各無産政党の本質と戦線統一の条件

各無産政党の本質と戦線統一の条件
          山崎今朝彌

   一、日本労農党方針書

      一、序言
 日本労農党の結党以来一ケ年の歳月は流れた。極左翼及右翼指導者の分裂主義を排して、階級的統一戦線の確立に向つて勇往邁進した過去一ケ年の苦闘史を願望する時、我等は無量の感慨を覚ゆるものである。この間同志の果敢なる闘争に依つて、我が党の基礎は確立し、今や外部に対して一大躍進をなすべき時機に際会してゐるのである。この際重ねて我が党の立場を宣明し、全無産大衆に対して階級的正道の炬火を揚げるのは我が党の誇りでありまた義務であると信ずる。

      二、客観的条件の解剖
 我が党は客観的条件の解剖に関して次の如く解する。
      イ、世界資本主義の現勢
 世界大戦後極度に動揺した欧洲の資本主義は、ブルジヨア階級の必死的努力に依つて辛くも一時の安定を得、その生産に於て、その経済的秩序に於て、稍戦前の状態に復することを得た。この欧洲資本主義の安定に伴つて、世界の資本主義もまた安定したかに見える。然し乍ら一度我等がかかる安定の背後を窺ふならば、それが不安定の安定であり、矛盾の再生産であることを認めざるを得ぬ。それは権力に依る安定であり、労農階級の抑圧と搾取、被圧迫民族の制圧と搾取に基づく所の安定であることを認めざるを得ない。
 産業の合理化の名の下に苛虐なる労農階級の搾取と反動政策の上に資本の安定を樹立してゐる中欧諸国及び伊太利、没落して行く悲運を植民地の搾取に依つて繋ぎとめんとして、帝国主義的痙攣を漸く露骨にして来た英国、最も溌剌たる資本主義国家として中には労農階級に欺瞞と懐柔を培ひ、外には強大な資本力を擁して帝国主義的侵略政策に転ぜんとしつつある北米合衆国、帝国主義的侵略政策を資本安定の唯一の槓桿とし、内外政策を専らこの見地から割り出さんとしてゐる日本。これ等の帝国主義的諸国と、帝国主義諸国の制圧及び搾取から脱却せんとしつつある植民地及び半植民地と、社会主義的経済秩序を有する労農ロシアと、この三個の要素に依つて世界経済は織りなされていゐるのである。従つて世界の資本主義が自らの生命を持続せんが為には、
 (一)国内に於ける労農階級を欺瞞懐柔するか、或はその反抗を決定的に抑圧することに依つて、言ひ換へれば、労農階級の犠牲に於てその利潤を維持しなければならぬ。
 (二)植民地に於ける独立運動を抑圧し、半植民地に於ける民族運動を阻止しなければならぬ。
 これが世界資本主義の唯一の安定策である。而して世界の帝国主義諸国の現になしつつあることもこれに外ならず、世界資本主義の過渡的安定は実にかかる条件の上に築かれたものである。
 然らば我々が世界資本主義の安定を以て高々一時的の安定であるとし、不安の安定であり矛盾の再生産であると言ふ所以は何故であるか?
 (一)国内労農階級の犠牲に於ける資本の安定、所謂産業の合理化政策は、失業者の続出に依る人口の相対的過剰をもたらし、永きに渡つて労農階級の反抗を抑止することが出来ぬ。現に労農階級の新なる反抗の声は所在に挙りつつある。
 (二)植民地及び半植民地の自覚に依る民族運動は漸く熾烈ならむとし、帝国主義諸国の搾取を排除せむとする機運は連りに動いてゐる。例へば印度の独立運動、支那に於ける打倒帝国主義運動の如きを見よ。而して世界の帝国主義諸国はこれ等植民地及び半植民地の独立運動を抑圧するに共通の利害を有すると共に、夫れ夫れ内部的の矛盾に依つて、これ等植民地及び半植民地の争奪に向つて相角逐せざるを得ない状態におかれてゐる。帝国主義的戦争の危険これである。
 (三)労農ロシアに対して経済的政治的の封鎖を敢てしながら、世界経済の一環として労農ロシアを除外することが出来ない。これ英仏等の諸国が労農ロシアに対して国交の断絶を敢てしながら国際経済会議に労農ロシアの代表者を招き、国際軍縮会議に労農ロシアの代表者を加へざるを得ざる所以である。
 世界の資本主義は、今かかる矛盾の上に立つた安定と小康とを保つてゐるのである。それがより大なる破壊の前の安定小康であり、矛盾の拡大されたる再生産であることは以上の事実に依つて明かである。かくして世界の資本主義が没落の一路を辿りつつあることは言ふを待たない。然し乍ら、一時的にもせよ資本の安定を見、戦後そのまま没落の急スロープを崩落しつつあるかに見えた資本主義がその陣営を建て直しつつあるの事実を勇敢に認める点に於て我等はかの極左分子と異り、この安定を以て恒久的と見ざるのみか、進んでこれを恒久化せむとする傾向と決定的に戦ひつつある点に於てかの極右と区別するのである。我等は、世界資本主義の安定への必死的努力に当面して、新なる抗争力を対抗すべき新戦術の必要を認むるものである。
