新年に際して大審院の御大典判決を評す


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新年に際して大審院の御大典判決を評す
          山崎今朝彌
      第一点
 大審院第三民事部は大正三年(オ)第七八五号物品返還請求事件に付

 甲第六号証は鑑定書と題し本訴提起後係争獺皮の価格を証明する為め一私人の作成したる書面に過ぎざれば相手方に於て之を否認する以上は何等の証拠力を有するものにあらず、然るに原審が、同証に対し上告人は不知の陳述を為すに拘はらず、之を採用して本件係争の獺皮一枚の代価合計二五九円なることを確定したるは採証の法則に違背したる不法あるものにして破毀を免れず。と判示せり。

 雖然当所より提出せる答弁書には

 本件甲第六号証は記録第七五丁初行以下に「控訴人(上告人)は甲第一号証乃至第六号証は各其成立を認む」とある如く其成立に就ては原審に於て当事者間に争なかりしものなれば原裁判所が之を採て以て事実を判断したるは不法にあらず。

とありて記録に如上の記載ある事は大審院判事の人間なる事程左様に確実なり、果して然らば大審院は何故に右答弁に対して説明を為さざりしものか、泥棒にも三分の理あり、由来大審院判決には一部の理ある事多し、乍併本判決に於て甲六号証は記録第七五丁記載と異り成立に争ありしものなるや、争なくも不知の陳述と同様の効力を有するものなるやを説示せざるは理由不備の違法あり時節柄破毀を免れざる判決なりと信ず。

      第二点
 大審院第三刑事部は大正四年(れ)第二〇二五号恐喝被告事件に付

 被告[甲野太郎]弁護人黒田荘次郎上告趣意書第一点原判決は「・・・・・」と云ふに在り仍て案ずるに原判決は其判示第一事実として「・・・・・」の旨を判示し之を恐喝罪に問擬し被告等を処罰したり此事実に依れば被告[次郎][太郎][三郎]等は共に[丁山]を恐喝せんことを企て同人の為め交渉の任に当りたる[戊川五郎]に対し恐喝手段を用ひ其結果同人に於て金一萬円の支出を約したるより他の被告等と共同し[五郎]に対し右約定の金員に付其支払を督促したるものなるを以て[五郎]が[丁山]に右事情を告げたる末被告等に交付したる現金小切手及約束手形の内金一萬円に相当する分は恐喝の結果止むを得ず支出するに至りたるものにして之が交付と恐喝とは因果関係あること明なるも残り金五千円の分に関しては果して恐喝の結果交付するに至りたるものなるか判文上明確ならざるを以て原判決は其事実理由不備の違法あるものにして破毀を免れず、以上の理由に依り爾余の論旨に対する説明を省略し刑事訴訟法第二八六条に依り主文の如く判決す、検事板倉松太郎関与大審院第三刑事部、裁判長判事棚橋愛七判事磯谷幸次郎判事堀田篤三判事柳川勝二判事中尾芳助。

と五人掛りの判決を為されたり、然るに被告[甲野太郎]の弁護人たる当事務所の期間内に提出し立会ひたる公判に於て弁論したる上告趣意書第一点には

 原判決認定の第一事実前段によれば「・・・・・」と判示するが故に被告等は[五郎]をして一萬円出金を承諾せしめたるのみなること明白なり、然るに原判決は其後段に於て「[四郎]は被告等に金員を交付すべき事を[五郎]に委託し[五郎]は右委託に基き同月十三日現金一千円及・・・・・を交付し被告五名は之れを取得したり」と判示し被告等が一萬五千円を恐喝取財せるものとせるも右一萬五千円中五千円の取得に付ては被告等は恐喝を為したる事実の認定なきを以て原判決は事実理由不備の失当あり破毀さるべきものなり。

と明記あり前記破毀の理由と全く同一なれば一々理由ある上告趣意又は他の上告論旨を援用する旨をも掲げ之れに対して説明を与ふる大審院は、須らく前記の上告論旨に対しても相当の裁判を為すべきに事茲に出ざりし本判決は同じく御大典に取紛れ職責を尽さざりし不法あるものとす、蓋し人民が納税の機関なる以上裁判所は弁護士の米櫃にして如斯は謝金に影響する事尠少ならずとせざるを得ざるを妥当とすべければなり。

      第三点
 大審院第二刑事部は大正四年(れ)第二五二八号誣告恐喝其他被告事件に付

 被告[太郎]弁護人山崎今朝彌阿保浅次郎佐々木藤市郎吉田三市郎田阪貞雄上告趣意書第四点原判決は被告の犯罪事実を判定するに該り第一審第二回公判始末書を援用し其中に[乙川二郎]の供述として明治四十四年十二月頃迄の間に赤谷区有保安林の栗及杉立木を盗伐したる旨の記載ありと判示せられたり、然れども判示の公判始末書には[乙川二郎]の供述として「盗伐したるものにあらず自己の雇人が買取以外の立木を伐採したるものなり」との旨の記載あるのみなり、果して然らば原判決は証拠の趣意を変更して之を断罪の資料とせる不法あるものとすと云ひ、被告[三郎]弁護人上告趣意書第三点相被告弁護人上告論旨を採用すと云ふに在り、仍て記録を査するに第一審公判始末書中には被告[二郎]に於て判示の如く明治四十四年十二月頃迄の間赤谷区有保安林の栗及杉の立木を盗伐したる旨陳述したる記載なきこと洵に所論の如くにして本論旨は理由あり原判決は虚無の証拠に依拠して被告等の罪を断じたる不当に帰し到底破毀を免れざるものとす

と判示せり、然れども被告[三郎]の上告趣意書は当所特別上告部の事件にして他の弁護人の名に於て[太郎]弁護人たる当所名義の上告趣意書より数日前に提出したるものなれば(註一)此援用を有効として此点に於て[三郎]の分をも破毀したるは思ひ切つたる誤判なり、論者或は曰はん、被告の利益に帰する誤判に対する不服は結局理由なしと、然れども大審院は本判決により「前に提出したる上告趣意書に於て後に提出したる上告論旨を採用するも無効なり」との従来の判例を変更したるにあらず只御大典に際する一の疎漏に過ぎざれば斯かる判決は今更裁判は賭博なりとの原則を闡明するの外遂に何のオーソリチーにも値ひせず。
 註一 本件中[三郎]分は当然破毀となる点ありたれば最終日を待たず提出したるものなり而して予期の如く其点に於ても破毀となりたり
<[ ]内は仮名>
<以上は、山崎今朝弥氏が著作者である。>
<旧仮名遣いはそのままとし、踊り字は修正し、旧漢字は適宜新漢字に修正した。>
<底本は、東京法律事務所『東京法律』第15号6頁、大正5年(1916年)1月1日号>
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