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罪と罰を背負うならば、それはそれでもいいと思ってた。
他人なんか当てに出来ないし、自分さえも完全に信じることができない。

そんな曖昧なまま俺は、何千という年月を生きてきた。

それは罪の意識からなのか、罰の逃げ場を捜していたのか───
もう数千も前の思いなんて、思い出すことすらできない。

そんな穴だらけの自分に嫌気が差して、俺は自分を捨てて、ただ上を見上げてた。

時代が変わり、人が変わり、世界が変わっていく。

つまらない人生を、人生と呼べるのだろうか?
喜怒哀楽を失った人生など端から見れば、それは不老の生きざまであろうと一瞬で消えゆく花のようにしか見えない。

俺は確かに生きている。
心臓の鼓動は生を刻み、動く手足は生きている証拠を残す。

でも俺には心が無い。

それでも聴こえてくる。あの禍禍しい、俺を呼ぶあの声が────






重い。
それが意識が醒めてきてからの初めて感じた感覚。

何が重い? 重力的な重さじゃなく、物理的な重さなのははっきりと分かる。

ああそうか、寝ている俺の身体に誰かが跨がっているのか。


「───は?」

「どーもー。清く正しく文々。新聞の記者、射命丸文です! 寝起きのところ悪いですけど、ちょっとお話しいいですか?」


人が乗っていた。
いや、黒い羽が生えているあたり人ではないのは確かだ。

記者? にしては随分と態度がでかいし口調もさばさばしている。

「どけ」
「おおっと、これは失礼。ところで、貴方はマオさんですね?」
「そうだが…寝起きを襲撃してきた記者が何か用か?」


射命丸と名乗った女はようやく俺の上から降りると、メモ用紙とペンを取り出して記者らしい体制を取った。

いやいや、夢にしては俺の希望なんて取り入れていないし、現実としてはなんとも寝起きには受け入れたくない状況だ。

どうやら現実逃避は叶わないらしい。文は去る気配を見せない。


「いやあ。普通は外来人なんてたくさん居るから取材なんてしないんですけど、魔理沙さんから貴方の事を聞いて飛んできました」
「言わなくていい…どうせ、内容は分かってるしな」
「話しが早いですね。では一つだけ聞きたいんですが、いいですか?」
「ああ、いいぞ。そのかわり答えたら出ていけよな」


文は羽をぱたぱた揺らしながら、笑った。
どうやら、そうとうな堅物だと認識されていたらしい。


「貴方はなぜ、幻想郷に?」
「…ただ、俺が生きる場所を探しているときに、スキマに呑まれたんだ」
「あやや。あの人ですかー…それは運が良かったのか悪かったのか」
「いや、良かったよ。ここは、俺が生きるには相応しい」


ならよかったと、射命丸はまた笑った。
その笑顔を見て思い出したわけじゃないが、紫の声がまた頭を横切っていた。

ここの住人は俺を受け入れると言っていたが、なかなかにこの幻想郷の住人はおおらかな性格が多いようだ。


「朝っぱらうるさいと思ったら、夜這いならぬ朝這いね文」
「あ、霊夢さん。おはようございます、ついでにお邪魔してますよ」
「まあいいけど。私はマオに用があるから、どいて」


文は言われた通りに俺の前からどくと、霊夢は朝食を持って近くに寄ってきた。


「あんたこれからどうするの?」
「行く宛もないしな…。とりあえずは、俺を拾ってくれた奴に挨拶しに行く」
「挨拶するのはいいけど、場所が場所だしねぇ…」


二人に話しを聞く限り、俺を助けた紅 美鈴という人は紅魔館と呼ばれる場所の門番をしており、何の因果かその館はレミリアの住処らしい。

ということは妖怪わんさかな挙句にあのメイドと吸血鬼もいるわけで。


「霊夢、護衛を」
「あえて断るわ」
「じゃああたし行きまーす!」


元気よく手を上げた文が居るが、その手に力強く握られたカメラが奴の目的を語っている。

霊夢が断固拒否をしているため、結局は文が俺に付いてくることになった。


「この湖の奥に、紅魔館があるんですよマオさん」
「目の前にあるのが紅魔館か…広いな」


霧の湖とやらを飛んでいると、やがて大きな館が見えた。
それは博麗神社とはまた別で、洋風なその姿はあまりにも不釣り合いに思えてくる。

すぐに陸に降りて館まで歩くと、目的の人物が居た。
中華風の服装に、足首から腰の近くまで割れたスリット。

門の前で悠々と立ってる彼女が、紅 美鈴という俺を助けた人物らしい。


「ん…? 文さんに、えと…この前私が拾った人ですか?」
「ええそうです。なんか先日目が覚めたようなんで連れてきました」
「紅 美鈴と言ったか。前は助けてくれてありがとな」
「いいんですよ。それより、もう動いても平気なんですか?」


