北里博士告発状


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北里博士告発状
          京橋区新肴町一番地
          告訴告発専門弁護士
          告発人 山崎今朝彌
          芝区白金三光町、北里研究所長
          医学博士、医師
          被告人 北里柴三郎
      告発の要旨
 被告は其筋の許可を受けず細菌学的予防治療品たる赤痢予防液、感作コレラワクチン腸チブス予防液、感作腸チブスワクチン、狂犬病予防液を製造販売したるものなり。
      告発の事実
 (一)貴庁所管三田警察署は大正元年十二月、医師奥山伸が、其筋の許可を受くることなく、細菌学的予防治療品の一種腸チブス予防液を製造し、之を官公署、学校、病院、医師に実費分与したる事実を省令違反として告発し、検事は之を起訴したり。
 (二)奥山及び其弁護人たりし告発人等は、省令は営利の目的を以て製造販売する者を取締る規則にして、学術研究の目的を以て特定の人に試験の為め実費分与する者を取締る規則にあらずと主張し、当時の日刊新聞は、本件は所謂北里派が、奥山の学術研究を圧迫するものなりと論じたり。
 (三)右に対し所謂北里派の機関と称する医海時報其他及び係り検事たりし告発人莫逆の友、貴庁中谷警視は「省令違反たるには、許可を受けざる者が、対価を得て他人に分与する意思を以て規定の治療品を製造すれば足る」と論ぜられたり。
 (四)裁判所は「奥山は、営利の目的にあらず研究の目的を以て、医師、学校等特定の人に、定価を以て分与したる者なる事実」を確定し宮本医学博士は、三年間に渉る試験の後「奥山の予防液は、伝染病研究所の予防液に比し頗る優等の品質なる旨」を鑑定したるも、裁判所は「省令に所謂販売とは、反復する目的を以て為す有償名義の譲渡に外ならざるを以て、営利の目的の有無を問はず、被告は許可を受けず省令規定の品を製造販売したるものなれば、省令違反の犯罪人なり」と判決し、此判決こそ、最高法衙たる大審院に於て、天皇の名を以て「明治三十六年内務省令第五号第一条に所謂販売なる文字は、汎く代価を得て、右第一条規定の製造品を譲渡するの意義に解すべく、必ずしも営利の目的に出ることを要すべきに非ず」と是認(大正四年(れ)第一六六七号第二刑事部判決)確定され「非常識裁判」の非難一世に高かりし夫の有名の判決なり。
 (五)偖て被告北里柴三郎が(イ)既記要旨の各液を製造したること(ロ)其筋の許可を受けずして製造したること(ハ)各液が多少なりとも予防治療品としての価値あること(ニ)右予防治療品を対価を得て分与したること(ホ)就中感作コレラワクチンは、時節柄、医家にして其分与を受けざるもの殆んどなく、被告は為めに巨萬の暴富を致したること、即ち犯罪構成要件全部を具備すること頗る明白にして一点の疑を許さず、被告も亦決して之れを否認するものにあらず。(日本之医界第百八十二号及八十三号記事及び広告参照)
 (六)果して然らば、被告が、該省令違反の犯罪人なること勿論にして被告に弁解の辞更になし、只被告の恃む所は内閣已に更迭し、官辺頻りに知己に満ち、敢て被告に法条を適用し得る者なし、との独断に過ぎず、然れども抑も法律は強者の便宜に弱者の便宜を制限するものなり、とは寧ろ我第一等帝国の現状を諷したるに過ぎず、法律元来の目的は却て正義にして公平無私に在り、と云ふも敢て過言にあらずと信ず。
      告発の申立
 故に被告に対し奮つて相当の御処分相成度茲に聊か告発に及び候也
 大正五年十月十八日    右山崎今朝彌
警視総監 岡田文次郎 殿
<山崎今朝弥著、弁護士大安売に収録>
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