年金恩給取戻訴訟は区裁判所か?地方裁判所か?


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年金恩給取戻訴訟は区裁判所か?地方裁判所か?
          弁護士 山崎今朝彌
 恩給年金証書の取戻訴訟は東京でも地方でも三円五十銭貼つて区裁判所へ提起し、裁判所も弁護士も之を怪まぬ様である。之は(一)恩給年金証書は紙代の価値でも額面の価値でもなく畢竟金銭に見積もる事を得ず(二)印紙法三条には、金銭に見積ル事ヲ得ザル物ニ関ル訴訟ニ付テハ其価額ヲ百円ト見テ三円五十銭ヲ貼用ス可シ、とあり(三)構成法十四条には、五百円以下ノ価額物ニ関ル訴訟ハ区裁判所ニ起ス可シ、とあるからとの理由だらうと思ふ。
 併し此解釈は確かに誤つてる。構成法廿六条には区裁判所ニ起ス事ヲ許サレザル訴訟ハ総テ地方裁判所ニ起ス可シ、とあるから若し恩給年金証書が前述の如く、金銭に見積り得ざる物なら、此取戻の訴訟を地方裁判所に起すべきは当然で、問題となるべき問題ではない。併し印紙は只ではない、印紙法三条がある為め三円五十銭を要すと云ふ事になる。
 然らば恩給年金証書取戻訴訟の管轄は果して地方裁判所か、決して然らず。恩給年金証書を金銭に見積り得ざる物として印紙法三条の百円とするのが抑々の誤りである。恩給年金は恩給年金証書無しには絶対に受取れぬ、恩給年金証書の価値は即ち現存する恩給年金の価値である。恩給年金は到底売買譲渡質入書入が出来ぬ、併し恩給者年金者には其れが財産である事を妨げぬ。恩給年金証書が金銭に見積る事を得る財産権なる事は毛頭一点の疑はない。
 恩給年金証書の価値価額が恩給年金の価値価額なりとすれば、其見積は既に容易の業である。民訴法五条四号を適用して年額廿倍を訴訟物の価額とし之に応じて印紙を貼用すべき事論を俟たぬ。若し夫れ瀕死の老人等の場合に在ては同号に所謂収入権の期限定まりたるものとして、同法六条裁判所の鑑定に依り死期を定むる必要ありと解するを穏当と思ふ。
 寄せ算には引き算の正算法がある、法律の反対解釈は正解法として又頗る有力である。仮りに問題の恩給年金証書取戻訴訟を所謂非財産権上の訴訟とする時は、如何なる小事件例へば全部で五十円の外受取る物のない証書の取戻訴訟でも、常に必ず地方裁判所へ起すを要すると云ふ馬鹿々々しい事になる。又其小事件を誤つて区裁判所へ起し、当事者間には管轄の争がなくても民訴法卅一条上、合意管轄もならぬと云ふ大馬鹿馬鹿さとなる。一体此証書取戻訴訟を身分上の訴訟等と同一に重大視して、必らず地方裁判所へ出訴しろ、合意管轄はならぬぞと云ふ必要が何処にあるか?恩給年金証書取戻訴訟が財産権上の訴訟だと云ふ事も問題となる問題ではない。
 要するに非財産権上の訴訟は地方裁判所の管轄であるが、恩給年金証書取戻訴訟は非財産権上の訴訟でない、訴訟物の価額に依て其管轄を定むべき財産権上の訴訟である。而して其訴訟物の価額は民訴法五条四号等に依て算定すべきものである。
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      非財産権訴訟の管轄
■恩給証書又は年金証書の返還請求訴訟を非財産権上の請求訴訟と解し、価額を百円に見積り三円五十銭で区裁判所に起した事件の上告を四件扱つた。私の理由は、非財産権上の訴訟なら地方裁判所の管轄、財産権上の訴訟なら価額見積の法律適用を誤つてるといふのであつた。大審院民事の各部は之に対して明答を与へては呉れなかつたが、本件訴訟物の価額が百円なる事に付ては上告人に於ても第一審以来争はざりしものなれば之を以て原判決を非難する上告理由は理由なし、との判決理由より推察するに、大審院も亦我輩の説を採用したものと思ふ。
■原告の代理人として東京区裁判所へ自分も二三回三円五十銭で起して見た、何れも相手方から抗弁が無かつたので問題にならなかつた。今に何処かへ問題が起ればよいがと思つて居る。
■本誌大正六年十一月号に掲載した日本元祖皮切裁判重要物産同業組合選挙無効確認訴訟が非財産権上の訴なる事は異論がない、従つて地方裁判所の管轄なる事も自分独りは異論がない。併し相手方代理人弁護士は百円の価額は五百円以下故区裁判所に提起すべきものなりとして、管轄違の妨訴抗弁を提出し本案の弁論を拒んだ。大正六年十一月廿六日の判決言渡は妨訴抗弁の棄却となつた。被告は大審院の判決例を作る為め上告迄やると云ふてる。東京地方裁判所第一民事部は私の説に賛成の訳である。
          弁護士山崎今朝彌記
<以上は、山崎今朝弥氏が著作者である。>
<旧仮名遣いはそのままとし、踊り字は修正し、旧漢字は適宜新漢字に修正した。>
<底本は、『平民法律』第6年11号5頁。大正6年(1917年)12月。>
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