法学博士学位請求論文

法学博士学位請求論文
 東京弁護士界に早速か早晩か博士に推薦すべき人が三人ある、高木法律新聞社長が其第一人である事は論を俟たない。多年実務に鞅掌し以て司法の改善を図り、古来稀に見る頭脳明晰を以て筆に口に古今の原理を猟り東西の法制を究め傍ら大に子弟の教養に尽した点は更にない。併し明治三十三年以来其幹する法律新聞を宰し以て官僚を威圧脅迫し其横暴を予防減少し、一般に権利思想を伝播せしめたる効績に至つては到底其受けたる当然の名利と相殺せしむべきものでない。世には三年の籠城五年の助教、二円の著書、一編の論文、往復の航海で博士になる者が沢山ある、法律新聞二十年の貢献はマサカ之れ以下に位するものではない、高木さんに毛頭の恩怨がない私も、法律新聞社長を早く博士に為ない事に就ては、曽て、故博士のリツサンセーアンドロアー岸本明治法律学校長を早く博士に為なかつた時及び現博士の花井弁護士を弁護士の儘弁護士会長に為なかつた時の不平と同一の不平を感ずる。私は決して法律新聞を只理由もなく崇拝する者でない。大逆事件の判決に於て、爆発物取締罰則違反者を大審院の特別権限として一審二審抜き□裁判した点を、批評した私の法律論文を没書提供し、今日に至る迄未だ此点に関する学者の研究を聴くの機会を失つた事、記者等が其掲載する破毀判例又は雑報に滅多矢鱈に私の名を落した事、猥りに回数紙数を増加してトテも全部読み尽せず、止むなく十数年来の慣習を打破し廃読の習慣を作らんと私を苦心せしむる事等、私には否寧ろ不平がある。併し法律新聞の効績に至つては一大法律学校経営の効績に比し敢て少しの遜色もない事を確信する。
 金こそ一文も払ふた事は無いが私は法律評論を極忠実に読む。若し私が評論社長であつたら、私は喜んで私に永代寄付をする位私は忠実な読者である。此理由が第二番に私の高窪喜八郎君を博士に推薦する其理由である。併し高窪君は必ず高木さんより後でなければならぬ、若しも後の雁が先になれば私は頻りに憤慨する。
 第三に私は石大次郎君を推薦する、予め断つて置くが之れは決して冗談ではない。私の知人に自ら通と称する特許狂がある。弁護士となく弁理士となく行かざる処がない、知るとなく知らざるとなく識らざる事がない。然るに此人間に何うしても一つ解からぬ事がある。数年前迄は何処へ行つても外国特許の相場を立てる者がなかつた。今は何処へ行つても之れを知らぬ者がない、との事である。私は独力之れを調査して其原因が石君の『特許の栞』に在る事を確めた之れが私の同君を推薦する総ての理由である。
<山崎今朝弥著、弁護士大安売に収録>
最終更新:2009年10月25日 20:39
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。