施政方針を論じて上告の破毀に及ぶ


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施政方針を論じて上告の破毀に及ぶ
          山崎今朝彌
■乾坤一新仕り候へ共当部は相変らず呉下の阿蒙共にてやり居り申候、併し乍ら去り乍ら調査員も皆十数年間斯業の経験者にして剰へ連合諸強国連帯責任の協同の応援も有之候へば其点に関しては毫末も遺憾なき事を期し申候。
■小生も昨年十一月以来「ツンボ」と共に当部主任より其専任と躍進、趣味と熱心と希望と野心とを以て頗る奮闘仕り本年コソは諸君に目に物見せ呉れんと覚悟致し候に付き東京上告専門処以来の交誼に免じ盛に御試験の程願上候。
■新年早々には御座候へ共、最近二年間に於ける刑事上告破毀判決の理由を左の如く分類したるもの、訴訟参考にもと御目に懸け申候。
 (一) 起訴の適否及審理の範囲に関する事項
 イ 起訴なき事実に付審理判決す
 ロ 起訴の範囲内に属する事実を範囲外と認め公訴不受理の判決を為す
 ハ 予審請求書の作成場所を適法に削除し更に作成場所を記入したるも捺印を欠き公訴提起の効力なきに拘はらず本案に付審理判決す
 ニ 控訴の範囲内に属せざる事実に付審理判決す
 (二) 公判に於ける一般の手続に関する事項
 イ 弁護人に適法の呼出を為さず且弁護人欠席の儘審理判決す
 ロ 重罪事件に付弁護人の立会なくして審理を遂行す
 ハ 検事の控訴に係る事件に付其控訴趣旨の陳述を聴かずして審理判決す(審理を更新したる場合の公判始末書に検事の控訴趣旨陳述の記載を遺脱したるなり)
 ニ 列席判事に異動を生じたるに拘はらず手続を更新せずして審理判決す
 ホ 重罪事件に付公判開廷前に下調の手続を為さずして審理判決す(本項中には一度下調を為したるも故障申立受理後の公判開廷前に更に下調手続を為さざりしものあり)
 ヘ 重罪事件の下調調書に其訊問の日の前日に当る作成日付の記載あるが為め該手続を有効と認むるを得ざるに拘はらず之を有効と認め公判手続を遂行す)
 (三) 公判始末書に関する事項
 イ 公判始末書に弁論を公開したる旨の記載又は立会検事の官氏名の記載を遺脱す(本項の事由は何れも審理更新したる場合の公判始末書に付生したるものなり)
 ロ 公判始末書に所属官署の印を押捺せず
 ニ 公判始末書の公判期日を記載すべき場所に文字改竄の痕跡あり且該文字不明なり
 ホ 対席判決の言渡を為したるに誤て欠席判決の言渡を為したる旨を記載す
 ヘ 判事の異動に因り審理を更新したる公判の始末書中に其後の作成日付ある他の公判始末書の記載事項を援用す
 (四) 証拠調の手続に関する事項
 イ 弁護人の為したる証人喚問の申請に対して許否の決定を与へすして審理終結す
 ロ 書類取寄の決定に基き其送付方を照会したるに他の関係により既に回送しあるを以て取調を乞ふ旨の回答ありたるに書類なしとの回答ありたる旨の告知を為し他に何等の手続を為さず
 ハ 証拠決定に基き受命判事の訊問したる証人調書を公判に顕出して取調を為さず
 ニ 証拠決定に基き取寄せたる書類を公判に顕出して取調を為さず
 (五) 虚無の証拠の採用
 イ 盗難届、聴取書、予審調書、鑑定書、第一審公判始末書其他の書類の記載の趣旨に反し又は記載なき趣旨を罪証に供す
 ロ 判決に引証したる被告人供述の趣旨と其供述を録取したる第一審公判始末書の記載と抵触す
 (六) 無効の証拠の採用
 イ 判決言渡の為め指定したる期日に於て弁護人出廷せざるに拘はらず弁論再開の上訊問したる鑑定人の鑑定書を罪証に供す
 ロ 弁護人に対し適法の呼出を欠き弁護人不出廷の儘開きたる公判に於ける被告人の供述を罪証に供す
 ハ 重罪事件に付下調手続を為さずして開廷したる第一審公判の被告人供述を罪証に供す
 ニ 検事の被告事件陳述なきに拘はらず訊問したる証人の供述を罪証に供す
 ホ 共犯人として訴追せられたる者を証人として訊問したる予審調書を罪証に供す
 ヘ 宣誓能力なき者に対し宣誓の上為さしめたる証言を罪証に供す
 ト 公判始末書に宣誓せしめたる旨の記載あるも宣誓書の存在せざる証人の証言を罪証に供す
 チ 共犯者たる他の被告人と証人間に於ける身分関係を問査せずして訊問したる証人の証言を罪証に供す
