版権所有新年の辞

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 一陽来復して茲に大正七年を迎ふ。紫気動き、瑞雲靉き、旭日輝き、国旗翻るの時、嬉々の声、羽子の音、芸妓の衣、成金の邸、事件簿、出納帳、歳と共に皆新にして天地生々の気国内に充満す。旧を捨て新に移る、新年豈祝せざるべけんや。新年祝すべし、然れども本年は特に之を祝せざるべからざるなり。
 欧州の天地乱れて既に四歳、戦闘将に酣にして複収む可からず、人命を害ふ幾百萬、財貨を費す幾千億、艶麗花の如き文化は忽ちタンク飛行機の侵犯する処となり、醇樸玉の如き平和は忽ち出征徴発の蹂躙する処となる。人、人を殺し、友、友を撃つ。一家離散し、餓孚途充し、富者暴富に困しむ。革命は起り、専制は亡ぶ。
 独り我国は繁栄豊穣、五穀稔り諸式騰く、天怒り地狂ひ、風害水損、花の会あり菊の日あり、敬老忠順、長者横行し元老闊歩す。上下あり、階級あり、秩序あり、整然紊れず。野に遺賢なく、群臣朝に充ち、高官は収賄せず、寵商は暴富せず、議員は涜職せず、政党は腐敗せず、将校は情死せず、貴婦人は堕落せず、人民は安楽せず。専制なく、圧制なく、人権なし。饑饉なく、不平なく、食物なし。萬民鼓腹して撃壌し、和気靄々と天理に蔓こる。国体に拠ると雖も、仁徳日月を貫き、大慈観音を凌ぐ大和魂の賜に依るにあらずして安んぞ能く此の如きを得んや。宜なり、薫風頻りに吹いて、天朗かに宝鶴舞ひ、光輝淵を照して、水清かに霊亀遊ぶ。天妖忽ち去つて、祥瑞荐りに臻り、東西南北、六星五コウ帝城を覆ふ。
 吾人幸に生を、皇統連綿萬世一系の皇室を戴く、金甌無欠宇内冠絶の邦土に享け、特に萬古無比千載一遇の此聖世に遭ひ、親しく大厦高楼、暖衣飽食、馬車自動車を目撃する者、着るに衣なく、喰ふに食なく、住むに家なく、稼ぐに職なしと雖も、豈奉公せずして可ならんや。豈夫れ可ならんや。
 今や筆硯を新にして紙上に莅むに当り、吾人は先づ茲に誓て我皇室の萬歳を三唱し、次に読者諸君の限りなき前途を祝し、改めて謹んで新年を賀し、並に高堂の萬福を祈り、併せて平素の疎遠と格別の御贔負とを謝し、尚将来の御交誼と倍旧の御愛顧とを乞ふ。
      参照著作権法条文
第一条 文書其ノ他文芸学術ノ範囲ニ属スル著作物ノ著作者ハ其ノ著作物ヲ複製スルノ権利ヲ専有ス
第二十条 新聞雑誌ニ掲載シタル記事ニ関シテハ文芸ノ範囲ニ属スル著作物ヲ除ク外著作者カ特ニ転載ヲ禁スル旨ヲ明記セサルトキハ其出所ヲ明示シテ転載スルコトヲ得
第二十九条 著作権ヲ侵害シタル者ハ偽作者トシテ本法ニ規定シタルモノ丶外損害賠償スル責ニ任ス
第三十七条 偽作ヲ為シタル者ハ五十円以上五百円以下ノ罰金ニ処ス
第三十八条 第二十条ノ規定ニ違反シ出所ヲ明示セスシテ複製シタル者ハ百円以下ノ罰金ニ処ス
第四十条 本法ニ規定シタル罪ハ被害者ノ告訴ヲ待テ其罪ヲ論ス
<山崎今朝弥著、弁護士大安売に収録>
最終更新:2009年10月25日 20:38
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