[某所]富豪の轢逃訴訟

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[某所]富豪の轢逃訴訟 訴状           芝区三光町車力挽子           原告 木村孫次郎           日本[某町]の大富豪           被告 [甲野太郎]           右自動車運転士           被告 [乙川一郎] 損害賠償請求訴訟       目的及申立  被告は各原告に対し九百八拾円を支払ふへし。       請求の原因  原告は九年末十八日百二十貫程の鉄棒を荷車に積み自ら梶棒を取り二人其後押となり日本橋方面より海運橋を向ふに渡り坂本町廿二番地先に差掛り左側を右折するや否や突如  被告[太郎]を乗せたる其所有の自働車は[太郎]の雇人被告[一郎]に操縦されながら警笛も鳴らさず反対方面より疾走し来り猛然原告の挽ける荷車に正面より衝突せしめ  原告は突差の場合無我夢中ながらも運よく荷車より身をすり抜け自働車の前方に飛付きたるも自働車の照明燈と前輪のバネとの間に脚部を挟まれ両脚の膝より下の部分は滅茶々々に打砕れて気絶したり  被告等は原告を間近の柔道場に担ぎ込み応急手当の上之を蘇生せしめ巡査の立会を以て日本橋病院に入院せしめたるが、[太郎]の姿は何時の間にかドロドロと消へて亡くなりたり  負傷の為め原告の右脚には三つの穴が明き皮膚は全部剥げたるも幸ひ骨は折れす、左脚は骨も肉も支離滅烈となり全快迄には壱年間を要するものなるに、[一郎]は規則上警察の命令にて最早病院の治療は許されすと原告を欺き其廿九日原告を連出し其後逃げて恬と寄り付かず  原告は月平均六十円を稼ぎどうかこうか一家の生計を営みたるものなれは此割合による全快迄の損害中八ケ月分の金四百八十円及ひ負傷に対する慰藉料金五百円は民法第七百九十条第七百十五条の規定により被告等に於て負担する義務あり  原告の赤貧は洗ふか如く其負担は山の如けれは治療の如きは思ひも寄らす、只四隣の憐愍により一家纔かに露命をつなき、私かに残忍を以て忽ち一代の名士となりたる被告[太郎]の脅迫傷害事件に於て、遂に無惨の最期を遂げたる瀕死の病人某氏に同情し、徒らに人間を怨むか如く被告等の人間業にあらさる無情冷酷を怨みて今日に至りたるも、天遂に人を助けす負傷も更に撤退せさるに依り止むなく本訴に及びたり  大正十年三月一日    右原告代理人弁護士 山崎今朝彌 東京地方裁判所 御中 <[ ]内仮名、仮地名> <山崎今朝弥著、弁護士大安売に収録>

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