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俺がこの世界を信じていた時、世界は俺たちを見捨てていた。
私がこの世界を信じていた時、私たちの手は赤く汚れていた。
俺たちが真実を知った時、俺たちは独りになった。

全部が遅かったのかもしれない。
俺たちは、とっくに壊れていた。

世界の何処かで、誰かが泣いている。
──泣かしたのは俺たちだ。

世界の何処かで、誰かが殺されてる。
──殺してるのは俺たちだ。

───どうやって償えばいい。
何が贖罪になる?

教えてくれ。
俺はどうしたら──幸せを知れるのだろうか?





「ヴィータの様子は?」
「今は眠ってるわ。でも、原因が分からない」
「強盗の男がやったようではないしな…ならば、ヴィアトリクスしかいない」
「でも彼がヴィータに何かするとは思えないわ」

機動六課の医療室にて、ザフィーラとシャマルが話している。内容は決まっていた。

全てヴィータに関することだ。
今日未明、六課を出て行ったヴィアを連れ戻し、帰りに街へ寄ったところで銀行
強盗に遭遇。
二人は強盗に対応し、捕らえようとしたが途中ヴィータが何らかの異常のため気
絶…強盗を捕縛した後、ヴィータの異変に気付いたヴィアが背負って六課まで連
れてきた。

これが、今整理出来る報告の全てだった。
すぐに医療室で治療を行ったが、原因不明なためまともな治療は行えず、眠った
ままのヴィータの様子を見続けるしかなかった。

「ヴィアトリクスは?」
「分からない。ヴィータの容態を聞いたあとすぐに出掛けたわ」
「そうか…」

今回の事件に大きく関係していると思われるヴィアトリクスは、はやてと口論し
た後すぐに外へ出たらしい。
直に戻ってくると推測され捜索はせずに待つ、というのがはやてがくだした命令
だ。

「やっぱりヴィアは私達と…」
「深入りはするな。直に分かることだ」
「えぇ、そうね…」

だとしても、私たち守護騎士にとってはかなり大きな問題だ。
流行り病でも伝染病でも無い。これは守護騎士プログラムに直接何かがハッキン
グを行い何かを書き換えた事によるショックだ。

これはまだみんなには言えない…。これを言えば、ヴィアはきっと敵視されてし
まう。

「守らなくちゃ…」
「何か言ったか?」
「いえ…なんでもないわ」

暫しの沈黙の後、リンがやって来た。
どうやら、ヴィータの様子を見に来たようだ。

「…リンさん」
「お前か」
「そういえばまだお前たちとはまともに話した事がなかったな」
「ザフィーラだ。そして医療班リーダーのシャマル」
「ふむ。懐かしい名前だ」
「懐かしいだと?」
「ふふ。お前たちはまだ知らないのか。残念だよ」





「懐かしいとはなんだ」
「さあ? なんだと思う?」

不用意な言動はヴィアから制限されていたが、もはやヴィータの記憶が戻ったか
らには潮時だ。
ヴィアが望まぬとも、もう私から動かなくてはならない。

ザフィーラは臨戦態勢を取っている。
この状況でこんな怪しげな事を言っているんだ、分からなくもない。

「答えろ…!」
「戦《や》るのか? 私は一向に構わんが…お前を殺れば私がヴィアに殺される」
「ヴィア、ヴィアと…お前たちは、あいつの名前しか呼べないのか!?」
「ふん。犬ごときが図に乗るな…お前たちも、同じだったではないか」
「それは、どういうこと?」

哀れみすら消え失せる程、滑稽な姿だ。
今お前たち守護騎士の幸せは、ヴィアが一人で戦った結果だというのに。記憶が
無いとはいえ、こうも大切な人を敵視できるのだろうか。

痛々しい。虫酸が走る。
ヴィアの命令が無ければ、斬っていたところだ。

時間はもう夜中。
職員は眠りにつき、明日が幸せであることを祈って朝を待つ。
なんて幸せな事だ。平和という偽善の象徴を望み、自分の中の幸せを真っ当出来る。

それも全部…ヴィアが望んだ事だ。
あいつは一人で頑張っているのに、お前たちは…。

「一つだけ…言おう」

全部はは喋れない。潮時だろうと、ヴィアが言わなければならないことなのだから。

「お前たちは…ヴィアトリクス・フロストリアの家族だったんだよ」

すまないヴィア。
結局、私もお前も…歪んでいるんだ。





「くそ…くそッ!!」

宿舎の屋上で、ただ俺は壁を殴り続けていた。
それは、きっと自分が情けないからだと思う。いつだって自分の進む道を選択し
てきたというのに、これっぽっちも成し遂げていない。

だが解らないことがある。
ヴィータは、なぜ彼女は俺の記憶を取り戻した…?
400年前、夜天の魔道書との繋がりを断ち切ってデータも全てデリートしたはずだ。

なのに何故ヴィータは…。

───名ヲ───

「ちっ…またか…!」

───喚ベ───

「てめぇは一体…!」

───私ヲ───

「…誰だってんだ!!」

───私ノ名ハ───

「・・・くそ! いつもいつも、肝心なところで途切れる!」

毎回毎回、俺に何をさせようというんだこいつは…。
400年前はシグナムだった。だが今はシグナムは居ない。
だったらこいつは誰だ? ずっと俺の中に居るこいつは。
声が途切れた後感じるのは膨大な魔力だけだ。

