※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

其は揺り籠から這い出る聲。
黄昏に哭く破壊と不滅の創造者。
現実を饕る紅蓮の死喰い人。
幻想を饕る蒼白の靈喰い人。
 
 
紅き闇夜に浮かぶ蒼き月は、月下の元で罪人を裁く。
 
 
汝の名は嫉妬(エンヴィー)
不滅を穿つ、靈亡き揺り籠。







昔、馴染みの深い友人が、俺に向かってこう言った。

「一緒にこの世界を護ろう」

俺に、確かに言った。
この荒れた世の中にあった、たった一つの約束。

お前は俺の為に────
俺はお前の為に────

そして、二人で、この世界を護る。

幼い少年二人が交わした、最初で最後の誓い。
よく昔から、公園や友達を集めては正義の味方になる…なんて、言っていたもの
だ。

正義なんて…見方では悪にでもなるのに。

でも、大人になってからも変わらない想い。
家族がいて、親友がいて、仲間がいる。

なのにどうしてお前は


裏切ったんだ────!







「ここは───」

目覚めたら、眩い光と供に女の顔があった。
シャマルである。

「目、醒めました?」

「いや、まだ…ぼやける」

どうやら此処は集中治療室らしい、何故俺がこんな場所で眠っていたかなんて、
言うまでもない。

あの夜、ルーグス渓谷に居たアイツに、俺は腹部を突き刺された。

「俺の武器は?」

「バラバラ。代えはあるから…気を落とさないで」

代え、だと?
産まれてからずっと俺の傍にあった大鎌をバラバラにされて気を落とすな?

馬鹿馬鹿しい…腹が立つ。

「あれから何日経った?」

「四日、経ったわ。みんな傷は完治して、今は本部で待機しているわ」

四日…か。
そんなに重症だったのか、アイツの攻撃で負った傷は。

「ありがとうシャマル。もう俺も自室に戻るよ」

「えぇ、気をつけてね」

治療室を出て、外に向かう。
何事も無いようにいつも通りの生活を送る、ガーディアンたち。

「ヴィア~!!」

いきなり後ろから抱き付かれた。

「…ヴィータ、か」

「今まで何してたんだ?広場に居たら会えるって言ったのに、四日も来てくれなか
ったじゃんか」

「あぁ…すまない…」

「な、なぁ…何かあったのか?苛められたとか?そんな暗い顔するなよ!夜天の氷帝なんだろ」

バキッ、と、俺は握っていた手摺を握り潰していた。
何故か、妙に…何か込み上げてくる。


熱い…あつい…アツイ。


血が沸騰するようにたぎってくるのが分かる。

「夜天の氷帝…?たった一撃で四日も寝ていた奴が?」

いつの間にかに、口調までも変わっていた。
聞こえる…俺の中で、何かが呼びかけてくる。

「ヴィア…?」

名を────

「くだらない…!あんな奴に…!俺はッ!」

喚べ────

「どうしちゃったんだよ、ヴィア!」

「黙れ!人間風情が!」



名ヲ喚ベ────!!!!


