あなたが、この世界に生まれる前
どこに居たか、覚えていますか
誰と居たか、覚えていますか
そこで交わした約束は
まだ あなたの中に?

"藍色の扉を"

そこは一面が空色で
見上げれば藍色の海が広がっていました。
その海に星座は一つもありませんでしたが、星はいつも瞬いていました。

気付けばあなたはそこに居ました。
目を瞑って、もう一度開いた時にはそこに居たのです。

あなただけではありません。
今、この世界に輝く命はみんな、最初は藍色の海を見上げたのです。

あなたはそこで、ある人と出逢いました。

あなただけではありません。みんなそこで、それぞれが誰かと出逢うのです。


あなたはその人と、いつも一緒でした。
何をするのも、どこに行くのも、あなたはその人と一緒だったのです。
あなたはとても幸せで、その人もまた、とても幸せでした。

ある日、あなた達2人は
ある約束をしました。

2人がお互いに幸せである限り、ずっと一緒に居ること。
2人がお互いに幸せである限り、仲良くいること。
どんなことがあっても、お互いを忘れないこと。

2人はそう約束したのです。あなた達は、本当に幸せでした。

けれど

藍色の美しい海に満たされたその世界には、あなた達を引き裂く約束があったのです。


ある日、あなた達はある場所を見つけました。
そこにはとても小さな扉が、見渡す限りにあったのです。

その扉には、一つ一つ名前が付いていました。
あなたの扉には、そう、あなたの名前が。

あなたのその扉は、それはもう本当に小さくて、
あなた1人がやっと通れる程の大きさでした。

誰に教えられることもなく、あなた達は知っていました。
あなた達だけではありません、その扉を見つけた人はみんな知っているのです。


その扉をくぐれるのは、たった一人であることを。


あなた達は、それぞれの扉を見つけました。
その扉はとても離れた所にあって、
あなた達はその扉を見つけるのにずいぶんてこずりました。


「この扉の先にはいったい何があるのかな」


あなたは言いました。誰にも、その答えはわかりません。
戻ってきた人は居ないのですから。

ただ、その扉はどれもきれいな星色で、
何か恐ろしいものではないような、そんな気がしました。

あなた達はお互いに、離れたくないと言いました。
そしてまたお互いに、その声に頷きました。

たとえ扉の向こうがどんなに素晴らしい世界でも、
2人が一緒でなくては、あなた達には何の意味も無いように思えたのです。

けれど、

確実にその時は近付いていました。そう、あなた達がそれぞれの扉をくぐる時が。


2人はお互いに、絶対離れないと誓いました。
星色の扉なんていらない、あなた達はそう言って、握った手を離しませんでした。

その時です。

あなた達の前に、ある人たちが現われました。


あなた達よりもずっと年上の、男の人と女の人です。
その2人は揃って灰色のコートを来て、男の人は黒い帽子をかぶっていました。
その人はあなた達にこう言いました。

「君たちは、まだ扉をみつけてないのかい?」

あなたは首を振って言いました。

「もう、見つけたよ。」

「じゃあ、まだくぐらないのかい?」

あなた達は一度顔を見合わせて、くぐることは無いと言いました。

男の人と女の人は、悲しそうに息をついて笑いました。

「扉をまだ見つけてないの?」

あなたは男の人に聞きました。
その人はさっきより悲しそうに笑って、女の人の手を取りました。

「私たちは、あの扉をくぐろう」

2人はそう言って、大きな扉を指差しました。
いつからあったのでしょう、その扉は黒くて、見ているだけでぞっとしました。

「もう、離れられないんだ」

男の人は、誰にともなくそう呟いて、暗い扉を押し開けました。
中は見えませんでしたが、ひどく恐ろしい音がしました。
2人はその中に呑み込まれていって、すぐに消えてしまいました。

その時のあなたは知らなかった事ですが、彼らは藍色の海の星となったのです。
離れることが出来ずに、ついに彼らは星になったのです。
今も夜空に輝く星が、どこか悲しそうなのはこういう訳です。

2人を見送りながら、あなたは達、泣いていました。

あなたの進むべき道は
あなたの選ぶべき扉は
いったいどちらでしょう


あなたがあの時
守ろうとしたものは
守ろうとした人は
守りたかった命は
あなただけのものではなかったのかもしれません

あなたがあの時守った命がきっとこの世界に息づいているのです



藍色の扉をくぐった世界で

あなたは



最終更新:2006年10月16日 15:05