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「いやぁーはっはっは」

高らかに笑う声が、青空に木霊していた。
時刻にして七時、一般人が程よく目覚める時間帯であり、洒落た社会人はモーニングコーヒーを飲む頃だろう。
いやだがしかし、今日に限ってはその目覚めを妨げる気持ちいい程の笑い声。住宅街を歩きながら、左右に挟む家に多大な迷惑をかけていた。

「いやぁー……おかしいねぇ」

おかしい。待ち合わせの時間まで後十分ほど。万が一も合わせて三時間前には家を発った。
だがいくら歩いても歩いてもただの家ばかり、予想を遥か斜め上を通り越す迷い方だった。
故に笑うしかない。

「おかしいねぇ……はっはっは!!」

もう何度目か分からないぐらい、時計を確認した。
残りタイムリミットまで五分。この果てしない旅路に終わりを告げることが出来るのか心配になってきた。

「つーか。ここはどこだろうなぁ」

歩いて、歩いて、歩く。
結局タイムリミットはキレて、ゲームオーバーとなった。
既に三十分は超え、待ち合わせの人も顔を真っ赤にさせていることだろう。

「やっと、見つけました」
「おや? おやおや、まさか迎えに来てくれたんですか?」
「流石に、この重要な案件が無しになれば、捜査に支障が出ますから」

黒い車を走らせて、彼女がやってきた。
長い金髪は人の目を引き、歩くだけで目立ってしまう。

「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン」
「ええ。お久しぶりです、ユウキ・ヨシムラ博士」

ようやく目的地に着きそうだ。
彼女の愛車に乗って、今噂の機動六課にお邪魔するとしよう。



機動六課の会議室で、フェイトを相手に話しをする。
議題については前々から頼まれていた『タナトス』について。

約半年前、強襲作戦の後に活発化したそのロストロギアは、自律型であり、生命体に寄生して宿主を探す。
奴等の目標は、主に魔道士や魔力が高い人間だ。
寄生し、精神を乗っ取られると、人としての人格を失い、化け物になる。

今までに数多くのタナトスが発見され、鹵穫と破壊を繰り返してきたが、未だ助かったのは一人のみ。それも、昏睡状態での生還。

「タナトスについて分かった事はあまり無い、残念ながらね」

私は、鞄から資料を取り出して配った。
内容はタナトスの構造と、寄生された人の精神パルス。

「これは……」
「まずはタナトスの構造について。見ての通り、こいつは機械じゃない」
「これは?」
「見て分からない? こいつは、中身が無いんだ」

タナトスは一見小さな蜘蛛型の機械に見えるが、中身が無い。
いや、中身があるといえばある。だがそれは、普通ならありえない事だった。

「物体としての中身は無いが、タナトスにはこの小さな身体に、膨大な魔力が入っている」

魔力かどうかは確定はしない。だって、思考がある魔力なんて存在しないのだから。

「次の、寄生された男性の精神パルスだが」
「これは分かります。寄生された人間は、精神……つまり心を壊されると言うことですよね?」
「半分正解だテスタロッサさん。確かに精神は壊される。だが、まだ続きがあるんだよ」
「続き、ですか」
「そうだ。一度精神が壊された融合体は、また精神が復活される」
「一度意識がなくなって、また意識を取り戻す、ということですか?」
「確かに復活するが、もうその時点で人間じゃなくなってしまう」
「………」
「個人差はあるが、タナトスに寄生されてから約二十四時間で精神の再構築まで到達する」
「では、融合体を元に戻す方法は?」
「……タナトスは一度寄生した人間に、自分の魔力を入れる。つまり二十四時間以内に寄生しているタナトスを駆除するか、トーレという少女の時のように、奇跡を起こすしかない」

タナトスについて不明瞭な部分が多すぎる。
この半年で何度かあったこの結果報告も、次回までにまとめられるレポートは少ない。

それほどまでに、タナトスはおかしい存在だった。

「では、その……」
「影について、かね?」
「はい……」
「影は恐らく、タナトスの魔力が具現化したものだ」
「魔力の具現化?」
「そう。影は、タナトス自身の精神であり、肉体でもある。武器にもなるし、盾にもなる」
「ですがあの姿は……!」
「なぜ影が皆彼の姿になるのかは分からない。だが、このタナトスに彼が重要な鍵を握っているのは明らかだ」