      ロ、日本資本主義の状勢
 世界資本主義連鎖の一環として日本の資本主義も同じ運命を免れるものではない。殊に、貧弱なる自然資源を基礎とし、その誕生の日から帝国主義の揺籃に依つて育まれ、国家の輔導と侵略政策の上に辛うじて繁栄を築き来つた日本の資本主義は、今や、世界的没落の潮流に会して、絶えざる動揺を繰り返してゐる。大正九年の恐慌、大正十二年の震災後に於ける恐慌、昭和二年春に於ける金融恐慌と、それは言はば恐慌と動揺との連続である。これ等の恐慌を通じて資本の集中は急速に行はれ、産業の合理化政策に向つての躍進は目覚しいものがある。殊に過ぐる金融恐慌を機として、急劇に行はれた資本の集中独占は、三井三菱その他二三財閥に依る所謂金融寡頭政治の出現を見、一般無産大衆準無産大衆に対する抑圧と搾取とを露骨にせんとしつつある。
 然し乍ら日本の資本主義は、一方に於ては斯くの如く高度に発達した資本の有機的構成を有すると共に、他方に於ては尚封建的の遺制を多分に存する農業国としての面目を保持し、全人口の約五割一分は農業に従事しつつあることを忘れてはならない。資本主義の最も発達した形態と、資本主義前期の形態とを内包し、然かも全体として世界的没落の潮流に合してゐると言ふのがその現勢である。厖大な中小市民階級層の存在とその窮乏化の傾向、農村に於ける人口の相対的過剰と貧窮化の傾向は、日本の資本主義が内包するかかる矛盾の表徴でなければならぬ。
 然し乍らかかる矛盾は、金融寡頭支配を妨げるものでなくむしろ益々それを助長するものである。今金融寡頭支配を中心としてあらゆる階級層を見るならば、
 一、金融寡頭支配に依る反動政治を支持する階級層
  1、資本家階級 2、地主
 二、浮動的階級層
  1、中小市民階級 2、小地主、自作農
 三、金融寡頭支配に依る反動政治に対して反抗する階級層
  1、プロレタリア階級 2、小作農民及び農村プロレタリア
とすることが出来る。金融寡頭支配にまで進出した日本の資本主義は、かかる背景の上に立つてその反動的産業合理化政策を行はんとしつつあるのである。
 かくして日本の資本主義は、
 (一)内に対しては益々労農階級の搾取にその基礎を固め反動的傾向を濃厚にせざるを得ない。賃銀の切り下げ、工場の閉鎖、失業の続出、立入禁止、立毛差押へ、あらゆる無産階級運動の制圧はそれが表はれである。今や資本の攻勢は政治的権力と結びついて益々露骨なる搾取を可能ならしめやうとしてゐる。
 (二)外に対しては帝国主義的侵略政策の鋒鋩を尖鋭にし、それに依つて資本の安定を策せざるを得ないし、また現に策しつつある。満蒙政策、対支政策は愈々露骨に帝国主義的侵略的色彩を濃厚にして行くであらう。
 (三)日本の資本主義はその発達の特殊性から労農無産階級に対してこれを欺瞞懐柔するに好餌を以てする丈けの余裕をすら有たない。唯それが唯一の的ひ所は、発達の特殊性から由来する階級意識不明確な農民層と小市民階級とを有することである。これ等巨大な階級層を反動政策の支柱として動員せんとするのが日本の資本家階級の乾坤一擲の壮挙でなければならぬ。かくして日本の資本主義の運命は、これ等の階級層の争奪を巡つて決定せらるものと言ふことが出来る。
 以上の如き事由は自ら無産階級運動の任務を決定する。従来の労働組合農民組合の外に、あらゆる中小市民階級、中小農民層に呼びかけ、これを無産階級の同盟者たらしめる所の組織を有つこと、単なる無産大衆のみならず、これ等の準無産大衆の利害に対しても闘争する所の組織を有つこととかくして無産大衆準無産大衆の打つて一丸した力を以て金融寡頭支配に対抗する事これである。かかる要望の下に生れたのが我が国の無産政党でなければならない。然かもあまたの無産政党の中、我が日本労農党こそ、かかる要望の最も率直なる認識の下に生れた所の政党であると断言して憚らない。日本労農党はその運動方針を次の如く決定せんとするものであるが、要は、外資本の攻勢がもたらす矛盾を如何に誘導し、最も有力なる闘争を如何にして対抗すべきかにかかり、内巨大なる農民層及び小市民階級を獲得し、金融寡頭支配にまで進出したる我が資本主義が、尚発達の特殊性から唯一の支柱と頼むでゐるものを打倒せんとするに外ならない。

