3.24・期日進行再度上申書・懲戒裁判所の判決(第一審東京控訴院)


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期日進行再度上申書
大正十一年(よ)第壱号事件に付左に上申候。
      要領
 口頭弁論期日一日も早く御指定相成度候。尤も期日と通知との間は極めて短く願上候。明日の期日が今日の通知にても差支無之候。判決言渡は即日に願度、送達一切は電話により当方より書記課へ出頭請取候て差支無之候。
 右希望申上候。
      理由
 実の処小生は本件を拾ひ物の様に考へ居り、こんな事で人に厄介をかけてはと、凡て消極的に謹慎仕り候処、友人は色々と心配して呉れ、会ふ毎に結果や成行を聞かれ又は意見を提出され、其親切に困り居り候。之れを無視し何時迄もだまし通すは何だか悪い様な気持が致し候。と申して一々正直に報告するも何んだか同情に甘へる様にも見え、之れも厭に候。依て小生は二三日又は五六日病気して、此間に疾風迅雷的に、判決言渡より控訴申立迄済まし、然る後一々報告かたがた控訴審の弁護を依頼し度と考へ居り候。(一審は前に上申した通り欠席します)
 最初は控訴なぞする考も無之候ひしが、小生と全然考を異にする友人沢山有之、何処までも強情を張り通せる程の変人で無き小生は、遂に不本意ながらも之れに服従することと相成候。併し平凡に終るは矢張残念で堪らず候故、思ひ切つて思ふ存分の控訴理由を自分で書き、之れに懼れす驚かす、喜んて弁護して呉れる者だけの弁護を受けて見度く、突然控訴する考になりました。従つて其れ迄は是非凡て極内密に致し度検事局の方では書記課より新聞記者に洩れた例も有之候へば此点も何卒宜敷願上候。
 大正十一年五月卅一日      右上申人 山崎今朝彌
東京控訴院に於ける懲戒裁判所 御中



懲戒裁判所の判決(第一審東京控訴院)
      判決
          東京市新桜田町十九番地
          平民
          東京地方裁判所々属弁護士
          山崎今朝彌
          明治十年九月生
 右に対する懲戒事件に付き検事三浦栄五郎干与の上審判する如左
      主文
 被告今朝彌を停職四月に処す
      理由
 被告今朝彌は東京地方裁判所々属弁護士にして其業務に従事中曩に第二審として広島地方裁判所刑事部に繋属したる新聞紙法違反被告事件に付き判決を以て有罪の言渡を受たる被告人小川孫六同丹悦太の選任に因り同被告等の上告審に於ける弁護人と為り、大正十一年二月廿日上告趣意書を大審院に提出したる所其の論旨中第一点前段に於て「広島地方裁判所が前記被告人等に対し有罪なりと認定したる新聞紙の記事は文詞用語頗る冷静平凡奇矯に失せず激越に渉らず十数年来萬人の文章演説に上り都鄙各所に行はれたる常套の論議なれば毫末も社会の平静を紊り共同の生活を乱すものにあらず」との旨を説示し、更に第二段に於て「若し之をしも強ひて安寧秩序を破壊するものなりとせば日常毎日の新聞雑誌は悉く秩序紊乱となり之を不問に付する全国の司法官は前記有罪判決に関与したる判事山浦武四郎江本清平西巻芳二郎三名を除くの外皆な偉大なる低能児の化石なりと謂はざるを得ず、天下豈此の如き理あらんや、然らば広島地方裁判所が之を以て安寧秩序を紊乱するものと為し新聞紙法の罰条に問擬したるは不法も亦甚しく真に呆きれて物か言へすと云はざるを得す」との語句を羅列したるものなり
 証憑を案するに
 一、東京地方裁判所検事局書記尾崎力の作成に係る弁護士名簿の謄本に長野県平民山崎今朝彌明治十年九月廿五日生は明治四十四年二月十七日弁護士会へ加入し且つ甲府地方裁判所属より登録換になりし旨の記載
 一、被告小川孫六同丹悦太に対する新聞紙法違反被告事件記録中広島地方裁判所の公判始末書に同裁判所刑事部に右両名に対し新聞紙法違反被告事件の控訴が繋属し其構成員は裁判長判事山浦武四郎判事江本清平同西巻芳二郎なる旨の記載並に同裁判所の判決書に右被告両名を各有罪に認定して罰金刑に処したる旨の記載
 一、同上被告事件の記録中の弁護届に小川孫六丹悦太の両名より大審院に宛て弁護士山崎今朝彌を以て右両名に対する新聞紙法違反上告事件の弁護人に選任する旨の記載
 一、大正十一年二月廿日付弁護士山崎今朝彌が大審院に提出したる大正十一年(れ)第九九号小川孫六丹悦太上告趣意書第一点に原判決か安寧秩序紊乱として判示したる被告等署名発行本件記事は判示の如く自由?死?と題し第一段に現代社会の幸福は所謂「ブルジヨアジー」のみの享くる所にして無産者は毫も顧られざることを論じ其例として言論の自由は憲法に於ては保証さるる処なるも事実に於ては保証金なき「プロレタリア」は一新聞をも発行するを得ざることを挙げ第二段に社会運動者が常に不法の圧制干渉を受くる事総ての法律規則が特権階級に有利にして無産者の保護に欠くる所ある事罰則の適用も亦「ブルジヨアジー」には比較的寛大なることを説き末段に於て現在の特権階級は跋扈跳梁専恣横暴を極むるが故我等は全力を尽して無産者の為め暁鐘を撞かんとするものなりとの趣旨を述べたるに過ぎずして事実全く其通り少しの誇張も虚飾もなく文詞用語も亦頗る冷静平凡奇矯に失せす激越に渉らず十数年来萬人均しく文章に演説に都鄙到る処に言ひ古されたる有触れたる論議なれば毫末も社会の平静を紊り共同の生活を乱すものにあらず若し之をしも強ひて安寧秩序を破壊するものなりとせば日毎日常の新聞雑誌は悉く秩序紊乱となり之れを不問に付する全国の司法官は原審判事山浦武四郎殿江本清平殿西豊芳二郎殿三名を除く外皆偉大なる低能児の化石なりと謂はざるを得す。天下断して豈此の如き理あらんや。然らば原審が奮然と意を決して之れを安寧秩序紊乱と目し新聞紙法第四十一条に問擬したるは不法も亦甚だしきもの真に呆きれて物か言へずと云はざるを得ず、原判決は畢竟破毀を免れさる旨の記載
