事務所で受けた裁判(1)


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事務所で受けた裁判(1)
 一、玉石同架次第不同大小取交の事
 一、但素人にも玄人にも良く利く事
          山崎今朝彌 集
■裁判は賭博の一種なり
          東地、東控
 蛎殻町に●<●はカネ+久>と云ふ米穀仲買人があつた、本人は更に店に出ず其実子が萬事切り廻し本人の名で手形小切手約五十萬円を振出し四十何萬円は滞りなく落ちた、不渡りとなつた五六千円に対して本人に手形金請求の訴を起し其訴訟は東京地方裁判所の二部と三部に繋属し同じ事情同じ証拠同じ弁護士で裁判終結、判決は三部では手形は偽造でないからとて原告が勝ち、二部では手形は偽造だからとて被告が勝つた、控訴の結果控訴院の一部と三部に繋属し矢張り全く同一の証拠事実弁護士等で判決を受けたら一部は地方三部の理屈で原告勝ち三部は地方二部の理由で被告の勝、「先生裁判は籤を抽くとは違いましやう、ソンナ馬鹿の話はありますまい、是非上告して下さい」と敗けた方の原告、成程一理ありで上告した処が大審院は「抑々訴訟は賭博の一種にして人民は訴訟の目的たる財産を印紙代と称する寺銭を支払い賭場たる法廷に於て判事の判断又は認定と云ふ骨子に賭け勝敗を争ふものなれば、本件に於て偶然甲部の判事は赤と申し乙の判事は白と見込たり迚法律上当然の事にして何等不法の点あるなければ上告適法の理由とならず」と棄却するに相違なければ上告は見合せ貸金訴訟として新に訴を起した、人民こそ良い面の皮である。

■賭博と取引所法違反
          大、刑、三
 刑法第百八十五条の賭博行為中取引所に依らずして取引所の相場に依り差金の授受を目的とする行為を為したる者に就ては大正三年法律第三十三号取引所法施行以後は刑法第百八十五条を適用せず取引所法第三十二条の五に依り処断すべきものとす只常習として空相場を為す者は即ち常習として賭博を為す者なるを以て取引所法第三十二条の五の但書に依り刑法第百八十六条を適用すべきものとす。

■書類の表題を示すのみにては其内容は証拠とならず
          大、刑、一
 原判決は、被告が田三筆の地所の所有権を豊三郎に移転したるに拘はらず同人より登記名義の書替手続を求むるも之れに応ぜずして擅に之を妻に譲渡し所有権移転の登記手続を為して横領したる事実の証拠として、「本件記録第二十五丁の土地登記簿謄本」と掲げたる点を以てせんとするに在るものの如く認め得らるるも、単に此の如く掲げたるのみにては果して其登記簿中の所有者名義が妻の名義になり居る点を以て本件の証拠としたるものなるか否全々不明に属するが故に之を以て証拠説明ありたりと謂ふを得ず、故に原判決は罪となるべき事実に対する証拠理由を付せざる失当あり破毀せるべきものとす。

■返済期限の到らざる利息は返済期限の到りたる元金より先に支払ふ可きものなり
          大、民、三
 太郎作は治郎兵衛より二口の借金あり、一口は千円無利息にして返期は本年一月十日、本年三月一日よりは年一割の利子(損害金)、一口は二千円年一割の利子にて返期は本年十二月末日元利同時支払ひの約束、此口は昔しの借金故本年二月末日には利子千円に達す、治郎兵衛は返期来りとして頻りに千円口の催促をなす故、太郎作は三郎より高利にて千円を借り受け、三月五日為替にて治郎兵衛に借金返済の為め送金せり、治郎兵衛は之れを二千円口の二月末日迄の利子に取ると主張し、太郎作は二千円口の利子は十二月末日迄返期の来ないものなれば千円口の元金に取つて呉れと主張し遂裁判となりたるに、
 大審院は「民法第四百九十一条第一項は利息と元金との経済上の性質に鑑み公平の観念に合せしめんが為めに特に期限の至らざる利息と雖も期限の至りたる元金より先きに支払ふ可きものと定めたるものなれば本件太郎作の支払ひたる千円は二千円口の利息に支払はるべきものなり」と判決せり、何が公平で何が経済上の性質なるかは知らぬが、此判決五年と持つたら大出来と思ふ。
<以上は、山崎今朝弥氏が著作者である。>
<旧仮名遣いはそのままとし、踊り字は修正し、旧漢字は適宜新漢字に修正した。>
<底本は、東京法律事務所『月報』第8号4頁、大正4年(1915年)4月20日号>
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