労働訴訟の極り文句と抗弁


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労働訴訟の極り文句と抗弁
 労働訴訟と云ふた処が訴訟を起す者は労働者に極まつてる、労働者は起さざるを得ない弱い立場にある、資本家は訴訟の必要なき優勝の地位にある、先づ働け金は後で出すと云ふが雇傭契約で其契約の賃金を払ふか払はぬかが労働訴訟である。資本家は裁判前に裁判の実行をして居ると同一で裁判で払へと云ふ迄は払ふべき金でもチヤンと自分で握つてるから訴訟の必要がない。偖ソコで最近の原告労働主被告資本家間に於ける数個の訴訟事件に就て極まつて被告から提出する抗弁に就て問題を解決して見る。
      首切に予告を要せざる習慣あるか
 印刷工と印刷所との訴訟に於て、期間の定めなき契約は予告期間を要せず何時にても解除する事が出来る慣習が東京に存在して居ると云ふ抗弁が出た、云ふ迄もなく其慣習があり当事者双方が其慣習に従ふ積りであつたなら民法九十二条により民法六百二十七条あるに拘はらず、解雇言渡の日より給料を貰ふ事が出来ぬ。けれどコンナ慣習のない事は頗る明白の事実で、実例としては二週間以上の手当を給して首を切る方が多い、無論之れは未だ慣習とはなつて居らぬと思へる。鑑定人として呼ばれた印刷組合の書記長は被告抗弁の慣習が東京に存在している事を断言したが、其れは慣習とは如何なるものか、慣習と権利を行使しなかつたと云ふ事との差異を知らぬからで、云ふた事柄は慣習存在の否認であつた。即ち首切の場合には工場主の意見により二週間乃至三ケ月間分の賃銀を支給する例が多くありますは職工が悪い場合は遣りませぬ、職工も悪くて首を切られて退職金を取つた事はありません、本件の職工は首を切られた位だから私は職工が悪いと思ひますと証言した。之は即ち慣習なき旨の証言である。
      給料受取は権利放棄の黙諾なりとの抗弁
 雇主が突然首を掻くと、同時に働いた日迄の給料を渡す、労働主は之れを受取り後に退職手当の請求訴訟を起す雇主は、給料を渡した時黙つて受取つた以上解雇を異議なく承諾したものだとか又は其時退職金(前に詳細した二週間分又は其以上の解約申入後の給料の事なり)を放棄することを明言したとか嘘を云ふ。故に働主は若し先方で渡すと云ふ給料丈けは兎に角受取り後に訴訟をしてなり残りの分を取らうと云ふなら、其受取る時には誰か証人を立会はせた上で受取るが上策である尤も黙つて受取れば後は権利の放棄なりとの議論は到底通用するものにあらず。
      働かない、労務を提供しないとの抗弁
 何かゴタゴタがある 雇主はすぐ『都合有之本日限り解雇す、給料御払仕るべく候条明日御出頭有之度』との書留を出す、労働者は兎に角給料を受取る。後で二週間分の給料(期間の定めなきとき)が訴訟となる。雇主は智恵の有りたけを絞つて、雇傭契約は労務に服するを要件とする、然るに原告は就職しない、依て給料を支払はぬと抗弁する。之に就て二つの解釈法がある、解雇は二週間の予告を要す、予告なき解雇は無効である、原告は未だに働主である、之れから就業勝手である、と云ふが一つ、今一つは解雇申渡資本家の意思は、雇傭契約解約と入場又は就業拒絶の二つである、故に之れは二週間後より解雇す、尤も二週間も御出勤に及ばず候との意味にとるべきだと解するのである。私も後の解釈が正当であると思ふ。こう解すると問題は訳なく解決する、即ち労務に服さなければならぬのだが雇主の責に帰すべき事由に依り就業不能即ち不能に至つたのであるから前に詳論した通り働主は其分の給料が請求出来る。尤も雇主が働主の労務に服することを請求する権利を放棄したと解しても同じ事だ。併し何れにするも此場合労働主は雇主が何時出て来いと云ふても差支ない様に準備して置くがよい、一旦出て来るに及ばずと云ふたからとて翌日にでも出て来いと云ふて来るかも知れぬ、其時出られなければ其れは此方の悪いで其れからの給料は取れないと思ふ。
      已むを得ざる事由とは何か
 已むを得ざる事由あれば雇主は首切以後の日当は支払はなんでも済む事は民法六百二十八条で明だソコで被告はアレモコレモ已むを得ざる事情だと抗弁する。ストが永続し、尚罷工者が強硬の態度に出でんとする形勢のときは已むを得ず直ちに首切つてよいとの判例がある。サボのとき一人二人がサボしたからとて工場員全部を首切つたは悪いとの判例がある。医者が雇主の患者を自宅で横取診療すれば已むを得ず直ちに免職してよいとの判例がある。注文取りが取つた注文を他の店に持つて行き居つたと事実を挙げて勝つた判例もある。が職人が他人と喧嘩したとか、帰りが遅かつたとか、職工長の命令を聞かなんだとか、社則に背いたとかの理由は已むを得ざる事由とはならない、何となれば其場合雇主は相当の注意を与へ其注意を聞かないときに相当の方法に出る道があるから、との判例もある。之の裁判は皆正当と思ふ。
<山崎今朝弥著、弁護士大安売に収録>
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