第三種郵便物認可申請

第三種郵便物認可申請
 抑々『平民法律』は『毎月一回一日』に『政事農事工事商事学術技芸統計等公共の性質を有する事項中、時事に関するものを除く、一切の事項』を報導論議するを発行の目的とし、汎く公衆に発売する新聞紙法上の定期刊行物なれば、認可規則第二条に依り当然受認可の権利を有す。
 抑々『発行人』を之が為め新案の『発行所』に『住所』を移転と同時に印刷所を新設し、発行編集印刷は勿論社長持主主幹主筆の外雑務主任に総裁を兼ね、只管雑誌の発展と金儲とに汲々と腐心に苦心を重ぬ。
 抑々雑誌の経営たるや、或人問ふて曰く『吾金ありて困る、之れを如何にす可きや』答へて曰く『宜しく雑誌を出すべし、直に無くなつて困らん』と云ふ位なり。
 抑々平民法律は最少の費用を以て最多の読者を獲得する為めに、記事を痛快に編集を奇抜に内容を充実に趣味を津々にし、以て読者をして購はずんば止まざらしむ、故に咽喉より手の出る如き金慾を心裡に留保し、恰も代価を論ずる及ばざる振りをなし以て、数号を継続せしむるを営業の大方針とす。
 然るに属吏は総てを官僚的に解釈し、発行人三月一日第一号の認可申請を、第二条第四号に該当せざるものとし却下したり、依て発行人は第一号の発行を合計〆て七部に止め、三月十日第二号兼第一号を発行し即日約束郵便の許可を受け大半に付ては、既定の大方針を適用し、残余の少半は発行後未だ十日に垂んとせざるに既に全部を売り尽したり。添付の『見本二部』は友人より貰ひたるものにして雑誌界に於て初めより此止むなき盛況を呈したるは、蓋し世界広しと雖も芝では神武以来平民法律の外無之と信ず。
 発行人も一度は癪に障り候故、一生第三種の認可申請は之れを為さず、其代り之れに相当する適法の面当をなし、自ら満足せしめんと思候も、貴庁の掲示板が官庁らしくもなくて気に喰ひ、主任官が官吏にあるまじき親切あると、色々の損害既に三十円に達し今後益々発展するの虞あり、余りに馬鹿々々しきと、泣く子と地頭には勝てぬとに依り茲に本申請に及び候条、別に威厳を損する次第にも無之と存候間、官吏の片意地を廃し何卒御認可相成し被下様偏に奉嘆願候也。
 大正六年三月二十六日
          東京市芝区桜田町十九番地上告専門所
          山崎今朝彌
大日本帝国逓信局長 竹内友治郎 殿
<山崎今朝弥著、弁護士大安売に収録>
最終更新:2009年10月25日 21:01
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