上申書(一)~(三)


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上申書(一)
          東京市芝区新桜田町十九番地 弁護士
          上申人 山崎今朝彌
      上申の趣旨
 上申人申請非常上告職権開始事件に関し相当の援助を乞ふ
      上申の理由
 貴殿御干与の『労働新聞』『青服』『民衆の芸術』に対する新聞紙法違反被告事件は、曩きに東京区裁判所に於て貴殿御論告通り何れも新聞紙法違反として夫々の刑を科せられ候処、右中『民衆の芸術』の判決に対し被告の一人より控訴の結果東京地方裁判所は、『内務省に於て出版法に依り出版する雑誌として取扱はれたるものは、偶々其記事が出版法第二条の範囲外に渉るも直ちに之を以て新聞紙なりと認めて新聞紙法を適用すべきものにあらず』との理由を以て無罪を言渡し其判決は確定仕り候右判決の擬律が正当なりとせば『裁判所は内務省の取扱如何に係はらず其雑誌が新聞紙法に依り出版すべきものなりと認むるときは偶々出版法に拠り発行三日前に届出で内務省の検閲を得て秩序紊乱の記事なきものとして出版法出版禁止の処分なく安全に発行したる場合と雖も、尚新聞紙法に拠る雑誌として新聞紙法を適用して秩序紊乱記事掲載を以て処罰すべきものなり』との理由に基き、内務省に於て出版法に依り出版する雑誌として取扱はれたる事実に争ひなき前記諸雑誌の被告和田久太郎久板卯之助荒畑勝三山川均大石七分に対し言渡したる、東京区裁判所の有罪判決は其擬律に錯誤あるものなること一点の疑を容れずと存候
 仍て上申人は本日大審院検事に刑事訴訟法第二百九十二条規定の非常上告を前記被告人一統に対し開始せられん事を申請仕り候
 抑々法律の解釈は全く各人の自由に専属すと雖も同一国家の同一機関が同一法律を適用するに際し其適用を二三にする事と其過誤を救済すべき道あるに際し之を捨てて顧みざる事とは、却て法律の威厳を保つ所以にあらずと信ず、故に大審院検事に於ても固より相当の手段を採らるる事疑なしと雖も、貴職に於て上申陳情其他貸すに一臂の労を以てせらるれば共効果は蓋し覿面のものあらんと存候
 凡そ法律擁護の任にある者が法律適用の厳正公平を所期し之を以て唯一の生命となす事は譬へ身の朝に在り職を検事に奉ずる場合と雖も敢て異る処なかるべきを信じ、前記被告等の有罪判決が確定したるは結局、弁護人たりし上申人に対する被告等の信頼薄きと、裁判の不公平に対する被告等の確信厚きとに原因するものなる事を思ひ敢て東京地方裁判所の前記無罪判決に反対意見の発表なき本件干与の当局検事に対し、弁護人たりし関係ある者が其遺族本人等の依頼に基き、本申を具陳するは必しも当と敬とを失するものにあらずと断じ、上申人は茲に本申に及びたる次第に御座候
 大正八年四月一日
          右 山崎今朝彌 印
東京区裁判所検事局
(姓名イロハ順)
検事 金澤次郎 殿
検事 秋山 要 殿

上申書(二)
 上申人は貴職御干与にて無罪の判決言渡を受けたる大杉栄に対する新聞紙法違反被告事件第一審の共同被告人(略式命令の被告も共同被告人なりと信ず)及び之と性質を同ふせる事件に付有罪の確定判決を受けたる被告等の為め、本日刑事訴訟法第二百九十二条の非常上告開始申請の上申書を提出仕候
 按ずるに右無罪判決に対して上告なかりし貴職は、刑事訴訟法第二百八十九条第二項に依る共同被告人の利益を妨害したるにあらず寧ろ第二審の判決理由に服従したる故なりと信じ候
 就ては何卒上申人の右上申に対し応分の共助を賜り無智の被告等をして感泣せしめ以て法律の公平と職責の遂行とを完成せられん事を此段上申仕候也
 大正八年四月一日    上申人 山崎今朝彌
東京地方裁判所検事局 検事 金山季逸 殿

上申書(三)
      上申の目的
 東京区裁判所に於て大正七年九月二十八日言渡の久板卯之助和田久太郎及び、同日言渡の荒畑勝三山川均に対する新聞紙法違反被告事件の有罪確定判決、並に同年十二月十九日言渡の大石七分に対する同一事件の有罪確定略式命令に対し非常上告の申上あらん事を嘆願するにあり
      上申の理由
 前記判決が悉く法律に於て罰せざる所為に対し刑を言渡したるものなる事は詳細其理由を説明したる添付の「平民法律」及び東京地方裁判所が大正八年三月十七日言渡したる大杉栄に対する新聞紙法違反事件の無罪確定判決理由により明なりと存候弁護人たりし上申人は、和田久太郎が未だに服役中なる関係上本上申に及びたる次第に御座候
 大正八年四月一日    山崎今朝彌 印
大審院検事局 御中
<山崎今朝弥著、弁護士大安売に収録>
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