      三、日本労農党の立場
 日本労農党はその立場を要約して『階級的大衆統一党』と宣する。日本労農党は、その出現に当つてかく宣明した許りでなく、その行動に依つてかかる立場を実証しつつある。
 (一)何故に階級的にならざるを得ざるか? ブルジヨア階級の必死的資本安定策に抗争し、世界を挙げての反動的潮流と戦ふ為には、労働者と農民を首盟とする階級的政党でなければならない。殊に労働貴族を欺瞞懐柔すべき好餌をすら有ち得ざるほどに急迫せる日本の資本家階級に対しては、階級的政党以外に対抗すべき力がない。自ら階級的平和主義を標榜し、階級協調主義の仮面に隠れて一時的の繁栄を僥倖せんとした社会民衆党すら、その大衆の闘争慾の成長に圧迫されて次第に抗争的ならざるを得ざる実情がこれを雄弁に物語つてゐる。日本の資本主義は、その発達の特殊性に依つて、専制的遺制の排除も、民主主義的勢力の確立も、金融寡頭支配に対する抗争と共に、挙げて無産政党の肩上に投げかけたのである。これ我等が階級的立場を厳守し、階級的立場に立つて抗争せんとする所以である。階級的立場を厳守する点に於て我が日本労農党は社会民衆党と裁然区別せられる。
 (二)何故に大衆的ならざるを得ざるか? 所謂大衆的なる言葉の中には二個の意義あることを認める。一つは我が資本主義発達の特殊性より、尚大多数を占むる小売証人、下級官吏、俸給生活者、自作農、自作兼小作農党厖大なる中間階級、準無産階級を我等の伴侶たらしめ、これ等の集中的な力に依つて金融寡頭支配の政治的搾取に対して相抗争するの謂である。言ひ換へれば、無産階級の指導の下に、これ等中間階級分子、準プロレタリア層を動員することを主眼とする謂である。第二の意味は前衛分離主義、分裂主義よりの区別である。現在我が国に於て大衆が公然と要求しつつあるのは前衛政党ではない。また前衛政党ではあり得ない。それは金融寡頭支配に対して、民主主義的勢力の樹立を以て対抗し、この目標の下にプロレタリア準プロレタリア層の大衆を如実に動員することを目的とする政党でなければならぬ。我が日本労農党は、我が国の現状が要求してゐるかかる大衆的政党として、民主主義的勢力確立の為に抗争せんとするものである。それはプロレタリア、準プロレタリアを如実に動員して金融寡頭支配と抗争せんとするものである。この大衆主義と分離分裂主義との区別が我が日本労農党を労働農民党から区別する要点である。労働農民党の指導者は『大衆的』と言ふことを掲げてゐるが事実に於ては前衛分離主義、実践的分裂主義を採つてゐるのである。
 (三)何故に統一的ならざるを得ざるか? 現在の資本の攻勢に対抗し、帝国主義的侵略政策を排除し、反動的暴圧に対して断々乎として戦ふ為には戦線の統一を実現しなければならない。これは全無産階級の要望であり、全民衆の切実なる叫びである。これ我等の戦線統一党を標榜する所以である。今や世界を挙げて統一戦線への要求は澎湃として漲りつつある。我等はこの時に当つて、一方に於いては協同戦線の美名の下に戦線の撹乱を企画しつつある労働農民党極左幹部を排除し、他方に於いては大右翼結成の名の下に分裂戦線を組織せんとする社会民衆党幹部を叩き伏せ、以つて統一政党主義の大旗の下に資本に対する単一戦線を樹立せねばならぬ。
 (四)日本労農党は以上の立場を具体的に出現する為にまた行動派としての自らの立場を勇敢に宣明する。即ちそれは無産階級準無産階級の現実的利害の為に勇敢に闘争せんとするものである。日本の無産政党の任務が厖大なる中間階級、準無産階級分子の獲得を以てその使命とする以上、我々もまた、これを以て我々の使命とせざるを得ぬからである。而してそれ等の分子は、我々がそれ等の人々の日常的利害の為に勇敢に闘争することに依つてのみ獲得することが出来るからである。日本労農党は行動派でなければならぬ。また現に行動派である。

