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第九話:とある一日、目覚める記憶」(2010/05/25 (火) 00:51:04) の最新版変更点

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「またか。またなのかはやて」 「…何が?」 真冬と呼ぶに相応しい季節の真中、俺はもう数えるのを止めたはやてからの呼び出し を受けていた。 何回目だ? 事務はミスなどしていないし、これと言って交友関係も悪い奴などいない。 だが何故俺が呼び出される。それもほぼ内容は同じだ。 耳を塞ぎたい。俺は仕事の無い《オフ》の日まで仕事漬けにされる運命なのだろうか。 分かってるさはやて、お前が言いたいことなど容易に想像出来る。 「どうせアンヘルだろ」 「せや。これだけ探してもまだ手掛かり一つ見付からないのは、ちょっと悔しい んねん。せやから───」 「だが断る」 「…まだ本題を言ってないんやけど」 「俺があと何を言えるんだ? 俺が調べた事もいきなり飛ばされた暑苦しいジャングル の事も全部話した。あれか? そんな不満を俺に伝えれば慰めが返ってくると思ったか?」 「…なんやいきなり。喧嘩・・・売っとるんか?」 「喧嘩? 止めておけ遠距離馬鹿、どうしてもしたいならフェイトからバルディッ シュ借りて素振りでもしてからにしろ」 はやてに呼び出された日には決まってアンヘル、アンヘル。 うんざりするほどこの総隊長殿からその名前を聞かされた。 アンヘルがどうした? 六課の通路を奴が歩いていたなんて報告があったなら良い。 だが見付からないのを何度も俺に問われても返す言葉が無い。 はやては俺の言葉にかなり腹が立っているようだ。だがこちらも…相応の不満はある。 「そんな言い方あらへんやろ! ええなぁ遠距離も近距離も出来るスーパー魔剣士 様は! どうせうちは遠距離で撃つ方が得意なだけや!」 「ひがむんじゃねえよ総隊長。まあ才能に嫉妬するのは勝手だが、俺に当 たらないでくれ」 デスクを挟み、俺とはやての睨み合いは続いた。 はやては中々退かない。そして俺が退くわけがない。 少しの間睨み合いが続いた後、堪忍袋の堪忍袋の緒が切れたはやてがこんな言葉を言った。 「ヴィアトリクス・フロストリア空曹長」 「なんだよ」 「…クビや!」 「はあ?!」 「もう知らへん! 早く荷物纏めて教会に帰れ!」 「…上等だ。帰ってやるよ教会に!」 事の始まりはこれだった。 いや…今になって振り返ると、中々に幼稚な痴話喧嘩だ。 痴話かどうかは分からないが、まあ…その時の俺は日頃のストレスが爆発していたと思う。 実際今でも怒っている。出て行ったのは半日前だが、未だに怒りが収まる様子が無い。 「ヴィア隊長! 早朝訓練に付き合って下さい!」 「知らん。そこら辺に居るだろ隊長陣がぞろぞろとな。ああそれと、アイシクル 隊は解散だからな」 「…へ?」 荷物を纏めた俺は、食堂を横切ろうとした時に血燕に話し掛けられた。 どうやら早朝訓練の前らしく、分隊のほぼ全員が食堂に居た。 「ヴィア隊長、いきなりどうしちゃったんですか?」 「なにがだ?」 「よく分かりませんけど、顔が真っ赤っ赤ですよ〜♪」 陽気に喋るリィンの声も、いつもなは癒されるが今日ばかりは腹が立つ。 隊長陣を含め、スターズもライトニングも唖然としていた。 「兄上、どうされたので?」 「あの狸に聞け! 俺は教会に帰る!」 「ヴィア、状況がよく分からないんだけど…」 「そうだよヴィアさん、はやてちゃんと何かあったの?」 俺が高町たちに事の説明をしようとすると、それを遮るように放送が入った。 『えー…本日をもちまして、ヴィアトリクス空曹長はクビになりました。