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**スレ2>>339 夜も更けて
薄暗い部屋の中を、テレビ画面の発する光が照らしている。いのりん達家族は、四人掛けのソファーに全員で座って、映画を見ていた。
映画の場面が切り替わるのに合わせて、ソファーの後ろの壁に、ソファーに座った家族影が、ちかちかと写りこむ。
いのりんが二人分のスペースを一人で使うため、彼と同じ猪の顔をした娘は、父親の太ももに座り、柔らかな腹を背に映画を見ていた。
だが、あまりに座り心地が良かったのか、それとも弟や友達と一緒に、街中歩き回ってお菓子を貰ってきた事に疲れたか、
はたまた小学校低学年が見るには、退屈すぎる映画だったのか、瞼を閉じてスヤスヤと眠り込んでいる。
娘より2つ下で、人間の姿をしたの息子も同様で、父と母に挟まれてソファーに座りながらも、すでに意識は夢の中だった。
ソファーの前のテーブルには、子供たちがハロウィーンで貰ってきたお菓子が、
開封済みのもの、手付かずのもの関係無しに散らばり、床には仮装に使った衣装が投げ捨てられていた。
ハロウィーンの夜は、子供たちの貰ってきたお菓子をつまみに、家族でホラー映画鑑賞としゃれ込むのだが、どうにもグダグダな結果に終わりがちだ。
部屋の中に響く女優の絶叫も、悪魔に憑かれた少女の奇声も、疲れた子供たちを覚醒させるには不十分で、
普段なら震え上がるような怖い演出も、この先どうなるか気になって堪らない展開も、外で思う存分遊び回った後の子供には、退屈なものでしかなかったらしい。
目の前のテーブルに広げられたお菓子の山から、手付かずのウィスキーボンボンを取り出して口へ運ぶと、いのりんは小さく溜め息をついた。
「せっかく仕事が早く終わったのになぁ……。
キャンペーン中だからってホラーに拘らないで、アニメ映画にしておけば良かったね」
地元のレンタルビデオ店では、ハロウィーン企画だか何だかで、10月20日から31日まで、ホラー映画のレンタル料が半額というキャンペーンをやっている。
子供たちが学校に行っているいる間に、夜家族で見るための適当なホラー映画を、奥さんが借りてきてくれたのだ。
結果は、見てのとおりなのだが。彼女は、労わるようにいのりんの頭を撫でながら、自分の選択ミスをあまり気にしていない様子で返す。
「いいじゃない。明日また子供たちに選んで貰いましょ」
「まぁ……そうだね。いつものファミレスで朝ご飯食べて、そのままビデオ借りに」
奥さんの言葉に相槌を打ちながら、いのりんは再度、テーブルの上のお菓子の山に手を伸ばす。
今度はビターチョコレートを抜き取って、口へと運んだ。苦いチョコレートなんて、正直彼もあまり好きではなかったが、
子供もこれが嫌いなので、勝手に食べても文句を言われない。それは先ほどのウイスキーボンボンも同じだ。
テレビ画面に目を向けると、彼と同じ猪の男優が扮する神父が、二階の窓を突き破って生垣に投げ出されるところだ。
ガラスの割れる音や、悪魔に憑かれた少女の悲鳴が部屋の中に響く。こんな騒音の中で寝ていられる辺り、性格の方は気の小さい父親には似なかったらしい。
腹の上で寝息を立てる娘の、毛むくじゃらの頬を撫でながら、しみじみと話す。
「見かけは僕に似たけど、中身は君にそっくりだね。
結婚相手はきっと尻に敷かれる筈だよ」
「失礼ね。それじゃ私が尻に敷いてるみたいじゃない」
いのりんは、口の端を吊り上げて牙を剥き、例の傍目からは攻撃的にしか見えない笑いを見せ、「ごめんごめん」と面白そうに謝った。
映画はクライマックスを向かえ、感動のラストに差し掛かろうとしているが、もはや二人とも見てはおらず、可愛い子供を抱きながらの談笑に集中し始めていた。
やがて物悲しいエンディング曲が流れ出したところで、二人はようやく映画が終わっている事に気付いた。
ラストを見逃したという不完全燃焼感溢れる空気が、周囲を包むが、巻き戻して再度見るような気にもならず、子供たちを寝室へと運んでいく。今夜ぐらい、歯磨きをさせなくても平気だろう。
子供部屋の二段ベッドに姉弟を寝かせ、自分たちは夫婦の寝室へと向かい、ダブルベッドに横になる。
映画の怖い場面が瞼の裏でリフレインしてしまい、完全に眠るには少々の時間を要したが、すぐに二人寄り添って眠りに着いた。
家族での映画鑑賞会は、明日に持ち越しだ。今日はじっくり休まなければ。
終
関連:[[いのりん+奥さん>スレ>>413 共に歩く道]] [[一姫>スレ>>820 一姫]]