ヴィアトリクス・フロストリア。
古代ベルカを守護していた最強の魔剣士にして、夜天の王。
あの消滅から姿を消し、未だ行方は知れない。

「分かりました。こちらは事件を解決しながら、彼の行方を捜します。タナトスの件はお願いします」
「もちろんだよ。タナトスは、私じゃなきゃ解決出来なさそうだしねぇ……」

フェイトは、眉間に皺を寄せたまま出ていった。
資料を纏め、会議室を後にしたが……さて、これからどうしたものか。

「ヴィアトリクス・フロストリア、か。再び会えることに歓喜すればいいのか、狂気すればいいのか……」

歯車は捻じ曲がっている。まさかこんな時にこんな場所で巡り合えるのは、きっと誰かが望んだ結果なのかもしれないし、神様が戒めとして行ったものなのかもしれない。
どの道、私に残されているのはただ一つだ。



パーティーは中止、意識不明者あり、怪我人多数。
あの夜から三日経っても、ますます六課の空気は悪くなるばかりだった。

首都部にあれ程大きな結界が張られたのは、本部にとってかなり予想外な出来事だったらしい。しかも、これがまた六課絡みと知った上層部は、責任の多くを六課に擦り付けてきた。
これははやて自身も覚悟しており、判決を待ったのだが、聖王協会のカリムや総務統括官であるリンディ・ハラオウン等の支援の結果、被害は最小限に抑えた。
悪い話しはここまで、後は、喜んでいいのか落ち込むべきなのか分からない話し。

「トーレ自身は殺人、及び人食いの犯行はしていない」

これがこの事件でもっとも心配された種の一つだ。
タナトス《影》が、全てやった。そういう事らしい。実際本人も意識不明なので、確実な判断は出来かねない。
そういうこともあってか、トーレは病院の隔離医療施設に運ばれた。

セッテや他の姉妹達は断固反発したが、軍事力に敵うはずもなくなのは達に宥められた。

最後に一つ、血燕が戦った謎の女ベルザ。一切の詳細は無し、セッテも襲われたらしいが、気絶させられる前の記憶は曖昧らしい。
だが確実にベルザは、今回の事件に関わっていたのは明らかだった。

「はぁ……」
「落ち込んでいるみたいですね、はやてちゃん」

壁から小さな頭と、ピンクのポニーテールがはみ出ていた。
事件続き、どんどん分からなくなる謎、未だ消息が掴めないヴィアの行方。悩みの種は増え続けるばかりだ。

「そうだな。主も最近はため息ばかりついている」
「なんとかなりませんか?」
「なんとかしたいのはやまやまだが……今主を元気付けられるのはヴィアしかいない」

二人も溜め息をつきながら考えていると、見覚えのある顔が歩いてきた。
ぼさぼさの黒髪に、対照的な純白の白衣。確かあいつは――――

「いやぁ、もしかしてそこに居るのは八神はやてさんですかな?」
「え?」
「お初にお目に掛かります。私の名は、ユウキ・ナカムラ。本局の方で科学者をしております」
「あ、私は機動六課総隊長を勤めています八神はやてです」

何故、奴がここにいる? いや……私はあいつを知らないはずなのに、妙に見覚えがあった。雰囲気でもなく、何故か、奴の顔は見覚えがあった。
考えても頭に靄が掛かったように見えてこない。でもこれは気のせいではない気がする。

「シグナム、どうかしました?」
「リィン、あの白衣の男に見覚えはあるか?」
「んー……」

壁から頭を出した状態から、リィンは男を凝視した。

「見覚えないですねー」
「そうか……気のせい、なのかもしれない」

もう少しだけ、観ていよう。

「先ほどから元気が無いようですが、何か悩み事でも?」
「……最近疲れが溜まってるだけです」
「いやぁ……嘘はいけませんな」
「それは、そういう意味ですか」

ユウキの目が変わった。いやらしく、心の奥まで見ているような、貪欲に曇った瞳で。
はやては警戒心を強めた。傍から見たら何も分からない、だが明らかに、何か言いたそうな表情をしている。

「素直になれよ、本当は寂しいんだろう? ヴィアがいないとさ」
「!?」
「どうした、あいつがどこにいるのか探してるんだろ? 教えてやろうか、あの光の果てを」

会話が聞こえない。ここからじゃ少し遠いようだ。
あまり顔を出しすぎると、気付かれてしまう。

「あんたも酷だよな、なぜ守護騎士達に本当の事を言わない? あいつらの親は……ヴィアトリスだってことを」

優しそうな顔は歪んで、知的な、それでいて嘲笑うように彼は笑っている。口調も変わっているけど、今はそんなことを気にしている暇は無い。それよりも、この男は何者なんだ……?