「止めろヴィア!!!」

ふと、何かが切れたように…俺に意識が戻ってくる。
俺とヴィータの間には、ザフィーラが立っていた。

「悪いな、今ヴィアは疲れてるんだ。またにしてくれ」

「あ、あぁ…分かった」

しょんぼりとうつ向きながら、ヴィータが去っていく。
掛ける言葉すら無く、俺はその小さい背中を眺めていた。

「ルーグス渓谷のリベリオンが使っていた武器についてシャマルから説明がある
らしい、来てくれ」

ザフィーラの一歩後ろを、俺が歩く。

「ザフィーラ、俺───」

「気にするな、ただの疲労だろう」

「…………」

数分歩き、一つの実験室に着く。

「シャマル、連れてきた」

「ご苦労様」

「よぉヴィア、何て顔してるんだ。しゃきっとしろよ」

アンヘルが俺の顔を見るなり背中をバシバシ叩いてくる。
いつもと口調が変わっている所からして、相当俺を気付かっているのだろう。

「ルーグス渓谷に出たリベリオンが持っていた武器は、一ヶ月前に強奪された最
新の武器なの」

光輝く黄金の刃、あの時から眼に焼き付いて消えない。

「名前は、“デバイス”」

「デバイス?」

「そう、もう既に完成と言ってもいい程の出来よ」

「それをアイツが強奪したのか?」

「えぇ…デバイスは色々と種類があるのだけど、リベリオンが盗んだのは“スト
レージデバイス”、つまり…ただの武器、ね」

「デバイスの事は分かった。それで、俺の武器は?」

「これがヴィアのデバイス…血の魔剣“フルンティング(Frunting)”よ」

「ただの青い玉だな」

「魔力を込めれば、分かるわ」

俺は渡されたフルンティングに魔力を注ぐと、一瞬にして剣に変わった。

「それは貴方と魔力供給しなければ形を維持出来ないの、でも、貴方の魔力量な
ら平気な筈よ」

「あぁ…分かった…」

フルンティングを懐にしまい、部屋を出る。

「あいつ…大丈夫か?」

「いずれ、自分でなんとかするだろう。そっとしてやれ」

部屋を出たら、もう外は夜だった。
朏魄の月が、俺を見下ろしている。

「フルンティング…か」

フルンティングを見詰めても、返事が返ってくるわけではない。
ただ、これからこの剣と戦場を供に生き抜くわけだから、少しは理解しておきた
い。

「そうだ、ヴィータに謝らないとな」

さっきはヴィータに悪い事をしてしまった。
四日も俺を待っていてくれたのに…なぜ、俺はあの時あんなに興奮したのだろう
か。

「感じる…俺の中から、込み上げてくる。強いけど、暖かい力」

その夜、俺は朝日を見るまで広場のベンチに居座った。




「ザフィーラ、頼みがある」

「なんだ?」

廊下の真ん中で、アンヘルとザフィーラが話しをしていた。
ザフィーラは日課であるトレーニングを済ませ、昼食を取ろうと食堂に向かう途
中にアンヘルが来たのである。

「俺はこれから本部を離れる、だから…ヴィアを頼みたい」

「アンヘル…。分かっている、オレもあいつが心配だからな」

「ありがとう」

アンヘルは仕事の時に着る純白のコートを羽織り、本部を出ていった。

「自棄に焦っていたなアンヘルめ。怪我をしなければいいんだが…」




「昨日はすまなかったな」

広場の片隅でアイスを食べながら、俺はヴィータに謝った。

「べ、別にヴィアの為に心配したんじゃなくて───その、なんだ、とにかく無
事ならなんでもいいんだよ!」

逆ギレされたが、まぁ許しは得たんだろう。
それから暇を潰して色々と話していると、俺達の前に白衣の男が現れた。

「また此処にいたか」

「ロッズ…」

常に強気のヴィータが、この男を前にうつ向いてしまった。
確かこの男は───

「ロッズ・カルン」

「いかにも。ルーグス渓谷では散々だったそうじゃないかね、“夜天の氷帝”」

眼鏡を掛けている所からしてエリート的な感じが漂うが、何しろこいつ自身が気
にくわない。
見てるだけで苛ついてくる。

「階級は俺の方が上だろう?口には気をつけろよロッズ・カルン」

「ふふ…私は二階級上の者しか敬語は使わない主義でね」

「ふん」

「くくく…」

「まぁ、これでお前の顔は記憶した。生物科の変人さん?」