**スレ2>>339 夜も更けて
薄暗い部屋の中を、テレビ画面の発する光が照らしている。いのりん達家族は、四人掛けのソファーに全員で座って、映画を見ていた。
映画の場面が切り替わるのに合わせて、ソファーの後ろの壁に、ソファーに座った家族影が、ちかちかと写りこむ。
いのりんが二人分のスペースを一人で使うため、彼と同じ猪の顔をした娘は、父親の太ももに座り、柔らかな腹を背に映画を見ていた。
だが、あまりに座り心地が良かったのか、それとも弟や友達と一緒に、街中歩き回ってお菓子を貰ってきた事に疲れたか、
はたまた小学校低学年が見るには、退屈すぎる映画だったのか、瞼を閉じてスヤスヤと眠り込んでいる。
娘より2つ下で、人間の姿をしたの息子も同様で、父と母に挟まれてソファーに座りながらも、すでに意識は夢の中だった。
ソファーの前のテーブルには、子供たちがハロウィーンで貰ってきたお菓子が、
開封済みのもの、手付かずのもの関係無しに散らばり、床には仮装に使った衣装が投げ捨てられていた。
ハロウィーンの夜は、子供たちの貰ってきたお菓子をつまみに、家族でホラー映画鑑賞としゃれ込むのだが、どうにもグダグダな結果に終わりがちだ。
部屋の中に響く女優の絶叫も、悪魔に憑かれた少女の奇声も、疲れた子供たちを覚醒させるには不十分で、
普段なら震え上がるような怖い演出も、この先どうなるか気になって堪らない展開も、外で思う存分遊び回った後の子供には、退屈なものでしかなかったらしい。
目の前のテーブルに広げられたお菓子の山から、手付かずのウィスキーボンボンを取り出して口へ運ぶと、いのりんは小さく溜め息をついた。
「せっかく仕事が早く終わったのになぁ……。
キャンペーン中だからってホラーに拘らないで、アニメ映画にしておけば良かったね」
地元のレンタルビデオ店では、ハロウィーン企画だか何だかで、10月20日から31日まで、ホラー映画のレンタル料が半額というキャンペーンをやっている。
子供たちが学校に行っているいる間に、夜家族で見るための適当なホラー映画を、奥さんが借りてきてくれたのだ。
結果は、見てのとおりなのだが。彼女は、労わるようにいのりんの頭を撫でながら、自分の選択ミスをあまり気にしていない様子で返す。
「いいじゃない。明日また子供たちに選んで貰いましょ」
「まぁ……そうだね。いつものファミレスで朝ご飯食べて、そのままビデオ借りに」
奥さんの言葉に相槌を打ちながら、いのりんは再度、テーブルの上のお菓子の山に手を伸ばす。
今度はビターチョコレートを抜き取って、口へと運んだ。苦いチョコレートなんて、正直彼もあまり好きではなかったが、
子供もこれが嫌いなので、勝手に食べても文句を言われない。それは先ほどのウイスキーボンボンも同じだ。
テレビ画面に目を向けると、彼と同じ猪の男優が扮する神父が、二階の窓を突き破って生垣に投げ出されるところだ。
ガラスの割れる音や、悪魔に憑かれた少女の悲鳴が部屋の中に響く。こんな騒音の中で寝ていられる辺り、性格の方は気の小さい父親には似なかったらしい。
腹の上で寝息を立てる娘の、毛むくじゃらの頬を撫でながら、しみじみと話す。
「見かけは僕に似たけど、中身は君にそっくりだね。
結婚相手はきっと尻に敷かれる筈だよ」
「失礼ね。それじゃ私が尻に敷いてるみたいじゃない」
いのりんは、口の端を吊り上げて牙を剥き、例の傍目からは攻撃的にしか見えない笑いを見せ、「ごめんごめん」と面白そうに謝った。
映画はクライマックスを向かえ、感動のラストに差し掛かろうとしているが、もはや二人とも見てはおらず、可愛い子供を抱きながらの談笑に集中し始めていた。
やがて物悲しいエンディング曲が流れ出したところで、二人はようやく映画が終わっている事に気付いた。
ラストを見逃したという不完全燃焼感溢れる空気が、周囲を包むが、巻き戻して再度見るような気にもならず、子供たちを寝室へと運んでいく。今夜ぐらい、歯磨きをさせなくても平気だろう。
子供部屋の二段ベッドに姉弟を寝かせ、自分たちは夫婦の寝室へと向かい、ダブルベッドに横になる。
映画の怖い場面が瞼の裏でリフレインしてしまい、完全に眠るには少々の時間を要したが、すぐに二人寄り添って眠りに着いた。
家族での映画鑑賞会は、明日に持ち越しだ。今日はじっくり休まなければ。
終
関連:[[猪田家>スレ2>>347 家族]]
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