門番という役職の割には、意外と明るい感じだった。
紅魔館にはもっと、レミリアや咲夜みたいのばかりだと思っていたが…。

いや、性格云々を悩んでいても仕方がないし、この館の門番をしているからには相当な実力があるんだろう。


「平気だ。霊夢と魔理沙の介抱のおかげで後遺症はない」
「そうですか。それより自己紹介がまだでしたね。私は紅 美鈴といいます。貴方は?」
「篝 真生。マオで構わないよ」
「じゃあ私も美鈴でいいですよ、神社に住んでいるなら案外近場ですし、仲良くしましょうね」


笑顔で差し出された握手を握り返したはともかく、あまりこの場所には近付きたくないし、さっさと立ち去りたいんだが…。

途中文が指で門の先を指した。


「あら、昨日の吸血鬼じゃない。何しにきたのかしら?」
「レミリアか。なに、美鈴に落ちていた俺を助けてもらったんでな、礼を言いにきた」


美鈴の名前が出ると、レミリアはすぐにその赤い眼で美鈴を睨んだ。
きっと、俺を助けたのが自分の家の門番だったのが気に入らなかったのだろう。


「わ、私なにか悪いことしましたか…?」
「美鈴は悪くないよ。ただそこの餓鬼がいじけて八つ当たりしてるだけだもんな
?」
「あら…何が言いたいのかしらこのひねくれ吸血鬼は」


お互い睨み合ったままの状態を横で文が写真を撮っている。
明日の新聞にこの写真が載ると面倒臭そうだな。


「いやー“新参吸血鬼、早くもレミリア・スカーレットに喧嘩を売る”」
「記事にするなよ」
「保証は出来ませんね。私記者なもんですから」


そんなやり取りをやっているうちに、レミリアは背を向けて館の方へ歩きだした。


「マオ、貴方とはいずれ決着を着けるわ。それよりも私は少し忙しいの。最近変な異変が起こってるから」
「異変?」
「そ。まあ詳細はよく分からないのだけれど、最近妙な奴が霊力やら妖力やら神力とかを集めて何かしようとしてるのよ」
「ふうん…まあ、俺には関係ないさ」
「ええそうね。だから貴方はこの素敵で堕落な幻想郷生活を続けてるといいわ」


最後に皮肉を漏らして、レミリアは館の中へ入っていった。


「いやーレミリアさんはマオさんの事が大分嫌いみたいですね、いい記事が書けそうです」
「はあ…。文、もう帰るぞ」
「お帰りですか? 道中気を付けて下さいね」


全く。
この館の主といいメイドといい、まともなのはあまり居なさそうだな。


「その点、美鈴はこの暗くてじめじめした館の太陽か」
「ええ?! マオさん、いきなり変なこと言わないで下さいよ!」
「はは、まあ冗談だ。俺たちは帰るから、またな美鈴」


俺たちも紅魔館に背を向けると、すぐに神社に向けて飛び立った。






「うーす」
「お帰り」


襖を開けると、茶菓子の甘い匂いが漂ってきた。
ちゃぶ台をかこむように、霊夢と魔理沙が座っている。


「あれ、文はどうした?」
「…新聞作るってさ」
「ま、騒がしいのがいなくて良かったわ」


茶菓子をつまみながら、俺はレミリアが言っていたことを思い出していた。
異変と呼称するからには、何かしら何処かに悪影響をもたらしているはずだが、レミリアは神力や魔力などを口にしていた。

つまりは、この幻想郷には神も魔法使いなどが生息していることになる。


「幻想郷にいる妖怪たちの種族ってどれくらいなんだ?」
「そりゃあ妖怪なら…神さまやら死神やら人間やらで、大まか全部詰まってるんじゃないか?」
「そうよ。まあその中にはヤバい奴も良い奴もいて、毎日がお祭り騒ぎなわけ」


