事務所で受けた裁判(2)


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事務所で受けた裁判(2)
 一、玉石同架次第不同大小取交の事
 一、但素人にも玄人にも良く利く事
          山崎今朝彌 集
○十五才未満の養子の実親は自分の名で離縁の訴訟が出来る
          東地、民、一
 民法八百六十七条には養子が十五歳未満なる時は其実親より離縁の訴を起す事を得とあり他の似た場合の法文の如く法定代理人はとか代はりて起す事を得とか書いて無い、故に養子の実親自ら原告となり、原告の子何某と養親某とを離縁す、との判決を求むる事が出来る。
 富山地方裁判所では最近之れと反対に右様の原告の訴を却下して原告名義は養子自身でなければならぬと判決したが田舎の方が違ふてると思ふ。

○賭博常習者とお負け
          大、刑、三
 賭博常習者が月日を異にして、数十回賭博を為したる時と雖も之を包括的に観察して一罪と為すべきものなれば常習者たる被告が数回賭博を為したるに対し一箇の賭博罪を犯したるものと為したる原判決は相当なり、蓋し何回も為すべき事が常習賭博の性質なれば、一つ以上はお敗けとの意あり。

○刑事上の証拠に制限なし
          大、刑、二
 刑事上の証拠には何等の制限なければ検事が犯罪捜査の為め人の任意陳述を録取したる聴取書及び医師に命じたる鑑定書を断罪の証拠に供するも違法にあらず。

○判決言渡の公行
          大、民、三
 民事訴訟法第百二十九条第五号は対審を公開し若くは公開を禁止したることに関する規定なれば判決に接着する口頭弁論迄の調書に弁論公開の旨を記載すれば足り判決言渡期日の場合は該規定中に包含せざるものとす、従て判決言渡調書に弁論公開の記載なきも不法にあらず、と、併し実際公開せずに判決を言渡したら何とする、刑事ならば此場合上告の理由となる事当然なり。

○本訴と反訴、地方と区
          大、民、一
 地方裁判所の訴訟に於ては反訴を為すには本訴の答弁書差出期間内(十四日内)に之を提起する事を要し右期間経過後に係るときは縦令相手方より何等の異議を述べざりしとするも其反訴は無効なるに相違なけれど区裁判所に於ける第一審訴訟手続に於ては答弁書の差出を必要とせざるを以て答弁書差出の期間なるもの存せざる結果反訴は判決に接着するに弁論の終結に至る迄何時にても提起するを得べきものなり。

○相殺により債権消滅したる場合も証書の取戻が出来る
          大、民、一
 民法第四百八十七条の規定を以て弁済者に債権証書返還の請求権を認めたる立法上の趣旨は畢竟債権証書は債権の成立を証明するの具に過ぎざるを以て債権が弁済に依り消滅せる以上債権者は之を保有する必要なきのみならず或は債権者は其手裡の債権証書を利用し再び弁済を請求するの危険あるを慮るに出でたるものなれば此規定の精神は独り債権が弁済に依り消滅したる場合のみならず更改相殺免除其他の原因に依り債権の消滅したる場合にも箝当し得べきものなるを以て弁済以外の原因に依り債権全部消滅に帰したる場合にも亦債務者は債権証書返還の請求権を有するものなりと解するを妥当とす。

○一審手続の不法と上告
          大、民、二
 控訴審の訴訟手続にして適法に行はれたる以上は仮令第一審に於ける訴訟手続に違法ありとするも之を以て上告の理由と為すことを得ざるものとす。

○証人の援用は調書に記載する必要なし
          大、民、一
 原審口頭弁論調書には上告人の主張する如く其第一審証人の証言を被上告人に於て援用したる記載なしと雖も原判決事実摘示の部には援用したる旨を記載しあるが故に其記載に徴し援用の事実明白なれば原判決には不法の点なきものとす。

○被告が其被告事件に付偽証教唆をなすは証憑偽造にあらず
          大、刑、一
 因て按ずるに証憑湮滅の罪に付き所謂証憑の偽造とは証拠自体の偽造を指称し証人の偽証を包含せざること勿論なり故に被告人に於て自己に対する刑の被告事件に関し法律に依り宣誓したる証人をして虚偽の陳述を為さしめたりとするも自己の刑事被告事件に関する証拠自体を偽造したりと云ふ事を得ず。

○予審公行は勝手なり
          大、刑、一
 予審手続は原則として之を密行すべきも予審に関する一切の処分は公行を許さず之に背きたるときは必ず其処分を無効と為すべき旨の法規存せざる以上、之を密行せざるの故を以て直に之を無効なりと論断するを得ず所謂証人訊問は予審判事の嘱託に依り其性質固より予審処分に属すると謂はざるべからざるも其公開は未だ右訊問を当然無効に帰せしむべき原因と為すに足らず。
<以上は、山崎今朝弥氏が著作者である。>
<旧仮名遣いはそのままとし、旧漢字は適宜新漢字に修正した。>
<底本は、東京法律事務所『月報』第9号4頁、大正4年(1915年)5月20日号>
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