大審院の抗告棄却決定(5月27日付)


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大正十一年(な)第二号
      決定書
          東京市芝区新桜田町十九番地
          東京地方裁判所所属弁護士
          山崎今朝彌
 右に対する東京控訴院に於ける懲戒裁判所大正十一年(よ)第一号弁護士懲戒被告事件に付抗告人の為したる忌避申請を却下したる同裁判所の決定に対し抗告人は抗告を為したり依て検事の意見を聴き決定すること左の如し
      主文
 本件抗告は之を棄却す
      抗告理由
 要旨は懲戒裁判開始決定には懲戒すべき所為及び証拠を開示すれば足り其他を掲ぐるの要なきことは判事懲戒法第二十条の規定に依り明白にして刑事訴訟法の規定に於て判決若しくは予審終結決定に其理由を付すべきことを命じたると其趣を異にせり其結果として懲戒裁判開始決定を為したる判事は爾後の懲戒裁判に関与することを得るも前審の判決又は予審終結決定を為したる判事は爾後同一事件の判決に干与することを得ざるの区別を生ず是れ前者は事件に付何等の裁判を為したるに非ざるも後者は一旦事件に付裁判を為したるが為爾後偏頗の裁判を為すの虞あるに由るものとす然るに本件被告事件の開始決定には前掲法条所定事項の外「其の所為は弁護士の体面を汚すものにして東京弁護士会則第三十九条に違背するものなり」との裁判を附加せり是れ明に被告の有罪を予断したるものにして単に刑の量定のみを後の裁判に付したるものと謂はざるを得ず而して斯かる予断を為したる判事は通常被告に不利なる裁判を為すべしとの疑念を生ぜしむるは当然にして原裁判所が右章句を以て懲戒すべき所為を開示するの必要上叙述したるものにして何等有罰の予断を懐き偏頗なる裁判を為すことを疑ふに足るべき情況無しとし忌避申請を理由なしとして却下したるは不当なりと云ふに在り
      決定理由
 案ずるに判事懲戒法第二十条は開始決定には懲戒すべき所為及証拠を開示すべしと規定し法律上の理由は必ずしも之れを付することを命ぜざること洵に所論の如しと雖も同条に所謂懲戒すべき所為とは懲戒裁判所が自ら懲戒すべきものと為したる所為を謂ふものなること同法第十七条及同法第十八条の規定の趣意に徴して明瞭なるが故に開始決定に其の所為の懲戒すべきものなることの法律上の理由を説示すると否とは被告の利害に影響を及ぼすものに非ずして其理由を明示するも固より不法に非ず而して懲戒裁判所の懲戒裁判に先つ開始決定は一種の準備手続に外ならずして開始決定に干与したる判事は爾後の懲戒裁判に付職務の執行より除斥せらるるものに非ざること判事懲戒法の規定上自ら明かなり従て右決定を為したる判事に爾後偏頗なる裁判を為すことを疑ふに足るべき特殊の事情なき限は単に法律上の理由を付したる一事を以て直ちに忌避の原因ありと為すべきものに非ざるや論を俟たず記録を査するに懲戒裁判所判事は只其の開始決定に抗告人の所為の懲戒すべきものなることの理由を附加したる外他に何等偏頗の裁判を為すの虞れありと認むべき事蹟存することなきが故に原裁判所が叙上同一趣旨の理由の下に本件忌避の申請を却下したるは相当にして抗告は其理由なし仍而主文の如く決定す
 大正十一年五月二十七日
          大審院に於ける懲戒裁判所
          裁判長判事 遠藤忠次
          同 堀栄一
          同 難波元雄
          同 鬼澤蔵之助
          同 田中祐橘
<底本は、法律新聞社編『法律新聞[復刻版]』(不二出版)。底本の親本は『法律新聞』(法律新聞社)大正11年(1922年)6月8日発行、1987号12頁。旧漢字は新漢字に適宜修正した。>
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