労働争議の「工場管理」は法律上正当の「事務管理」なり

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労働争議の「工場管理」は   法律上正当の「事務管理」なり       一  新聞紙の伝ふる処では、湯地新警保局長は、今回神戸川崎造船所の産業委員会が発表した「工場管理」を強窃盗乃至家宅侵入の違法行為なりとして、所管地の警察並に裁判所と協議通牒の上、猛然之を検挙するに決したと。  併し所謂「工場管理」は民法上の「事務管理」で法律上認みられた正当の行為なれば、右の記事は確かに其筋若くは資本家が戦術の為に宣伝した虚偽の風説に過ぎぬと私は確信する。然るに此風説を軽信して真しやかに大々的報導をしたり又は愕然として勇敢に手を引く者あるは実に近来の大べら棒と云はざるを得ぬ。       二  日本の法律にも民法第三編第三章に「事務管理」の規定がある、民法註解書及び数多の判決例によれば「事務管理」とは「他人に頼まれもせぬのに勝手に其人の為に其人の仕事を為てやる事」である。「吾民法は外国の立法例に習ひ国家経済の見地より此制度を認めたのである」而して其れが、其人の意思に反すると否とは問ふ処でない。例へば「物好に又は見るに見兼ねて若くは無理に、他人の為に荷車の後押し大工左官の手伝乃至家屋軍艦の建築畳替へ等をして遣る事は皆法律に所謂事務管理であり適法行為である」と。  然らば川崎造船所の職工又は産業委員会が他人たる川崎造船所の為めに依頼なくして其産業を管理経営してやる事が法律に所謂「事務管理」に非ずして何ぞや、国を挙げて激励すべき愛国的行為にあらずして何ぞや。       三  民法事務管理の条文と川崎造船所産業委員会の管理規約とを対照説明する順序として先づ産業委員会の発表した管理方法其他を掲げる。       宣言  川崎産業委員会は、大正十年七月・・・日より川崎造船所々属の各工場の作業を管理する事にいたします。さきに私達は本分工場職工全員一萬七千余人を代表して工場委員制外七ケ条の要求を重役に提出しましたがこれに対し会社代表永留山本両重役は、社長不在を口実にして誠意ある回答をせずぐずぐず今日迄のばしました。  元来私達の根本の動機には徒らに日本の産業を転覆せしむる様な気はありませぬ。私達の人格を認めてくれてその日の暮しを少しでも楽にして貰ふのが目的です。  そこで会社が今迄の様な横暴な態度に出て不誠意な態度を持続するに対し、私達が又それに対抗して罷業を継続しますと、徒らに日本の産業を萎靡させ社会的不安を醸しますから私達は要求の貫徹する迄各々その部署につき、工場の仕事をみんなで管理し、仕事を進める事にいたします。       管理方法 一、産業委員会は凡ての仕事を管理します。 二、各係員付属員役付は産業委員の指示により従来の通り仕事に就かねばなりませぬ。但し必要により作業に適当なる者は随時委員会に参加して貰ひます。 三、賃銀は今迄の通り会社に支出させます。 四、労働時間は当分の間六時間として今迄の八時間の能率をあげる事とします。但し産業委員が適当と認めた時には伸縮する事もあります。 五、工場一般の平安を害し、能率を傷けるものは懲罰委員会により懲罰に付します。       産業委員会組織 一、中央産業委員会は各部より選出した最高幹部会より更に左の順序で選出します。  本工場各工作部二名(造船に限り五名)  兵庫 四名  葺合 三名 二、各工場は更に各部産業委員会を組織し中央産業委員会と連絡をとることにします。       四  民法第六百九十七条には「義務なくして他人の為に事務の管理を始めたる者は其事務の性質に従ひ最も本人の利益に適すべき方法に依りて其管理を為す事を要す」とある、管理方法二、五の如きはチヤンと其れである。  第六百九十九条には「管理者は其管理を始めたることを遅滞なく本人に通知することを要す但本人が既に之を知れるときは此限に在らず」とある。本問の例に於ては川崎造船所は既に之を知れるものであらふ。  第七百一条に依れば会社の請求あれば委員会は管理事務の状況を会社に報告しなければならぬ。又完成したる物や、売揚代金等は計算の上会社へ引渡さなければならぬ。  其代り第七百二条によれば委員会の費用、委員の給料、労働賃金、委員の負担した借金等は会社の負担である。即ち管理方法の三は当然である。尤も其七百二条の第二項には「管理者が本人の意思に反して管理を為したるときは本人が現に利益を受くる限度に於てのみ償還の義務あり」と規定しある故、会社が強て拒むに係らず産業委員会が工場管理をして損があつた場合は委員会で其損失を負担せねばならぬ。       五  要するに「工場管理」は国家の為に歓迎すべき正当行為で毛頭忌むべき違法行為ではない。工場管理中又は管理終了後職工又は委員会と会社との間に民事上の問題が起るかも知れぬが、他人の物を奪ふ強窃盗でもなければ法律上の理由なき家宅侵入の行為でもない。勿論「工場管理」が労働争議の戦術として最良の方法であるか否か、其れで満足すべきものであるか否かは別問題であるが、厘毫の反法性をも帯びて居らぬ事だけは晴天よりも悉く白日である。唯其れ狂者の宣伝に迷はされたる者あるが故此一文を投ず。           弁護士 山崎今朝彌 <山崎今朝弥著、弁護士大安売に収録>

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