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旧友、交錯、宿命、真実。
俺を掻き立てるには十分な理由が揃っていた。この不条理極まりない世界に対し、終止符を打つのは俺の中では既に決定していたことだ。
だがなんだろう、いつも失敗に終わってしまうのは。

それは甘さか、未練かは分からない。
でも心のでこかで、俺は止めて欲しいと願っているのかもしれない。でも誰に?
世界か、部下か、俺自身か。でもどれも違う。
俺はあいつに止めて欲しいんだ。
唯一俺が好敵手と認め、互いに成長を見守っていた旧友。

ヴィアトリクス・フロストリア。
夜天を持つ、最強の魔剣士。四人の守護騎士を持ち、その圧倒的な実力を誇る。
ああ、戦いたい。今すぐにデバイスを交えたい。

今、あいつはなにをしているんだろう。
考えるだけで痛い。身体が動かそうとするたびに悲鳴をあげている。何故・・・こんなことになったんだろう。
思い出しても、記憶にあるのはあの眩い閃光だけだ。

悔しい。あの最高に燃え上がれる一時を邪魔したのは誰だ。
俺をこんなめに合わせたのはダレダ。
オレヲ・・・オレハ・・・

イッタイ、ダレダロウ?


― The Lost Happy ―


俺は、無事なのだろうか。
身体が自由に動かない。拘束されているという感覚より、神経が機能していないような感だ。
俺はどうなった? あの後、ちゃんとみんなは無事に避難できただろうか。
確認は出来ない、ただ、祈るだけだ。

それよりも、ここはどこだろう。何か、見覚えがある。

暗く、暗く、感覚や意識までも喰い潰していくようなこの世界。
いや、世界なんて呼べる生易しいものじゃない。これは混沌だ。“俺”という世界を喰い荒らす、何かだ。

ここは、あの場所に似ていた。
400年も居たあの場所。老いることなく、歩ける訳でもなく、誰かを想うことしか出来ない場所だった。
・・・いやだ、ここには居たくない。こんな場所には、居たくないんだ!

「いやだ、いやだ! こんな場所はもううんざりだ!」

怖い、恐いよ。
ずっと一人は嫌なんだ。
俺が壊れてしまいそうで、崩れてしまいそうで・・・どうしようもなく不安なんだ。

「嫌だよ・・・助けてよ・・・」

フラッシュバックされる“大切な人達”との思い出が、次々と闇に呑まれていく。

「イタイノハ、イヤダ・・・」

もう、痛い思いはしたくない。

「コワイノハ、イヤダ・・・」

誰も失いたくない。

「ナニモイラナイカラ・・・ラクニナリタイ・・・」

もう、何もいらない。
俺はもう、自分だけあればそれでいいんだ。



フリージア本部強襲作戦から三日後、機動六課作戦会議室にて。
六課の前線メンバーを集めたミーティングが行われていた。

「先の事件の後、六課の捜索隊が捜査をした結果が出ました」

モニターに映し出されたのは、下級ガーディアンの画像だった。

「これって・・・」
「うん、みんなが戦った魔道師たちだね」
「この人たちって、誰なんですか?」
「・・・古代ベルカの遺産、C計画より生まれたバケモノ、ガーディアンだ」

画像を見ながら、ヴィータが険しい表情で答えた。
記憶が戻ったヴィータからして見れば、このガーディアンたちは、スバルたちとは戦う意味が違ってくる。

「人間、ですよね?」
「いや、正確には“人間だった”やつらだ」
「だった?」
「出来たばかりの受精卵に有能な魔道師や魔獣のDNAを移植し、より強い子供を造る。
それが、この計画で生まれたガーディアンたちだ」
「そんな・・・!?」

隊長陣以外は、驚きを隠せないでいた。
無理もないだろう、人間と戦っていたと思っていたやつらが、400年も前に造られた人工魔道師だというのだから。

「あの、一ついいですか?」
「余計なことなら喋るなよティアナ」
「・・・隊長は、ヴィアトリクスさんは知っていたんですか?」
「ヴィアは・・・」

フェイトが口籠もるが、やはり言いにくいことだった。
全てを話さないとはいえ、この事件にヴィアトリクスが大きく関わっているのは間違いない。逆に、何も話さなければ変な疑惑を持たれる可能性もあった。

「彼は・・・」
「認識コードA、No.666、ヴィアトリクス・フロストリア。ガーディアンの最高峰にして、最強の魔剣士だ」
「ヴィータちゃん・・・?」
「いいんだ、隠しきれることじゃないし、いつまでも隠し事ばっかりだったら、帰ってきたとき気まずいだろ」
「じゃ、じゃあ・・・隊長はガーディアンなんですか?」
「そういうことになるな」
「・・・・・・」

雨の音だけが、室内に響いていた。
長い沈黙は、それほどまでにその事実がショックだったのかを物語る。
だがそれも仕方のないことなのだと、受け入れているフェイトたちはショックを顔に出すことなく会議を続けた。

「あの施設は、というか世界は半分以上が消滅したためにあまり捜査の意味はなかったんやけど・・・消滅する前からもうあの中には何も無かったみたいやね」
「それで、兄上は?」
「・・・アンヘルもヴィアも、姿は見当たらなかったんだ」
「なんだと? お前たちは、兄上を連れ戻すために先行したんじゃなかったのか!?」
「ヴィアはまだ、帰るのを望んでいなかったから」
「そんな言い訳が―――!」
「・・・トーレ、やめて」
「勝手にしろ、私は部屋に戻るからな」

