事務所で受けた裁判(3)


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事務所で受けた裁判(3)
 一、玉石同架次第不同大小取交の事
 一、但素人にも玄人にも良く利く事
          山崎今朝彌 集
○森林主事の犯所実況書及び被害物件調書の効力
 凡犯罪事実を認定する資料たるべきものは即ち証拠又は徴憑にして、証拠又は徴憑は法令の規定を俟て発生するものにあらず、所論被害物件調書並に犯所実況書は司法警察官たる森林主事が捜査処分上実験せる事実を記載して作製したる書面にして其捜査処分は法の命ずる処に従ひ之を行ひたるものに外ならず、故に其行為は職務の執行にして違法にあらず、又之れが書面を作製することは法の命ずる処にあらずと雖も亦法の禁ずる処にあらず故に其書面は法律上無効にあらず従て之を断罪の資料に供するを妨げず。(大、刑、二)

○検事控訴と未決勾留
 原審検事に於て科刑軽きに失すとて已に附帯控訴を為す以上は新に刑期を量定するに当り未決勾留日数を本刑に算入すると否とは固より原裁判所の職権上自由に之を裁量することを得るものにして、此等未決勾留日数を本刑に通算するや否やは畢竟原審か法規の範囲内に於て職権上為し得べき事項なり。(大、刑、三)

○「資料に適切ならず」の字義
 上告人の上告理由は上告人は原審に於て本件契約の現存を主張し、被上告人の「当事者間の同意による本件契約の解除の抗弁」に対する反証として小田萬平の証言を採用せるに、原判決は右小田萬平の証言は被上告人の抗弁事実を覆すに足る資料に適切ならずと判示し其証言を排斥したり、然れども小田萬平の証言は「上告人は履行の提供をなしたるも被上告人に於て不履行の責あるのみならず、登記義務履行の延期を求めて今日に至れり本件契約は決して消滅したるものにあらず」と云ふに在れば原判決が右証言は之れを信用せずと判示するは格別只単に被上告人の抗弁を覆すに足る適切なる資料たらずと説明したるは証拠の有する明白なる意義に反して事実を認定したる不法ありと云ふに在るも、原裁判所が証人小田萬平の証言を適切ならずとして排斥したるは其証言に依り上告人の主張を是認するに足るべき心証を得ざりしが為めに之を採用せざりしものに外ならざるや判文上明白なれば是れ其職権たる証拠取捨の範囲に属し違法にあらず。(大、民、一)

○民法第四百六十八条第二項の対抗権は何時迄行使し得べきか
 清治郎が大正二年三月四日治三郎より茂原銀行に対する倉敷料千円の債権を譲受け治三郎よりは銀行へ譲渡の通知を為したる事及び清治郎が大正二年十月四日銀行より清治郎に係る本件手形金請求訴訟の手形金千円と前記譲受の千円と相殺したることは明なる事実なり、然らば其後大正二年十二月七日に至り、銀行が治三郎に対する貸金の債権千円と清治郎が、既に譲受けたる治三郎の銀行に対する倉敷料千円とを相殺したればとて何等の効力を生ずべきものにあらず、然るに原審が清治郎に於て治三郎より倉敷料千円を譲受けたる事実を認めながら、民法四百六十八条第二項には譲渡人治三郎が銀行に対して譲渡の通知を為したるのみに止まるときは銀行は其通知を受くる迄に治三郎に対して生じたる事由を以て譲受人たる清治郎に対抗することを得、とあり而して銀行は千円の貸金債権を治三郎に対して有し此債権は倉敷料譲渡の通知を受くる迄に相殺に適したるが故に銀行は譲受人たる清治郎に対しても倉敷料千円貸金千円と相殺し残りの本件手形金千円を請求する事を得と判示したるは、民法第四百六十八条第二項を不当に適用したる不法の裁判なり、蓋し倉敷料千円は清治郎に譲渡されたるのみに止らず清治郎は既に銀行の相殺前其債権を相殺して消滅に帰せしめ現在せざればなり。(大、民、二)

○印影は展示を要す
 案ずるに印影は其印文を読聞けたるのみにては其形状を知るに由なきを以て印影を証拠に援用せんには之を被告に展示して弁解を為さしめざる可からず、然らざれば適法なる証拠調を為したるものと云ふを得ず。(大、刑、三)

