半ペラ十枚


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半ペラ十枚
          山崎今朝彌
▽高畠君から、今度はコツチから頼む、十五日までに何んでもよいから『局外』へ半ペラ十枚書いてくれ、是非頼んだと云つて来たのは七八日だつた。何か良い口実もがなと考へて見たが、今度はコツチから頼む、何んでも良い半ペラ十枚でよいと、云はれたのでは、到底拒絶は出来相にもないから、ヨシと直ぐ返事は出したが実は何を書いて良いか困つてゐた。所が待てば海路とやらで、『局外』が愈々発行された。これさへあれば大願成就、型も振も問題も分かつたから一安心と今日迄打チヤツて置いたわけ、扨て幸ひ取られも紛失もしなかつた『局外』を取り出し、之を題本として責を塞ぐことに取り掛かる。明日の日曜は某重大事件の面会に一日かかるから。
▽巻頭言は高畠君かな、など考へながら矢部周君の鬼面を見た。矢部君には二三回社宛で端書を出し住所を問合はせてるが返事がない。雑誌など社宛に送つてゐるがソレでよいかね。解放十二月号は廿日には出る。出版界概観、恰度四頁に書いて貰つて有り難かつた。何んでも良いと云ふ中には論理学上之れも包含されてる。
▽中山啓君はマダ日本に居るのか。僕はもう何時の昔に南洋でヨタつてると思つてゐた。ソレなら何時か報知新聞に中山啓として工学博士のやうなことを書いたは君だらうか。自分で詩の本見たいなものを拵へて、自分で勝手に荒畑寒村君の名で新刊批評を読売だかに書き、黙つて原稿料を貰つて来た男だといふから何が何やらサツパリわからない。
▽公私混同は僕にも面白さうだから読んで見た。流石高畠君の書いたものだけあつて、中々面白かつたと云ひたかつたが、それ程でもなかつた。僕には時候外れの犬養だの床次だのが沢山居つたセイだらう。プロレ家の皮肉に就て僕にも一言させてくれ給へ、尤も皮肉といふ本当の意味なんと面倒の事は抜きにして。ユーモーアに富んだ面白い端書の第一人者はナンデも荒畑寒村君だ。矢張り小説でも書こうといふ位だからヨイ所があるのだらう。此節も昔通りなら、推して以て人間にも云ふに云はれぬ人間味があると云ふ事になる。山川均君のは余りに要心深く、厳シク過ぎるので、皮肉がどうしても滑ケイにならぬ損失がある。が一句一句としては是れ皆--何と云はうか、実にキン玉の名文句だ、此点に於いては、吾日本一のユーモリストはどうしても、ズツト第三位に落ち、殆ど高畠君の手紙と伯仲の間にある。生真面目と云へばキマジメ、理窟ツポイと云へばリクツツポイ、併し之れが売文となると堺君のは高畠君のオダテ文程面白く読めるが何の理由だらう。之れは高畠君の文を俟つて後に知るべきだ。故の大杉君の手紙は普通平均点で堺君と山川君との間にあつた。アト四枚。
▽関係のない所をズツト飛んで注文二個へ来る。之れも高畠君だらう。ヨシ間違つても大した間違ひはなかんベイ。僕の所の書生さん、字まで僕に似て来たと云ふから。
 要するに苦言忠言だ、有り難く感謝する。併し一言居士のやうだが、聡明一世に並ぶべき僕の事だ、全部同感全部承知之助だ。マア多々益々御ヒイキを願ふ。僕今の苦心は無料原稿の間はよいが愈々有料原稿となつたら、採稿原則、料金量定等で少なからざる不平満々が起りはせぬかと云ふ心配だ。兎に角く正月号は三百五十頁の予定だが、所謂第一流所の無料原稿が殆ど入用の倍も集まつたには、驚いた程恐しかつた。
▽塚谷太郎君の源兵衛通信は誰だらう。岡陽之助君には、法廷の辺が余りハツキり知り過ぎてる。苟くも匿名にするなら源兵衛通信とは、高津正道君には余り下手過ぎる。併し前後左右内外周囲を考慮しても、高津君の外に見当はつかぬ。が高津君が『局外』へ書くやうな時世になつたらうか、さうだとすると之れで色々のことを考へさせる。先づザツト。
▽堺君と高津君とは此頃仲がよいらしい。堺君も高津君等と同様、本流を離れてるらしい。高橋亀吉君は噂通り今後左翼共産主義者と総同盟との引張りダコになるな。最近の政研大会に於けるケンカは一派の観察する如く、実際八百長であつたのか、又は他の一派の伝ふる如く、本流支流のケンカであつたのか益々わからなくなる。現今の本流は荒畑徳田渡邊三君だと云ふ噂はホントかな。或ひは又た高津君が閥外で何も知らぬといふ事だけかな。マサカ堺君と荒畑君とがホントにケンカもしまいが、之れが大杉君と堺君のやうに発展するものとすればナンダか厭になる。主義に忠なる以上仕方がないと云ふなら、社会主義共産主義なんて誠に詰らないものだ。法廷の論は猪俣君が主だつた其れを高津君は。十枚終り。(此の原稿は大正十四年十一月十日午後二時着手して午後四時に終了す。之れは裁判所の真似だ。)
<以上は、山崎今朝弥氏が著作者である。>
<旧仮名遣いはそのままとし、旧漢字は適宜新漢字に直した。>
<底本は、『局外』(北荘閣)第1巻2号(大正14年(1925年)2月1日発行)>
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