トーレが出て行って、更なる気まずい雰囲気が広がった。
結果的に強襲作戦は失敗、確たる証拠も得られないまま六課は撤退したため、上層部からのバッシングが酷かった。
そのせいで局員の心労は増し、この三日間で局員同士の衝突も少なくはなかった。

だがそんなことよりも―――

「ヴィア・・・」

ヴィアトリクス《彼》が“本当に居なくなった”というのが、何よりも大きい穴だろう。
少ない期間だが、読めない字を覚え仕事をし、部下に戦い方を教え、心を支えた。

「じゃあ質問、ヴィアさんの故郷のベルカは今どこにあるでしょう? スバル、答えて」
「え? その、もうありません」
「正解、じゃあ次は、ヴィアさんは居なくなる前までどこに居た? エリオ、答えて」
「機動六課です!」
「そうだね、じゃあ最後だよ。みんなは、ヴィアさんのこと好き?」

最後の質問に、みんながなのはを見た。
喋る訳でもなく、ただじっと、なのはを見ていた。
答えはもう、決まっている。

「だからね、次ごちゃごちゃ言った人は個人的に呼び出すから」
「六課はまだ死なない。ウチらは、まだやらなきゃいけないことがあんねん。ヴィアが帰って来た時、笑って迎えてあげられんのは、みんなしかいないんやから」
「これからも捜査は続くよ、みんな、覚悟してね」

その言葉でミーティングは終わった。
会議室には、八神家が残る。話すことは、もう決まっていた。

「ヴィータ、調子はどうや?」
「うん、もうダルさとかもないし、怪我も治ったよ」
「本当に、無理はせえへんといてな」
「うん。それでみんなには、話さなきゃいけないことがある」
「それは、今言うべきことなのか?」
「うん。もう、思い出しちゃったから」

思い出すと、本当に頭が痛くなって、辛いことばかりしか出てこない。
忘れていた時間の方が多いのに、いざ思い出すと全てが鮮明に出てくる。

「ヴィアトリクス・フロストリア、夜天の氷帝。そして・・・夜天の魔道書を造った本人」
「やはり、か」
「三人は忘れてると思うけど、ザフィーラとシャマルは元々は人間だったんだよ」
「そうか、まあ今更、驚くことでもないけどな」
「シグナムは初めからヴィアの守護騎士だった」
「そうか・・・」
「ヴィアがなんであたしたちの記憶を消したかわかる?」

今はヴィータしか知らない、もっとも簡単で、もっとも謎の部分だ。
なぜヴィアは、一人で戦うのか。孤独が嫌いなはずなのに、必死に一人になり続ける理由。

「ヴィアは400年前、最後の戦いの時、アンヘルを殺せなかった。そしてアンヘルが自分を封印したとき、ヴィアも自分を封印することを決心したんだ」
「それでヴィアは、どうなったんだ?」
「ヴィアは自分を封印する前、あたしたちを捨てたんだ」
「それは正しい表現か?」
「・・・正確には、守ったんだ」

ヴィアが守護騎士と夜天の書を捨てた理由。それは、きっと不器用だったんだと思う。
世界がヴィアを拒み、人がヴィアを拒んだ。
その苦しみの中、ヴィアはただ愛する家族のことだけを考えていた。

自分と居たら、不幸になる。だから、後は任せて先に幸せになれ、と願いを込めて、独りになった。
戦い続ける一生を送るかもしれない、もしかしたら死ぬかもしれない。ただでさえ誰かが死ぬことに多大な苦痛を感じるヴィアはきっと守護騎士の誰かが居なくなると狂ってしまう。その考えの末が、夜天を破棄する結果に至った。

「不器用だから、俺といるとみんなが不幸になるからって」
「ヴィータ・・・」
「バカだから、心が弱いから・・・“俺が守ってやる”って言えなかったんだ」
「ウチはヴィアに感謝してる」
「はやて・・・?」
「みんなに出会えたのは、ヴィアのおかげや」
「そこだけは、ヴィアトリクスに感謝しませんとね」
「でもあたしは・・・」

迷っている。八神はやてという幸せを見つけた今、ヴィアの存在は、どうしようもなく不安定だった。
“どっちか”と言われれば、どちらも取りたい。でもその片方が、今は居ない。

「ヴィータは、悩みすぎなんやな」
「え?」
「全部、ヴィアが決めることや。だから今は・・・今までのヴィータでいてや」
「・・・うん、分かってる」
「じゃあもう今は話すことがないわね、みんなでご飯でも食べにいきましょうか♪」
「そやね、ウチもうお腹ペコペコや」
「そういえば、リィンは?」
「なんか頭痛いらしいからメンテ中」
「ふーん、後でお見舞い行かなきゃな」
「せやな、でもその前にご飯食べよヴィータ」

雨は続いていた。
この灰色の下に、まだ彼が歩いていることを信じて。この異物を嫌う世界が、ちょっとでも彼を認めてくれるように。
みんなの祈りが、雨を伝い届くように。





「ああ神様。なぜ人は、こんなにも争うのでしょうか」

神からの返事はない。

「ああ神様。いつになったら、平和になるのでしょうか」

灰色の空からは、返事はない。

「ああ神様。彼はいつ、帰ってくのでしょうか」

神様にも、それは分からなかった。
灰色は、どこまでも続いている。返事も聞こえず、雨音しかしないこの世界に、少女はただただ祈り続けた。
夢を追って出て行った、最愛の彼の背中を思い浮かべながら。




第十四話:不器用な愛、忍び寄る終焉の足音 end

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