訴状(2)

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訴状           芝区桜田町十九番地(註一)           原告 弁護士 山崎今朝彌           同区[某町某番地]           被告 貸席業 [甲野太郎] 損害要償の訴       目的及申立  被告は金百円に大正九年正月元日より年五分の損害を付して原告に支払ふべし(註二)       請求の原因  (一)原告は平民大学主催の学術講演会を開く目的にて大正八年六月初め自身又は代理人を以て数回被告と交渉し被告の貸席玉の井を左の条件にて借受け被告の請求する儘六月七日手付金五十円を支払ひたり 1期間は八月八日より十四日迄一週間但夜間の事 2料金は一日十一円計七十七円但座布団及煙草盆四百人分の賃料を含む 3被告に於て七月下旬より会場前に平民大学講演会の大看板を掲出する事 4飲食物の販売は被告の勝手たるべき事但酒類を禁ず  (二)右契約成るや原告は直ちに講師の按排(註三)広告の方法等講演に必要なる総ての準備に着手せり  (三)然るに被告は翌月中旬に至り突然種々の口実の下に数回、或は手付金倍返し(註四)又は損害の負担を条件に或は無条件に、前記契約の解罷を求めたるも、原告は被告の口吻並に慣例上之れ皆警察が為したる干渉誘惑の結果なることを推知したれば断然之を拒絶したり  (四)加之原告は其都度被告に対し警察決して畏るるに足らず特に今回は本会の性質上如何に警察と雖も決して乱暴など為すものにあらず、其点は原告に於て屹度保証すべければ安心して契約を履行すべしと諭したるも、被告は此場合の損害即ち原告に支払ふべき損害が全部警察の機密費に属する事実と、解約の通知さに発すれば其後の事は如何様にも警察にて引受け遣るべしとの保証にのみ着眼信頼し、只債務の履行を肯んぜず堅く之を峻拒したる故、原告は尚再三被告に対し事苟も法律問題に属すれば、徒に警察のみを信用して事を決するに於ては後日必らず由々敷後悔あるべし、如かず宜しく相当の法律家に相談せんには、忘れても夢々警察又は三百の門を潜る勿れと教へ帰したり  (五)然るにも不拘被告は右原告の好意を無視し、相当の代りに未熟の法律家に走り、七月廿五日手付金五十円を返還すると同時に書面を以て、手付金五十円也を御返却申上候と同時に断然御解約申上候間左様御了承願上候、と通知し来り如何に催促説諭するも頑として契約の看板を掲げず  (六)右手付金の返還又は一片の解約通知が三百又は警察の考ふる如く契約解除の効を生ずるものにあらざる事勿論なりと雖も、斯く被告に債務履行の意思なき事明白なる場合は、原告が其権利を安全に実行せんとするには只仮処分の方法により被告の占有を解き之を原告に移すの一法あるのみ、而して斯の如きは期日の切迫せる今日、忙殺に頻死せる原告の到底堪ゆる処にあらず  (七)依て原告は直ちに賞金参拾円を懸けて第二の安全会場を捜索せしめ、幸ひ統一教会に於て之を得たるを以て、八月二日代理人をして被告に交渉し利害得失を説かしめたるも被告は只管違約を陳謝し損害の減額を乞ふのみにして敢て契約履行の意思を示さず、原告代理人も亦止むなく断然賃借を断り損害のみを請求する旨を告げて帰りたり(註五)  (八)茲に於て原告は一般に対しては新聞及辻ビラ、会員及曩に広告したる雑誌の読者に対しては端書、講師及各大臣以下招待客に対しては出頭又は手紙を以て会場変更を広告し、既に出来上りたる各種の印刷物は一々之を廃棄若しくは訂正したり(註六)  (九)右の結果原告の蒙りたる損害額は、得べかりし利益の損失を除外するも尚左の額に達す 1三十円 前記懸賞金 2五十円 東京新聞広告代 3十円 原告車代切手代等 4五円 辻ビラ其他の費用 5三十円 手伝謝礼五十円の内 6九円 変更通知端書六百枚 7二円 右印刷代 計百三十六円  (十)右金額中百円を本訴に於て請求す但被告が原告に警察干渉の事実を詳細に語るときは減額することあるべし  大正八年十月十三日    右 山崎今朝彌 東京区裁判所 御中       註  (一)民事訴訟法第百九十条第二項には此他訴状は準備書面に関する一般の規定に従ひ之を作るべしとあり、同法百五条には、準備書面には原告の氏名身分職業を掲ぐべし、とあるを理由として東京区裁判所受付書記には時々職業の記載なき訴状を受付けずと威張る者あるも、職業は必ずしも掲げざるべからざるものにあらず、原告被告に職業なくとも又は其職業を知らずとも訴訟は出来る筈なり  (二)損害金請求の利子は訴状が被告に届きたる日より請求する事を得、本件に於て正月元日より利子を請求したるは只計算に面倒なきと縁起を重んしたるに過ぎず  (三)本講演会は初め大学生五十名の予定を以て初めたる処申込者以外に多くなりたる結果被告の貸席を借りたるもの故、此時既に講師は依頼しありたるなり  (四)民法第五百五十九条同第五百五十七条には、借主が貸主に手付を交付したるときは借主が契約の履行に著手するまでは貸主は手付金の倍額を借主に返還して契約の解除を為すことを得、とある故若し原告が広告通知等講演会の準備に着手せざる間なら、被告は手付金を倍返して解約を為し得たるなり  (五)原告よりも借席を断りたるは合意上の解約となるや或は又被告が債務を履行せざる故原告が民法第五百四十一条同第五百四十二条により契約を解除したる事となるやは問題なるも、何れにするも損害は請求出来るなり  (六)左記甲号各証(裁判上にて甲何号証乙何号証と云ふは、甲は原告の、乙は被告のと云ふ意味に解し居れば大過なし)(左記は略す) <[ ]内は仮名・仮地名> <山崎今朝弥著、弁護士大安売に収録>

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