手を出すのを抑えて、口で反論する。
ヴィータが俺達の討論を聞きながら、少し苦笑いをしていた。

「来い、ヴィータ」

「………」

「待てよ、何処に連れていく気だ?」

「何処でもいいだろう。さぁ、早く来い!」

ヴィータの手首を掴もうとしたロッズの手を逆に掴む。

「止めろ、怯えてる」

「ちっ…」

「ヴィータ!!!」

「お前…そんなに俺に殺されたいみたいだな」

フルンティングを出そうとした時、ヴィータが俺を止めた。

「いいよヴィア、あたし行くからよ」

「ふん…」

「おい、ヴィータ」

「大丈夫だって、また広場に居てくれよな」

その言葉を聞いて俺は黙って二人を見送った。
気にくわないが…ヴィータが言うなら仕方がない。

「でもな、そんな顔されて言ったって…心配してくれって言ってるようなものだ






~神種実験所・最深部ジュエルシード保管室権魔具実験室~



かつん、かつん。
硬い靴が、長い廊下を進む。
やがて一つの門が見える、ドアと呼ぶには不釣り合いなまでの重たい扉。

俺から後ろは科学で覆われているのに、ここだけは鉄が剥き出しだ。

その重い扉を開けると、蒼い光が充満していた。
広い部屋の中心には、大きな石がある。

以前来た時は障気が出ていて分からなかったが、そこそこ大きい。

「来たか、アンヘル」

奥から近付いてくる声、やがて光に照らされた姿は、美しい女性だった。
漆黒の髪に、白い腕、そして──黄金に耀くデバイス。

「ガーディアンは…何だ?」

「それは、この部屋にある書庫に全てある。造られた理由も、何で造られたのか
も…現存するガーディアンの情報は全てこの部屋にある」

俺は、震えながら一冊の資料を手にした。

“C計画”

この資料から、俺の反逆記が始まった────




「フルンティング!!!」

一瞬で手に持たれた大剣は、血のように紅かった。
その大剣が、模擬体を両断する。
次々と斬られて消滅していく模擬体は、まだまだ居た。
周りには科学者たちが取り巻き、ヴィアの戦闘を見ている。

「おい、いつまで続ければいいんだ」

『まだまだ、模擬体は残っているぞ』

「いい加減むかつくんだよ!!!雑魚どもがぁッ!!」

ヴィアは詠唱をしはじめた。


『右は想念。
 左は現実。

古より眠る氷神の力。
万物、悉く死に着かせる。
天地を凍らす蒼天の魔冰。

我が前に立ち塞ぐ敵に永遠の氷災を…』

「ガーンディーヴァ!!!」

紅い大剣は冷気を纏い、それを一薙すると、周りの百体以上いた模擬体は一瞬で
凍り着いた。

「バニッシュ…」

その一言で、凍り着いた模擬体が全てバラバラに砕け散る。
後に残るのは、床一面の溶け水だ。

「魔法は禁止だと言っただろう」

「うるさい黙れ。俺は疲れてるんだよ、休ませろ」

ドアを蹴り破って外に出たが、中は言うことを聞かない俺に対しての溜め息が尽
き無かった。



「全く…こっちは疲れているというのに」

輸血パックを飲みながら、俺は長い廊下を歩いていく。

「ヴィア、何怒ってるの?」

「シャマルか。別になんでもない…それより聞きたい事がある」

なに?と首をかしげるシャマル。
俺は自販機で買った野菜ジュースを渡して問い掛けた。

「ロッズ・カルンは今何の実験をしているんだ?」

「あの人の実験?ごめんなさい、分からないわ」

「同じ科学者だろう?」

「ロッズ・カルン生物専門科…その詳細は不明。と言うより、上がその実態を隠
蔽しているの」

俺は溜め息を吐いて、ベンチに座って曇った空を見上げた。

「東第四地区生物実験室」

「…なんだそれ」

「ロッズ・カルンの専用実験室よ。防音してあるし専用ゲートを通らないとダメ
だけど、はい、これ」

シャマルはポケットから白いカードを取り出して、俺に託した。
見ると、何も書いておらず、センサーだけがある。

「お前、こんなの作れるのか」

「ひ み つ ですよ?」

人差し指を俺の口に軽くくっつけて、シャマルは悠々と去っていった。
まぁ理由はともかくアイツとヴィータの関係を調べるチャンスが出来たわけだ、
活かさずにはいられないだろう。