      四、日本労農党の具体的政策
 日本労農党の以上の如き立場は必然的にその具体的政策を決定する。日本労農党は具体的には次の如き政策を行はんとするものである。
      (一)国内的
 国内的には先づ民主主義的勢力の確立に向つて闘争せんとするものである。封建的専制的勢力の懐から政治的勢力をスリとつた日本の資本家階級は、民主々義的勢力の確立を無産政党の任務として課した許りでなく、これを拒否するべく金融寡頭支配を樹立してゐるからである。その意味に於て、我等の闘争もここから出発しなければならぬ。即ち政治的には封建的諸勢力軍国主義的諸施設の改廃を行ひ、団結、罷業、耕作、結社等の自由を獲得し、経済的には生産及び分配の合理化を以て産業の合理化政策と争ひ、社会的には社会的諸施設に対する無産階級の参与権の確立を期しようとするものである。
 (イ)民主主義的勢力の確立の為に闘争しなければならぬ。徹底普選獲得の為の闘争、団結権、罷業権、耕作権、の確立に向つての闘争これである。
 (ロ)産業の合理化政策に向つて闘争しなければならぬ。金融資本閥唯一の利潤政策である産業合理化政策に対して決定的に抗争しなければならぬ。八時間労働制の確立、失業者救済制度の確立、最低賃銀法の制定、健康保険法の改正、婦人労働者少年労働者の使用制限等に向つての闘争がこれである。
 (ハ)金融寡頭支配の政治的搾取に対し断乎として抗争しなければならぬ。生活必需品の消費税及び関税の撤廃、無産階級準無産階級を誅求する租税の撤廃、累進的資本税相続税の設置等に向つての闘争がこれである。
 (ニ)金融資本閥の農民懐柔策に抗争し、それがからくりを暴露しなければならぬ。自作農創定案に対する闘争、米価釣上げ政策に対する反対等これである。此等の対策は肥料、種子、農具の公営、耕作権の確立等でなければならぬ。
 (ホ)反動的侵略的政策に対して絶えず抗争しなければならぬ。軍備の徹底的縮小軍国主義者的教育の反対、対支干渉の要求等これである。
 (ヘ)俸給生活者階級の不平を代弁し、闘争的なインテリゲンチアをかかる分野に於て獲得せんとする。
      (二)対植民地
 植民地に対しては植民地の自治解放運動を声援し、植民地の差別撤廃に向つて断乎として抗争しなければならない。
      (三)国際的
 国際的に進出することは此等の運動をして効果あらしめる最緊要事である。然し我等はかのインターナシヨナルの名の下に政府資本家の国際的運動と妥協苟合するが如きは断乎として排斥しなければならぬのみならず我産業現下の、植民地運動の危機に際し、また帝国主義的戦争の危急を前にして、むしろ勇敢に国際的戦線の統一を提唱せんとするものである。これこそ現下の分裂せる戦線を統一し以て無産階級運動を国際的に強力ならしむる所以なりと信ずるからである。

      五、結語
 日本労農党は以上の如き認識に基き、以上の如き政策の下に、最も勇敢なる闘争を続けつつある唯一の無産政党である。我等はこの趣旨に従つて立党し、この趣旨に従つて進む。我等の指導精神はもとより客観的の状勢に応じて伸縮するものではあるが、一夜にして手を翻すが如き浮動的のものはない。我等はこの指導精神を生かすが為には、一死敢て辞せざるの決意を有するものである。日本の無産階級運動の過去の欠点は、一の指導精神を最後まで、戦ひぬくと云ふ徹底性の欠如でなければならぬ。我等は以上の指導精神を明確に掲げ、あらゆる事象を通じて最後まで戦ひ抜かんとするの決意をここに宣明するものである。


