退職手当請求訴訟


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退職手当請求訴訟
訴状
          原告 [甲野太郎]
          被告 築地活版所
退職手当請求訴訟
      訴訟の理由
 一、被告は温情主義の模範工場として其名天下に轟く印刷業者なり
 二、原告は本年取つて六十四歳、明治十七年五月十日二十銭の日給を以て文選工として被告に雇はれ、差換工、差換長、植字工を経て明治二十三年一月植字係長に累進し次で植字部取締を拝命し、大正八年十一月迄勤続三十五年余、其間被告温情の発露として受けたる木盃銀盃メタル賞状は山の如く『終始一貫忠誠を旨とし奮闘難を排し精勤事に当り真に現代実業界有用の材にして後進の模範』となり『社宝』となり以て数代の各社長を暴富に致し、功に依り大正八年七月二十六日一躍遂に最高日給二円五十四銭に驀進し、カツカツ其糊口を凌ぎ居る者なり
 三、然るに被告は大正八年十一月初旬「職務怠慢に付き解雇候以後出頭に及ばず候」との通知を原告に発したれば、原告被告の雇傭関係は茲に終了したり
 四、被告制定の職工扶助規則第三章第二十四条第二十五条には「在職満十年以上にして解雇せられたるものは一年に十日宛の解雇当時の日給を在職年数に応じて退職手当として支給す」とあるが故此計算に従へば原告の受くべき退職手当金は八百八十九円なり
 五、被告は右退職金は職工賞罰規則第九条により懲戒解雇されたる原告には扶助規則第二十六条に「懲罰により解雇されたるものは退職手当を支給せず」とあるが故之を支給せず、而して原告は被告の職工等が昨年十月同盟罷工したるとき之を鎮圧せざる為め職務怠慢として懲戒解雇されたる者なりと抗弁す
 六、然れども原告に職工の同盟罷工を鎮圧する手腕あれば好んで此の年迄今の地位待遇に甘んぜず原告は只代々の社長が、忠実に死ぬ迄働いて呉れれば社葬にして遣る、模範よ社宝よの言を信じ、右同盟罷工の際も一人工場に残り上官の命ずる儘解雇状を組み上げ神ならぬ身の其解雇状が自分の処へも来るとは夢にも知らず其れを刷り上げたる位職務に勤勉なりし者なり
 七、思ふに被告は原告が老衰し役に立たなくなりたれば之れに高給を払ひ大額の退職金を出す事が惜しくなり心を鬼にして同盟罷工を機会に原告を首切り原告が扶助規則第二十七条「満十五年以上在職し六十歳以上に達したる者は任意退職して退職金を請求する事を得」による権利をも妨げ以て原告が老後唯一の財産を略奪せんと企図したるものなり
      判決の目的
 被告は原告に金八百八十九円を支払ひ訴訟費用を負担すべしとの御裁判を願ふ
 大正九年十月一日
          右[甲野太郎]
東京地方裁判所 御中
<[ ]内仮名>
<山崎今朝弥著、弁護士大安売に収録>
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