これか らは聖王教会の司祭となる夢を叶える為、司祭見習いとして教会に帰るそうです』 「…あの狸」 地味に効く嫌がらせをしやがった。 ・・・おまけに俺の夢は司祭らしい。気付かなかったよ。 あぁ…腹が立つ。 「うわ、水が凍ってる…」 「ヴィア! 魔力が漏れてるよ?!」 「もういい! シグナム、あの狸に伝えとけ! 俺が居なくて困るのはお前だってな!」 「…はあ。一応、伝えておきます」 「ばっかじゃねえの。くだらない事で喧嘩なんかしてんなって」 「じゃあな“六課の”職員諸君、俺は教会に帰るよ」 「兄様、行っちゃった…」 「…アイシクル隊は、どうなるんだ…?」 ヴィアが出て行った後は、唖然とし続ける局員と、凍って食べられなくなった食 べ物だけが残った。 ▼ 「と、いうことで俺は司祭になる。早く修道服を寄越せカリム」 「駄目です」 教会に帰った俺は、はやての言った通りすぐに司祭になるとカリムに告げた。 だが返ってくるのは「駄目です」の一点張り。 俺は苛つきを抑える為に煙草を吸い続けたが、オフィスで吸おうとした為シャッハに箱を潰されてしまった。 「シャッハ…お前」 「はぁ…貴方に煙草を買った私が間違いでした」 「いいだろ別に」 お、まだ一本生きてた。 窓に乗り出して、煙草を吸い始める。 「くそ…はやてめ、八つ当たりしやがって」 「それはヴィア様も同じでしょう。はやてばかりに罪を擦り付けてはいけませんよ」 「そうですよ、ここは一度貴方が謝って…」 「断る。俺はもうフリーだ」 そうさ、フリーダムになったんだ俺は…あんな狸の居る場所にはもう帰らないと 誓ったんだ。 「全く。困った人ですね…」 「部屋に戻る。じゃあな」 しばらく部屋で寝て時間を潰せば、カリムたちも考えが変わるかもしれない。 そう考えた俺は、すぐに寝るため自室へ戻った。 ▼ 「はやてちゃん、何かあったの?」 「お顔が真っ赤っ赤でしたですよ〜」 「ヴィア…うちがアンヘルの事をヴィアに聞こうとしたらいきなりキレたんや」 「あれ、“さん”は付けないんだ」 「決めた。同等の立場になるんや、歳のブランクは関係あらへんことにした」 「でもさはやて、ヴィア居なかったら大変なんじゃないか?」 はやてのオフィスには、かなりの人が集まっていた。 なのはたちやリン、守護騎士勢も、放送を聴いてすぐに集まってきた。 「なんやヴィータ、ヴィアのこと庇うんか?」 「いや、なんていうか…ヴィアが居なかったらさ、アンヘルに相手にされないん じゃないかな」 「そうだろうな。ヴィアが居なければ、アンヘルが六課と戦う理由が無くなる」 だがヴィアが居れば別だ。 アンヘルは世界を破壊する前にヴィアとの決着を望んでいる。 ヴィアが居ないと分かれば、アンヘルはまず手を出さないに決まっていた。 「こっちから仕掛ければええねん」 「主はやて、アイシクル隊が居ないと戦闘は劣勢になります」 「うちが謝れっちゅうことか…?」 「両方がです。仲が良いのは構いませんが、今は痴話喧嘩をしている場合ではな いですからね」 「じゃあ、誰か教会に説得へ行かなくちゃいけないね」 「フェイトちゃんはどうかな? ヴィアさんと仲が良いよね」 「えーと、私は遠慮しとくね…」 「ならば私が」 「あたしが行く!」 ヴィータとシグナムが同時に声を上げた。 「一人で構わんぞ」 「シグナム、あたしが行くからいいよ」 「少し、こっちへこい」 神妙な顔のシグナムが、ヴィータを廊下へと連れて行った。 オフィスには、何故二人がここまで行きたがるか分からないみんなが残った。 「あの二人、いつの間にかにヴィアのこと気に入ってたんだね」 「うちとしてはええことやと思うけど…なんや、ちょっと寂しいなぁ」 「ふん。いくら無くしたものが大きくても…身体は覚えてるということか」 「なんやそれ?」 「なんでもない。さて、帰ってくるまでのんびりしようか」 繋がりは消えない。 