今は…夕方か。
だったら、今やるしかない。

ガーディアンは夕飯の時間だけは決まっているので、殆ど…というより全てのデ
ィメンターは食堂に向かう。
俺も行きたい所だが、好奇心には勝てなかった。

シャマルから貰った偽造カードをスキャナーに通すと、赤い点滅ランプが緑色に
変わった。

ドアが開くと、薬品やら得体の知れない物の匂いが漂ってくる。

かなり嫌な匂いだが、仕方ないだろう。
散らかった部屋を物色していると、奥へ続く部屋を見つけた。

「なんだよ、これ」

青白い光を放つバイオ液が詰まった2メートル程の等身大カプセルが、何十と部
屋の奥から奥まで詰まっていた。

中身は…化け物。

生まれながらにして障害を持った子供じゃない事は明らかだ。
余程人間の姿を保っているのは少ない。

「……!ヴィータ!!」

その奥、十字架のような道具に磔にされた少女がいた。
目は虚ろで、手足は力無くぶら下がっている。

「ヴィア…ヴィア…」

俺は拘束具を破壊して、ゆっくりと介抱する。
弱々しく裾を掴むヴィータの手を握り、言葉を掛けるが、返事をまともに返せる
状態ではなさそうだった。

「そんなにそいつが大事かね?」

真後ろから聞こえた、癪に障る声。
顔だけ振り返ると、呆れた、とでもいうような顔で俺とヴィータを見下ろすロッ
ズの姿があった。

「お前!!…ヴィータに何をした!!!」

「何をした?愚問だな、それを私に問う程馬鹿ではあるまい。少しは自分で考えて
みろ、CODE/V」

「こんな実験をして、認められる訳がない!!」

「私が何故、誰にも情報を漏らされなかったか聞いていないのか?」

「じゃあ…こんな実験をさせていたのは…カーディナルだっていうのか?」

「そうとも。カーディナル(聖なる真紅)とは良く言ったものだな。自分達の為な
ら神聖な犠の血さえも啜る、恐ろしいな」

くくくっ、と笑うロッズを、いつの間にかに俺は本気で殴っていた。
眼鏡が飛び、机に吹っ飛ぶ。

「そんな戯言を!!俺が今までこのカーディナルでやってきたことはなんなんだ!!?