   二、全無産政党統一に関する決議案

      主文
 一般大衆の要望に聞くも、限りなき支配階級の攻勢に見るも、全無産政党統一が我が国無産階級の目下の急務である。
 一、階級戦線の分裂を目して、『必要にして正当』なりと公然と云ふものは労働農民党の極左翼幹部なる所謂福本主義者と、社会民衆党及び日本農民党の右翼幹部のみである。よつて全政党統一はこの極左翼及び右翼の分裂主義とその把持者及び追随者とともに一掃することによつてのみ可能となることを確認する。
 一、吾党はかかる運動に好適せる地位を利用して、適当なる有ゆる議会に於いて、この大衆の要望と従つてまた吾党の立党精神=階級的大衆統一主義を実現すべく各党に統一を提議し、これを促進すべき階級的使命を有する。
 一、全政党の具体的統一を初歩的にも最大限度に可能にする条件は宗派的分裂主義なる福本主義及び同主義者の排除であることを確認する。この統一条件は絶対的であり、また今日に於ける一般大衆の具体的統一条件の常識であると認める。
 一、統一促進は、具体的統一の提議のみでなく、協同戦線の有力なる手段であることを認める。協同戦線はその定められたる原則に従ひ統一運動のために有弾力性的に扱はれねばばらぬ。
 一、政党統一は四全国政党のみならず、地方無産政党をも含む。

