此の子此の親

此の子此の親
          山崎今朝彌
 布施君が、(無粋の)古田君の本を読むと引ずり込まれる。(詩人の)中濱君の書いたもの読むと議論をしたくなる。といふ意味の事を云つた。僕も例により括弧内の文字だけ附け加へて全部賛成した。
 今度本が出ると古田君のお父さんがすぐ一冊持て来て呉れた。一二時間かかつて一通り所謂飛び読し、改めて初めから本ん読し今日は丁度三百頁の所に居る。何処を読んでも僕は古田君のお父さんと初体面した時の事を憶い出さずには居れない。難波大助の親爺某なる者が大助を極度に憎悪無視して一世の同情と賞讃とを一身一家に聚め天下の風教を独りで維持して居る真ツ最中、其れを知るや知らずや古田君のお父さんは血と涙とを以て古田君の生立人柄性質行動を一々語られ確信誠意以て極力古田君の無罪を説かれた。堪へ切れず思はず泣かされた。僕は此時、百巻の御経念仏よりも此真情をこめた一つの弁護が一番有効である。此弁護を聴いて動かざる人間の裁判所はあり得ないと堅く決心し、公判廷でお父さんを証人として弁護をして貰はふと思つたのだつたが古田君自身の反対で果されなかつた。
 今古田君の本を読むと到る処に此父にして此子がある。話に聞いてさへ家庭円満親子兄弟仲良しは美しく、美しい。汝臣民克く孝に兄弟相和し朋友相信じは仮令何処にあつたとしても悪くない。僕は古田君が云つてる様に古田君は不運不幸の人ではなかつたと思ふ。
 僕は先日古田君のお父さんにザツト左の意味の手紙を出したらスグ承知の返事があつた。君(加藤君の事)等(布施君、江口君等の事)も考へて置いて貰いたい。
 ご本は大体読みました、古田君其儘の本で実に良い本ですが解放に書いて呉れたものや手紙の方が一層良いように思ひます。既に雑誌等に載つたものや手紙等を一冊出して呉れる処はないでせうか。もしないなら古田君も、一人では淋しいから皆の衆と一緒に本を一冊出して貰いたいと云つて居たから、僕の処やお宅や其他方々にある手紙と村木君中濱君等故人の手紙計りを一冊集めて出さうかとも考へて居ます。御考置きを願ます。(七月四日喜多見高台にて)
<以上は、山崎今朝弥氏が著作者である。>
<旧仮名遣いはそのままとし、旧漢字は適宜新漢字に修正した。>
<底本は、『復刻版原始』(不二出版、1990年)、底本の親本は『原始』(原始社)第2巻8号33頁、大正15年(1926年)8月1日発行。>
最終更新:2009年11月10日 19:37
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