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「アンヘル、少しいいかな?」
「ファッカか。何か用か?」

バイオプラントが左右に密集する通路にて、フリージアの総長とアンヘルが、密
かに雑談をしていた。

会議でもなく、命令でもない…“ただのお喋り”だ。
非道を尽くす組織の頭と、世界を滅ぼそうとする者…その二人が、何の企みも無
く話している。

「世界を滅ぼしたらどうするんです?」
「…俺はまた眠る。人がまた過ちを犯せばまた現れ…その繰り返しだ」
「悲しきかな旧き咎人。その廻り続ける輪廻の果ては…なんだい?」

広域次元犯罪組織フリージアの創設者 ファッカ・カルンは、黒ブチの眼鏡を整え、バイオプラントを見上げた。

今は眠る彼等は、起きた時には戦いが待っている。改造した身ながら、彼等の運
命はなんて残酷なのだろうか。
そしてこの男…アンヘルも、そういう運命に呪われている。

「俺には二種類の運命があった。現実を知らずただの人形として生きるというも
のと…現実を受け入れ、本当のアンヘルとして生きてみるか、だ」
「後者ですか」
「そうだ。結果的にヴィアは俺を受け入れず、面倒な事に400年も先延ばしだ。
俺はいつ…アンヘルになれるのだろうか」
「自分自身になる…ですか」
「哲学を語るつもりはなかった。忘れてくれ」
「私は、全ての知識を吸収します。貴方の遺したその言葉は、私の記す歴史に残
るでしょう」

そう…私がこれからの歴史を創る。私が創る歴史に、貴女の名前を必ず残しましょう。
それは、私が貴方に約束出来るたった一つのことです。

「好きにしろ。それより、計画は進んでいるのか?」
「ええ勿論。貴方が唱えたことはなるべく全てを叶えましょう」
「…これからだ。所詮、序章にしか過ぎないこの“始まり”は、ようやく始まる
んだからな」
「仕事に戻ります。アンヘル様は好きにくつろいで下さい」
「そうするよ」

二種類の運命、か。
私にも…それぐらいの選択肢はあるのだろうか。





「寒いし、まだ降るのか」
「今日までって言ってたよ」
「誰が?」
「はやてが言ってた」

ヴィアトリクスのオフィスで、フェイトとヴィアが暇な時間を潰していた。
いや、ヴィアは字がほとんど読めないため、事務の仕事は隊長陣に回される。
その回された仕事を早めに片付けてここまで来たフェイトは、少しながら目に隈
が出来ている。

「眠いのか?」
「んと…まあ、少しだけ」
「済まないな。なるべく…努力はしているんだが」
「いいんだ。それに、今のヴィアに任せると溜まる一方だからね」
「はは。それもそうだ」

フリージアの廃棄施設を潜入する任務から早1週間が経った。
血燕があの施設に居たことは既に隊長陣たちには知らされていたが、約束もある
ので本人には知らされず不問となった。

あの任務は、なるべく思い出すようにしている。
それは戒めでもあり、先に進む為の鍵でもあるからだ。
あの悲鳴と救済の声は、忘れたくても俺を縛る。

「あのロストロギアは…危険だな」
「そうだね。早く…全部集めないと」

男と融合していたロストロギアの名称は“タナトス”。
ジュエルシードと同じ、元々は一つの塊だったものが破片となって散り散りにな
ったロストロギアらしい。

意思は無く、自律も出来ない。
だが一度巨大な魔力の封印が解かれると話が変わる。生物を触媒とし、狂気化や
人体変化など…あの男の様になるという訳だ。

「辛いよね…ずっと一人ぼっちで、目が覚めたって旧友と戦ってる」
「辛くはない。ただ…悲しいだけさ」

なんで…こうなったんだろうって思うことがある。
こんな異国で、世界を賭けに俺たちは互いの剣を交える。
目が覚めたって一人は一人だ。
俺は…何をしたってお前たちとは混じれない。