吸血鬼に巫女が居る辺り、やっぱりそこらへんの種族もたくさん居るのか。

まあ俺にとってはどうでもいいが…一つ言うならば───


「──退屈しなさそうだな」
「いや、この騒々しい日常が当たり前過ぎて、退屈な時もあるぜ」


なるほど、そういう考えがあったか。
何事も馴れれば違う刺激が欲しくなるものだしな。


「ところで、今朝の続きだけどこれからどうするの?」
「あいつに会いにいく」
「あいつ? …あー、紫ね」


美鈴の時のように礼をしにいくわけではないが、この幻想郷に居場所を作る前にその紫には会っておきたい。


「とりあえず、八雲 紫の家に行く」
「また遠い場所まで行くわね」
「仕方がない。一度ゆっくり話してみたいしな」


出発は早い方がいい。明日にでもここを発てるといいんだが…。


「じゃあ、ついでに幻想郷を見て回ればいいぜ。何かあったらここに戻ってくればいいしな」
「そうする。今のところ、俺の居場所はここしかないから」


まあ、紫に会っても何をするかは分からないが…どちらにせよ奴に会わなければ納得がいかない。


「明日出る」
「早いなおい…」
「あんまりのんびりし過ぎるのも、霊夢に悪いからな」


霊夢は何も言わなかった。
いや、たとえ言ったとしても…俺は何も返す言葉は無いから。

俺はまだ…“住人”じゃない。

篝 真生という異端を受け入れるこの世界を自身が受け入れるには、まだ時間がかかりそうだから。


「まあ、いざとなったらすぐに会えるぜ。ここは、思った以上に狭いからな」
「そうだな。すぐに会えるさ。なあ、霊夢?」


霊夢は立ち上がって、襖を開けて一言呟いた。
怒っているのか無関心なのか、よく分からなかったが…ただ小さくこう言った。


「寝る」


霊夢が自室へ帰っていくと、居間にはいつも騒がしい魔理沙も黙っていた。


「霊夢もあれでお前のことを気に入ってるんだ。怒らないでくれ、マオ」
「いや、怒ってないよ。ただ…幻想郷って、何か不器用だよな」
「確かにな。種族も、物も、誰かの生きざまも全部不器用だぜ。でもそれが、みんな好きなんだ。曖昧だから…誰かの傍に居て自分が分かる。それが幻想郷だぜ」


俺がこっちにきて日は浅い。
きっと幻想郷というものを少しも理解できないだろう。

でも魔理沙の言葉の意味は分かる。
うん、魔理沙とはいい友達になれそうだ。






翌日の昼間、俺と魔理沙は神社の鳥居にいた。
今からここを発つので、見送りだそうだ。


「私は魔法の森に住んでるから、近くに来たら寄るといいぜ」
「ああ。そうさせてもらうよ」


魔理沙の話しによると、魔法の森の近くには香霖堂と呼ばれる店があるらしい。
そこは現代から迷い込んだ物を売っているらしく、寄る価値はあるそうだ。


「マオ、待ちなさい」
「霊夢か。見送りしてくれないのかと思った」


神社の中から霊夢が出てきた。
その手にはショルダーバックのような鞄を持っており、それをこちらに投げてくる。


「持っていきなさい。あと、これも」


鞄の中には包んであるおにぎりとちょっとした着替えだった。
それと、今手渡された幻想郷のお金。


「いいのか?」
「吸血鬼だってお腹空くんでしょ。だったら持っていて損はないわ」
「そうか…ありがとう霊夢」
「別に。私の予想だと、紫に会ってもあんたの居場所は出来ないわよ、どうせ」
「酷いな。出きるさ、きっと」


霊夢はまた神社に歩いていく途中に、最後の言葉を残した。


「さっさと帰ってきなさいよ。どうせ、あんたの居場所はここしかないんだから」
「……ああ。その内帰ってくるよ」
「それじゃ、またなマオ。さっさと家こいよ」


応、と一言。
俺はそれだけ言って鳥居をくぐった。
後はこの階段を降りて、歩くだけだ。


「居場所、か。見つかりそうで見つかりにくいな」


簡単そうで、簡単じゃない。
俺の居場所を求めた旅は今始まったばかりだが…案外、楽しくなりそうだ。



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