「貴様が怒ろうと叫ぼうが何も変わらんよ、所詮は…お前もモルモットだという
ことだ」

「お前!!!」

ガキンッ!
フルンティングをロッズに向けて振りかざした時、違うデバイスが俺の斬撃を弾
いた。

「な…お前は」

ロッズを守るように立ち尽くしていたのは、青い光を放つデバイスを持ったアン
ヘルだった。

「アンヘル…じゃないな、アンヘルは四人もいないからな」

「いいや、五人だよ」

「危ないヴィア!!!」

「よせ、動くなヴィータ!!」

俺は四人の斬撃を弾き返し、ヴィータを斬ろうとしたアンヘルを止めようとする


一歩、間に合わずに、ヴィータが向こうの壁まで吹き飛ばされた。

刹那───世界の時間が止まった。

熱い…胸が…血が…鼓動さえも。

フルンティングも、余計に朱さを増している。


微かに感じていた、俺の中にある声。
今は酷く、強いものとなっている。

「シグナム!!!!」

名を、呼んだ。
その叫び声と供に、辺りは極炎に包まれる。
一瞬にしてアンヘル五人を焼き払い、ヴィータを抱えて俺の前に立つ。

「烈火の将シグナム。主の命により、参る」

綺麗なピンクの髪をポニーテールで結び、その華奢な身体には不釣り合いなまで
の甲冑姿。

その手には、灼熱を放つ烈火の剣。

「これを」

シグナムは俺に本を渡し、ヴィータを床に置いて俺を担ぎ上げた。

「な、なにを」

「無礼と承知の事です。今は撤退した方が主の為…申し訳ありません」

意識ははっきりしているのだが、手足は全く動かなかった。
シグナムに抱き上げられたまま、俺はゆっくりと視界が薄れていった。

「な、なんなんだあれは…CODE/Vの魔力を根こそぎ持っていく程の魔力消費…た
だの召喚魔法ではなさそうだな」

ははは、と狂ったように笑うロッズ。

「ヴィータを囮にすれば…必ず奴も現れる…私の“失楽園”もすぐそこだ…」






「お前は何だ?」

シグナムが俺を抱き上げて撤退してから一時間程で俺は目を覚ました。
どうやらルーグス渓谷まで来ていたらしい。


「何、といいますと?」

「何処から来た?」

「私はあの時、主の魔力を元に生まれた守護騎士です」


守護騎士…?
つまり、先程俺が魔力を使い果たした時に造られた使い魔ということだろうか。

「じゃあ、この本はなんだ?」

「主の魔力を増幅させる魔道書です」

「そうか…シグナム、だったよな?」

「はい」

「ただの魔道書ではつまらんだろう…何か名前を付けよう」

暫く悶々と思案した挙句、この魔道書の名前が決まった。

「夜天の魔道書」

「良い名です。そんな魔道書の守護騎士としていられる事を名誉に思います」

「世辞の上手い奴だな、お前」

「滅相もありません」

焚火をしながら、今後について話し合っていると、ザフィーラから通信が入った



『ヴィア、今どこにいるんだ?』

「ザフィーラか。今は取り込み中だ、またにしてくれ」

『それでは一つだけ聞こう』

「あぁ、なんだ?」

『貴様…一体何をしでかした?』

「なに?」

『本日0912を持って最高位ガーディアン/CODE/V/ヴィアトリクス・フロスト
リアをリベリオンと見なしEXランクの警戒体制を取る。各自各々の任務を中断しCODE/V
の打捕、もしくは抹殺を伝えるものである』