「私ね、子供の頃は悲しいことばかりだったけど…その暗闇から、助けてくれた
人が居たんだ」
「高町か?」
「うん。なのはは、敵だった私に手を差し伸べてくれた」

プレシア・テスタロッサ事件。
フェイトと高町が出会った切っ掛けであり、現存するジュエルシードが全て集ま
った事件でもある。
それを使い、アルハザードへ行こうとしたフェイトの母親は…結局失敗に終わり
、死んだ。

最愛の母の死と引き換えに、フェイトは友と未来を手にしたという。

「…手、か」
「うん。だから、ヴィアが迷った時は…私が手を伸ばすよ。ううん…みんなも、
きっとそうしてくれる」
「おい、平気か?」

フェイトが肩に寄り掛かってきた。
きっと、身体がとれなかった睡眠を取り戻そうとしているのだろう。既に寝息が聞こえた。
俺は起こさないようにフェイトをベッドへ運んだ。

「ヴィア…」
「済まない。起こしたか?」

返事は無い。
寝言…なのだろうか。

「…おやすみフェイト。残った雑務は引き受けるよ」

午後から部下たちの室内訓練が待っている。
遅刻寸前だ。早めに行かなければ高町に怒られる。
ふと、雨が気になった。
豪雨を裂くように、赤い満月が覗いている。

「なあアンヘル…お前にも、早まる前に手を差し伸べてくれる人が居たら…どう
なってたんだろうな」

届かない呟きは、冬の窓に白い装飾を施して消えていった。





「よーし、お前ら始めるぞ」
「ヴィータ副隊長、ヴィアトリクス隊長は?」
「知らねえよ。その内来んだろ」
「じゃあ、先に始めましょうか」
「悪いな。遅れた」

訓練所に入ると、みんなの視線が集まってくる。
いや…まだ一分ぐらいしか遅刻してないんだけどな。

「…始めるぞ。血燕、ヴィアトリクス隊長と組め」
「はい。分かりました」

二人一組で、それぞれ訓練が始まった。
血燕が近付いてきて、デバイスを機動させる。

『Set Up』
「ギルガメス、いけるか」
『いけます』
「さて、死の十三階段の記念すべき一歩目だ」
「嫌味ですか…?」
「いや? なに、俺に一撃も与えられない奴が死に急ぐんだ。多少なりともメニュ
ーをきつくしないとな」
「上等ですよ。一撃ぐらい、すぐに当てます」

血燕とのメニューは毎回決まっている。
椅子に座っている俺にデバイスを貫通させてダメージを与えれば次のステップに
いける。
まあただ椅子に座ってるだけではない。12核の球体を線で結ぶようにシールド
を張っている。

始めて模擬戦をした時から気付いた。
こいつは戦いに速効性を求め過ぎている、と。

「ギルガメス! カートリッジロード!」
『Load Cartridge!!』

血燕のデバイスは剣だ。
だがいくら弾をリロードしようが、このシールドを切り裂くことは出来ない。

「さて、一服一服」
「はぁぁっ!!」

セッテとトーレはこの訓練の仕組みをすぐに分かった。
高町やシグナムたちも分かっていた。
馬鹿はこいつだけだ。戦いには常に頭を使う。より知能を使い分ければ、かなり戦況は変わるだろう。
俺の隊に、切り込み隊長は必要無いんだ。

