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第四話:不幸な者、幸福な者」(2010/05/25 (火) 00:46:29) の最新版変更点

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俺はお前たちと離れてから、ずっと想っていた。 大抵は、ちゃんとした主の元で幸せに過ごしているか…というものだったが。 それは親としての義務であり、願いだ。 勝手に巻き込んで、勝手に捨てて…そんな身勝手を無理矢理通した俺は、結局ま た他人を巻き込んでしまった。 あの時全てを終わらしてさえいれば、何もかもが笑っていられただろう。 だから俺は、この罪を背負って一人になった。 はずなのに──どうして、こうもうまくいかないんだろうか。 だったらせめて一つだけ。 400年、ただただ想い続けたその言葉。 「───お前たちは、幸せか?」 ▼ 「えと、シグナム? 答えないの?」 「──いや、私にはこの人と知り合いではないぞテスタロッサ」 分かってるよ、そんなことは。 明らかな俺の動揺に、オフィスの皆が慌てている。 きっと、人違いだ。 そう…俺は自分に言い付けた。 「いや、なんでもない。まだ少し寝惚けているみたいだ」 「そか。じゃ、ご飯食べて目覚まそか♪」 席に着いて、用意された昼食を口に運ぶ。 彼女を直視出来ないまま、はやてとの話し合いを進めた。 機動六課に配属される俺は、二人の部下がいるらしい。 だがその二人は、一年前の事件からまだ拘置所にいる。 他にも多人数居たが、その子たちだけは自ら籠ったとか。 まずは、その子たちの説得から始まるようだ。 「すぐにでも出て欲しいんやけど…いけるかな?」 「構わない。あまり、やることもないしな」 煙草吸うか、空を見てるかしかやることの無い俺は、仕事が入ることはいい暇潰 しだった。 昼食を終えたら、フェイトと一緒に第6無人世界キリークの軌道拘置所に向かい 、二人の“ナンバーズ”に会いにいく。 恐らくかなりの説得が必要であると思われ、仲間に引き入れるのは困難だとか。 「ご馳走様。じゃあ行くか、フェイト」 「うん。それじゃ皆、行ってくるね」 「ああ。行ってこい。それよりヴィアトリクス空曹。少しいいですか?」 「悪いな、フェイト」 「うん。先、行ってるね」 廊下に出て、フェイトが先に行く。 ちょうどフェイトが見えなくなったぐらいで、シグナムが口を開いた。 「先程、“お前たち”と言っていましたが…我々守護騎士と会ったことが?」 「いや、ない。ただ、昔の家族に…似ていただけだ」 「そうですか…。なら、私たちからは一言だけ」 背中を向けた俺に、それを告げた。 その言葉は、400年間…ずっとずっと考えた俺の気持ちの果てだった。 「何故かわかりません…でも、この言葉だけは、言っておかなければ…」 ああ、なんてことだ。もはや…今更本当にそれを聞けるとは。 「私たちは今…とても幸せです」 後ろを向いていて良かった。 嫌でも、涙が出そうになる。 嬉しいのか悲しいのか分からないこの感情を抑えて、俺は歩き出した。 …ちくしょう、泣きてぇなあ── ▼ 「一人で平気?」 「ああ。たかだか女二人だろう。任せとけ」 キリークの拘置所に到着した俺たちは、局員待機室で話し合いをしていた。 「例の物は?」 「うん、はいこれ」 「悪いな。だがきっと、これが無いとだめなんだ」 フェイトから渡されたのは、 彼女たちの資料だった。 話し合いで終わらなければ、これを使って作戦を練らなければならい。 「さてと、じゃあ…モニターで覗いてな」 「うん。じゃあ、頑張って」 待機室を出て、1番監房に向かう。 彼女たちは事件の捜査に協力をせず“敗者気取り”をしているらしい。 もちろん協力をしない話を聞いて思った俺の勝手な意見だが…どうも納得がいか ない。 「ここ、か」 扉の前で、一旦止まる。 この中に入れば、俺の部下になる予定の子たちに会えるわけだが…。 俺はフルンティング彼女たちの資料を確認して中に入った。 「誰だ、お前は?」 入った途端、鋭い目付きで二人が見てくる。 俺は気にせず、渡された資料を見た。 「えーと、紫ショートがトーレで…ピンクロングがセッテか。覚えたぞ」 「そんなことは聞いていない…お前は誰だと聞いている」 「ただの魔剣士だ。今は、お前たちを仲間に引き入れる任務を授かっている」 おお恐い恐い…目付きと言動は一人前だなこいつらは。 だがこちらも引けない理由がある。 