3.20・懲戒裁判開始決定


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懲戒裁判開始決定
          東京市芝区新桜田町十九番地
          平民
          東京地方裁判所所属弁護士
          山崎今朝彌
          明治十年九月生
 右に対し当院検事長豊島直通より懲戒裁判開始の申立ありたるを以て当裁判所は左の如く決定す
      主文
 弁護士山崎今朝彌に対し懲戒裁判を開始す
      理由
 被告山崎今朝彌は、東京地方裁判所所属弁護士にして其業務に従事中曩きに広島地方裁判所に於いて新聞紙法違反事件に付、有罪の第二審判決を受けたる被告人小川孫六同丹悦太の選任に因り該事件に於ける上告審の弁護人と為り、大正十一年二月二十日上告趣意書を大審院に提出したるが、其論旨第一点前段に於て「第二審裁判所の有罪と認定したる事実に係る新聞紙の記事は文詞用語頗る冷静平凡奇矯に失せず激越に渉らず、十数年来萬人の文章演説に上り都鄙各所に行はれたる常套の論議なれば毫末も社会の平静を紊り共同の生活を乱すものにあらず」との旨を云ひ、更に第二段に於て若之をしも強ひて安寧秩序を破壊するものなりとせば日毎日常の新聞雑誌は悉く秩序紊乱となり之を不問に付する全国の司法官は原審に関与したる判事山浦武四郎外二名を除くの外皆偉大なる低能児の化石なりと謂はざるを得ず。天下豈此の如き理あらんや、然らば原審が之を安寧秩序を紊乱するものとして新聞紙法の罰条に問擬したるは不法も甚しく真に呆きれて物が言へずと云はざるを得ず」との語句を羅列したるものなり。
 右事実は大審院検事局裁判所書記松原武一郎作成に係る被告今朝彌の上告趣意書謄本及検事三浦栄五郎作成に係る山崎今朝彌の聴取書に徴し之を認定するに充分なり。
 前示第二段の論旨は前段の趣旨を述ふるに付何等必要ならず、且当該被告事件の上告趣意書として甚しく不謹慎なる言辞を弄したるものと被認其行為は弁護士の体面を汚すべきものにして、東京弁護士会々則第三十九条に違背するを以て、弁護士法第三十四条判事懲戒法第十七条に則り主文の如く決定す。
 大正十一年四月十九日      東京控訴院に於ける懲戒裁判所
                 裁判長判事 牧野菊之助
                 判事 西郷陽
                 判事 遠藤武治
 右謄本也
 大正十一年四月十九日      東京控訴院に於ける懲戒裁判所
                 裁判所書記 澤路茂樹
<山崎今朝弥著、山崎伯爵創作集に収録>
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