もしもヴィアがお前たちと再会しなければ、何も起こらずに終わった事だろう。 だが誰の仕業か再び出会ってしまった。 それはきっと…素晴らしく良い事だ。 ▼ 「ヴィータ、私はよくわからないが彼が憎いんだ。それと同時に、もっと 親しくなりたいとも思う」 「知ってるよ。あたしは、あいつを気に入ってる。あたしも何かムカつくけどな」 「カリスマ、というやつか」 「まぁそうかもな。誰にでも優しいんだ、ヴィアは」 「…今回は譲ろう。次からは、抜け駆けも有りだぞ」 「おう。じゃ、あたしは行ってくる。はやてに伝えといて」 嬉しそうに、ヴィータは走って行った。 私たちは…どうしたというのだろうか。 「…私は、…」 本当に…どうしたんだろう…。 ▼ 「ヴィア、居るか?」 「……居ない」 「入るぞー」 夕方、カリムからの返事を待ち続けた結界日は傾いてしまっている。 煙草を吸っていると、ヴィータがやってきた。 どうせ、六課に連れ戻しに来たのだろう。 「…入るなよ」 「黙ってたら入らなかった。返事したから入った、当たり前だろ」 「…それで、何か用か?」 よりによってヴィータが来たのは予想外だった。 今でも俺は、出来ればお前たちには会いたくなかったのに。 まあ、六課に居れば必然的に会うのは絶対なのだが。 「用なら一つしかない。お前に会いに来た」 「…連れ戻しに来たんじゃないのか?」 「それはまた別だよ。ちょっと、話したくなってさ」 「何を話す? 俺は、何も語るようなことは無いぞ」 「…案外冷たいんだな」 俺が冷たい、か。 そう見えても、仕方ないかもしれないが…冷たいのも仕方ない。 干渉は情を生み、情は迷いを生む。 それはきっといけない事だ。 俺が真っ当しなければならない義務を、迷わせる。 ヴィータを見ると、頭に目が止まった。 髪の両側には、兎の髪留めが付けてある。物は違うが、以前、ヴィータに買って あげた記憶がある。 「兎、好きなのか」 「昔…誰かに兎の髪留めを貰った記憶があるんだ。それから、兎が好きになった」 「兎の髪留めをプレゼントか。センスが無いな、そいつも」 「まったくな。でも、悪くないよ、そういう不器用はさ」 身体は成長してないくせに、言葉は大人だった。 変わったのは、本当にそれぐらいだ。 「今日、泊まるからな」 「…カリムに言え、部屋を用意してくれる」 「部屋はここにする」 「ホテルじゃないんだぞ…」 「いいんだっ。あたしはここで寝たいんだから」 「…好きにしろ」 好きにしろ、なんて言ってしまったのが間違いだったか…。ヴィータは、ベッド に潜り込んで来た。 仄かに暖まったベッドに、違う温もりを感じる。 「ソファーで寝るよ」 「ヴィアもここ」 「あのな、一応お前は女なんだぞ」 「女だからこそ、っていう返し方もあるんだぜ」 「…好きにしろ」 寝るには早すぎるのか、今まで寝続けたせいで寝れないのか…赤く差し込む夕陽 の光は、眠気を削ってくる。 赤い光は目に毒だ。 その眩さ故に、脳を狂気に染める。・・・いや、だが考えによっては違う見方も あるだろう。赤い光から連想するならば、まずは夕日が出てくる。還る街の声、疲労しきった 大人の帰宅。 決して楽しい事ばかりではないが、今日の夕日を見て、なぜかそう思っていた。 「ヴィア、明日は街に行こうよ。気分転換にさ」 「街か。悪くないな」 「じゃあ決まりな」 ヴィータの寝息が、すぐに聞こえてきた。 煙草を吸う訳にもいかず、とりあえず暗くなった窓の外を見ていた。 日が沈み、人の声は薄れ、静寂と共に葉鳴りが聴こえる。冬の夜空は、澄みきっているせいか星がよく見えた。 「昔も今も、どこで見ようがこれは同じだな…」 月はまだ見えない。 小さな星たちが、精一杯輝いていた。 「さて、寝るかな」 眠気は軽くある。 だが、いつもと違う温もりがあるせいか…中々寝付けなかった。 ▼ 「寒い」 「寒いけど…楽しいな!」 「…寒い」 早く寝過ぎたため、早く起きてしまったわけだが…ヴィータは早朝からこのテン ションだった。 正直、朝が苦手な俺にはかなりしんどい状況だ。 昼前になり、朝食を食べずに出てきた俺たちはバイクで繁華街まで来た。 さすがにこの時間になると人が溢れている。 「何か食べたいものはあるか?」 「んー…ヴィアが決めて」 「まだ腹は空いてないからな」 公園に着くと、季節外れのアイス屋がやっていた。 どこか懐かしくて、俺は無意識に立ち寄っていた。 「バニラ二つ」 「はーい! ただいまサービス期間なので、お子様の方にはダブルのオマケです!」 「良かったなヴィータ」 「…喜べねえよ!」 ▼ 「美味いか?」 「そうだね、アイスなんて…久しぶりだ」 「そうか。まあ、仕事が忙しいからな」 「うん。たまに食べると良いぐらい」 ベンチに座って、アイスを食べる。 空は高く、青い。公園で遊ぶ子供たちを見ながら、気分に酔っている。 不意に──平和だと、感じてしまう。 実際、平和なのかもしれない。 走り回る子供、手を繋いで歩く恋人たち、何処かへ向かう自動車の交錯。 それはきっと、平和の証だ。 だが…平和なのは今だけかもしれない。 世界の何処かで人は泣き、死に、生に媚びる。 そういう現実さえ知らなければ、いつまでも幸せでいられる。 「ヴィア、怖い顔してるよ」 「…俺は、いつも通りだよ」 無限に居る人間の中には、どうしても危険な奴が生まれてしまう。 好奇心、復讐心、劣勢感、それらがあると、人は道を踏み外す。 だがそれも仕方ないことだ。 人間が人間である限り、人は道を選択し続ける。 生きている人は幸せと不幸のカルマから逃れることは出来ない。 もしもそのサイクルから逃げ出せるとすれば、それは死んだ時だけだ。 「アイス、美味しかった!」 「あ、あぁ…それは良かった」 気付いたら、ヴィータはもうアイスを食べ終えていた。 食べ足りないのか、俺のアイスを奪ってくる。 「また買えばいいだろ」 「いいんだ、どうせヴィア食べないし」 「…それもそうだな、やるよ」 アイスを渡すと、すぐにまた食べ始めた。 無邪気な子供のように、小さい頬を膨らませて美味しそうに食べている。 それだけ見れば、十分だ。 「食べたか? じゃあ、街を歩こうか。デザートには少し早すぎたからな」 「うん。日が暮れたら、六課に戻ろうな」 「…そうだな。お前たちが居るなら、戻ってもいいかもしれない」 ヴィータの頭を撫でて、すぐに街へ引き返した。 昼も過ぎた頃なので、また人が増えている。 さすがに繁華街だ。 色々な店が出ていた。 ふと、アクセサリーショップに目が移る。 「あそこへ寄ろう」 「うん、いいよ」 そこは小さいアクセサリーショップだった。 大きな店と店の隙間に建っているこの店には、小さいながらかなり種類があった。 「アクセサリーというか…アンティークだなこれは」 ヴィータと少し離れて、商品を見てると人形やらランプスタンドなど…骨董品が 多かった。 「おや…お客さんかい?」 「ああ、少しこの店が気になってな」 「そうかい。それじゃあ…ゆっくり見ていっておくれ」 店のオーナーだろうか、奥のレジには一人老年の女性が居た。 「アクセサリーかと思ったら、アンティークばかりだな」 「ここは主人が集めた変な物ばかりあるよ」 「売って平気なのか?」 「えぇ…主人はもう居ないからねぇ」 「そうか。悪い事を聞いたな」 「いいのよ。それよりあそこに居るのは、妹さんかい?」 指を指す方を見れば、ヴィータが目を輝かせて商品を見ていた。 「いや、同僚だよ」 「そうかいそうかい。まあ…こんな老人の無駄話に付き合ってもらって悪かったね」 「気にしないでくれ。・・・それよりそこにあるのは、売り物か?」 「これは…売り物じゃないよ」 レジの下には、丁寧に飾ってあるネックレスが二つあった。 