※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

とうとう雨の降りだした夕方。
もう濡れてない所など無くなってしまう程の強い豪雨の中、こんな状態なのに海
辺でずっと空を見上げる一人の女性。

腰から下まである長い黒髪と、白い肌を強調させるような漆黒のドレス。
もうずっと立ったままだが、そんな事などお構い無しでいる。
その目線にあるものは──豪雨の中、その部分だけくっきりと円形に雲が切り
取られた空。

自然に出来たものなのか…それとも人の仕業なのか。
ただ、気になるのは、いつか見た紅い月にそっくりだった。
確かその日は…そうだ、私が彼に初めて会った日。

最愛の人に、早く会いたい。

「そろそろ、か。迎えに行くべきか…」

私はゆっくりと歩きだす。
彼の居る場所へ。

「今行くからな…ヴィアトリクス」





第6話:Cries In Vain


「姉さん、兄様は…?」
「今は事務の仕事で手一杯だ。訓練まで我慢しろ」
「…分かった」

宿舎にて、ナンバーズの二人が朝食を取っていた。
ヴィアは午前は言語の勉強をしている為、早朝訓練などには顔を出せない。
セッテとトーレは、兄に会いに行きたくとも勉強の邪魔をしてしまうので普段は
行かないことにしていた。

「今日…雨」
「ああ。室内での訓練になるだろうな」
「そうだね。今日は酷い嵐になるかな」
「…高町か」

定食の乗ったトレイを持ったなのはが、二人の席に着いて食事を取り始めた。
窓から見える外の景色は、どうも気分まで憂鬱にしてしまいそうな程、酷い嵐だ
った。

「もうこの暮らしには馴れたかな?」
「…我々は今までお前たちを敵視していた。だから今急にここに来ても…まだ慣
れない」
「そっか。でもヴィアさんが居れば、貴女達も残るんだよね」
「無論だ。兄上は、私とセッテを救ってくれた恩人だからな」
「初めて…私たちを、ちゃんと見てくれた人」
「にゃはは…やり方は軽く強引だったけどね」

雨は酷かった。
激しく地面を削る雨粒は世界に蔓延る不幸も、世界に蔓延する幸せさえも、一緒
に流してしまいそうな程だった。
それは神の優しさか厳しさか…降っても欲しくない雨は止むことは無く、ずっと
暗く覆っていた。





「これは…」

ミッドチルダ本部、無限図書館にて一人悶々と本を読み漁る一人の青年が居た。
名をユーノ・スクライア。
この由緒正しき無限図書館の司書を勤める“天才”だ。

その彼が、クロノ・ハラオウンからの依頼で頼まれた調べ物を探していたが、遂
に見付けた本には想像を絶する事が書かれていた。

「融合兵器…」

古い歴史が記された書には、大方信じられないようなことが載っていた。

禁忌、反逆、殺人、戦争、聖域。
これら全てのことは、一冊の本に全て書かれていた。
約400年前───古代ベルカで起きた事件。

聖王の時代より前の、今は忘れられた人外たちの悲劇。
見ただけで首を吊りたくなるような記載に、ユーノは迷っていた。

これを報告するべきか、と。

「ヴィアトリクス…君は一体…」

記された希望と絶望には、当てはまる名前が二つ程。
400年という気が遠くなるような時間を超えて、彼等は今再び歴史を積み重ね
ようとしている。

「それにこの姿は…」

貼られた古い写真には、黒き装束に、漆黒の翼が三対生えた…どうみても“彼女
”と同じ力だ。
武器も、魔道書も。そしてなにより────

「守護騎士…」

神妙な顔付きで呟いた言葉は、無限に広がる図書館に木霊していた。





「ヴィアさん、ちょっとええかな?」
「なんだ?」

言語の勉強を終え、昼食を取りに行こうとした最中、はやてが近寄ってきた。
昼食を一緒に食べながら、はやては資料を渡してきた。

「犯罪組織…フリージア?」
「せや、どうも最近この連中が変な動きを見せててなぁ」
「ふむ…多数のロストロギアを所持しているのか。さては、回ってきたな?」
「そうなんや。ジュエルシードのことで一杯一杯なんやけど、ロストロギアが関
わってる以上放ってはおけへん」
「メンバーを集めろ」
「へ? ええの?」