「黙って!」
「いや黙らないよ、四百年前の戦いで……二人の英雄が戦い、消えた。そして死んだ歴史から消えた二人が今、こうして生きている。由々しき事態だ。居てはならないバケモノが存在している。そして、そのバケモノの子供達も……機動六課という人間の居場所に住み着いている」
「やめて!!」
「主!」

怒鳴り声が聞こえて、私は飛び出した。
白衣の男は、一瞬だが、私を見る目に……憎しみが込められていた気がする。

「誰だお前は」
「本局で科学者をやっているユウキ・ナカムラですよ」
「なぜ、ここにいる」
「私に見覚えはないのか?」
「なにを言っている……ここにいる目的を言え」

見覚え? 確かにさっきから感じていたが、こいつは私に見覚えがあるのだろうか。
まただ、靄が掛かって思い出せない。

「そうか……そういうことか」
「お願い……この子達には言わないで」
「ふふ、ヴィアトリスがなぜあそこまで弱かったのかようやく分かった」
「なんだと?」
「夜天を捨てたか……バケモノのくせに、無駄な感情が多すぎるんだあいつは」

親しい友のように、ヴィアトリスの事を話している。それになんだ? 夜天を捨てた? 私たちの記憶に、彼が夜天の書の所有者だった記憶はない。
だったらこいつは何を言ってるんだ……。

「二つのロストロギアが交わった時、失楽園の道が開かれる。その魔力は強大だ。時空の一つや二つ、簡単に曲げてしまう」
「お前はなにを言って……」
「親を失った子に、親の声は聞こえまい。だが私にはアンヘルの……ジュエルシードの声が聞こえる。近いうちにすぐ会えるさ。感動の再会を楽しみにしているがいい八神はやて。いずれ分かる真実に、怯えてはならない」
「ま、待って!」

主の言葉を無視して、ユウキは歩き出した。
彼の姿が見えなくなるまで、主は私の裾を握って、泣きそうな声でこう言った。

「シグナム達は……うちの家族なんや……」



「くそっ!! くそぉおおおお!!!」

壁を蹴って、殴る。当然の如く、俺の怒りは収まらなかった。
何度も何度も殴りつけて、手は真っ赤になっていた。それでも俺は――――壁を殴り続けた。
あの日、四人で戦ったにも関わらず負けてしまった。それはもう清清しい程に完全な敗退だった。
強くなった気でいた。自分は強いと信じていた。

「弱い」

自分は今までなにをやっていたのだろうか。

「ヴィアトリスなら仕留められていたでしょう」

黙ってくれ……俺はあいつを殺すんだ。俺とあいつの何が違うんだ。同じバケモノなのに、同じ異端者なのに、なぜ俺は……幸福が無い。
そもそも俺は、なんであいつを恨んでいるのだろうか? 出会ってばかりでそんな親しくなかったし、何より初めは憧れすら抱いていた。そうだ、あいつは、ヴィアトリクスは生きている人間の命を簡単に奪ってしまうような奴なんだ。戸惑いも、躊躇すら無しに。
以前ルーカスの廃墟で見つけた男は、確かにもう人として生きてられなかったのかもしれない。だが、本局に運んで治療してもらえば、きっと命だけでも助かったかもしれないのに……。

「くそ……!」

軋む腕に鞭を打って、俺はベッドを殴った。
痛い……でも痛いのには、慣れていた。
殴られる痛み、地面に叩きつけられる痛み、幼少時代から様々な痛みを味わってきたが、今は精神的にまいってしまいそうだ。いくら殴られても、俺を支えてくれていた人がいたから平気だった。そして、その安らぎから独立してこの世界にやってきたというのに、なんだこの様は。

平穏過ぎる自分の毎日に嫌気が差して、いざロストロギア関連の任務が回ってきたら隊は全滅し自分だけ生き残る。そして出会ったのが……ヴィアトリクス。聖王協会から来た、なぜかめちゃくちゃ強い魔導師(本人は魔剣士と名乗っていたが)らしいが、実際のところはよくわからなかった。

だが隊長たちも聖王協会も、なにか隠しているのは確かだ。
でもそんなことは俺自身どうでもよかった。あいつが何者か知ったところで、俺があいつを殺すことには変わりはない。似ている……のだろうか。俺とあいつは、どことなく似ている気がする。
ヴィアトリクスが戦っている時の目は、昔を思い出すような、暗く深い黒をしていた。

