相撲見物無罪論


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相撲見物無罪論
          山崎今朝彌
      緒言
 本編は例の東京弁護士会喧嘩の翌日、清水検事が、桃李倶楽部惣代相撲切符事件の検挙に着手したりと聞き、多少性急の誹は免れざるも、平素の親交上座視するに忍びず、幹部諸氏の為と思ひ、公判廷に於ける其無罪論の大綱を記したるものなり、幸ひ該事件は有耶無耶の裡に立消え、今日に至つては殆んど其必要なきに至りたるも、折角調査研究を遂げたる身に執つては、聊か鶏肋の憾なき能はざれば、茲に本紙上に之れを非割愛する事とせり、読者幸に之を諒とし、其足らざるを補ひ其誤れる処を指摘し給はば豈独り学界の為めのみならんや、但文中の註は今回新に私の加へたる処のものなり。
      公訴事実(註一)
 東京弁護士会は十数年来閥族派(註二)非閥派の二派に対立し事々に反対し故らに衝突して相下らず久しく世間の擯斥する処となり識者の指弾を蒙りたるものなるが被告等(註三)は拾年前より桃李倶楽部と称する徒党を組み自ら其幹部と称し前記閥族派の牛耳を執りたる東京弁護士会の会員なる弁護士なる処大正五年度の東京弁護士総会に於て其反対派たる前記非閥派に対し絶対的多数の会員を得其欲する処の決議をなし以て其頤使に甘んずる自派の会員を役員に推薦し及び其勢力手腕を妻妾に誇る事に依て其目的を達せんと欲し其総会期日たる大正五年五月卅日に切迫して或は利害得失を説く口実の下に暗に恩を売り威を示し其部下食客の弁護士を説得すべき事を自派第一級(註四)の弁護士に依頼し或は費用を給して呼寄又は登録替を行ひ又は役員を条件として反対派会員を勧誘し若しくは反対派の会場又は事務所を買収し其立退を要求し盛んに御馳走を流布し遂には皇族(註五)をして新に会員に加入せしむる等種々の方法を講じ殆んど勝算歴々たりしものありしにも拘はらず尚不安の念に駆られ
 茲に被告等は相通謀して大正五年五月日不詳一旦自派に属する事を約したるも尚警戒の必要ありと認めたる者(註六)に対し同年六月三日挙行の赤坂善光寺寄附相撲券各一枚宛(註七)を大正五年五月卅日の東京弁護士総会に於て被告等の指定に従ひ起立若しくは着席し及び其配布する役員用紙に記名し投票を完成する事を条件として贈呈し以て投票を為さしめたるものなり。
      擬律(註八)
 右事実は刑法施行法第廿五条(註九)旧刑法第二百三十四条(註十)に該当す(註十一)
(註)
 一、検事の論告及び予審決定書
 二、一級弁護士二十人及び之れに附属せる食弁二百人其他会員の半数
 三、桃李倶楽部幹部七人とす
 四、月千円以上一萬円の収入ある弁護士を云ふ東京に二十人あり
 五、但シヤム
 六、八十二名とす
 七、独立弁護士分壱円食客弁護士分五十銭とす
 八、検事の論告に拠る
 九、左に記載したる旧刑法の規定は当分の内刑法施行前と同一の効力を有す第二編第四章第九節
 十、賄賂を以て投票を為さしめたる者は二月以上二年以下の軽禁錮に処し三円以上三十円以下の罰金を附加す
 十一、法律上及び事実上の無罪論は次号
<以上は、山崎今朝弥氏が著作者である。>
<旧仮名遣いはそのままとし、旧漢字は適宜新漢字に修正した。>
<底本は、東京法律事務所『東京法律』第22号5頁、大正5年(1916年)8月1日号>
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