ロケットのようだが、かなり古そうだ。 「でも、貴方たちにはこれをあげようかね…」 「いいのか? 大切な物なんだろ」 「いいのよ、これはもう…十分お世話になったからね」 聞けば、このネックレスは昔に主人から貰った物らしい。 結婚指輪も買えなかったらしく、代わりにこれをプロポーズに渡してきたとか。 中には、何も入っていない。 どうやら、もう写真を抜いた後のようだ。 「こんな老人の願いよ…。どうか、こいつを持っていってあげて」 「…分かった。大切にするよ」 後は、俺が気に入ったスタンドランプを買った。 さすがに、ロケットだけ貰って帰るのは気が引ける。 「婆さん、また来るよ」 「えぇ…。いつでもいらっしゃいな」 「ヴィータ、帰るぞ」 まだ商品を見ていたヴィータに声を掛け、店を出た。 「なに買ったの?」 「部屋に置くランプスタンドと、ヴィータにちょっとしたプレゼントだ」 「ほんとに?!」 「ほら、これだ」 二つあったロケットの一つを、ヴィータに渡した。 チェーンだけ新しくしてもらったから、切れることはないだろう。 「ありがとうヴィア…へへ、似合うかな?」 「うん。似合ってるよ」 ロケットの中身がまだ無い。 いずれ、写真を取りにいかないといけないな。 また俺たちが歩き出そうとした時…前方で悲鳴と爆発音が聴こえた。 「ヴィア!」 「あぁ、フルンティング!」 「アイゼン!」 バリアジャケットに変身して、すぐに現場へ向かう。爆発があった場所は、銀行だった。 こんなご時世に、銀行強盗とは笑わせる。 「管理局だ、動くな!」 「なに…?! 早すぎるじゃねぇか!」 「たまたま俺たちが居たのが運の尽きだな」 「ち…まだだ、まだ捕まってたまるか!」 男が取り出したのは、何かのスイッチだろう。丁寧にも、白い胴体の先には しっかりと赤いボタンが付いている。 「まずい…!! フルンティング!」 『Panzerhindernis《パンツァーヒンダネス》!!』 男がスイッチを押した瞬間、再び爆発が起こった。 銀行の職員たちをバリアで覆い、幸いにも怪我人は居なそうだった。 「あ、ヴィアのロケットが…!」 「何をしてるヴィータ! 回避しろ!」 ▼ 爆発から職員をヴィアが守った後、すぐに気付いた。 爆風で、ヴィアが首に付けていたロケットが切れた。 「ヴィアのロケットが…!」 「避けろヴィータ!」 ロケットを拾うと、男が銃を出すのが見えた。 銃口の先は、どう見たって私しかいない。 何故か、一瞬頭痛が起きた。 頭の中を容赦なく走り回るノイズ《雑音》は、刹那ながら思考を殺していく。 身体が動かない。意思が無くなっていくあたしがただ言えたのは――― 「ヴィア…!!」 発砲音が鳴った。 弾は、フルンティングで塞ぎられている。 「あ─、─ぁ…」 「ヴィータ、早く奴を捕まえろ!」 この光景は、知ってる。 デジャヴなんかじゃない。はっきりと、鮮明に記憶が再構築されていく。 そうだ。 400年前…確かにあたしはヴィアに会った。 ヴィアトリクス・フロストリア…カーディナルの最高位ガーディアンであり、あ たしが憧れて、好きになった夜天の魔剣士。 頭が痛い、身体が熱い…視界が揺らいで、まともに立ってられない。 どうして、どうして…ヴィアは、あたしたちの事を…。 「ヴィア、ヴィア…!!」 ヴィアが男を捕まようと走っていく。あたしはヴィアの名前を呼ぶだけで、何も 出来ない。 苦しい。助けてよヴィア…昔みたいに、助けて…。 「ヴィア…」 視界が完全に見えなくなった。 聴こえるのは、男の叫び声と…遠のいていくヴィアの足音だけだった。 第九話:とある一日、目覚める記憶 Fin To Be Next...

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