その“余り”が俺を苦しめる。
いきなり流れ込んでくる魔力に身体は追い付かずに悲鳴を上げ、外に出ようとす
る魔力が思考を狂わせる。

はた迷惑な話しだ。
正体不明…訳も分からない何かが俺の中に居る。

「─────」

だが、ヴィータの様子がおかしくなった時、無意識に守護騎士プログラムへアク
セスしていた。
まずはそこがおかしい。
魔道書の所有権と俺の設定を全て消したはずなのに、何故か八神はやてが有する
夜天の書へ介入出来た。





「しっかりしろヴィータ!」

身体を揺らし、声を掛け続けたがヴィータの意識は一向に戻る気配は無い。

『守護騎士プログラム、再構築を始めました』
「なんだと?!」

そんな馬鹿な。
ヴィータが、俺の記憶を復旧しようとしているというのか…?! なんとしても、
それだけは止めないと…。

「守護騎士プログラムにハッキング、ヴィータの記憶断層の再構築を止めろ!」
『駄目です。受け付けられません』
「なんでだ! アクセス出来んなら、そのぐらい出来るだろ!!」
『守護騎士プログラム04は強制的に主の命令を拒んでいます』
「ヴィータ…お前…」

止めろ、止めろ…止めてくれ…!!
そんなことしたら、俺なんかを思い出したら、お前が築いてきた幸せはどうなる?
はやての家族のままでいれば、何もかもがうまくいくのに。

「もう一度だ!」
『エラーです。命令の実行を拒まれました』
「…くそ! なら強制的に修復しようとしてる記憶の断片を消去に…」
『私の独断でそれは実行できません』
「なぜだ…」
『そんなことをしたら、他の断片も失い、今ままでの記憶に障害が出ます』

なら、このまま見過ごせって言うのか…? 俺はなんの為にお前たちの記憶を消
して、ずっと一人で戦ってたのに。
どうしてお前は…そうまでして俺を思いだそうとしてるんだ。

「──ヴィ、ア…」
「ヴィータ…」
『急な再構築に肉体がオーバロードしています。このままでは発熱では済みません』
「…六課だ、六課に行くぞ!」
『バイクは公園にあります』
「そんなので間に合うか! 飛ぶぞ!」

再構築は止まらないなら、せめて無事でいてくれ…。
待ってろ、今すぐ俺が助けてやるからな…!!

『主、泣いておられるのですか?』
「泣くかよ…ここで泣いてたら、もう先に進めねぇよ…!!」
『・・・六課まで後2kmです』
「もうすくだからな、ヴィータ…!!」

そうして六課に連れていき、すぐにヴィータは集中医療室へ運ばれた。
局員が集まってきたが、俺はそんなのを気にしてられるほど余裕は無かった。

「ヴィア! ヴィータに何があったんや…!」
「……全部、俺のせいだ」
「なんやて…あんたが何かしたんか?! なんでや! ヴィータの気持ちも知らんで!」
「黙れ! お前に俺の何が分かる?!」

気付いたら、俺は殺すような勢いではやてを睨み、テーブルを叩き割っていた。
なんで…どうしてこうもうまくいかないんだろう。
俺はただ、お前たちが幸せであって欲しいだけなのに…。

