら買ってきた雑誌でも読むかな。 いやいや、今週の録画分がDVDレコーダーにたんまりと溜まっている。そろそろ一気に見ないと、ネットで話についてゆけない。 今週はゲストにあのアイドル声優が起用されているから楽しみだな…いや、演出がアイツだから…。 …あれ。…わたし、少しおかしなことを言っていますか?ちょっと、待って欲しい。いやいや、わたしは他の人より ちょっとだけまんがやアニメに詳しく、ちょっとだけかわいい女の子のキャラが好きなだけで…。 ただそれだけの事なのに、あんまり他の人にこの趣味を知られたくないんです。 それもこれも、弟のマオのせいだ。マオが騒ぐからわたしが気を使わなきゃいけないのだ。 頭の回転だけはムダに速く、しょっちゅうわたしを困らせてばっかりいる愚弟のせいだ。 「姉ちゃん!ごはんだよ!」 わたしの耳は長いから、そんなに大声を出さなくても分かってます。帽子を取って、ジージャンを脱いでいると再び弟の声が響く。 「姉ちゃんの、お・た…」 わたしはマオが全て言い切るまでにリビングまで駆けつけ、クソが付く位生意気な弟に跳び蹴りを食らわせた。爽快爽快。 こんなに優しいお姉さん、他にはいませんよ。 夕飯を済ませるとマオはテレビにかぶりつき、そしてわたしは部屋に篭る。扉には「リオのへや・かってにはいるな」の掛札。 こうでもしないと弟が入ってくるし、仮に進入してきても跳び蹴りを食らわせる大義名分もできるってこと。 忙しい風紀委員長としての一日の勤めを終え、家に帰ってこの時間がいちばんホッとする。 バッグから書店の袋を取り出し、インクの香る真新しい雑誌を取り出す。 分厚い雑誌を捲ると、楽しみにしていた『[[若頭は12才(幼女)>>スレ2>>129 若頭は12才]]』の巻頭カラーが飛び込んできた。 この雑誌ナンバーワンの人気を誇るこの作品。メディアミックスのグッズも溢れ、わたしたちファンを魅了してやまない。 ヒロインである『森三ゆみみ』は、ひょんなことから若頭になってしまう。しかし、その肝っ玉の強さから舎弟には慕われ、 対立する組の者もひれ伏すと言う『幼女系痛快任侠娯楽漫画』なのだ。 そのヒットを受け、アニメ放送も始まったのだが、一部の地上波やネット配信で、 第4話があまりにも過激すぎると、その回の放送・配信を自粛したとの武勇伝をもつ逸話もある。 原作でいちばん好きなエピソードだっただけに、抗議のメールを放送局に送ったほどわたしには、とても思い入れのある作品でもある。 おっと、今日もいい所でずっこけた。うーむ、かわいい。 今クールからアニメも始まり、わたしとしてはこれからの期待大の作品。巻頭カラーがこの人気を物語っている。 では、じっくり読ませていただこう。お邪魔はしないでね…。 ―――今月の内容は大満足。 では早速、ネットで今月の『若頭』について検索するかな。人様のブログを覗くのは楽しい。 最近気付いたことなんだが、わたしの巡回するブログの主はウサギが多いのだ。 やっぱりウサギは放っておくと寂しくって死んでしまうんだろうか。コメントを残しておこう。 うっ、コイツは酷評しやがる。アンチはいるからね…どこの世界にも。 でも、『若頭』はいいなあ。頼もしい若い衆を引き連れて、いざとなったら矢面に立って降りかかる火の粉を蹴散らす頼もしいヤツ。 わたしなんぞクラスのために矢面に立っても、男子には気の抜けた返事を付き返され、女子には上っ面の笑い声で返される。 さしずめ、わたしの舎弟は弟のマオか。憎たらしいけど、頼りになるわたしだけの分身。 するとマオがお菓子を食べながらわたしの部屋の中に入ってきた。 「ここの部屋はどうも耳はキンキンするし、目もチカチカするなあ」 憎たらしい台詞を吐くマオのお菓子をひったくった。 昼間のわたしはいつもの風紀委員長。そしてクラスメイトのよき友として愛嬌を振りまいているのだ。 休み時間は友達と談笑をして青い春を送ってゆく。なにがなんだか。 話題は昨日のドラマの話。友人たちは「キタムラくんカッコいい」やら「それがしキモイ」と言っているが、原作を読んでいたわたしにとっちゃ 「ふざけんな、脚本家め。原作を愚弄しやがって」と言ってやりたい気分なのだ。しかし、こんな所で水を差しちゃいけない。 わたしだって、一応『風紀委員長』と言う、クラスから注目を浴びるみんなの人気者でなくちゃいけない。 ウソも方便。そんなことを言い訳にして、うんうんと相槌を打つ。 「そうね、わたしもキタムラくん大好きだな」 ウソだ、大っ嫌いだ。キタムラとか言う大根役者は。あーあ、疲れる。 クラスのみんなに気を使いながら、なんでもない一日を過ごし電停で帰りの電車を待つ間、空を見上げると、 晴れ晴れとした秋の空。なのに、わたしの考えていることはゆううつなことばかり。 天地全てをもってわたしをうんざりさせているのね。神様なんか死んでしまえよ、糞野郎。 「ゆみみはいいなあ」 今日はそんなことばかり口ずさんでいた。ゆみみは、みんなから尊敬されて、若い衆の為に一生懸命でおまけに愛嬌もあるし、 それにまわりには頼りになる組長さまや舎弟だっている。 