「まだまだ!」

五回目だ。
血燕が俺のシールドを斬り付けた回数と、カートリッジをリロードした回数。
しょうがない。少しヒントをあげた方がいいようだ。

「血燕」
「…はい」
「相手はどんな魔法も斬撃も無効化する盾を持っている。さあ、正面が駄目なら
どこを狙う?」
「…そういうことか!」

血燕は「分かりました!」と叫ぶと、足を斬り付けた。

「ばか。確かに足を狙うのは効果的だが、そういうことじゃないぞ」
「…うがーっ!! もうわけわかりませんよ!」

その一言で、室内に苦笑が漏れる。
セッテなんかは、本当に馬鹿にしたようににやけていた。
煙草が三本吸い終わった。
あと何本…吸えるのだろうか。

ちなみにこの前は一箱を消費した。

「ならばこれはどうだ」
「はい?」
「相手は無数の腕を持っていて、いずれにも強力なデバイスを持っている。相手
にデバイスを持たせないようにするには…どうする?」
「手首を落とす…とか?」
「正解だ。じゃあやってみろ」

血燕は何やらぶつぶつと唱え始めた。
詠唱ではなく、何か考えているのだろう。

「…ここだ!」
「ようやく分かったか」

血燕は見事に“球体”を切り裂いた。
球体は消え、無敵の鉄壁は隙間が生まれる。

「貰った!」
「…………!」

隙間にギルガメスを刺したことにより、俺の煙草の火種を落とした。

「氷天───」
「た、隊長…?」

そういえばシャッハ以外には話していなかったな。
俺が回りにされたくないことトップスリーに入るのは──

『Explosion!』
「あの…デバイスがリロードしてますよ」

──喫煙中の邪魔をされることだ!

「一閃!!」

その後、訓練続行が出来なくなった血燕を放置したまま、今日のメニューが終了
した。





「ヴィアトリクス隊長、テスタロッサを見ませんでしたか?」
「いや、知らないな」

読めない文字を頑張って解読しながら、ようやくフェイトの残業が終わった。
既に時計は、今日に終わりを指そうとしていた。

「どこか出掛けているのでしょうか」
「分からないって。もう…寝るよ」
「分かりました。良い夢を」

シグナムと別れ、すぐに部屋に向かった。

「おはようフェイト」
「えと…私…」
「眠ってしまったよ」
「ええ?! 仕事まだ残ってたんだけど…」
「寝たお前が悪い。早く部屋に戻って、また寝るんだな」
「うん。そうする…!」

フェイトは上着を羽織って、慌てて部屋から出て行った。

「おやすみフェイト。今日はゆっくり寝てくれ」

フェイトが居なくなると、部屋に違和感が覚えた。
なにかあるとすれば、男臭い部屋に残ったフローラルな香りぐらいなものだと思
うが…。

「ああそうか…」

──雨が、止んでいた。
長く続いた雨は上がり、綺麗な夜天が窓から見える。
その夜は…一段と眠気が無かった。
血が騒ぎ、全神経が何かを訴えている。あの任務以来、血が騒ぐのが止まらなく
なった。

名ヲ───

…熱い…

喚ベ───

…アツイ…

「お前は…誰だ…」

高揚感と胸の苦しみがようやく収まった頃には朝日が昇っていた。
何故だろう。また、何かが俺を呼んでいる。


─The Anather Dark Sky─


「…ガリュー!」
「…………!!」

森の中、夜中に戦いが起こっていた。

「奴はどこにいる?」
「…教えない」

闇が包む森には、黄金のデバイスを持った女と、傷だらけのガリューとルーテシ
アが居る。
戦況はルーテシアの劣勢。
魔力制限があるからと言うのも確かだが──たとえ元々の魔力があったとして
も、これには敵わない。

「答えろ」
「…お、しえ…ない」
「お前たちが隠したのは分かっている。ヴィアを返せ」
「貴女は…だれ…?」

倒れているルーテシアの前に立ち、女はフードを脱いだ。

「私はリベリオン。夜天を導く、反逆者の屍だ」

名を──リベリオン。
彼女もまた、この歪な運命の歯車の一つ。

「ヴィア兄さんの…味方?」
「そうだ。そしてお前は…敵か?」

無限に広がる夜天の下。
金色のデバイスを持つ反逆者が、ついに動き出した。




第七話:優しさはその手に Fin

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