法治国秩序紊乱事件弁論要旨


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法治国秩序紊乱事件弁論要旨
 本件記事は第一項乃至第七項に至る迄何れも秩序を紊乱する虞れある記事にあらざる事一点の疑なし従て被告は全部無罪ならざるべからず。
 本件にして萬一有罪の判決を受けんか、弁護人は堅く信ずる所に従ひ本書末尾に参考として添付せる告発をなさんと欲す、希くは熟読玩味せられん事を。
 大正八年一月卅一日    被告 長野国助、小松利兵衛、荒畑勝三
              右三名弁護人弁護士 山崎今朝彌
東京区裁判所判事 石川音次 殿
      告発状
          東京市芝区新桜田町十九番地 平民法律所長弁護士
          告発人 山崎今朝彌
          雑誌太陽方
          被告人 内田魯庵
          被告人 与謝野晶子
          雑誌中央公論方
          法学博士兼被告人 福田徳三
新聞紙法違反の告発
      告発の事実
 大正七年の米騒動に関し大正七年中、
 (一)被告内田は「太陽」第二十四巻第十一号(九月号)四十二頁以下の「パンを与へよ!」中及び同十二号(十月号)六十一頁以下の「覚めよ中等階級」中に
 (二)被告晶子は「太陽」第廿四巻第十一号(九月号)五十九頁以下の「粘土自像」中に
 (三)被告福田博士は「中央公論」第三十三年第十号(九月号)九十二頁以下の「暴動に対する当局の態度」中。
 各々冒頭の米騒動を是認同情する趣旨の記事即ち「公共の平和を害し社会の組織を擾乱するの虞れある」(大審院大正四年(れ)第一九一三号事件判例参照)記事を執筆したるものなり。
      法律の適用
 右事実は新聞紙法第九条第二号に拠り同法第四十一条に該当する犯罪なりと思料す
      告発の理由
 告発人は所謂「大正聖代の御一揆」以来東京区裁判所に公訴されたる「労働新聞」「青服」「民集の芸術」及び「法治国」の新聞紙法違反被告事件に付き其弁護人となりたる関係上
 一、東京区裁判所に於て起訴となる新聞紙法違反事件は悉皆警視庁より起訴すべく送付されたるものなる事
 二、警視庁が起訴の意見を付して検事局に送付する事件は悉皆微力、貧弱、到底論ずに足らざる雑誌若しくは無名無力殆んど一顧の価値なき人士の執筆に係るものなること
を発見仕り候。
 告発人は又「法治国」の弁護に於て、社会の秩序を紊乱する虞れあるものとして起訴せられたる当該記事よりも、一層激烈過激なるものと、少くとも三十有余名の弁護士が全会一致を以て鑑定したる記事評論が、輿論の権化一世の師表にして当代の尊信を専らにする高明有力なる人士に依つて執筆せられ、当局と雖も一目を置かざるを得ざる程、地位と勢力とを有する雑誌に掲載せられたる場合、何等の問題を惹起せざる幾多の事実を発見仕り候、故に告発人は当時他の弁護人の驥尾に付し該発見の記事三十二種を公判廷に提出し、之れに拠つて被告等の無罪を証明し能はずんば寧ろ判事は右諸雑誌の編集発行人及び署名者を告発するの義務を履行すべく(刑事訴訟法第二十五条)検事は直ちに捜査に着手すべき職責あるものなり(同法第四十六条)と論じ幸ひ審理は公開され判決は言渡され、晴天は白日となりたれども被告は無罪とならず、而かも華族にも、大官にもあらざる本件被告等は未だ縛に就かず。
 抑も告発人が熱狂の資を以て此腐敗溷濁の世に処し未だ曽て発狂の域に達せざるを得たる所以のものは、惟ふに身を厳正独立公平無私の法律界に投じ職を清廉潔白、情実纏綿の反対たる司法界に求め、時に公平の決を得て、屢々痛快の楽を享けたるの賜ならずんばあるべからず、然るに今度此始末、恐懼以て法律の一画をも損反せざらん事を努め大に馬鹿を見たる告発人たる者、豈憤然として立ち慨然として泣かざるを得んや。
 由来告発人は告発を以て鳴ると雖も、従来は区裁判所の判決に対して云為するを屑しとせず大審院の判決を待つて事を挙ぐるを例とせり、然れども翻て之れを考ふるに区裁判所と雖も亦天皇の名に於て司法権を行ふものなることは炳乎として憲法条章(第五十七条)の明示する処、其判決を軽蔑するは誠に臣子の本分にあらずと信じ、今回は特に其判決を楯に本告発に及びたる次第に候。
 偖証第一号の記事は全部何れも、萬人の読んで見て以て、証第二号外前記三雑誌の問題記事より、より以上秩序を紊乱する記事なりとする処なれば、其全部に対して告発すべきを正当とするが如きも告発人は又当局と一風異り、只有力なる人士が勢力ある雑誌に署名したる実害多き記事のみに着目し、微力貧弱の雑誌や無名無害の士には目も呉れざるを事とするが故に、茲には代表的に本件被告等のみに対して告発を為し以て国恩の萬分の一に酬ひたる次第に有之候。
 右の次第に付き仰ぎ願くば、本件に対し直ちに捜査を開始し(一)検事局は裁判所の一部にして警視庁に対しては全く独立するものなる事(二)「裁判所とはあんなもの」にあらずして地位ある者も地位なき者も、勢力ある者も勢力なき者も一視同仁、厳正中立に取扱ふものなる事(三)「法律とはこんなもの」にあらずして飽く迄公平無私、或る例外の場合を除くの外は苟く馬触るれば馬を斬り人触るれば人を斬るものなる事を。普く国民に広告し、併せて愚民が既に警察に対して有する悪感を将に裁判所に対して懐かんとする危険に対して之を未発に妨害せられんことを。
      告発の申立
 右告発候也
 大正八年二月 日    山崎今朝彌
東京地方裁判所検事局 御中
<山崎今朝弥著、弁護士大安売に収録>
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