狸め。
アンヘルの消息が分からない今、多少なりとも他の任務を手伝いながら後を追っ
た方が効率がいい。

「実はもう決まっててな。ライトニングからエリオとチンク、スターズからとテ
ィアが加わる予定や」
「分かった。もしも俺たちが居ない間は、頼んだぞ」
「了解や。本当に、ありがとうな」
「分かってるさ。分かってる…俺に出来ることは、これくらいだよ」

くしゃくしゃと、はやての頭を撫でて食堂を後にした。
向かった場所はフェイトのオフィス。フリージアについての事件資料などを見る
ためだ。

「フリージアは、強力なロストロギアを多数所持した犯罪組織なんだ」
「そこまでは聞いた。今までにどんな事件が?」

フェイトが見せてきた資料は、中々厚いものだった。
人体実験から兵器開発、ロストロギアを自分の力として扱う技術など…確かに管
理局としては見過ごせないような事ばかりだった。

「解せないな…こいつらの利益はなんだ」
「分からない。だからこそ、一刻も早く接触したいんだ」
「心当たりはあるのか?」
「一つだけ、あるよ」

第221管理外世界 ツェイク・ペテック。
過去に火山活動が活発だった為大きな山などがたくさんあり、稀に魔力反応など
が確認される異世界らしい。

問題は、たとえ見付けたとしても相手は“組織”だと言うことだ。
機動六課に暗殺に向いた奴など居ないし、隠密行動に長けた奴も居ない。
真っ向から戦っても敗戦は目に見えている。

「しょうがない、か。メンバーと共に現地へ向かう」
「今から?」
「あまり時間を掛けたくないからな。すぐに集めてくれ」

フェイトの呼び出しにより、エリオ、チンク、ティアナが屋上に集まった。





「急で済まないが、俺たちはこれより別任務に入る」

整列して、黙ったまま俺の話しを聞いている。

「第221管理外世界 ツェイク・ペテックに向かい、広域次元犯罪組織フリージア
の実験所の偵察、潜入する」
「待ってくれ隊長、このメンバーで潜入か?」
「勿論だチンク。潜入し、ロストロギアを奪取できるようならやる」
「前線にエリオ、中距離にティアナと私、オールサポートで隊長か…」
「前線の僕が揺らして、ティアナさんたちが狙い撃ちですか」
「チンク、エリオ。それは“敵だったら”の話しよ」
「副隊長をチンクとする。もしも俺との通信が出来ない場合、チンクに従え」
「もし二人ともとはぐれたら…?」
「独断で動け」
「おーい。まだ乗らないのかい?」

ヘリの前で会議をしていると、中から男が出てきた。
たしかこいつは──

「ヴァイス・グランセニックっスよ。ヘリのパイロットなんで、よろしく頼むよ」
「記憶した。では各自搭乗しろ」




ヴィアたちが出発してから、午後の訓練にて。

「なんだと?! なぜ我々を連れていかなかったんだ兄上は!」
「まあまあ。落ち着きなよトーレさん」
「黙れナカジマ!」
「あう…ノーヴェ姉、何か言ってよ」
「無理だな。怒ると止まらない」
「今回のヴィアさんの任務は偵察と潜入。つまり隠密行動なわけ。そう怒ってば
っかだから、連れていかないんだよ?」
「な、なのはさん…それはちょっと言い過ぎじゃ」

トーレとなのはの目が合った。
それをゴングに、室内訓練のメニューが決まる。

「高町、個人的に模擬戦をしてくれ。というか、しろ」
「いいよ。兄上兄上うるさい子には、ちょっと頭冷やしてもらわないとね」

IS ライドインパルス
レイジングハート Set Up

モニタールームに居た居残り組は、ただただくだらないようで真面目な理由で戦
う二人を見ていることしかできなかった。

「それより、血燕はどこ行ったんだ?」
「そういえば、居ないね」

ただ一人を、除いては──





「ここがツェイク・ペテックか」
「山と森が多いですね」
「エリオとチンクは辺りを散策しろ。俺とティアナは魔法で探す」

目標ポイントは大方フェイトから聞いているが、一応敵の捜索を含めて散策をす
ることにした。

「二人一組《ツーマンセル》で行けよ。もしも敵と遭遇した場合、ここまで逃げ
てこい」
「分かりましたヴィアさん!」
「了解した。行くぞエリオ」

エリオとチンクが茂みの奥へ入り見えなくなった後、ティアナと俺は魔法による
広域捜索を始めた。

「隊長、中々引っ掛かりませんね…」
「いや、結界が張ってあれば引っ掛からないのも分かる。このまま続けて、徒歩
の方の報告を待とうか」

しばらく続けていると、ティアナに息切れをしていた。
これ以上させると作戦に支障が出ると判断した俺は、ティアナを休ませることに
した。
横に座っているティアナは、暇なのか話しをしようと言ってきた。