「単刀直入に言うが、仲間にならないか?」 「断る。私たちは…捜査に協力する気はない」 「なぜだ? こっちにくれば楽になれるぞ」 「…だめ。私たちは…敗者だから」 「負け犬がいくら吠えたって、何も変わらねえよ。かっこつけんな餓鬼ども」 第一回の挑発は終わった。 このまま、説得を続けながら挑発を続ければ…こいつらは釣られる。 「貴様ぁ! もう一回言ってみろ!」 先に食い付いてきたのはトーレだった。 まあ性格を考えれば、無口なセッテよりは好戦的なのが分かる。 「“敗者には敗者の矜持《きょうじ》がある”だったか? お前らは、そんな小さい矜持の為に 人生を捨てるのか?」 「はっ! 貴様の様な安楽な人生を送ってきたような魔道師とは訳が違う。分かっ たような事を抜かすな!」 「よく考えろ。もう事件が終わってから一年も経ってる。もう捜査なんてない。 ただ管理局を受け入れればいい」 「ダメだ。私たちは負けたんだ。だから、ここにいる」 「違うな、犯罪を犯したからここにいる。負けたんなら、また挑めばいいじゃないか」 もしかすると、これは戦闘をせずに心を動かしてくれるかもしれない。 まあ…それの方が楽でいいが。 トーレは自分を抑えながらも、今にも殴りかかりそうなほど激怒していると見える。 それと違ってセッテは未だ椅子から立ち上がろうともせず、ただ冷たい目でこち らを見ていた。 「また、挑めばいい…。姉さん、私は姉さんと…」 「駄目だセッテ。私は、私のプライドは許さない」 「そんな小さいプライドなんか捨てろ。お前たちは、こんな場所にいる器じゃない」 「管理局なんて信用ならん! どうしても連れていきたいなら、私を倒してからに しろ!」 「姉さん…?!」 釣られたなトーレ。 セッテはほぼ決定だとして、トーレを力づくで連れてかなければならない。 高町…俺とお前はやっぱり似ているな。 「かかってきな」 「余裕だな。お前は何者だ?」 「高町なのはを知ってるか」 「ああ。管理局のエースオブエース…奴は化け物だ」 「俺はそのエースを一撃で沈めた。化け物の中の化け物だよ」 セッテは部屋の隅に移動した。 戦闘をするには十分な広さがある。 砲撃も広域魔法も使えないとなると、やはりこれしかない。 「フルンティング!」 「IS…ライドインパルス!」 IS…確か、ナンバーズが持つ固有能力だったな。 トーレのISは“高速機動”。 相手が白兵戦を主にするなら、戦い方はただ一つ。 「インパルス───!」 動くなら、動けなくすればいい…。 フルンティングを床に突き刺して、詠唱する。 『Nachladen!!』 フルンティングが突き刺さると同時に、二回リロードする。 「凍れ、その魂までも! ガーンディーヴァ!」 「──ブレード!!」 高速で向かってくるトーレ。 だが、その腕のブレードが俺に届いてくることはなかった。 「くそっ…なんだこれは!」 部屋は、絶対零度の空間と化した。 セッテには防御魔法を掛けたから平気だが、トーレの肉体は既に凍って動かない。 「外ならともかく、室内じゃ俺に勝てるのはあまりいないな…火が無いと、氷は 溶けないからなぁ…」 「くそ…! お前なんかに! 私は!」 「そんなに強くありたいか?」 「ああ…私の、プライドを守れるぐらいに」 「そいつは大変だな。なら、強くしてやろうか」 「どういうことだ…」 「今、世界は再び危機を迎えた。壊そうとしたお前が…今度は守る番だ」 フルンティングを抜くと、絶対零度が消えていく。 隅に居たセッテも、近付いてくる。 二人を抱き寄せて、ただ一言。 「お前ら、俺の妹になれ!」 恥ずかしい、なんてこれっぽっちも思わなかった。 いや、恥ずかしいとは思わない。 モニターからこちらを見る局員の冷たい目と、殺意に満ちた一人の女性のことな んて、考えてなかった。 ▼ 「ヴィアが、変なこと言ってる…」 「テスタロッサ執務官! お気を確かに!」 折角の執務官の制服も、手で潰した缶から漏れたお茶で濡れている。 「フェイト、いるか?」 「…うん。全部見てたよ」 「そうか。説得は成功だ。ちなみに、セッテとトーレは俺が保護者になることに なった」 「…そうなんだ。妹かな?」 「そうだが、何を怒ってるんだ?」 「別に。カリムさんたちには私から話しておくから、もう帰っていいよ」 「一人でか?」 フェイトは返事をすることもなく部屋から出て行ってしまった。 あの眼…何か、軽く殺意を向けられた気がする。 「そういえば、妹は三人か」 ルーテシアは今何をしているんだろうか。 まあ、あの親子なら元気にやっているには違いない。 