      理由
 一、吾国階級線に現存する分裂状態は、階級運動本来の意味からしても甚だ悲しむべき現象であつて、これ等は過渡的現象として速かに克服されねばならぬ。過般の府県会選挙戦に於いて各党が組織せる宣伝によつて生長した大衆の政治的自覚と、限りなき支配階級の攻勢は、今や大衆をして熾烈に全政党統一を要求せしめてゐる。かかる大衆の要望を満足せしめずして放置せんか、それは大衆をして反動へ第一歩を始めしむるものであり、且又無政府主義者の政治否定、経済主義者の政治的中立及び政治的無関心へのよき温床を与ふるものである。かかる傾向は地方政党の組織と、既成全国組合に加入せざる独立組合の組織が近来盛んなるにも見ることが出来る。(信州に於いて労働農民党の脱退分子をも結合する信州大衆党の組織、東京市電協同会東京電燈従業員組合等の独立組合)更らに政党間の対立闘争は大衆をして政治中立と独立組合へ走らしめてゐる。(農民党支持の組合を脱せる新潟の農民組合)
 一、階級戦線の分裂作為者が何人であるかについて相互に於いて責任を免れんとしてゐるは、尚ほ帝国主義戦争の主動者が何人であるかの論議と同一の観がある。しかし『戦争の目的を知らんとせば、その講和条約を見よ』であつて、今日の分裂状態を『正当にして必要なり』と、恥しらずにも主張するものは、労働農民党の極左幹部なる所謂福本主義者と、社会民衆党及び日本農民党の右翼幹部のみである。『両極相通ず』との古人の言語をあざむかざるに驚く。極左幹部は対立分離主義であり、彼等はその前に不断に自己の対立物を必要とするは、なほ淫婦が若き男を漁ると同様である。しかも対立物が欠除した場合には、自己分離を行つてその対立物を作出する。(婦人同盟の組織途上の如く)しかも厚顔なる彼等は左翼を仮面せんがために、大衆の要望を愚弄し名目的なる協同戦線、共同闘争(吾党への調願同盟の共同戦線を見よ)を云々一度これが形成ならんとするや対立物の消滅乃至は対立縮小の防止のために、これが破壊に専心する。(吾党より申込たる対支干渉運動の破壊を見よ!)故にこそ彼等が長くその背後の力と頼みし第三インターナシヨナルさへも、今や正当にも『実践的分裂主義宗派主義』の極印を彼等の面上に押捺するに到つた。(参考文書、『第三インターナシヨナルの福本派批判』参照)しかもその大衆の攻撃に面するや、これをゴマ化すためには如何なる恥知らずの転換をも行ひ、そこには大衆政党の党規の蹂躙をも物としない。(福本派幹部が労働農民党昨年度大会の決議せる吾党との合同に関する同党の決議を蹂躙して、今や卒然として合同の共同委員会を吾党に申込んで来たるを見よ)
 右翼幹部は、左に対して右を結成し、以つて支配階級に分割支配の客観的条件を提供し、以つてその政策をあくまで遂行せしめ、その報酬として、官憲的圧迫の緩和、御用組合組織権を得、労働ブローカー的利権を恒久化せんとする卑劣なる所謂ダラカン根性である。(参考文書日労新聞切抜参照)
 この両分裂主義の理論としての克服、従つてそれに随伴すべきその把持と追随者との強力的排除が全政党統一の不可避的条件である。吾党は斯る意味に於いては、大衆がこの両者を絶滅するために大衆が組織せる力である。
 一、労働農民党福本派幹部は大衆の圧迫とその内部の反対派の圧状のために、同党大会を前にして卒然として政党統一を提唱して来た。しかしこのことは同党の地位、その指導精神福本主義に対する全大衆の批判からしても、如何に彼等が具体的統一に誠意と熱意なきかを物語るものだ。即ち彼等は不成立を予想し、それを希望して提唱したのだ。彼等の慾求するのは、統一そのものでなく、統一の提唱といふ名義である? 全政党の具体的統一を考慮するときに、吾等の諸党間に位する地の利は最もかかる計画の執行者に適してをり、且つ吾等の立党精神-階級的大衆統一主義こそは、一般大衆の要望を具現するものである。見よ! 吾党の旗-階級的大衆統一主義の旗は今や大衆の旗として燦として光り輝いてゐるではないか! 吾党はこの旗の下に大衆を糾合し、その要望を統一しその地の利を利用して全政党統一のための階級的使命を遂行せねばならぬ。
 一、全政党統一の具体的条件は、全政党の配列を見るも、合法的単一政党の性質に於いて見るも、かの宗派的分裂主義とその一派の排除である。それは既にして大衆の具体的統一条件の常識である。殊に大衆の今日に於ける彼等に対する熾烈なる反対に於いてをや!(労働農民党内にさへ反対派があり、それは生長しつつある!)社会民衆党及び日本農民党は更らに多くの条件を要求するかもしれぬ。しかし吾党はこれを単一絶対条件として固執せねばならぬ。
 福本一派を構成要素から除外することは純一主義と矛盾するといふか? 否さうではない。福本主義は戦術でなく思想である。この思想は且つての大杉派の無政府主義の思想と同一程度に大衆の一部に対し、伝染病的影響を与へた。大衆をして『戦ひとつたる』かかる病的思想を『戦ひ失はしめ』て健康を恢復せしめる最捷径はかかる病原伝播者及び媒介者の一斉没落にその第一歩がある。吾々は看板塗かへによつて彼等を許すことは出来ない。彼等はよしとしても大衆の疾病をどうする。かかる発源集団を将来に持込むことは、今日までの混乱を将来に於いてもまた再生産することである。
 社会民衆党、日本農民党の所謂ダラ幹排除を条件づけないのは、彼等に屈服するのか、断じて否? 吾党は何人よりも彼のダラカン的分裂主義をにくむ。しかし右翼団体に統一を要求するに際し、無条件にても拒否し兼ねまじき彼等にいよいよ拒否の口実を与へるものであり、かかる統一を欲せざる福本主義の対立萬能思想に感染せる考へ方である。統一を通じてのみ、しかも彼等の大衆に伍して、吾等の犠牲的行動を通じてのみ、ダラ幹を最後的に克服し得るであらう。この行動を通ずるの一点は吾党の闘争規模を福本主義のそれと区別する差異である。
 一、統一獲得の有効なる武器として協同戦線がある。吾々は党の規定せる協同戦線の原則に従ひ、行動を通じて他団体の大衆を統一にまで牽引するであらう。
 一、大衆の要望従つてまた吾党の立党精神-階級的大衆統一主義は、吾国支配階級に対する単一階級戦線としての合法的単一政党の結成にある。統一は故に四全国無産政党のみならず、諸地方無産政党をも当然に含まねばならぬ。諸地方無産政党の存在理由は四無産政党統一によつて半ば失はれるであらう。吾党は有ゆる機会に於いて諸地方政党に対し全無産政党統一に誘引せねばならぬ。

(以上は皆十一月二十七、八、九日の日本労農党全国大会に提出可決された中央執行委員会案である-筆者)

<以上は、山崎今朝弥氏が著作者である。>
<旧仮名遣いはそのままとし、踊り字は修正し、旧漢字は適宜新漢字に直した。>
<底本は、『解放』(解放社)第7巻1号7頁(昭和3年(1928年)1月1日発行)>
最終更新:2009年11月06日 18:54
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