それに比べてわたしはみんなに気に入られようとウソばっかり演じて、かつメンドクサガリ屋さんで、 それにまわりには困ったクラスメイトや弟ぐらいしかいないのだ。 「ゆみみになりたいな…」 何言ってるんだ、わたし。なれるわけないじゃん。でも…。 うちに帰ると、弟のマオがそわそわしていた。ただいまを言っても、無愛想な返事だけ。 ただでさえ生意気なのに、それを上回る生意気さでわたしを出迎える。 そんな弟を逆上させるのは、すこぶる痛快だ。 「もしかして…デート?」 「ち、ちがうよ!」 「うそばっかり!鼻がヒクヒクしてるよ」 弟のうそは分かり易い。これはデート確定だ、因みにマオのガールフレンドの顔は未だ見たことが無い。 ここはひとつ、姉として、女の子代表としてアドバイスをしてあげなければ。 「どれどれ…、ここはお姉さんがお見立てしてあげよう」 ところが、ただでさえ生意気なのに、それを上回る生意気さをもっと上塗りの生意気な返事が、わたしの純粋な気持ちを逆撫でる。 「姉ちゃんなんか、2次元の女の子にしか心開けないんでしょ?まったく、同じ学校じゃなくてよかったよ!ブス!!」 ムカつく!鼻でせせら笑い、お姉さんを完璧にバカにしている弟よ。 きみには、愛溢れるお仕置きだ。耳を引っ張ってやれ、自慢の耳なんかもっと長くなってしまえ。 そして、ガールフレンドに笑われて振られてしまえ。バーカ。 マオの快い悲鳴の中、玄関のチャイムが鳴る。こんな楽しい時にお客さんですか。 「いてて!来たんだよ、放してよ!」 わたしに耳を掴まれながら、マオは玄関に走る。そこでわたしは勝手に「どうぞ」と返事。 開かれた扉から現れたのは…ネコの少女だった。 …似てる。あの子に似ている。 あの子って誰?そう。『若頭は12才(幼女)』のヒロイン『森三ゆみみ』そのもの…。 「はじめまして」 その『はじめまして』が『はじめまして』じゃない気がする。 もちろん嘘っぱちなんだが、わたしにとっちゃ毎月会っている気がするのだ。 「マオくんのお姉さんですね…。同じクラスの美作更紗です」 ふと、邪な考えがわたしによぎる。 この子を『森三ゆみみ』にしてしまえ。 わたしはウサギ、ネコである森三ゆみみになんかになれっこない。でも、彼女にはそんな素質が仄かににおう。 腰まで伸びた長い金色の髪、冷たいようでコケティッシュなルックス、アニメから飛び出したような声。 そして決定的なのは、廊下を歩いていた時に何も無い所でずっこけていたこと。 活きのいい、天然もののドジっ子だ。羨ましい、羨ましすぎる。こんな子を連れてきたマオに感謝、でかした!わが弟よ。 しかし、乗り越えることさえ困難な問題点がひとつ。 その問題とは、わたしの趣味がこの子にばれてしまうこと。わたしの趣味がばれたら間違いなく、バカにされてしまうだろう。 こんなにかわいい子だ、クラスでも人気者に違いない。まったくヤツとは何処で知り合ったんだか。 「え、えっと。更紗ちゃんはマオと何処で知り合ったのかな…?」 「マオくんとは、塾で一緒のクラスなんです。おねえさんのことはよく聞いてます」 なんだと。マオのやつ、余計なことを言ってなければいいが。 自室に引っ込んだマオと更紗は、隣のマオの部屋では楽しそうに会話をしている。 一方、わたしはネット動画でわたしの地域で放送されていない今クールのアニメを鑑賞中。 もちろんヘッドフォンは必須、こんな音声マオどころか更紗に聞かれちゃ一生の不覚。 時々、隣が気になり音声を緩めて長い耳で潜めてみる。わたしがウサギでよかったよ、こういうのは得意中の得意。 よくよく聞いてみると、内容がまったく無いどうでもいいお話ばかりなのだが、マオにとっちゃ仕合せな時間なのだろう。 扉の音がする。お客さん、もとい更紗が廊下に出たのか、ご不浄にでも行ったのだろう。 しばらくすると、いきなりわたしの部屋の扉が開く。マオか?いや、ノックをすることを義務付けているので違うか? 予想だにしていない出来事だったので、ブンと振り向いてしまう。 「誰!?」 「ご、ごめんなさい!!」 入って来たのは更紗だった。急いで追い返そうと立ち上がると、その弾みでヘッドフォンのプラグがはずれ、 アニメのエンディングの電波ソングが、部屋中に溢れかえってしまった。 更紗もわたしも固まる。もうだめ…人生終了。こんなわたしは、生きていてもいいのですか…。 &bold(){&sizex(4){&italic(){[[後編>スレ3>>47-81 ひみつの風紀委員長 後編]]へ}}} 関連:[[サン先生>スレ>>842 台車の上のサン]] [[泊瀬谷先生>スレ>>895 新米教師、泊瀬谷先生]] [[モエ>スレ2>>69 恐喝]] ---- &bold(){&italic(){&sizex(4){[[ケモノ学校シリーズ SSへ戻る>ケモノ学校シリーズ:SS]]}}} &bold(){&italic(){&sizex(4){[[ケモノ学校シリーズ TOPへ戻る>ケモノ学校シリーズ]]}}}

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