2.02・序文


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序文
 明後日中に刷り上げるから今日中に序文を書き送れと、発行所よりの電話。今日は何うしても手が離されぬから明日の日光紅葉狩り(も一寸仰山だが)を止して、と、一日の猶予を願ひ、偖愈々今日となつて見ると。人は来る用事は出来る。オマケに、洋式生活改善の第一歩として、私案大掃除を思ひ立つた当日の事とて、僕はペンを持て、室をアチコチ逃げ廻り気も心も更に落付かず、イクラ考へても、良い甘い、変つた奇抜の名案が出て来ない。依て思ひ切つて極平凡で其代り極無難の凡例でも書いて序文の代りとする事に決めた。
 一、書名は発行の仲介人たる堺利彦君のお好とあつて『弁護士大安売』と極まるらしい、僕は余り好まぬが、ト云ふて外に之れ以上の良い名が付けられなんだ。著者の肩書は、総裁、総長、博士、所長などと、余り不真面目にならぬ様アツサリ、山崎伯爵疳作集、上の方へ、平民大学昇格記念出版とでもして呉れと申込んでは置いた。
 一、本書は大体第(一)編は自分の経歴に関するもの、第(二)編は広告文や欄外記事や埋草等を集めたもの、第(三)編は雑文集とでも謂ふべきか、第(四)編は裁判所に提出したる法律文書式実例と云つた様のもの、第(五)編は聊か真面目の法律研究論文、第(六)編は法曹月旦、第(七)編は他人が自分の事に就て書いたもの即ち付録的のものである。
 一、本書は疑もなく文集ではあるが、決して売文集ではない。従て如何なる点より論じても詐欺取財や不当利得にはならない。がコレが金になる事や、人が買つて読む事など考へると自分乍ら赤面したくなつたり、抜取つたりしたくなる文が沢山あるが、今更仕方がないと云ふから其儘にして置いた。
 一、書中、今読んで見ると自分ながら解からぬ所が沢山ある、他人が読んでは尚更解らぬ事と思ふ。その一ツの理由は、此文集は主として自分の編集した「平民法律」「東京法律」「月報」等の雑誌 に掲載した文を集めたのだが、編集者たる『無産社』の中曽根源和君が、只類別にのみ重きを置き(尤も類別にも可なり文句はあるが)時代と次第を全然無視して、大正三年ものと大正十年ものとを並べたり、甲の下段説明を乙の欄外説明と取り違へたり、した事にある。
 一、文、其れ自体解かり難き処ある弁解としては。自分の雑誌に自分が書いたもの故、自然楽屋落が多い事、雑誌文故行数に制限された事、他人又は自分の文章を題として書いた文が多き事、保証金を積んだ雑誌だか積まぬ雑誌だか解からぬ様に書かなければならなかつた、事等を数へて置く。
 一、此本は大に売れると云ふ八卦が出たとて本屋の主人大に意気込んでる由、ソレで僕も大に安心した。売れるも八卦のセイなら売れなんでも本のセイではない。併し僕も心から大に売れん事を希ふ。
 大正十年十一月十三日高橋是清に大命降下の時
          山崎今朝彌
<山崎今朝弥著、弁護士大安売に収録>
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