Sweets*


ただでさえうんざりな雨の日曜日。

君は僕をさらにうんざりさせる話を持ってきた。

そんなに泣いたって、あいつは帰ってこないよ?
そんなに泣いたら、せっかくかわいい顔が台無しになっちゃうよ?

何はともあれ、さぁ部屋の中へ。ここじゃみんなが見てるから。

あったかいココアと、甘いケーキをどうぞ。

大丈夫。

君がどんなに泣いたって
誰が何と言ったって

ケーキは苦くならないよ。

たとえそれがどんなにお偉いさんでもね。

ほら不思議

ココアとケーキの甘すぎるはずのコンビが、今はちょうど良いみたい。


一口ココアを飲むたびに、一粒涙を流して
一口ケーキを食べては、その涙をぬぐった

―そんなにおいしい?うれしいよ。
僕が言ってみると、ため息のように笑った。

なんだ、よかった、笑顔を忘れてはいなかった。

ココアとケーキを一口ずつ残して、「ごちそうさま」?
全部は食べてくれないか。

いいや、よく食べてくれました。

さぁ、今度は僕の番。君の話を残さず聞こう。

甘い甘いココア5杯と
ショートケーキにミルフィーユ
モンブラン
チョコムース
チーズーケーキにアップルパイまでなら余裕だよ。
僕特製のホットケーキもつけようか?

少しの沈黙の後、君はごめんと呟いて、僕はうんとだけ言った。

またあふれ出す涙は、何よりも真っ直ぐに君の心を表して。
それはどんな結晶よりも素直に輝いた。

いなくなっちゃった、そんな寂しい言い方しなくても。

悲しい、と泣いた
苦しい、と泣いた
死にたい、と泣いた

死ぬなんてそんなすごい事、簡単に言うもんじゃない。

死んで終わるのは、その悲しみじゃなくってね

死んで終わるのは、君の涙じゃなくってね

死んで終わるのは、君だけだから。

このままずっと、忘れられないって泣いたって、
残念、人はそこまで純粋じゃないからさ。

時計の針がカチカチなって、長いのが短いのを追い越した。
追い越したら最後、また追いかけるしかないのに。

ああやって確かに時間はすすんで、君の背中を押してくれる。
のっぽがちびを追いかけ続けて、確かに僕らは進んでく。
止まっていたいときさえも。

涙が頬を伝うように。
雨が地面に降るように。
そう、さっきまであったかかったココアが、すっかり冷めてしまったように。

忘れなくてもいいけどさ、忘れたら終わりだからさ、せめて素敵な思い出に。

僕ら2人は何にも言わないまま、また沈黙に包まれる。
ああ、涙の足音まで聞こえそう。

ぽつりぽつりと、ざーざーと。
良かったね、雲一つないような晴天じゃなくってさ。

あのね、と君が言う。
うん、と僕が言う。

好きだったと、ただ好きだったと泣く。

知ってるよ、ずっと前から。
好きだったんじゃなくて、好きなんだろう?

残されたケーキは、冷めることもできずに立ち止まる。
ココアになるか、ケーキになるか、人はココアにしかなれないよ。


ああ、知ってるよ。君の涙は嘘じゃない。
君の想いも嘘じゃない。
でもあいつらが、動きを止めてはくれないから。

だから。

さぁ、そろそろ泣き止んで。一緒に前に進もうか。

大丈夫。

自転車の後ろは僕がちゃんと持ってるよ。
君は前だけ見てればいい。

一緒に前に進もうか。

大丈夫。

君が辿る道は、間違いなくそこにある。
最初の一歩を思い出せば、いつの間にかすっかり笑う君がそこにいる。

たくさんの色が混ざり合って、最初の色を忘れても

大丈夫。

新しい色を心に留めて。

いつの間にかすっかり笑って、冷めたココアを飲み干した。
立ち止まったケーキを、それでもおいしそうに飲み込んで
ああ、やっと「ごちそうさま」
いやいや、お粗末さまでした。

涙が乾いたら、おかわりをどうぞ。
大丈夫、次はコーヒーにするからね。

恐くなったらいつでもおいで。僕はずっとここにいる。

玄関まで見送って、君の背中をぽんと押そう。
一人で帰れるね?うん、なら大丈夫。

さっきはあんなに重たかった扉を片手で開けて、
忘れていた空を見上げたら、

ほら、雨が上がったよ。

陽に重なって架かる虹に見惚れる君は

ほら、こんなにも美しい。


最終更新:2006年10月16日 15:05