「隊長の昔って、どうだったんですか?」
「俺か? そうだな…子供の頃から訓練ばっかだったよ」
「随分ハードな人生だったんですね」
「そうだなぁ。色々苦労したよ」

徒歩で捜索をしていた二人が戻ってくると、中々の成果だった。

「ここから北に2kmの地点で実験所らしき施設を発見した」
「ある程度見ましたけど、敵影はありません」
「よくやったな二人とも。では小休止の後、潜入をする!」





『チンク、そっちの様子はどうだ?』
『全く駄目だ。人一人居ない』
『…一度集まろう。様子がおかしい』
『了解した』

裏口に回ったチンクと合流し、一度施設から離れた。
人の出入りも、警備員の姿も、声も音もしない。
つまりは“誰もいない”可能性がある。

「ここまで静かだと奇妙ですねヴィアさん」
「ああ。面倒だから正面から突入し、話した作戦でいくぞ」
「はい!」

もう一度施設まで戻り、正面の入口まで来た。
前に俺とエリオ、後ろにティアナとチンクの陣形で突入する事となった。

「いいか。罠かもしれないから十分に注意を払え」
「分かってます」
「行くぞ。突入だ…!」

エリオが扉を刻み、中へ突入する。

「時空管理局だ! そちらが任意投降するのならば危害…は、加え、ない…」

なんだ──これは。
壁一面の赤い液体は既に黒く変色し、鼻をつんざく腐敗した臭いは神経を狂わせる。

「隊長…これは…」
「感情を移入しすぎるな。“戻れなく”なるぞ」
「隊長、進もう」

チンクが二人を鎮め、歩き出した。
エリオとティアナもそうだが、チンクも相当酷い光景だろう。
だが、血と臭いだけだ。

「チンク、気付いたか?」
「──死体が無い」

あるはずの死体は、一つも無かった。
それはおかしすぎる事だ。あるはずの死体が無いのならば、歩く死人か持ってか
れたか消えたか、だ。

一体──ここでなにを?

「ティアナさん、これは…」
「知らないわよ…」
「穴、だな」

ある程度進むと、両側の壁は何かが通った後のような巨大な穴が空いていた。
空洞でも無く、ただ壁と壁を突き破ったかのような…本当に巨大な穴だった。

「生きている映像はあるか?」
「一つだけ、あった」
「おいおい…冗談キツいな」

映像がモニターから流れはじめる。
そこは、まさに地獄とよぶに相応しい状況だった。
逃げ惑う職員たちは、次々と“食われて”いた。
その魔物は芋虫の様に体をうねらせ、円形の巨大な口で人の身体を喰い千切る。

「映像を止めろ、何か来る」

映像を止めて、息を潜めた。
聴こえてくるのは、腹を空かせた生き物の声と、体を床に引き摺るような音だ。

「あれは…?」
「魔物が紛れ込んだか」
「討伐しましょうヴィアさん」
「ああ。通り過ぎた瞬間に俺が胴体を氷結させる。エリオ、頭を斬れ」
「分かりました」

通り過ぎた瞬間、フルンティングがカートリッジをリロードした。
その音に反応して、魔物はこちらの方を向く。

「ガーンディーヴァ!!」
「ストラーダ!」

胴体を床と一緒に氷結させた後、すぐにエリオが飛び出した。

『Load Cartridge!!』

魔物の正面に向かい、勢いよく飛ぶとそのまま斬り付けた。

「サンダーレイジ!!」

雷を纏った矛先は、見事に魔物の柔肌ごと顔面を真っ二つにした。

「やりましたか?」
「上出来だ。しかしこれは…」

《良い光景だな。皆の衆》

「アンヘルか?!」

放送から流れた声は、紛れもなく奴の声だった。
俺たちの前にモニターが出現すると、アンヘルと見知らぬ男が居た。

「何をしている、アンヘル」
「俺はフリージアと手を組んだ。そして今…機動六課を超える戦力の実験中だ」
「こんな魔物がか?」
「ふむ…彼は“失敗作”だよ」
「なに…?!」