 リ 民事原告人と証人間に於ける身分関係を問査せずして訊問したる証人の証言を罪証に供す
 ヌ 林務官が非現行犯に付作成したる検証調査を罪証に供す
 ル 予審判事の署名又は捺印を欠ける予審調書を罪証に供す
 オ 裁判所書記の捺印を欠ける予審調書を罪証に供す
 ワ 所属官署の印を押捺せず又之を押捺すること能はざる事由を記載せざる予審調書を罪証に供す
 カ 契印を欠ける予審調書を罪証に供す(契印を為したるものならんも其形蹟判明せざりしか為め契印を欠けるものと認められたるものあり)
 (七) 採証に関する法則違背
 イ 朗読せざる書類を罪証に供す(判決に引証したる書類に付公判始末書に朗読の記載を欠けるなり)
 ロ 展示の方法に依らざれば其内容を認識せしめ得ざる検証調書添付図面又は或る印顆の存在に関する書類を展示せずして罪証に供す
 ハ 告訴状に押捺しある受附印の部分を特に朗読又は展示せずして罪証に供す(公判始末書に告訴状を朗読したる旨記載あるも受附印の部分に付き特に読示したる旨の記載なかりしなり)
 ニ 参考人として訊問したる者の調書を証人調書として罪証に供す
 ホ 被告人として訊問したる予審調書を証人調書と誤認し罪証に供す
 (八) 判決に関する法則違背
 イ 罪となるべき事実の一部に付証拠上の説明を欠く
 ロ 証拠理由に単に証人として陳述したる状態と云ふのみにして如何なる状態なりしやの説明を欠く
 ハ 第二審に於て併合罪に付裁判する場合に両審級が重き一罪に対して科したる刑が同一に帰するも其他の罪に付為したる刑の選択にして相異るときは第一審判決を取消ささるへからさるものなるに之か取消を為さず
 ニ 第一審に於て連続犯として処断したるものを第二審に於て単純の一罪と認めなから第一審判決の取消を為さず
 ホ 第一審判決に審理に関与せざる判事の署名あるに拘はらず之が取消を為さず
 ヘ 第一審判決は検事が被告事件を陳述したる事跡なき違法の公判手続に基きたるまのなるに之が取消を為さず
 ト 第一審判決は公判期日を弁護人に通告せず且弁護人欠席の儘審理判決したる違法あるに拘はらず之が取消を為さず
 チ 被告人のみの控訴申立なるに拘はらず訴訟費用の負担又は未決勾留の通算を不利益に変更す
 リ 有罪の言渡を受けたる事件に全く関係なき公訴訴訟費用を負担せしむ
 ヌ 共犯関係なき被告人に訴訟費用を連帯負担せしむ
 ル 第一審判決が被告両名の共謀に出でたりと認めたる行為を単に其内一人の行為なりと認定し第一審判決を取消したるに拘はらず他の一人に対し何等の判決を為さず
 オ 判決言渡の前日の日付にて公訴不受理申立書と題する書類記録中に編綴しあるに拘はらず之に対し何等の裁判を為さずして本案の判決を為す
 ワ 賍物故買事件に付賍物の還給を為すに当り騙取者と被害者との民法上の関係を判示することなく直に被害者に還付の言渡を為す
 カ 恐喝に因て得たる証書を還給するに当り被害者の取消の意思表示を俟たずして直に被害者に還付の言渡を為す
 ヨ 賄賂の価額を追徴するに付刑法第百九十七条二項の規定を引用せす
 タ 理由不備
 (九) 私訴に関する事項
 イ 故障期間経過後に係る民事原告人の故障申立を期間内の申立として受理審判す
 ロ 私訴の控訴申立に付ては代理を許すに拘はらず之を不適法として却下す
 ハ 公訴に係る犯罪の証憑十分ならざる場合に於ても私訴に付ては特別に其請求の当否を判定せざるべからざるに拘はらず犯罪の証憑十分ならざるに付民事原告人の請求は其当を得ずとして却下し其請求の当否を根本的に判断せず
 ニ 公訴附帯の私訴判決には仮執行の宣言をなすことを得ざるに拘はらず之が宣言を為す
 ホ 詐欺の手段に出でたる仮差押処分の基本たる仮差押命令取消の請求は私訴として許すべきものなるに之を却下す

右の外擬律錯誤、親告罪に付告訴の抛棄及び大赦等に関する事項は略之
<以上は、山崎今朝弥氏が著作者である。>
<旧仮名遣いはそのままとし、旧漢字は適宜新漢字に修正した。>
<底本は、東京法律事務所『月報』第5号3頁、大正4年(1915年)1月20日号>
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