「さてと、あの二人はどうなるんだ?」 「はい。既に機動六課への配属は決まっておりますので、後は軽く更生プログラ ムをこなしてから釈放となります」 「分かった。すまないが出口まで送ってくれないか? なにせ方向音痴なものでな」 局員からの話しを聞いた後、案内されながら出口まで送ってもらった。 出口には、セッテとトーレが待っていた。 さすがに拘束はされているが、どうやらあまり危険視されてはいないようだ。 「爺…」 「爺様!」 …何か、変なことを言っている。 いや、爺と呼ばれる年齢なのは分かるが、こいつらに年齢を教えた憶えはない。 となると、フェイトか…? 怒っていたとは思っていたが、地味に効く反撃だな…。 「セッテ、トーレ。俺のことは兄と呼べ」 「ですが、テスタロッサはこう呼んだ方がいいと…」 「爺…」 かなり勘弁してほしいんだが。 爺とかおじいちゃんとか、ここ数日無駄に心を抉られている。 カリムに半分、フェイトに半分。 金髪のやつは他人を虐めるのが好きなのか…? 「いいから、次からは兄と呼ぶんだぞ」 「兄上でいいですか?」 「兄様…?」 「それでいい。じゃあ、近い内にまた会おう」 「分かりました。じゃあ、私たちもこれで」 「また、近い内に…」 連れていこうとする局員に、二人は全開で威嚇していた。 ここでの用は無くなったから、もうミッドチルダに帰るしかないか。 見送りの局員も持ち場に戻り、転送ゲートをくぐった。 「やはり便利だな…さて、適当にタクシーでも捕まえて…」 行き交う車の列、行き交う群衆、土産を売る売店の呼び掛け。 ──が、目の前にあるはずなのだが…。 「ここ、どこだ…」 目の前にあるのは、ただただ広がる緑の世界。 密林というべきか、周りに広がる熱帯世界は、その暑さ故に思考までも狂わして くる。 「仕方ない。ここは現実のようだし、辺りを見るかフルンティング」 『Ja.』 フルンティングを機動させ、空中に上がる。 大木を越え、空から見渡すと予想した以上に広い場所だった。 「ゲートは無くなっていたし…行き先は確かにミッドチルダだった。ならば──」 誰かが転送先のプログラムにハッキングしたか、ゲートと見せ掛けた転移魔法の 罠に掛かったか。 「魔法の気配は無かった。ならば前者か…」 フェイトの仕業か? いや、仮にも局員であり執務官だからな…それはありえない。 高町やはやての線も無いとすれば、奴しかいない。 「アンヘル…小賢しいことをしやがるな」 空中を漂っていると、軽いが魔力反応を感じた。 「フルンティング、探せ」 『Jawohl』 魔力で形成した小型捜索機を生み出した。 フルンティングの指揮下で、六機の捜索機が散る。 「ふむ…サーチ・インセクトと名付けようかな」 『良い名前です』 ルーテシアの蟲をイメージしたので、名前に蟲を付けた。 まあただの真似事だし、あまり使う機会も無いことを祈ろう。 『一機墜落しました』 「落とされたのか?」 『…魔力消失の結界だと思われます。東に3キロのポイントです』 「魔力消失か。厄介だな…まあいい、行くぞ」 3キロなら、全速力で行けばすぐに着く。 もしも俺をここに寄越したのがアンヘルなら、戦いは避けられない。 カートリッジシステムのマガジンも一つしか持ってきていないので、長期戦は不 利になるかもしれない。 (待てよ…俺とアンヘルのデバイスには元々カートリッジシステムは無かったはず …) ならば、アンヘルにはその機能が無いはずだ。 ジュエルシードを取り込んでいるアンヘルと、少しはやりあえる可能性が出てきた。 『魔力反応確認』 「アンヘルか!」 『魔力レベルA-。未確認です』 「アンヘルじゃない? 一体誰だ…」 俺も反応が伝わってきた。 前方、つまり結界の方から来たのだから、張った本人か…アンヘルの仲間のどち らかだ。 「お前は誰だ」 「カーディナル第4空戦部隊所属ライカ・クドリャフカ。未確認魔力反応を確認 したので迎撃に来た」 (…カーディナルだと?! じゃあこいつは、ベルカの生き残りなのか…?) いや、アルハザードに眠ってからは後のベルカを知らない。 カーディナルがどうなったかも、ガーディアンがどうなったのかも分からない・・・深い詮索はよそう。 「ヴィアトリクス・フロストリア二等空尉とお見受けする」 「そうだ。転送ゲートの事故によりここに飛ばされた。現状を報告しろ」 「ベルカが滅びてから我々はこの隔離施設を守護してきました。ですが400年 間に及ぶ他世界の襲撃により同胞は既に絶え、今は私一人です」 「そうか。