「………」

怒りが収まってきた。
手が痛い。俺はなにをしているんだろうか……



「さぁーって! ここがミッドチルダね!」

駅のホームには、陽気な声が響いていた。
通行する人々はその声に驚いて振り向いて、女の子を見てすぐに歩きだす。それは元気な子供を見て安心したのか、それとも何か見てはならないようなものを見て目を逸らしたのか。
とりあえず言うのであれば、そこには馬鹿しかいなかったといえよう。

「乗り物はやっぱり面倒ね……うぷっ」

フードが揺れた。
顔は見えない。かろうじて少女だと分かるのは、その声と、その身長だけだろうか。
とりあえず場違い。可愛らしい私服の若者や、スーツ姿で会社に向かうどこぞの社員たち。そして、その真ん中で乗り物酔いで嘔吐しかけている、真っ黒なローブを羽織った少女らしき少女。

「ねぇ君」
「はい? なんでしょう駅員さん」
「ちょっと身分証出してもらえるかな」
「はぁ……身分証なんて物、ないですけど」
「よし、じゃあ警察呼ぼうか」

背伸びするように、駅員は声を張り上げた。
ローブ姿で十分怪しいのに、顔はフードを被っていて分からない上に身分を証明できないのなら、本業の方を呼ぶしかない。

「警察? ……なんで私が!?」
「いやいや、君、怪しいし」
「ほら! 怪しくないよ!」

バッ、とフードを取った少女は駅員に顔を見せた。
整った顔に、そこまで存在を主張していない胸部、そして長い金髪。大抵の人ならば、ああそう、気をつけて家におかえり、というだろうが……この駅員は格が違った。

「で? っていうね」
「え?」

真顔で、真剣に、人を見下したように見下ろしていた。
そもそも、顔を見せただけで警察を呼ぶのを止めるなんて話しはあまり聞かないというか全くないだろう。

「顔見せたよ!?」
「で? っていうね」
「わ、私の故郷じゃ、警察の人なら優しく見送ってくれたのに!」
「ここ、君の故郷じゃないでしょ。それで、君の故郷はこの世界にあるの?」
「え……ありませんけど」
「よし! じゃあ警察呼ぼうか!」
「えぇ!?」

状況がよくわからなかった。
そう、これはサプライズ。いきなり現れてなんでお前がここにいるんだよ! って言わせようとしてようやくお金溜めてここまで来てこれですか。状況は分かる、しかし理解はできない。だから私は―――――

「すみません! 親が病気で倒れてるのでお見舞いに行かなきゃいけないんです!」
「あっ! 待ちなさい!」

思ったよりも足が速かったのか、少女はすぐに人ごみに消えた。

「ったく。故郷はここじゃないだろうに……」




夕闇は露骨に、人に孤独を押し付ける。
昔から夕方は嫌いだった。嫌な一日の終わり。楽しい一日の終わり。寂しい一日の終わり。やがて夜になり、街と森は深い闇に包まれる。
一日は終わり、寝て起きればまた嫌な一日が始まる。

つまり昔の俺には、良い事なんて無かったのだ。
窓から見上げる夕日は、良い雰囲気も感じさせないほどに憂鬱にさせる。

「家族、か」

何気ない会話に使われる、“家族”というワードに、俺は深く嫉妬し、羨望する。自分には家族が居たのかはともかく、今自分の立場から見て、家族と呼べる者は一人もいない。
居て欲しいのかも―――俺には分からなかった。
今はそんなことに気を使っている暇は無い。俺は早く強くなって、帰りたいんだ。深い森に覆われた、痛みと悲しみの町へ。

『少年』
「?」
『そんなに急いでどこへいく』
「誰だ!」

叫んではみたものの、聞こえたのは念話であって、近くにいるとは限らない。
でもこの聞き覚えのある声は、あいつしかいない。

『災いの子よ、そんなに急いでどこへいく』
「なに……?」

災いの子、か。
そういう扱いに覚えはあるが、そんなことは初耳だ。だが微かに、俺は分かっている気がする。

「言いえて妙だ、お前は俺じゃないのに、俺を俺より知っている」
『そうだとも、私はお前をよく知っている。お前を幼少より知っている。お前の知らぬ過去も知っている。お前を強くする方法さえも、知っているとも』
「ああそうかい、知ってるんなら全部話してもらたいところだが、その前に一発殴らせろ!」

