論文『弁護士改正論』


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論文『弁護士改正論』

 山崎には、『弁護士改正論』という論文がある。初出は山崎が所属していた東京法律事務所の機関誌『東京法律』第25号(大正5年11月1日発行)1頁、第26号(同年12月1日発行)3頁であり、同論文は雑誌『新社会』第3巻5号(大正6年1月1日発行)40頁に転載されている。
 その内容は、弁護士には階級・地位の差はない。しかし実態として弁護士は少数の資本主たる「元老弁護士」と多数の被庸者であり使用人である「青年弁護士」にわかれる。それでは元老弁護士と青年弁護士との間に実力の差はあるか。否である。元老弁護士というのは虚名にすぎず、元老弁護士は青年弁護士の学才を盗んでいる。今日の弁護業務の実際は賃金を得て働く青年弁護士によってなされていながら、請負名義が元老弁護士であるために依頼人は巨額の報酬を要求されている。もし青年弁護士が直接に事件を引き受けたならば依頼人は報酬の低廉による多大の利益を得、青年弁護士もその低廉の報酬でさえ従前より多くの所得を得ることになるだろう。弁護士報酬の低減を主張実行する者に対し弁護士の品位面目を傷つけるものだと反対するのは青年弁護士との生存競争に畏怖する元老弁護士である。これに賛成する青年弁護士は無知である。弁護士と称する平等の名称資格に眩惑され、資本主と労働者の関係にあることを認識していないからである。青年弁護士は自らが労働者であり被庸者であり賃金奴隷であることを自覚すべきである。資本主に対抗するためには、団結しストライキなりサボタージュをすべきである。法廷は欠席し、訴訟は延期し、調査立案は粗漏にすべきである。日本弁護士協会を脱会し、出身学校と絶離すべきである。労働者の地位を増して資本家的弁護士を一掃し、弁護士界における奴隷関係を絶滅し、弁護士報酬を低廉化にし、依頼者の負担を軽くし、多数弁護士の生活を安全にすべきである。という過激な内容を含むものである。
 この論文は、『東京法律』においては「独逸 Buchner教授、日本 山崎今朝彌、合著」という名義で発表されている。山崎自身の注釈によると「本書ハBuchner教授ノ名著『喧嘩哲学』(Die Zankenphilosophie)ノ一節ヲ抄訳セルモノナリ。敢テ訳ト銘打タザルハ、誤訳指摘流行ノ今日、未ダ独逸語ニ十分ノ確信ナキ予ノ臆病ト、及ビ原文ノ意ヲ日本ノ弁護士界適用セシメ、且ツ多少ノ私見ヲ加ヘタル点ニ於テ、寧ロ合著トスルノ優レルニ如カズト考ヘタルニ依レリ」とされ、本文中の単語にもドイツ語のかっこ書きが多数付されている。ところが、『新社会』においては内容はほぼ同一であるにもかかわらず、山崎の単独名義として発表され、ドイツ語のかっこ書きも消されている。これはどういうことか?
 図書館の蔵書検索サービスである、NDL-OPAC(国立国会図書館の蔵書検索)、NACSIS Webcat(全国図書館蔵書の横断検索)において、「喧嘩哲学」、「Die Zankenphilosophie」なる著書は該当なしであった。山崎の著書『弁護士大安売』には、「偶に書いた『弁護士改正論』は丸切り社会主義論だと怒る」(第一編、去るの記)とあり、この論文について山崎は東京法律事務所の同人から批判されたようである。また、雑誌『新社会』の出版時期は山崎が東京法律事務所を退所した時期とちょうど符合する。
 これはあくまで推測であるが、山崎はこの論文が社会主義的内容を含むことから、東京法律事務所の同人に遠慮して、架空の外国の大学教授の論文の翻訳(合著)と仮託したのではないか。そして、その後山崎は同事務所を退所し、同人に遠慮する必要がなくなったため、『新社会』においては晴れて自己名義の論文として「弁護士改正論」を発表したのではないか。
 この推理が正しいとすれば、外国の大学教授の権威を借りるとはいかにも山崎らしい。
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