彼? じゃあ、今殺した魔物は人間だったと言うのか。

「お前等…自分が何したか分かってんのか?!」
「分かっているとも。彼は良い材料だったんだが、身体が適合しなかったんだろ
うね。ロストロギアとさ」
「ふふ…救ってみろ、ヴィア。この哀れな人形を」

通信は切れ、通路は静寂を取り戻した。
…言葉が、出ない。

アンヘル…お前は、俺達みたいな化け物を造り出した人間を憎んで反逆したんじ
ゃないのか?
お前は…もう二度と俺たちのような奴等が造られないようにする為に、アポカリ
プスを発動させようとしたんじゃないのか?

「一緒だ…お前も」
「ヴィアさん…?」
「バカ野郎が…!! お前は本当に裏切ったな…」

お前は、俺の望みさえも裏切った。
お前は一緒だ。俺たちを造り出した人間と、一緒のことをしているんだぞ──!!

「なんとか言えよ!! アンヘェェェェェェル!!!」

悲痛な叫びが、静寂を切り裂いた。





「隊長、落ち着きましたか?」
「ああ。すまないな」
「先に進もう。まだ、何かある」

しばらく休み、再び歩き出した。

かつん、かつん。
足音だけが、響いている。

「それにしても、長いですね…これ」

殺したキメラは、まだ死体が奥に続いていた。
随分と長いのだろう。これだけ大きくて長いのならばいなくなった人たちがいる
ことだろうな。

「た、す…け──て」
「止まれ。静かにしろ」
「た…すけて」

ああ──耳を塞ぎたくなる。
だがこれは、俺が聞かなければいけない叫びだろう。

「おい! しっかりしろよ!」
「え?! ヴィアさん、この声は…」
「何故奴がここにいる」
「今助けてやるからな!」

どうやって付いて来たんだ、コイツは…。

「血燕!」
「隊長! こいつ…こいつが」

血燕が抱えている男は、右腕が急激に変化していた。
腕は肥大化して、人の腕を超えて生物と化していた。

こいつか───“彼”というのは。

「お前がここに居ることは黙っていてやる。だから今日見たことは忘れろ」
「忘れろって…?」
「救われたいか、男」
「たす、けて…」

ああ、今助けるよ───。
さよならは告げたか、懺悔は済ませたか、後悔は…しないようにな。
きっと、俺がお前にしてあげれるのはこれだけだ。

さよならだ、名前も知らぬ人間よ。

「待って下さい!」
「安心して逝け、もう…お前を邪魔するものは無い」

フルンティングが、男の心臓を突き刺す。
叫び声と共に、男は砂となっていった。

「…なんで、助けられたかもしれないのに」
「これがこの男に巣食っていたロストロギアか」
「答えて下さい!!」

血燕は俺の胸ぐらを掴むと、血走った目で睨んでくる。
なんて酷い目だ。
憎しみを知り尽くしたような黒い瞳は、虫酸が走る。

「放せ」
「なんで…?」
「二度目だ。放せ」
「答えて下さい、なぜ…」

ゆっくりと、血燕は手を放した。
絶望を知っただけでは、現実を知ることは出来ない。
それはきっと、俺が一番よく知っていることだ。

「ふん。…お前、強くなる理由はなんだ?」
「俺は…俺の部下を殺した…あいつを殺したい」
「それは罪悪感か? 劣等感か? 復讐心か?」
「復讐です…」
「そうか。ならさっさと強くなってさっさと死ね」
「え──?」
「憎しみや復讐心は確かに自分を強くする。だが、その強さの果てに真っ当な死
に方と生き方は無い。よく覚えておけ」

血燕は立ち尽くしている。
ロストロギアを封印した後チンクに渡し、撤収の準備をしはじめた。

「お前はお前で帰れ。一緒に帰るとバレるからな。行くぞ」

施設を後にする。
出ていく時には、誰かの無駄な叫びが世界を満たしていた。

「雨ですね」
「ああ、そうだな」

ミッドの嵐が、こっちまで来たかのような大雨だった。
酷く──気分が悪くなる。

そんなやりきれない気持ちさえも──この雨は一緒に流してくれるのだろうか。



第6話:Crise In Vain Fin

To Be Next...