四肢武装。俺のデバイスギルガメスは、大剣と、両手両足を武装する完全な近接型だ。
拳と蹴りを強くするのでは話しにならない。形こそスバルのデバイスに似てるものの、速さはストラーダにと同じ。火力だけなら、マッハキャリバーと同等。
風を巻き込み、風を噴出し、殴って、蹴る。全てはこの肉体と共に、安定と中間を維持するデバイス。

「そこだ!」

拳を大きく振り翳《かざ》し、風の弾を飛ばす。
前方に見える木の上、案外距離は近かった。風の弾を被弾する前に、奴は大きく跳んだ。

「ベルザ……!」
「こんばんは。また会いましたね血燕」
「ここに何の用だ」
「ここに? いえ、私が用があるのは、貴方と、貴方の幼馴染ですよ」

幼馴染? こいつは―――何を言ってるんだ。
あいつはここには、いない。だって、俺が置いてきたから。

「来て、いるのか」
「ええ。いきなりの都会ですし、きっと迷っているんでしょうね」
「なぜここに来た」
「十年前に街を出た幼馴染から手紙が来れば、さぞ喜んでくるでしょう」
「運が悪かったな、お前。俺の方から先に襲うってことは、手順の間違いだ!!」

フェンスを乗り越えて、ギルガメスが風を吸い込んだ。
あいつには指一本たりとも触らせない。俺が守ってやるんだ……俺が、守らなくちゃいけないんだ……!

「ギルガメス!」
『All right.』
「ソニックバニッシュ!」

ただ風の弾を飛ばすのではなく、風に魔力を付加して一気に飛ばす。
圧縮された風は風圧と共に、障害を潰していく。

「貴方は、なんでそんなに弱いのでしょうか」
「黙れ!」

風が、ベルザの直撃した。
だが奴は、何事も無かったかのように、立っている。

「すみませんね、今日はただの映像《ホログラム》です。貴方がいくら頑張ろうと、私には当たりません」

なんだよ、そりゃ。つまり、俺のことを罵り放題ってことじゃねえか……。

「撤回しろ、俺は弱くなんかない!」
「さて、それはどうでしょう。慢心し、油断し、やられる。これはあなたのいつものパターンでしょうに」
「うるせえ! 俺は弱くない!」

何度も、何度も、映像であるベルザを殴ろうと、拳を振り下ろしていた。
あたるはずないのに、何度も。

「弱きかな、災いの子よ」
「黙れよ……」
「お前が常人のような方法で強くなんてなれない。人にはやり方というものがあるのですよ」
「何が言いたい」
「これを見なさい」

ベルザが指を鳴らすと、映像が流れ始めた。
古い映像なのだろうか、砂嵐の後に、それは始まった。
逃げ惑う人々、破壊される施設、そして奴は……その中心に、立っていた。屍を積み上げ、そのデバイスは血を吸い、叫んでいる。

「ヴィアトリクス・フロストリア……」
「四百年も前のものですが、見なさい。この惨劇を。明らかな力の差があるにも関わらず、彼は殺人をやめない。酷いでしょう?」
「確かに、あいつは非情な奴だ。でも、さすがにこれは!」

明らかに俺は動揺していた。映し出されている映像には確かに隊長が映っている。でも、何かの間違いじゃないかと、そう感じる。
だがベルザは、真実だと、言い放った。四百年も前の映像なのに、なんで隊長が、映ってるんだ……。

人が、死んでいく。それは映像のはずなのに、見ているだけで気持ち悪くなるような、そんなにも酷いものだった。
大鎌が人を切り刻んでいく様子を、俺は見ていられなかった。

「やめろ!」

人の死は見慣れているはずなのに、なんでこんなにも動悸が治まらないんだ。

「何を恐れるんだ。お前もヴィアトリクスも、同じ化物じゃないか」
「え……?」
「ああ。災いの子よ、悲しむことなかれ……汝には、力がある、手に入れられる。さあ。突き止めるのです。その真実に到達した時あなたは、きっと、私達の元へ来るでしょう」

ふざけたように、ベルザは大げさな演技と共に語り、溶けるように去っていった。
四百年前に何があった、そして……俺とあいつに、何の関係があるのだろうか。ベルザが言った、化物というのはどういう意味なんだろう。

「はっ……! 意味わかんねえっつうの……」

弱いだの災いの子だの、最近は言われっぱなしな気がする。

「四百年前、災いの子……調べてみるか」

俺はさ、李 血燕、なんだよな―――――?

第十八話 弱き心 End

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