告訴状・不起訴処分に対する抗告


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人間社会に対する詐欺及び偽作罪の告訴に就て
          告訴人 堀 保子 代理人 山崎今朝彌
          被告 [甲野太郎] [乙川一郎] [丙山二郎]
告訴状
      告訴の事実
 被告[太郎]は告訴人の知人堺利彦氏を介して本年五月頃、『人間社会』の創刊号に告訴人及び伊藤野技神近市子二氏の著作を掲載し雑誌の呼物となし其売行を図り度、原稿料は最高の額を支払ふ故是非寄稿を願ふ旨再三再四の懇請ありたるも、告訴人は他二氏と其性格経歴思想を異にし、彼等と共に喧伝せられ彼等と共に類別せられ常に世の評に上る事に少なからず無上の苦痛不快を感する折柄なれば、右懇請を其都度堅く拒絶したり。
 六月上旬頃[一郎]は『女の世界』記者と称して告訴人を訪問し、右雑誌に掲載すべき、近時の感想に就き告訴人の演述を求めたり、告訴人は主筆青柳有美氏編集長安成二郎氏とは年来懇親の間柄にして大概の無理は通さざるべからざる関係にあり且つ雑誌に掲載前には必らず校正を示さるるを例とせる故安んじて自己の感想を談話したるも、尚其後聊か慮る所ありたるを以て、間もなく安成氏を訪問し右演述掲載の見合を申込たるに意外にも同氏は、[一郎]は『女の世界』記者にあらず『世の中』の記者なるに社名を詐称して告訴人を訪問したるは不都合なりと語りたれば、告訴人は一層掲載拒絶の必要を認め堅く安成氏に依頼し同氏の快諾を得安堵して帰宅したり。
 八月十五日頃告訴人は堺利彦氏の注意により初めて、[太郎]の主宰する『人間社会』の八月一日号に、告訴人が嘗て[一郎]に為したる談話が多少の改悪を加へて、自由恋愛の犠牲者--伊藤野枝氏神近市子氏及び堀保子氏の現在の生活--なる題下に、或る日或時伊藤野枝、勝利の恋愛神近市子と名を列し。芝居を見に行く堀保子と署名掲載され、尚右標題及び際物ありとの注意を以て全国の新聞紙に広告されたる事を知り、絶大の苦痛と侮辱とを感じ、深く所謂被告等程度の文士なる者に一片の徳義も糸瓜もなきを嘆き直ちに安成氏を訪問して満腔の不平を訴へたり。
 安成氏の証言する処に依り告訴人は此時初めて、[一郎]は『世の中』記者として告訴人を訪問したるにあらず実は『世の中』記者被告[二郎]に代り『女の世界』記者と詐称して告訴人を訪問演述せしめたるものにして[二郎]は[太郎]より直接前述の方法を以て、告訴人の著作物を『人間社会』の創刊号に掲載方法を依頼されたるもの、而して安成氏が告訴人の依頼を受け[一郎]を詰責したる際は既に原稿は大阪に送付済なりしを以て安成氏は[二郎]に命じ[太郎]に其掲載方法差止を打電せしめたるに、被告等は之を無視し掲載を敢てしたるものなる事を知りたり。
      告訴の趣旨
 右の次第にて被告等の所為は明に刑法第二百四十六条及び著作権法第一条第卅七条に該当するものと信じ、又告訴人としては充分蹂躙せられたる権利を伸張し将来同一類似の事件の発生を予防する為め此際断乎たる処置に出ずるを尤も適当と信じ利害得失研究の上茲に本告訴提起仕候条至急相当の御処分相成度候也(六、八、二二)
<[ ]内仮名>


不起訴処分に対する抗告
          抗告人 堀保子 代理人 山崎今朝彌
 (一)抗告人は大正六年八月廿二日[乙川一郎][丙山二郎][甲野太郎]に対して詐欺及び偽作の告訴を東京地方裁判所検事局に提起したる処、同局は同年九月十二日不起訴の処分をなしたり。
 (二)係検事(秋山高三郎殿)が右処分をなしたる理由の要旨は本件は(イ)被害者より騙取したる財物なるものなければ詐欺罪は到底成立するに由なし(ロ)新規難解の問題にして談話は著作と云ふを得るや否未研なれば偽作となるものにあらず、と云ふに在り。
 (三)然れども本件は(イ)被告等が告訴人を欺罔して原稿又は談話を騙取したりとの告訴にあらず、被告等が共謀して告訴人を欺罔し依て以て権利なき他人の著作を雑誌に掲載し財産上不法の利益を得たりとの告訴なれば所謂第二項詐欺に該当すること法文上絶対明白なり(ロ)何れも最初は新規にして著作権法第一条によれば、文書演述文学の範囲に属する著作物の著作者は其著作物を複製するの権利を専有するが故に、告訴人の談話が其の何れの範囲に属するかを問はず其談話は(告訴事実に於ては)既に所謂成形的談話として客観存在を保ちたる所謂発明(創作)なれば、之れを複製したる被告等の所為が偽作の犯罪を構成すること抑々一点の疑なし。
 (四)抗告代理人は其提供する実際の法律問題に付、数年後に於て必らず一般に公認せらるる以前、屢々突飛珍奇の排斥を受くる常習を有す、本件も亦碁年ならずして、猥りに人の談話演説を公布刊行する不徳者に対し、囂々非難の声を絶たざる文士輩出するに至らば、復た豎子をして其名を成さむしるに至るべしと信じ為後日以抗告如件
      抗告趣旨
 前記処分を為したる下級検事に対し事件を起訴すべしとの御命令相成度候
 大正六年九月十七日
          山崎今朝彌
東京控訴院検事局 御中
<[ ]内仮名>
<山崎今朝弥著、弁護士大安売に収録>
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