三淵忠彦君

三淵忠彦君
 初対面(少くとも記憶に残つてる初対面)は東京新聞対帝国劇場事件の口頭弁論である、寺田四郎丸山長渡の両君が、この一定の申立はどうしても僕等には言へぬから読んで呉れと云ふ、ソコで僕が一定の申立を読み上げると陪席は皆ニコツク、係弁護士は下を向く、傍聴弁護士はドツト来る、併し三淵裁判長は「抑々大劇場の権威を笠に着て一言の挨拶も仕らず・・・・・・より・・・・・・何卒貴社独特の御任侠を以て一回丈けは是非御勘弁相成度相も変らず永当々々御贔負の程閉口頓首偏に懇願奉候」迄、ニコともせず厳然聴取した。由来僕は此人を真面目の人と認定した。
 顔はドウシテも所謂部長面だ、部長中一番ツツキ屋との評判だ。此の人の部ならツンボの我輩にも立会が出来ると思ふた位、高ひ通る良い声だつたが、此間一寸立会つて見たら、先方の退歩か当方の進歩か、矢つ張りサツ張り、わからなんだ。余り皆で賞める計りが能でもないから、何か悪口を言へと同人が教唆するが、生憎悪口の材料を持合せる位心安くない。
<山崎今朝弥著、弁護士大安売に収録>
最終更新:2009年10月25日 22:38
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