平民の法律(a)

平民の法律(平民法律所事件簿抜書)
          所長 弁護士 山崎今朝彌
      結納品は返すべきもの
■世話する人あつて太郎の長男太吉は次郎の十八の娘じん子と婚約し、箪笥を結納に贈つたが事情あつて双方承諾の上破談した。処が次郎は貰ふた物だからとて、箪笥を返さない。当所は太郎の依頼を受け、太吉はまだ親がかり故太郎の原告で、じん子の親次郎を相手取り箪笥取戻の訴を起した。次郎は弁護士を以て、太吉から貰ふたのである、娘が貰ふたのである、貰ふた物だから返さぬ、次郎の方でも費用を損しているから、其れと差引くと反対した、判決にならぬ中に示談になつたが、其後出た大審院の判決では当所の言ひ分が勝つてる。
      登記してない地上権
■売人も地上権は無いと保証する、借地人も地上権は無いからお買なさいと云ふ、登記を下げても地上権は付いて居ないから安心して地所を買つた処、此度愈々売買登記が済んだから借地人に証書を入れて呉れと云ふたら借地料を供託して、地上権があるからと云ふ無法の通知が来た、明渡しが出来るかとの法律顧問会員の鑑定依頼に対し、全部登記を下げて見ると明治三十一年に借地人の建物は保存登記をしてあるから、明治三十三年法律第七十二号に依り借地人には一応地上権があり、又明治四十二年法律第四十号建物保護法で其地上権を登記してあるも同様であるから、明渡裁判に勝つ事は六ケ敷い示談をするが一番得策だと鑑定してやつた。幸ひ円満に示談が出来て双方大喜び。
      恩給年金を抵当で借金
■太郎が自分の恩給証書と年金証書を抵当として次郎より金を借り、次郎の子、三郎に白紙委任状と其証書を渡し、借用証書は次郎に差入れ、三郎は郵便局より恩給年金を受取り、其金を親の次郎に渡し貸金の内入とし、未だ全部の返金をなさざる内、太郎は三郎への委任を取消し其旨を郵便局に届け出て、双方其恩給年金を受取る事能はず二三年を経過したる今日、太郎より三郎に対して其証書返還の訴を区裁判所に起したる処、三郎は早速其証書を太郎に返すべしとの判決があつた。
      時効消滅後の内入金
■借金の返済期限十年経過後内入金を為したるが、後に聞けば借金は総て十年にて消滅するとの事、然らば残金は返済するに及ばざるかとの問に対し、借金が十年で消滅すると云ふ事を実際知らず、借りた物は何時でも返すべきものと思ひ内入を為したるなら、残金は返却するに及ばざるも、十年経てば貸金は時効で消滅する事位は大抵の人が知り居るものと見られるから、裁判になれば大概負けると鑑定した。
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<以上は、山崎今朝弥氏が著作者である。>
<旧仮名遣いはそのままとし、踊り字は修正し、旧漢字は適宜新漢字に修正した。>
<底本は、『平民法律』第6年6号5頁。大正6年(1917年)7月。>
最終更新:2009年12月02日 19:07
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