平民法律無料原稿請願書式


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平民法律無料原稿請願書式
 前略 愈々御廃業近々御開業の由、就てはにては無之候へ共早速此事件御願申度、御多忙中甚だ恐入候へ共廿五日迄に『平民法律』一頁是非御埋被下度願上候。
 抑々当『平民法律』は方弁護士又は不明弁護士を除く全国の弁護士に、洩れなく配布するを条件として、殆んど他人の計算、総て小生の責任に於て、小生の発行する雑誌に候へば、弁護士に対する君の廃業開業の広告には、充分其目的を達する事を得る事と存候。
 私かに思ふ、君が此度『今村恭太郎以来の名判官』の評判を抛て弁護士になつた故事来歴有の儘を告白したら、上は天下を裨益し下は萬心を覚醒するに足るものあらん。今日の新聞に拠れば、君業の廃開は生活の安定の為めとある、学生時代からの君を知る僕は、今も尚君がソンナに馬鹿だとは思はない。生活の保証、収入の安定を得る為めに裁判官に成り下がる弁護士は、其手続に於て敢て不適法ではないが、其反対は実験則に違反する。僕の的中にして外りなければ、従来の君は、本来の君でなかつた。否、君のみに非ざるなり、当今多少血の通ふ動物にして永く官僚の臭気に耐ゆる者多からんや彼等は公平である、無私である、忠実である、熱誠である、高潔である、総てである、併し官僚は官僚である。畢竟は無つしんぐである。吾人と何の関はりかあらんやだ。
 世間で君を名判官と騒ぎ、同窓の校友は皆、我校から二代続けて名判官を出したは偉い、と喜んだ時、官僚思想と名判決とは性質上到底並立を許さぬと確信する小生は、尚少しく疑かつた。吉田君に拠れば、地位の確保、危険の予防の為、社会学の知識を避けたのは君であつた。池田君に従へば、君と僕との間には、法律問題討究に関する信書の外、何物も無かつた事を知悉する君が、明治四十四五年の、車掌運転手同盟罷工の際僕が家宅捜索を受けた時、君から僕に宛てた手紙を見付けられは為なかつたかと、頻りに心配したのは君であつた、君は中々勉めたものであつた。併し如何。二人以上の利益あるにあらずんば、一人の迷惑は敢て顧ると云ふ僕の原則を適用して、知るや知らずや、僕が成るべく君との交際を断つたのは、之を聞いてからである。君は果して此官僚臭味に永く耐られたか。
 僕には突然の、君の今回の還俗は、併し、僕には決して突然ではない。其後の君の裁判は、官僚には到底出来るものではないものがあつた、其後の君は矢張り評判通りの名判官であつた。羅馬は一朝一夕で成るものでない、君の心機一転にも階段があらふ。昔時沈黙は黄金である、今時経験が雄弁である矣。
 大正六年十一月十六日    山崎今朝彌
名川侃市殿親展
<以上は、山崎今朝弥氏が著作者である。>
<旧仮名遣いはそのままとし、旧漢字は適宜新漢字に修正した。>
<底本は、『平民法律』第6年11号4頁。大正6年(1917年)12月。>
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