○被害始末書の定義
 巡査の作製したる被害届録取録に巡査の署名捺印の傍に被害者の署名捺印ありと雖も之を被害者私人の始末書と称するを得ざるものなれば之れを被害者何某の始末書として断罪の証拠に供したる原判決は不法なり。(大、刑、一)

○証人に対しては共犯被告全体との身分関係を問査するを要す
 因て証人遠藤平次郎調書を査するに予審判事は右証人を訊問するに当り被告助治と刑事訴訟法第百二十三条の身分関係あるや否やを問査したるに止まり其当時既に同人の共犯として起訴せられたる被告子三吉と前同一の身分関係あるや否やを問査せざりしは違法にして調書は無効のものなるに原院が之を証拠として被告子三吉に対する公訴判決を為したるは不法にして上告は其理由あるものとす。(大、刑、二)

○訊問事項が私訴の起りたる犯罪に関係なければ証人に民事原告人との身分関係を問ふに及ばず
 原判決に於て被告の罪証として証人田中惣四郎の供述を採用せり 然るに原審に於て右証人を訊問するに当り被告も刑事訴訟法第百二十三条の関係の有無を問査したるのみにして被告に対し私訴を提起したる民事原告人松村チノとの身分関係を問査せず軽く宣誓証言せしめたる違法あるを以て斯る証言を採用せるは違法なりとの上告理由に対し
 案ずるに証人田中惣四郎は原判決に記載せる第一の犯罪事実に付き証人として訊問せられたるものにして、民事原告人松村チノが提起したる私訴に関係ある第二の犯罪事実に就き訊問を受けたるものに非ることは記録上明白なるが故に原裁判所が証人田中惣四郎に対し民事原告人松村チノとの身分関係を問査せざりしは相当なりとの判決。(大、刑、三)

○前回と同様なる証拠調の意義
 凡そ犯罪事実の認定は証拠に依ることを要し、而して其証拠は人証たると書証たるとを問はず総て之れを法廷に現出し判決裁判所自ら其取調を為したるものなる事を要するものとす 是以て証人は必ず判決裁判所の法廷に於て刑事訴訟法の方式に依り当該判事の面前に於て供述することを必要とし若し又法律の規定に依り受命判事或は受託判事をして取調を為さしめたる場合若くは一旦法廷に於て適法なる証人の取調を為したる後判事に異動を生じ新なる判決裁判所を構成したる場合に於て該受命判事又は受託判事の取調に係る証人訊問調書若くは前記新なる判決裁判所構成以前に作製せられたる公判始末書中証人の供述を記載したる部分を採て証拠に供せんと欲せば宜しく之れを判決裁判所の法廷に現出し、刑事訴訟法第二百十九条第二項の規定に依り書記をして之を朗読せしめ以て適式なる証拠調を為さざる可からず 若し之れに反し判決裁判所に於て叙上の証拠調を為すことなく該証人訊問調書又は公判始末書を採て漫然之を断罪の資に供するが如きことあらんか、此れ則ち判決裁判所を構成すべき判事の一員若くは構成員に非ざる他の判事の取調べたる証拠調の結果を用ひて直ちに犯罪事実を判定せんとするものにして 判決裁判所自ら証拠調を為すことを要する 我刑訴法の精神を没却するものと謂はざる可からず、翻て本件記録を調査するに証人田中惣四郎は原審第二回公判廷に於て証人として供述したるも同第三回公判に於て判事に異動を生じ新なる判決裁判所を構成したるものなるを以て右証人の供述を証拠に採用せんと欲せば第二回公判始末書中其供述を記載したる部分を読聞け更に被告をして弁解せしめざる可からざるに毫も其手続を為したることなく直に該供述を採て断罪の資に供したるは叙上証拠調の法則に違背したるものと謂はざる可からず、但原告第三回公判始末書には「前回と同様なる証拠調をなしたる」旨の記載あるも該文詞に依りては到底前回公判始末書中証人として取調べたる田中惣四郎の供述記載を読聞けたる趣旨と解するに由なし 故に原判決は破毀を免れざるものとす。(大、刑、三)
<以上は、山崎今朝弥氏が著作者である。>
<旧仮名遣いはそのままとし、旧漢字は適宜新漢字に修正した。>
<底本は、東京法律事務所『月報』第10号4頁、大正4年(1915年)6月20日号>
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