警官弁当代事件


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警官弁当代事件
          山崎今朝彌
◇官憲が資本家の××であることを露骨に暴露した、例の日紡花木ゴム争議の警官弁当代事件について、自由法曹団は直ちに、法律戦線の陣を進めて告発したが、九月九日更らに、左の如き告発補充書を出した。
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 一、『火事場の握飯』『お客様の弁当』に付ては今や既に世論一定し、検事局も全く其の非を認め事実上之を取消し、積極的瀆職の事実あれば直ちに之を起訴するとの御話故、告発状も、検事局の顔を立て敢て此点を論ぜず、只新事実をのみ上申したのでせうが、私は是非此の点に就て一言を費し度いのであります。(告発状起草に事実上私は関与せず)
 二、火事と選挙のお客様には喧嘩相手がないが労働争議には相手がある。故に争議を火事に例へるは甚だ当を失してる。よし争議が火事であつても其れは贈賄側だけの事で、収賄側の例にはならぬ。例なら之れは原被両告が火花を散らして争ふ真最中、当然の職務を有する判事が、其の為に忙しかつた事苦労した事を理由に、一方から招待を受け又は車代、弁当代を貰ひ、弁当代の出せなかつた一方が、訴訟に負けた場合だ、世間では此の判事を、この訴訟の結果を何と云ふか、相手方は之れを何と思ふか、検事局では皇国伝来の美風として之れを表彰するか、而かもだ、此判事、実は車代弁当代を要したのではなく、同僚にあるのだ。弁当を沢山食べたのだと云つて詐り取つたのだ。そして其れを持逃げして郷里で警視庁に捕へられ、手の切れるやうな弐千余円の札束を預金銀行から押収されたのだ。判事に果して収賄の意思がなかつたと強弁出来ようか、訴訟の負けたは収賄の結果でないと言張れようか? 詐欺か横領か収賄がなかつたと考へられようか? 之れが微罪不起訴で司法の公正が保てようか?
 然るに検事局では尚此上に其警官が其収賄に依つて不当に労働者側を圧迫した新事実を挙げて来いと云ふのは無理の骨頂ではなからうか?
 私は既に取調に依つて明瞭なる前記の事実丈けで、翻然と司法の権威を既倒に恢復されんことを熱望するものであります、之れが此程度では不起訴だなんと云へば、それこそ忽ち天下の大問題であります。
 三、私をして忌憚なく言はしむれば、検事局が之れを不起訴にしたのは、之れこそ皇国伝来の美風たる間違つた同僚思ひ、部下思ひの致す処だと思ひます、日本の検事や判事は愚論の攻撃や上からの圧迫には何時も実に気持よく立派に毅然として司法の公正を保持します、が事一旦同僚の事、部下の事となると誰しも一寸弱ります、併し物も事にこそよれ、苟も天下の安危人心の帰向を双肩に荷ふと云つて法を執る者、大義は親を滅し公儀は友を捨てねばなりません、殊に警視庁さへ呆れ、涙を振ふてスタートを切つた程の事件であります、私は曽て震災当時の亀戸虐殺事件に関し時の司法大臣平沼騏一郎閣下に一書を致し其起訴処罰を論じ、然らずんば必らず一大恨事を惹起せんと断じ、不幸予言は適中し、内閣は更迭するに至りました、(「地震憲兵火事巡査」第十版十七頁以下参照)其の重大性に於て又、其の刺激性に於て彼此毫も優劣なき本件の此白日的事実は到底隠蔽する事が出来ません、此の爆弾的憤激は、断じて抑圧することが出来ません、非理強弁無茶徹底は遂に身を亡し国を危く致します、私は邦家の為め切に当局の再思三考直ちに起訴せられん事を懇願いたすものであります。
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◇花木ゴム争議の拘留裁判(警官弁当代事件)の証人として九月十九日の法廷に立つた問題の人奥平警部曰く、「大塚一郎の葬儀の際に不穏の形勢があつたので中止はさせたが、特に圧迫はしない、」とヌカし、更らに問題の張本人笹本司法主任曰く「関東化学労働組合は真面目な団体かも知らんが、検束されたものは何れも正業なしと認め法規に依り処分した」とヌカす、彼等の認定権の乱用が如何に不都合なものであるかが判らう、裁判所は何故、偽証罪で彼等を罪せんのか?
 湯浅、美濃両君は労働書記として各十五円、木村君は五円の俸給を受けてゐるではないか?
<以上は、山崎今朝弥氏が著作者である。>
<旧仮名遣いはそのままとし、踊り字は修正し、旧漢字は適宜新漢字に直した。>
<底本は、『布施辰治著作集第14巻』(ゆまに書房、2008年)、底本の親本は『法律戦線』(生活運動社)6巻10号15頁(昭和2年(1927年)10月1日発行)>
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