最近最も癪に障つた事・最近最も痛快だった事

最近最も癪に障つた事
 は某事件で某判事が自分の残忍性から被告や縁者の苦悶するのを頻りに喜んで調べた形跡があつた事と、堺君の明白なる殺人未遂事件を何故か官憲が之れを傷害事件と極力弁護した事とである。前者に対しては面白い事を考へ今に目に物見せて呉れんと独り楽しんでる処は、僕も亦残忍性があるかと思はれる。後者に対しては新年イの一番に普通裁判所殺人未遂に基く二十円の損害請求民事訴訟を起し、軍人裁判所から記録の取寄をしたり、打合前上官の心も知らず其晩功名顔に逐一事実を語つた刑事を証人に呼んだり、軍人裁判所が態と調べない証人を残らず調べたりしたいと折角堺君を煽動して居る。其他無政府主義者が、俺は社会主義者なんかとは訳が違ふと云つたやうなことを言ふこと、社会主義者が、国家社会主義者なんかは仲間でないと云つたやうな顔をすること。国家社会主義者が俺達はもう足を洗つた局外者であるといふやうな態度に出ること、労働組合の所謂「お出入り者」が元方では漸く昨今考へた事だに、一年も前から一人で覚えたやうな口調で、戦闘力の集中だの新社会の芽生へだのと議論めいたことを言ふこと、僕の「堅公」が習ひ初めた英語を無暗矢鱈に使ひたがることも聊か小癪に障る。
最近最も痛快だつた事
 は二十六年間小指一本も指す事の出来なかつた元老大家で堅めた日本弁護士協会が、十二月九日の総会で、一致団結せる無名無力の青年弁護士に跡形もなく乗つ取られた事。特に双方の間を泳ぎ廻つて甘い汁を吸ひ、又は吸はんとした打算家を一掃し得たこと(「進め」創刊二月号より転載、十一年十二月二十五日山崎今朝彌寄)
<以上は、山崎今朝弥氏が著作者である。>
<旧仮名遣いはそのままとし、旧漢字は適宜新漢字に修正した。>
<底本は『復刻版労働週報』(不二出版、1998年)165頁。底本の親本は『労働週報』(労働週報社)第31号3頁(大正12年(1923年)1月16日号)。>
最終更新:2009年10月25日 22:45
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