どうしてこんな小さな願いが、叶わないのだろうか。

「お前に…!」

憎い。

「お前たちなんかに…!」

憎いんだ。憎まずにはいられない。

「俺の気持ちが…、分かってたまるかぁああああ!!!」

憎いよ…こんな小さな幸せさえ与えてやれない俺が…どうしようもなく憎い。

「待ってヴィア!」

フェイトの声を無視して、俺は走った。
場所なんか決まってない。ただ、今は一人になりたかった。

「追わなくちゃ…!」
「待ってフェイトちゃん」
「なのは…」
「ヴィアさんも、辛いんだよきっと…事情はわからないけど、これだけは分かる
な気がするんだ」

辛くて、不安で…泣きたいぐらいに現実を叩き付けられてまで、一人で戦ってる。
誰にも話せないで、誰にも助けは請えない。
ずっと、辛かったんだよね。

そうだよね…ヴィアさん…

「今は、一人にしてあげよ」
「…うん」
「それよりもはやてちゃんを」
「ヴィータの事もあるし、ヴィアの言ったことも…全部いきなりだからね…」

夜、慌ただしい事に医療班は徹夜の治療となった。





「はぁ…」

謎の声も消え、ようやく落ち着きを取り戻した。
今になって冷静に考えても、何もわからない。

「─────」

単純な解釈ならば答えは一つしかないのに、俺はその答えを自分の中で否定してた。
そうすれば、気が楽だった。

ヴィータは自分の意志で俺の介入を拒んだ。
はやてが何かした訳でもなく、あいつは自分自身で選択したんだ。

それなら納得はいく。
だが…腑に落ちない。

「もう、終わりかな」

正直、楽し過ぎた。
ルーテシアが居る異世界で目覚め、アルピーノ親子と出会い、聖王教会と出会った。

カリム、シャッハ、クロノ。
あいつらに会って、本当に助けられた。
クロノたちの手回しで、機動六課に出会う。

初対面の人間ばかりだったよ。
スターズ、ライトニング、ロングアーチ、アイシクル。

俺は、あいつらの中では人間でいられた。
人間として扱われ、人間として生活する。
みんなが俺の過去を知らなかったのもあるが、それにしても…楽しかった。
嫌な事もたくさんあったが、なかなかどうして…依存性が高い。

だがそれももう───

「終わりにしないと」

今日、ヴィータの異変を見て気付いてしまった。
俺はやはりここでは生きられない。

「俺は勝手な男なんだ、すまないなみんな…」
『…私は貴方の向かう先に、お供します』
「ああ。それにしても居心地…良かったな」
「…そうですね」
「ヴィータの様子を見てから、出発しよう」

立ち上がり、屋上を後にした。
向かう先はひとまずは自室だ。

もう夜も遅いし、局内は誰も居なかった。

「アンヘルに関するデータは全てコピーしたな」
『はい』
「奴の居場所はあそこだ。俺が一人で行くならば、奴は潔く道を作るだろう」

ライカが居たあの施設。
名称も場所も分からないが、アンヘルが俺との決着を望んでいるのならば、一人
になった俺と必ず接触してくるはずだ。

「…ヴィータの所へ行こう」

最後ぐらい、お前の寝顔を焼き付けておくのは…きっと罰当たりじゃないよな。

『主、監視されています』
「知ってるさ。だが変な探りは入れるな。どうせ、後ろから付いてくる」

少し前から、俺の部屋には小型の監視カメラが設置されていた。
誰の思惑かは知らないが、まあ元より俺は信頼されてなぞいなかったということだ。

ランプスタンドの灯りを消して、部屋を出た。
せっかく買ったばかりだが、さすがに持っていくわけにはいかない。

「ここか、ヴィータがいる医療室は」
『はい』

中に入り、ベッドの横に立つと、すぐに寝息が聞こえてきた。
どうやら熱も下がっているようだし、普通に寝ているようにしか見えない。

「ヴィータ…」

出会った時は、ただの少女だった。
かなり普通の女の子とは違う生活だったが、俺と話す時は本当に普通の子だ。
昔お前が俺に好意を寄せていたことはなんとなく分かっていた。
だが、幼すぎたお前は…ただ妹のようにしか見えなかったんだ。

だがそれも、しばらく見ないうちに変わったもんだ。

「また勝手な事するけど、許してくれ。目覚めた時、お前は俺の記憶があるかも
しれないが、お前ははやてたちの事だけを考えていればいい」

そうすれば、お前は幸せのままでいられる。

「強く生きろ」

またお別れだ。

「ちゃんと皆を守ってやれ」

前が、見えない。
目から何かが…滲み出てきた。

「愛していたよ、お前も、みんなも」





「行くのか?」
「リンか、何か用か?」

六課を出ると、すぐにリンが木陰から出てきた。
手には、デバイスを持っている。

「物騒だな。また殺し合いたいのか?」
「お前、また一人になる気だろう」
「それしかない」
「他にも手はあるはずだ。ここに残れ」
「ヴィータを見たか?」
「ああ。もう、取り戻してしまったようだ」

それが結果なんだよ、リン。
これ以上、人の真似事はやめにしたんだ。

リンはデバイスを仕舞い、俺の前に立った。

「自殺行為だ」
「…俺を誰だと思ってる」
「今のお前じゃ、アンヘルに勝てるわけがない…」
「ならどうしろと? ここに居ても、力は手に入らない」
「…なら、私も行く」
「それこそ自殺行為だ」
「リベリオンズは私が抑える。幸い、まだ二人しか稼働していないからな。そい
つらは抑えてるから、お前はアンヘルを討て」
「…いいのか?」

リベリオンズが二人しか動いていないとはいえ、奴等の本拠地に乗り込むのなら
それなりの手数がいるはずだ。
俺がアンヘルに集中すれば、リンが危なくなる。

「死ぬかもしれないんだぞ」
「知らん。私の決めた道だ。お前が否定することじゃない」
「…好きにしろ」
「…好きにしてやるさ」

400年振りに、俺たちは再び反逆者の頃に戻った。
強大な敵に、二人で挑む。それはただの無茶かもしれない。
…だが、俺にはやり遂げないといけないことがある。

「行くぞリン、アンヘルとフリージアに殴り込みだ」
「ああ。派手にやってやろう。もう、未練なぞ残したくないからな」

黒い黒い夜天の空。ただ俺たちを見送るように、静かに見下ろしていた。



第10話 やり残したこと Fin

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