上級判決


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上級判決
判決(一)
          大杉 栄
 右に対する新聞紙法違反被告事件に付き検事金山季逸干与審理を遂げ判決すること左の如し
      主文
 原判決を取消す被告人は無罪
      理由
 本件控訴事実は被告人は大正七年九月二十三日頃大石七分が発行人兼編集人となり新聞紙「民衆の芸術」第一巻第四号(四年十月号)を編集し該紙上に「恵まるる政治」及「生活の反逆」と題する安寧秩序を紊乱する事項を掲載するに際し其編集を担当したるものなりと云ふにあり按ずるに被告人が「民衆の芸術」第一巻第四号に掲載せられたる「恵まるる政治」及「生の反逆」と題する安寧秩序を紊乱する記事の編集を実際担当したる事実は之を認め得べきも右「民衆の芸術」は内務省に於て出版法に依り出版する雑誌として取扱はれたるものなること明白にして偶其記事が出版法第二条の範囲外に渉るも直ちに之を以て新聞紙なりと認め新聞紙法を適用すべきものにあらず結局被告人の所為は新聞紙法に於て処罰すべき犯罪を構成せざるを以て被告人に対し無罪の言渡を為すべきものとす然らば原判決が被告人に対し有罪の言渡を為したるは失当にして被告人の控訴は理由あり仍て主文の如く判決す。
 大正八年三月六七日
          東京地方裁判所第一刑事部
          裁判長判事 西郷 陽
          判事 澤村 直
          判事 服部平三

判決(二)
 被告人憲治は中央公論社に於て新聞紙法に準拠して発行する新聞紙中央公論の発行兼編集人なる処大正八年五月五日発行の中央公論五月号紙上に、『先づボリシエヰキーの真相を知れ』と題し(中略)安寧秩序を紊す記事を掲載し被告人猶吉は右掲載事項に署名したるものとす(中略)
 『次に被告与治、被告人儲に対する公訴事実は被告人与治は新聞紙社会評論の発行人兼編集人なる処、大正八年七月十五日発行の社会評論第百二十八号紙上に『過激派論』と題する安寧秩序を紊す記事を掲載し被告人儲は新聞新日本評論の発行人兼編集人にして大正八年七月一日発行の新日本評論紙上に『ボリシエキーの研究』と題する安寧秩序を紊す記事を掲載したりと云ふに在り、仍て案ずるに被告与治が社会評論社に於て発行する社会評論の発行兼編集人にして、大正八年七月十五日発行に係る社会評論の第一百二十八号紙上に、『過激派論』と題し被告人儲が新日本評論社に於て発行する、新日本評論の発行人兼編集人にして、大正八年七月一日発行に係る新日本評論七月号紙上に『ボリシエイキー研究』と題し何れも前判示の新聞紙中央公論五月号紙上に掲載せる『先づボリシエイキーの真相を知れ』と題する記事と同一の文詞を用ひたる安寧秩序を紊す記事を掲載したることは之を認むることを得べきも右社会評論及新日本評論か何れも出版法の規定に準拠して届出てたることは右両被告人の当公廷に於ける同趣旨の供述及両被告人に対する告発書の記載に徴して明確なるが故に偶其記事が前判示の如く時事に渉り従つて出版法第二条の範囲外に出でたりとするも直ちに其出版物を以て新聞紙法所定の新聞紙なりと認めて新聞紙法を適用処断すべきものにあらざるなり。蓋し我が法制上文書の定期刊行に付いては二個の準拠法あり、其の文書の事に関するものにありては必らず新聞紙法に依ることを要し、其然らざるものは新聞紙法に拠ると出版法に拠るとは一に刊行者の選択に委ぬるものなることは新聞紙法第一条出版法第二条等の規定を対比参照せば洵に明なるが故に其後者の文書にして既に出版法所定の届出を了したるものにありては必ず出版法に於て之を規律すべく新聞紙法の、制裁規定を以て之に臨むことを得ざるものとす。夫れ斯の如くならば時事を論ぜんとするものにして新聞紙法の適用を回避せんが為め故らに出版法に拠りて届出手続を践む処なきにあらずと雖も出版法は其の第三十四条に於て出版法に拠りて出版する文書にして其記事第二条の範囲外に渉るものは内務大臣は出版法により之を出版することを禁止し且爾後一ケ年を経るにあらざれば、出版法に拠りて出版することを得ざらしむる事を規定し以て之に処する道を開けり唯其記事にして安寧秩序を紊すものに至りては新聞紙法が行政官庁の発売頒布禁止の処分の有無を問はず、其の第四十一条に於て其記事の掲載の所為に対し直ちに発行人、編集人等を処罰し得べきことを規定するに拘らず出版法には右第四十一条の如き規定存在せず従つて斯の記事の公刊を沮止し得ざる観なきにあらずと雖も新聞紙法にありては新聞紙は其発行と同時に関係官庁に納付すべきことを規定するに反し出版法は出版物発行の日より到達すべき日数を除き三日前に製本を添へて内務省に届出づべきを定め以て予め行政官庁をして其の出版物の内容を審査することを得せしめ若し其出版物にして国の安寧秩序を害するものと認むる時は同法第十九条に依り内務大臣は其発売頒布を禁じ刻版及原本を差押ふることを得べく、尚其禁を犯したる時は同法第二十八条に於て著作者及び発行者に制裁を科するの制度を設くるが故に敢て前示の如き記事の取締に遺漏ありと云ふべからず、従つて出版法中新聞紙法第四十一条の如き法条存せざるの一事を以て出版法に依拠したる出版物にして其記事の内容が同法所定の畛域を踰越し且安寧秩序を紊す場合に該出版物を以て新聞紙法所定の新聞紙なりと認めて新聞紙法を適用処断するが如きは国法の解釈を誤れるものと云ふべし。
 叙上の理由に拠り掲示公判に係る社会評論及新日本評論の記事がいずれも時事に触れ且国の安寧秩序を紊すものなりと雖も出版法に準拠して届け出でたる以上は新聞紙法に照して之を処罰すべからざるのみならず右記事を掲載したる事実あるのみにして行政官庁の発売頒布の禁止を犯して右社会評論及び新日本評論を発売頒布したりとの事実の証憑十分ならざる本件に於ては未だ出版法所定の罪をも構成せざるが故に被告人与次被告人儲に対しては其の所為罪とならずと認め刑事訴訟法第二百二十四条に則りて無罪を言渡すべきものとす(中略)
 仍て主文の如く判決す
 大正八年十月二十九日
          東京地方裁判所第一刑事部
          裁判長 判事 神谷健夫
          判事 宮内聡太郎
          判事 服部兵六
          裁判所書記 杉原茄樹
<山崎今朝弥著、弁護士大安売に収録>
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