 一、東京控訴院検事三浦栄五郎の山崎今朝彌に対する聴取書に其供述として大審院十一年(れ)第九九号被告小川孫六同丹悦太新聞紙法違反被告事件上告趣意書は自分が作成して大審院に提出したるものなり其記載中偉大なる低能児の化石云々の文字及其前後の文句殊に山浦江本西豊の三判事の氏名を掲げたること又真に呆れて物が言へず云々の文句の如きは誠に穏当ならざる言句なりと思惟す、就中右三判事の氏名を列挙せざりしならばまだ宜しかりしが其氏名を掲げたることによりて甚だ穏当を欠くことに至りしなり。実を申せば文章として書くときには左様に悪しき文句と思はずに書き之れを上告趣意書として提出したりしが今熟読して考ふれば洵に不穏当の言句と思惟せらる、自分は本件に付き弁明の意味にて中央法律新報に自分の考を寄稿したり、夫れは大正十一年四月初旬頃なる旨の録取記載
 一、大正十一年四月十五日発行に係る中央法律新報に執筆人山崎今朝彌名義にて我輩の懲戒問題の題下に法律新聞第千九百五十五号に山崎弁護士の奇異な上告趣旨と云ふ題で弁護士山崎今朝彌は今回民権新聞に対する新聞紙法違反事件に付きて上告趣意書を大審院に差出したるが其趣意書中の一節に曰く若し之をしも強いて安寧秩序を破壊するものなりとせば日毎日常の新聞雑誌は悉く秩序紊乱となり之を不問に付する全国の司法官は原審判事山浦武四郎江本清平西豊芳二郎三名を除く外皆偉大なる低能児の化石なりと謂はざるを得ず。天下断して豈に斯くの如き理あらんや云々原裁判は真に呆きれて物が言へずと云はざるを得ず云々猶同氏は曩に麹町警察の巡査及警部を傷害被告人として東京区裁判所へ告発したるが萬一検事が右暴行巡査の氏名をさへ遠慮するが如きことあらば由々しき一大事なりとて其趣を葉書に印刷し塩野検事を始め諸方へ配布しつつありと云ふ記事が出ると間もなく都下十数の新聞に僕が其の為め又懲戒裁判に付せられたとかの記事が大々的に報道された二三日我慢したが僕が遂々敗けて各社に取消文を送つた「四五日前の貴紙上に私の出した上告趣意書が過激だつたとの理由で私が懲戒裁判に付せられた旨の記事が出ましたがあれは途方もないうそ間違ですから宜敷御取消を願ひます、元来私は懲戒されない事を左程名誉とも思つていませんから懲戒された処が決して不名誉とも思ひませんから此点では取消して貰ふ必要もありませんが、あの記事の為めに当然無罪になるものが有罪になつたり又は常に事を好み上を憚らざる不届者奴がなどと其筋からにらまれたりしては困ります、既に懲戒裁判があつたものと早呑込して四方八方から悔みや見舞を受けてるにも弱つています。元来あんな無茶の判決を攻撃叱咤するにあの位の文句を使用する事は吾々の権利であらねばなりません。思想問題に関しては大審院は下級裁判所より厳刑主義を採り原判決を取消すなどのことはそれが仮令従来にない例であらうともこれに限つては必らず原判決が破毀され被告が無罪とならねばなりません。かような確信の下に書いた私の上告趣意書少しは過激に渉つた点ありとするも一字一句一句一節のみ読ます文章全体を読んで貰へはそう大した問題になる程の不穏文書でないことは私が誓て全国の司法官も保証する処であります。右全文御掲載の上全部御取消相成度し」然るに飽くまで非を遂け我を通す新聞社は期せずして一致して此取消を出してくれなかつた。依て私は貴紙を借り問題の論文と問題の上告趣意書とを発表して総てを解決する旨記事の掲載
あるに依り判示事実を認定するに十分にして其第二段の論旨は前段の趣旨を布衍釈明するに付き何等必要なく唯徒に判決裁判所の構成員を刺譏したるに止り当該被告事件の上告趣意書として甚しく不謹慎なる言辞を弄したるものと謂はざるを得ず。其行為は弁護士の体面を汚すべきものにして東京弁護士会々則第三十九条に該当するを以て弁護士法第三十三条第三号を適用し主文の如く判決す
 大正十一年六月十二日      東京控訴院に於ける懲戒裁判所
                 裁判長判事 牧野菊之助
                 判事 西郷陽
                 判事 遠藤武治
                 裁判所書記 澤路茂樹
 右謄本也
 大正十一年六月十二日      東京控訴院に於ける懲戒裁判所
                 裁判所書記 澤路茂樹
<山崎今朝弥著、山崎伯爵創作集に収録>
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