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  自分の感性を信じよ

 医者から説明を受けるときには、説明された内容だけではなく、その医者のことを
信用できるかどうか、自分の感性を働かせてよく見極めたほうがいい。

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 人間対人間のコミュニケーションの場合、非言語的な要素が六割を占めると言われ
ているから、言葉以外の要素も重視すべきだ。
 患者さん自身が今まで身に付けてきた人間に対する見方というものを、大切にして
欲しい。冷静になって考えるという余裕を持たないと、困ったときの神頼み的に、目
の前の人にすがりついてしまう可能性がある。
 我々心臓外科医というのは、心臓のリフォーム屋である。住宅リフォームのことを
考えてもらえばわかると思うが、リフォーム屋さんに「リフォームが必要ですか」と
聞けば、「必要です」と答えるに決まっている。心臓外科医も同じだ。「手術が必要で
すか」と聞けば、「必要です」と答える。それが我々心臓外科医の商売なのだ。ま
た、手術をしないで薬で治療した人が将来どうなるか、見たことがない。手術を受け
る、あるいは受けた患者しか知らないのだ。その商売上の説明にだまされてはいけな
い。
 私は、患者さんに話すとき、患者さんに冷静になってもらうために、「そもそも、
医者というのは、いろいろ体を調べてケチをつけるのが商売ですよ」とか、「『死ぬ
ぞ』、『死ぬぞ』と脅して手術するのが外科医です」とか、「僕は専門医です。あなた

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は素人です。僕があなたをだますのは簡単ですよ」というようなことを話している。
 医者も患者も両者が冷静になって、対等に話をする必要がある。だから、冷静にな
ってもらうために、「私にとってこれは商売なんだ」ということを話している。
 精神医学のせかいには、交流分析というものがある。人間の心には、親のような心
(P=parent)、冷静な大人の心(A=adult)、子供の心(C=child)の三つの要素が
あるとされている。患者さんと医者が話をするとき、患者さんが医者に依存しようと
していると、患者さんは「助けて欲しい」、「守って欲しい」という子供の心(C)が
中心になっていく。一方、医者のほうは、「なんとかしてあげよう」「守ってあげよう」
と親のような心(P)が支配する。これでは、医者のほうが優位な立場になって、対
等とは言えない。だから、医者と患者が対等に話ができるようにするには、医者も患
者も冷静な大人の心(A)と大人の心(A)で話をする必要がある。それがインフォ
ームド・コンセントの基盤だ。
 私は、その冷静な大人(A)と大人(A)の関係に戻すために、「手術すること
が、私のビジネスだ」ということを伝えている。おそらく、手塚治虫さんの描いた
『ブラック・ジャック』も、患者と医者の関係を、冷静な大人(A)と大人(A)の

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関係としてとらえようとしていたのではないかと思う。『ブラック・ジャック』で
は、手術は契約であるというようなとらえ方がされているからだ。

┌(コラム)-----------------------------------┐

     交流分析

 交流分析は、アメリカの精神医学者エリック・バーン博士によって提唱された理論。
 人間の心の中には、主に三つの種類の心があるとされる。人を厳しくしつけたり、温かく面
倒を見たりする親の心(P=parent)と、冷静に現状を分析して状況判断する大人の心(A=
adult)と、自由奔放に振る舞ったり、人に頼ったりする子供の心(C=child)である。
 人と対話をするときには、この三つの心のうちのどれかが、相手の三つの心のうちのどれか
と呼応して、交流しているとされる。
 たとえば、患者が医者に「先生、助けて下さい」というときは、患者の子供の心(C)が医
者の親の心(P)と交流をしている。ところが、十分なインフォームド・コンセントなどがな
く医療ミスなどが起こると、患者は医者に対して「なぜ、事前に説明しなかったんだ。説明す
べきじゃないか」と詰め寄ることが多いが、この場合は患者の大人の心(A)が医者の大人の

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心(A)に訴えかけようとしている。
 患者としては、病気で苦しいときには、子供の
心(C)になりやすいが、それでは目の前の医者
にすがりたいという気持ちが強くなりすぎて、本
当に良い医者を選ぶことはできない。本当に良い
医療サービスを受けるためには、冷静な大人の心
(A)になって、余裕を持ったうえで、対等な立
場で、より良い医者を探す姿勢が必要である。

└----------------------------------------┘

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  冷静な判断のためのインフォームド・コンセント

 人間は、自分が困っているときには、目の前に出てきた人はいい人だと思い込む傾
向がある。「いい人であって欲しい」、「能力のある人であって欲しい」という願望が
そうさせてしまう。
 この現象は、感情陽転移と言われている。自分の思考が停止してしまって、「この
人は優秀な良い医者に違いない」と思うようになる。
 その医者が高級車に乗っていたら、「こんないい車に乗っているのだから優秀な先
生に違いない」と思い、一般車に乗っている医者なら、「この人はお金儲けをするた
めに医者をしている人ではない」と、すべて自分に都合良く受け取るようになる。
 悪徳商法などにだまされるときと同じような心理状態になっていく。これでは、冷
静な判断はできない。
 いくら自分が苦しいときであっても、自分の命や健康にかかわることなのだから、
冷静に判断するべきである。その判断の材料を仕入れるために、インフォームド・コ

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ンセントを受けるのである。