リベリオン───
反逆者?俺が…。

俺がどんなに正しい事をしようとしても、カーディナルにとっては最高機密を知
られたと言うことになる訳だ。
全く…とことん最近は落とされるな。

嫌気がさす、ここまで腐った組織だとはな。


「なぁザフィーラ。お前等も、俺とやりあうのか?」

『…お前次第だ』

「じゃあ、先に謝っとく。俺はやる事がある…たとえ、お前達と戦う事になって
もだ」

『お前、勝目などあるのか?』

「やるだけやるさ。夜天の氷帝は…こんな事ぐらいじゃ折れねぇよ」


通信を切り、一息つく。
こんなにも穏やかな夜空だが、飛んでみれば風に煽られて騒がしいものだ。

「さて、これから忙しくなりそうだな」

「主は私が、必ずお守りします」

「その前に腹ごしらえだ。シグナム、ちょっとこちらに寄れ」


素直にこちらに寄るシグナムの肩を掴んで俺は胸元まで抱き寄せた。
口を開けて驚くシグナムだが、抵抗しないし、OKという事だろう。


「あ、主…」

「どうした…痛いか?」

「いえ…大丈夫です。そのまま…」

「嫌そうな顔してるのに、身体は素直だな」







かぷ。
俺はシグナムの首筋に噛み付いた。
一般人より鋭く発達した牙で、上手く血を啜る。


「主…」

「ふう…これで暫く大丈夫だな。無理をさせて悪かったな」


何故かお辞儀をして俺の隣りに座るシグナム。
さっきまで恥ずかしがっていた筈なのに、もう落ち着いて夜空を眺めている。


「リベリオン…」

「なんだ、お前一人逃げようなんて考えても無理だからな」

「安心して下さい…私は、貴方を命を掛けて護ります」

「あぁ…守護騎士ばかり戦わせてはあれだ。俺も、シグナムを護ってやる」


笑い話も悲しい話も無いが、お互いが眠りにつくまで、たわいもない話を続けて
いた。







今日、初めて人を怨んだ。
他に例えようのない殺意。
誰もいない筈なのに、もうその手には少し前に与えられた魔剣“アンサラー(answerer)
”が握られている。

《報復する者》という意味を持つ光輝くこの魔剣が、主の心に反応して聞こえな
い歓喜の悲鳴を挙げている。

この一日で、この十九年間当たり前のように信じていた信念が破錠してしまった
のだ。
この言い表せない悔しさが胸を突き刺す。

憎い、怨い、ニクイ。

目は充血して、脳は憤怒で支配されている。
思考が感情に追い付かずに途方に暮れている。

最早、この男を突き動かすのはただ一つ。

今日も空は、紅く滲んだ曇り空だった。







毎日昼から夕暮れまで、誰も居ない廃屋の庭では鎌と剣がぶつかっていた。
幼いながらも、常に本気の闘い。
言葉は要らず、其々の刃が喋っている。

端から見れば只の喧嘩だが、二人の少年は笑みを浮かべている。


“愉しい”から。
大人さえも圧倒する剣舞と剣舞の交錯。
己の血をたぎらせながら、愉しい愉しいゲームをする。

負けた方は、命と晩飯。

死んだら元も子もないのだが、ただ殺り合うだけではつまらないので、適当に思
い付いたのが晩飯。

晩飯より命の方が大切だから、本気で戦う。

故に勝ち負け無し。
毎回毎回、互いの体力が尽きて決着が着く。

だがそんなある日のこと。
いつものと変わらない、狂気と狂喜のぶつかりあい。

それはいつもと違う空だった。

赤く、紅く、朱く。
どこまでも続く空は本当に赤く染まっていた。

いよいよ痺れをきらして終盤戦。
雄叫びを挙げてから数秒後。

一人の少年は自分の過ちに恐怖した。
もう一人の少年は地面に仰向けに倒れた。

何か叫んでいたが、倒れた少年は何も分からない。

0勝一敗。

空がまた余計に血で滲む頃、無敗の少年は自分の心(心臓)に杭を打たれる音を聞
いたのだった。







英雄は反逆者と成り下がった。
その末路を辿るべく、自分の信じた路を往く。

例え、その道にどんな敵が立ち塞がろうと。

これで何十人目だろうか?
数えてもキリが無い、かつての後輩や部下達。

そんな心苦しい相手の中、俺は気絶だけで突き進んでいる。

「命令一つで裏切り者か。どうにもやりきれないな、全く」

「私が居ます。気を…落とさないで下さい」

ルーグス渓谷から一休みして、俺とシグナムはカーディナル本部への突入を決意
した。

歴代最強の戦士が、たった一日前まで所属していた組織に立ち向かう。
まるで馬鹿げた話しだが、事実真実の為、やるしかない。

もとい、もう戻れない。

何故なら、もう本部の前まで来ているから。


「待て、そこの二人」


静かに、惚れ惚れするような言葉が、本部に突入する直前の俺達に掛けられた。
声の持ち主は大体分かる。


「久しぶりだな、リベリオン」


腰を超える黒髪に、小さく華奢な身体。
それに高い身長と、愛用の黄金剣。
大鎌にもなるのだから、“剣”と言い切るのも無理がある。


《主…ここは私が》

《平気なのか?》

《構いません。それに、主を一度傷付けた輩となれば、私も手加減する憂いもあ
りません》

俺とシグナムは念話で話を着けて、二手に別れる。
別れるというより、シグナムは残り、俺はロッズの元へ向かう。


「逃がさん!」

「待て。貴様は主を追う前に、戦うべき相手がいるだろう」

「───お前、人間では無いな?」

「どちらでも構わない。私は、主ヴィアトリクスの守護騎士なのだからな」


それさえ聞ければ問答無用。
後は互いの愛剣を交えるのみだった。







惨劇。
その言葉こそ、今の惨状に相応しい言葉だった。
一面にこべりついた血は、雑なアートのように様々な形を描いている。
そして、本来純白の白衣を身に纏っている筈のカーディナル本部生物専門科学者
たちは、赤い装飾を施し倒れている。

