ホン乃木家とウソ乃木家・牧野所長答弁書


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ホン乃木家とウソ乃木家
 近来の癪事蓋し所謂乃木家冒認問題に如くはない、如何に大将を毛嫌し誹毀する者と雖も未だ曽て大将心事の高潔と誠忠と公明と正大とを疑ふた者はない、果して然らば之れに免じても大将の遺思を全ふせしむべきは世の道人の心常の態である、大将の遺思は「根も幹も枝も残らず朽ち果し楠の薫りの高くもあるかな」「いたづらに立ちしげりなば楠の木もいかで香りを世にとどむべき」の二首に尽きて敢て説明を要すべき理由がない、然るに何たる大べら棒ぞや、乃木大将一人が馬鹿に偉くなるを厭ひ又は其真似を為さざるを得ざる羽目に陥るを恐るるの徒二三輩が、寄つて集つて大ソレた悪戯を働くとは。
 毛利元智氏は子爵毛利元雄氏の家族なれば今回の授爵に依り明治三十八年法律第六十二号第一条第一項の適用を受け一家を創立し第二項の適用により民法中分家に関する規定準用の結果、本家の毛利姓を冒さざる可からず、然るに新聞の伝ふる処に依れば氏は乃木と改姓せりと、我輩は此処に一大犯罪若しくは違法が伏在することを断言するを憚らぬ、毛利氏が乃木姓を名乗り得る唯一の方法は民法第九百八十五条第三項の規定に従ひ乃木家の親族会より裁判所の許可を経て大将の家督相続人に選定して貰ふに在り、雖然大将の血を分つ親族が全部大将の墓前で切腹したか又は莫大の金を貰ふたに相違ない迄は之れは絶対不可能である、或者は明治五年太政官布告第二百三十五号に因り元智氏は乃木と改苗したりと解す、併し同布告には「華族より平民に至る迄自今改苗字名並に屋号共改称不相成候事但同苗同名等無余儀差支有之候者は管轄庁へ改名可願事」とあり改名は格別改苗は絶対に出来ぬ、地獄の沙汰も金次第、併しあれは諺にして決して法律に非ず。
 或は又乃木家は大将の遺言執行により又は華族令第十二条の明定に従ひ絶家したるものにして毛利氏は之を再興したる者と信ずる者あり、絶家の遺言は法律上何等の効力を生ぜず華族令第十三条は三年間家督相続人の届出なき時は爾後其爵を襲ぎ華族となる事を得ざる事を示したるに過ぎずして人間としての家名相続を禁じたるものにあらず、加之絶家再興には毛利氏に於て民法第七百六十二条に従ひ毛利伯爵家を廃業したる外第七百四十三条戸籍法第百五十五条等の解釈上乃木家と毛利家との間に親族関係ある事を要す、故に毛利氏は徹頭徹尾乃木家の再興者にあらず。
 乃木家は民法第千五十一条以下所謂相続人の曠欠中に在り、其親族会は民法第九百八十五条第一項の規定に従ひ乃木大将の家督相続人を選定し得べく、今は是れ最も大将の意思に合致したる挙なり、蓋し大将の絶家主張は大将の後に乃木姓を冒す者なきを信じたればなり、既にウソにもせよ苟も乃木姓を冒し大将の明白なる意思に反し乃木の相続人面する人ありとせば、地下の大将豈合法真正の相続人の出ずるを希はざらんや、而して世人此乃木家を呼ぶにホン乃木家を以てし毛利の乃木を呼ぶにウソ乃木を以てせば真正天下痛快の一大教訓にあらずや、ホン乃木家は民法第九百八十七条の規定に依り系譜祭具及び墳墓の所有権を有し従つて大将を祭祀するの権を有す、ウソ乃木家は是れを有せず。


牧野所長答弁書
          法律新聞第千四十二号弁護士法学博士
          原告 岸清一
          東京法律第十三号弁護士
          原告 吉田三市郎
          日本弁護士協会録事第二百一号記者
          原告 時評子
          法律新聞第千四十五号弁護士
          原告 宮島次郎
          東京地方裁判所長官吏
          被告 牧野菊之助
          右無権代理人弁護士米国伯爵
          山崎今朝彌
 右当事者間大正四年(の)大問題故乃木大将伯爵家冒認事件に付被告の答弁左の如し
      一定の申立
 原告の申立は相立たずと御判断相成度候
      答弁の理由
 原告の主張する請求の原因は縷々数千言普通人間の到底其職に堪へざる侮辱に該当すと雖も要するに左の二点に帰す以下少しく之を詳弁せん
 (一)は被告がやまと新聞並に法律新聞に発表したる本件係争の法律論は学者の体面を辱かしむるものなりと論ずるも
 (イ)被告は学者にあらず
 (ロ)学者と仮定するも学者に体面あることを認めず
 (ハ)学者に体面ありとすれば学者の体面とは皆んな恁んなものなり
 (二)は被告は真逆こんな議論を心からするものにあらず立身出世の為めに心裡留保をなし虚偽の意思を表示したるものにして曲学阿世なりと云ふに在るも
 (イ)目下実権存在の場所と法律元来の性質とに鑑み実際問題の提出さるる度に意見の異るは新刊雑誌の舶来する毎に法理の異ると同様固より其処にして変説は嘘付にあらず
 (ロ)智仁勇武は御世の御宝立身出世は官吏の玉条、被告が之を心懸けたりとて決して犯罪を構成するものにあらず
 (ハ)曲学阿世の事実は之れを認めず仮りに聊か其傾きありとするも被告は極力之れを否認す
 大正五年四月一日
          山崎今朝彌
大臣民全部 御中
<山崎今朝弥著、弁護士大安売に収録>
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