その施設に連れて行ってくれ」 「…こちらへ」 ライカについていき、施設へ向かった。 施設の入口に降りると、すぐに魔法が使えなくなる。だが一旦中へ入れば、魔力 消失の結界は無くなった。 「ここは…」 通路を進んでいくと、すぐに広い空間に出た。 左右には生体ポッドがあるが、ほとんど何も入っていなかった。 「残りは四体になります」 「中に眠っているのか」 「はい。400年前の抗争から、ずっと眠り続けています」 「俺たちが眠った後、何かあったのか?」 「我々ガーディアンが化け物だということが知れ…ヴィアトリクス派とアンヘ ル派に分かれ、抗争が始まりました」 守護者は語る。 俺たちがアルハザードに眠りに着いた後、カーディナルから漏れた情報によりガ ーディアンの製造方法などが知れ渡ったらしい。 あるものは反逆し、あるものは反逆者を食い止め…長きに渡る抗争の末、ほぼ両 方に生存者はいなくなった。 そして、唯一の生き残りである彼女たちは…今は眠り続けている。 「ロッズ博士による命令で、私を含め数百人がこの施設の護衛。ここに眠る彼女 たちを守り続けました」 「そうか。なら、早くこいつらを助けないと」 「それはなりません」 「何故だ、もう眠る必要はないだろう」 「彼女たちは最初の反逆者たちです。今彼女たちが目覚めたら、貴方を殺す」 「そうだ。彼女たちは、400年前俺が保護したリベリオンズ」 「アンヘルか…」 俺たちが入って来た場所から、アンヘルが入ってくる。 敵意は感じられない。恐らく、自分の勢力を俺に見せるのが目的だろうか。 「ライカ、お前は…反逆者なのか?」 「私は、決めたことはありません。ただ…ずっと守り続けるだけでしたから」 「そうだ、そして…役目を終えたガーディアンは、ただ眠りにつく」 「アンヘル様、ヴィアトリクス様…私は、ただ皆が平和に暮らせる世界を望む だけです」 眼の光が弱まっていく。 ライカは…この長い時間をどう思って生きてきたのだろうか? きっと、こんな役割を押し付けたカーディナルを憎んでいたのかもしれない。 でも最後は、平和でありたかったと…そう遺した。 「ヴィアトリクス様…どうか、我々守護者に、安息を…」 「ああ。長期任務ご苦労だったライカ・クドリャフカ。もう眠れ…後は、俺に任 せろ」 返事は無い。 ただ、静かな空間には何も残らない。 「ヴィア、憶えているか?」 「…なにをだ」 「初めの反逆者は五人。そのうちの一人はお前が殺した。残った四人は俺が保護した。だが俺が殲滅したと報告を受けたな?」 「そうだ。そして六人目と、俺は戦って、勝った」 「とどめはさせなかったがな」 本当に──あの時終われば良かったと、そう思う。 そうすれば、誰かの幸せを邪魔することもなく眠っていられた。 憎み、憎まれ。 愛し、愛され。 幸せと不幸を纏い廻るこの時間と世界は、俺たちにとってあまり良いものではない。 半永久に生きられるこの身体は、とっくに輪廻の枠から外されてしまったのだから。 「全くだ。悔やんでも悔やみきれない」 「ならばここで決着を着けるか? それもまた一興。五対一になるがな」 「やってられるかそんなの。…だから今は退く、だが俺はまだ諦めない」 外に向かって、歩く。 アンヘルが反逆者たちを味方に付けるなら、俺には六課がある。 「今度こそ絶対に、守ってみせる」 その言葉を残し、俺は施設を出た。 結界を抜けるとすぐに、転移ゲートが出てきた。 「罠か?」 『正規の物です。恐らくハッキングが撃退されたか、敵の魔法です』 随分余裕だなアンヘル。 次に会った時には俺をミッドチルダにわざわざ送ったことを後悔させてやる。 「帰るか。今日も疲れたよ」 ゲートに入れば、すぐにミッドチルダの光景が目に入る。 「ヴィア!」 「フェイトか。遅くなって悪かったな」 「それより怪我とかは? ヴィアがいきなり変な場所に飛ばされたって報告が来て 焦ったよ」 「平気だ。ちょっと、寄り道してただけだから…」 フェイトの車に乗って、教会に向かう。 ミッドチルダは冬なので、先程の世界より普通に寒い。 昨日もそうだが、今日も一段と疲れた。 まあ、予想してはいたことだが…。 「あーあ、広いなあ…」 本当に広い、この世界。 それが数え切れないほど在って、たくさんの人たちが笑っている。 本当に広すぎる。 守るには、随分と大変そうだな─── 四話 不幸な者、幸福な者 Fin To Be Next...

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