どれも剣で一薙、確実に致死させる程まで深く斬り付けている。


「────っ」


馴れない血の匂い。
そして何より、人間の焼き焦げた臭いは、俺の鼻を強く突き刺す。

きっと、この先の部屋には、この惨劇を生み出した張本人が居るだろう。
不安が俺を蝕む。

全身の血が、行くな、とメーデー(危険)のサインを激しく移行させている。

覚悟を決めなければ、ここで俺の物語は終わってしまう。
冗談じゃない、と軽く笑って、俺はこの世界と完全に斬り放された異界へと足を
運ぶ。


「───なっ!?」

「全く。たった一日で本部から反逆者扱いとはな」


目の前にいたのは、生まれた時から一緒にいた、親友。
その手に握られた金色のデバイスは、既に血塗られて色が変わっている。
純白のロングコートでさえ、見る影もない。


「なんなんだよ、これは」


この部屋に横たわる三人の影、ザフィーラ、シャマル、───ヴィータ。
そして不吉な笑みを浮かべるロッズと、それを庇うようにして立ち塞がるアンヘ
ル。


「なんなんだって、言ってるんだよ!!!」

「─────」

「答えろ!!!!」


一閃。
眼に追えない速さで振りかざされた血の魔剣は、数秒後に金色の魔剣とぶつかる


黒い波動と白い波動。
怒りに満ちた俺が、アンヘルを斬ろうとフルンティングを振る。

攻防は直ぐに終わり、アンヘルが外に向かって穴を空ける。
このまま俺と戦うのは不利と判断したのか、退路を確保した。

無論、俺は逃がす余裕など微塵もなかった。


「アンヘルッ!!!!」

「ちぃッ───!!!」

俺の魔力に反応して、夜天の魔道書が俺の中で騒ぎ出していた。


「アンヘル、その博士を連れて逃げろ」

「────分かった」


後ろの穴から、リベリオンが姿を見せる。
こいつは下でシグナムと戦っていた筈だが…。


「主、無事ですか!?」


余計な心配はいらなかったようだ。
シグナムは自動ドアを斬り破って突入してきた。


「申し訳ありません。不意を突かれて逃げられてしまいました」

「そんな事はいいんだ!!俺はあいつを!!」

「ヴィア、お前は何も知らない。だが、知る権利はある。俺と来い、失楽園のア
ポカリプスさえ発動させれば────」

「黙れ!!!」

「───ヴィア…」


こんな事をしておいて、アンヘルは悲しそうな表情を浮かべ、ロッズを連れて空
に飛び立った。


「待てよ!!!!」

「主!この者たちは───」


俺は唇を噛み締めて、ヴィータ達の方へ駆け寄った。


「ヴィータ!しっかりしろ!」


肩を揺らすと、微かながら意識があった。
だが、三人とも深い斬り傷がある。
ザフィーラは戦ったのか、更に酷い傷を負っている。


「主…どう、すれば」


自分の出来る事に迷うシグナム、俺はそれを無視して、夜天の魔道書を召喚する



「なにを───?」

「シグナム、お前は俺の魔力を元に生まれたと言ったな?」

「はい」

「だったら、生きた人間をこの夜天の魔道書の守護騎士としてプログラムする事
も可能な筈だ!」


呪文も何もいらない。
ただ、ありったけの魔力を注ぎ、願うのみ。

シグナム一人であの様だったんだ、三人同時ときたら洒落にならないだろう。

何故か、暖かい風が吹き抜けるように、俺達の周りを包んだ。

刹那───癒しのような風は消え、穏やかに眠る新たな守護騎士の姿があった。



だが、何故か…素直に喜べない。

きっと、アンヘル達を取り逃がしたからだろう。
腑に落ちない気持ちを落ち着かせ、眠っている三人を俺は昔隠れ家に使っていた
廃屋に運んだ。







「なんで…アンヘルが…」


どんなに考えても、理由が分からない。
考えれば考える程、気が狂いそうになる。


「主…」

「俺は…どうすれば…」

「大丈夫です。私達が必ず、貴方を導きます」


優しく、まるで母親のように俺をシグナムは抱き寄せた。
普段なら恥ずかしくて嫌がる所だが、周りに人がいないせいなのか…この体制だ
と落ち着く。


「導く、か───」


俺は微かに滲み出た涙を拭い、澄みきった夜天を見た。

俺は、一度も自分の事を最強だと吟った事は無い。

だが今日で終わりだ。

俺は自分は強いと胸に刻み、アンヘル達の元へ向かう。
カーディナルが俺を更に遠ざけても。


「決めたよシグナム」


今は眠る三人を見て、振り返りシグナムを見る。


「俺はこの世界を救う為に───。この世界に反逆する」


その一言。
大人になった少年は、忠実な従者に、新たな決意を誓ったのだった。



中編  Fin